①大牙、ベルトとご対面
②見た目ヤ○ザの小心者・山吹一登場
③大牙「あ、tool-assisted speedrunが元々の意味だって」
巧「だから説明しなくていいって言ってんだろ……」
④意外と心配されないたっくんのピンチ(感想欄の様子)
◇ ◇ ◇
「妖怪アパートの幽雅な日常」、いったいどこにお金かけてるんだ……? キャスト陣が豪華すぎてヤバい……ヤバくない……?
エグゼイドもすごい展開らしいし、色々見たいものが沢山あって時間が足りないや……
というわけで、そろそろ主要人物が勢ぞろいしそうな仮面ライダー555
「――――かはっ!」
突然解放された巧は咳き込み、たじろぐオルフェノクを盗み見る。
原因は、オルフェノクの視線の先にあった。
『見つけたぞ』
昨夜、真理を助けたライダー――プロトシータが、ライフル型のギアで狙撃したのだ。オルフェノクは、その衝撃で巧の首を絞める手を放してしまった。
シータの操作で、ライフル型のギアは銃身を畳んだブレイガンモードへ変形する。
――Ready
『お前等は、俺が倒す……!』
加工された音声からもわかるほどの怒りを込めたシータの斬撃は、爪を改めて生成したオルフェノクに受け止められる。だがシータは、蹴りの一撃で距離をあけると、光弾を連射し追撃する。為すすべのないオルフェノクは、ふたたび接近したシータに光刃での一撃を食らい、地面を転がる。
「ぐっ……」
その隙に巧は、這うようにしながらも車へ乗り込み、エンジンをかける。みたびぶつかり合った二人の間を縫うようにワゴン車は走り抜けた。その後ろをオルフェノクが追いかけようとして、シータの光弾に倒れる。その気配を背後に、巧は帰路へとついた。
◇ ◇ ◇
「――――が、あっ……」
ハジメはスマートブレインに割り当てられた部屋へと転がり込み、うめき声を上げた。与えられた傷が、そしてそれ以上に心が痛んだ。
前川との会談の後、ハジメは大いに迷った。
彼の言葉を借りるなら、「
娘達を探すには、どうあっても時間が必要だ。孫の成長を見届けるのであればなおのこと。
だが、そのために出来たばかりの友人を殺める必要があるという。新たな王の誕生を必ず邪魔しに来るだろう、というのが前川が語る理屈だった。
家族との時間か、芽生えたばかりの友情か。
悩んだ末に、――しかしその答えは最初から決まっていた。
「たっさんが何処にいるって? ちょっと待ってて…… 順番通りなら――」
大牙に連絡を取り、巧が現れるであろう場所を特定する。理由を聞いてくる大牙を適当にごまかし、タクシーを使って先回りしたハジメは、巧がやってくるのを待ち伏せた。
前川がハジメを遣わせたのは、彼が油断したところを襲え、という残酷な意図が有ったのだろう。だが、ハジメは直前になってまた迷いを見せた。だからこそ、ハジメは最初から本性を見せて巧を襲った。
オルフェノクの力は、死から蘇るというものだけではない。むしろ、蘇ることで新たな力を得るのだという。
それこそがハジメが川面で見た熊の幻影――自身の“ベアーオルフェノク”としての正体だったのだ。
自身の能力は――どうやら
(熊をしとめるなら、正確に急所をねらわにゃならん)
かつて、ハジメの師はそう語り、実際痛い目にあったハジメとしてはその困難さはよく理解している。巨体の割に急所が狭く、額を狙ったときさえ弾丸が“滑り”、致命傷に至らない事がある。
その上、連射も出来ず狙いは素人同然となれば、必要以上に恐れる道理はない。
(……すまん)
首をつかみ、呼吸を制限すれば、いずれ巧は死ぬだろう。そう考えて首を締める。
その爪で直接痛めつけない時点で、ハジメの迷いは続いていた。――だからこそ、割って入ってきたシータに、内心で安堵する思いもあった。だがハジメにとって、本当に衝撃的だったのはその後のシータの苛烈な攻撃だった。
巧が走り去った後、的確にこちらの動きの機先をついてくるシータにベアーオルフェノクは接近すら許されず攻撃を食らい続ける。片手で銃器を操り、仮に接近できたとしても、逆手に構えた光刃がベアーオルフェノクの爪より先に振るわれる。
戦いに慣れないベアーオルフェノクは、変幻自在に繰り出される遠近両用の武器に体術を織り交ぜた攻撃でダメージを蓄積していく。戦い慣れているような動きを見せるシータだが、実際のところ、彼の攻撃は邪道そのものだ。時には『θ』の形状を模した武器の構造を生かし、次々と握る場所を変えて、本来の間合いの外から斬撃を加えてくる。
それにたまらず、ベアーオルフェノクは吹き飛ばされ、用水路のそばまで転がってしまう。
『――終わりだ』
――――Exceed Charge
ベルトを操作し、フォトンブラッドをチャージしながら、照準をベアーオルフェノクに合わせるシータ。トリガーを引かれる寸前、ベアーオルフェノクはとっさに用水路の方へ転がり落ちた。身を隠すには充分な水かさがあった。
『クソッ!』
シータの罵倒が背後に響き、ベアーオルフェノクは流れに身を任せて離脱する。次に顔を上げたとき、どうやって探し出したのか、スマートレディが待ちかまえていたのだった。
(まさかこんなことになるとは……)
ハジメはベッドに突っ伏して、あちこち痛む体に顔をしかめた。
あれほどの怒りと憎しみを、負の感情をぶつけられたのは初めてだ。いったい何が彼を駆り立てるのか、ハジメには想像もつかなかった。
「――失敗した、とは聞きましたが、まさかこれで終わりにするなどとは口にしませんよね?」
背後から聞こえた声に振り返ると、いつの間にか前川が立っていた。
◇ ◇ ◇
「――とはいえ、オルフェノクとなって経験の浅い貴方に、このような大事な任務を依頼した、こちらにも責任があります。まだ貴方にはご説明していなかったことが沢山ある」
そう言って、前川はオルフェノクについて語り始めた。
「オルフェノクは死した人間が蘇ったもの。逆に言えば、人間が死ななければ新たなるオルフェノクは生まれません」
「……それは、そうじゃろうな」
薄々察してはいたことだ。
実のところ、前川が語るようにオルフェノクが世界を支配できるとは、ハジメは考えていない。
「いずれ、巧くんや木村くん、――人間は死ぬときがくる。じゃが、こんな身の上になるまで、オルフェノクという存在を知らなんだ」
「ですから、オルフェノクはその数を増やす手段を備えているのです」
「――――」
ハジメは嫌な予感を覚え、口をつぐんだ。
人間が死ななければ新たなオルフェノクは誕生しない。ならば、オルフェノクが行う数を増やす手段とは――
「力に慣れる必要もあります。そこで貴方には、人間を襲っていただきます」
そう言って、前川は話を進めていく。事態はもはや、ハジメの意志では引き返せないところまで来ていた。
◇ ◇ ◇
「――――やっと帰ってこれた……」
大牙は菊池の前で大きなため息をついた。空腹を感じ、いつものラムネ菓子で紛らす。
昨日、ハジメから電話を受けた後、大牙は忘れ物に気づいた。よりによってハンカチを店に置き忘れてしまったのだ。
ハンカチぐらい、と思われるだろうが、大牙が忘れたのは手品に使う白いシルク製のものだ。ポケットから手を拭くために出した、別のハンカチと一緒に出てきてトイレで落としたようだ。
二人の制止を振り切って、何とか店を見つけ、預かっていたらしいハンカチを受け取り、そこからとって返そうとしたのだが、当然道が分からない。
(いつもいつも、道に迷ってばかりの俺だと思うなよ……!)
我に秘策あり、といった様子で、スマートウォッチを操作する。歩数計機能を呼び出すと、来た道を引き返す。
右手はスマホで表示した地図を持ち、歩数から割り出した距離を使って、正確な位置と帰り道の道のりを頭の中で思い描く。何回曲がり道を曲がったか、どの方向に曲がったかも暗記していた大牙は、心の中ではすでに勝ったつもりでいる。
(道に迷うなら、迷った道を正確に戻ればいい! 手品師の卵をなめるなよ、たかだか数十回道を曲がっただけのこと、覚えきれない道理はない!)
「ふふふふふふははははははははは!!」
笑い声も高らかに、意気揚々と“来た道とは逆”に道を曲がる大牙。
題して【方向音痴何するものぞ、記憶力でねじ伏せてくれるわ!】作戦は、行きとは反対に曲がる事を失念するという初歩的なミスで水泡に帰した。
(ぬか喜びしてバカみたいだぞ、俺……)
実際、バカなんじゃないだろうか。そんなツッコミを入れてくれる存在は、この扉の向こうに居る。
「ただいま……」
「――巧、どうしたのその傷!?」
やっとのことで帰ってきた大牙を出迎えたのは、真理の怒声だった。最初は自分に向けて言っているのかと身構えた大牙だったが、どうも違うようだ。声がした方を見ると、配達に行こうとした巧を、真理が引き留めていた。
「……引っかいたんだ、大したこと無い」
「引っかいた、ってそんな訳ないじゃん! そんな、まるで切られたみたいな傷で!!」
どうやら、巧がけがをしているらしく、それを真理に見咎められたようだ。
「ちょっと待って、切られたってどういうこと!?」
「ちょっと大牙君、やっと帰ってきたの? 心配したんだからね!?」
詰め寄ってくる敬太郎を押しのけて、大牙は巧の腕をとる。その表面を鋭利な刃物で切られたような傷が三本走っている。何かに引っかけた程度では容易に付かない傷だ。
「これは……誰にやられたの? こんなの、通り魔にでもやられたとしか……」
「そんなんじゃない。とにかく大丈夫だ」
「だめ、せめてちゃんと治療して」
「あと大牙君はこっち」
頑なに理由を語ろうとしない巧に、真理が食い下がる。
その間に、大牙は敬太郎に捕まってどこに行ったのか問い詰められる。
「今までどこに行ってたの?」
「いや、今それどころじゃないだろう? たっさんはどこであんな傷つけて来たんだ?」
「そんなの僕にも分からないよ……って、誤魔化そうとしないで!?」
「ちっ……」
舌打ちしながら、大牙は巧に向き合った。
「正直に言ってくれ、どこで怪我したの? 俺やみんなに言えない理由は何?」
「巧……」
三対の視線が向けられ、たじろぐ巧。
ややあって、観念した巧は吐き捨てるように口にした。
「……オルフェノクだ。配達の帰りに襲われた」
「そんな……」
敬太郎は呆然とつぶやいた。真理も絶句して、言葉が続かない。
「……かよ」
そんな中、ただ一人大牙だけが激情を露わにしていた。
「またかよ! あいつら、また人間を襲って!」
「木村君!? どうしたの?」
「創才児童園では職員が襲われた! 園田さんも狙われたし、たっさんまで! 何の目的があってこんなことをするんだ!?」
「木村……」
巧は、大牙の言葉に胸を痛めた。
普段の態度からは想像もつかなかったが、大牙は強い正義感を秘めていた。彼の夢である手品師は、みんなを笑顔にする仕事だと語っていた。
そんな大牙にとって、オルフェノクが人間を襲って殺戮を繰り返す様を見るのは耐えられないことなのだろう。
「大牙君、落ち着いて? オルフェノクだってみんながみんな、そんなことをするわけじゃないんだ」
「あんたに何が分かる!」
敬太郎の発言は、逆効果だった。
「オルフェノクのなにを知っているんだ……? あんな化け物達にどうして肩入れする!?」
「それは……」
敬太郎は押し黙った。真理も言葉を失い立ち尽くす。
二人にとって、オルフェノクでありながら人間として生を全うしようとする巧を当然と思うようになったのは何時頃からだっただろう。いつの間にか、自分たちの認識がずれていただけで、世間の反応は大牙のようになるのが当然。――それだけ、人を殺す怪物という存在が与える衝撃は大きい。
「……クソッ!」
「あっ、待って木村君!」
「大牙君!」
「――――止せ、追うな」
大牙は店を飛び出した。慌てて追いかけようとする二人を押し止めたのは巧だった。
「たっくん……」
「今は一人にしてやれ。それぐらいいいだろ?」
「巧……」
「それと――」
巧は少し困ったような表情を浮かべ、
「悪いが、俺も一人にしてもらってもいいか? 一昨日から、いろんなことが起こりすぎだ」
そう言われてしまっては、二人に反論する理由はなかった。
前川副社長は嘘は言っていませんが、すべてを余さず説明したわけではありません。ひどい詐欺師ですね。