死の間際の光景ほど、美しいものはない。
それが見納めだとわかっているのだから、印象に残るものを美化させるのだろう。走馬灯と言い換えてもいい。
――だから、走馬灯の夢から覚めたとき、始めに湧いた感情は、深い虚無感だった。
自分が一度死んで、蘇ったと聞いても、脳裏に写るのは、一度目の死の記憶。自分を助け出そうとする、気高き戦士の姿だった。
少年はすぐに病院を抜け出した。皮肉なことに、少年はある怪物となっていた。
――オルフェノク
それは、死を克服して生まれた新たなる人類。抜け出してすぐ、ある大企業に連れられて知った現実も、彼の心には響かない。
死んだような――実際に一度死んだわけだが――無味乾燥した日々を過ごしていた彼の日常を変えたのは、義務のように人を襲った直後に響き渡る戦闘音を察知した事だ。
何となく、息を潜めてその音の元へと向かう。たどり着いた場所は、車両基地だろうか。青年が携帯電話に何か入力して、銀色のベルトへと装填する。ベルトから赤い光のラインを走らせながら、青年が立ち上がったとき――機械の鎧に身を包んだ戦士がいた。
身を潜めながら、『ファイズ』という名前を思い起こした。オルフェノクの王の為に作られた三本のベルト、その後期型。高い安定性を誇るその素体は、
――awakening
高い拡張性を持つ。
少女からトランクケースを受け取ったファイズは、彼女の指示通りに変身コード――555を入力する。
全身を紅いフォトンブラッドが包み、真っ赤な姿に転じたファイズ。依然、物陰に身を隠す少年は、その後の戦闘の一部始終を見守り続けた。
(これは――――)
走馬灯が走る。一度目の死に見えた戦士たち。燃え落ちる家屋から自分を連れ出すその姿。
その姿が、ファイズの戦う姿に塗り替えられ、少年の脳裏に強く焼き付いた。
それは、久方ぶりに感じる熱量。胸を熱くする感情に、名付けることなどできない衝撃。
一言で言うなら、『魅せられた』のだ。
灰色だった景色に色彩が戻る。興奮さめやらぬまま、見つからないように彼はその場を抜け出した。
少しでも彼らに近づきたいばかりに、積極的に人を襲った。それはファイズを始めとするベルトの情報は、大企業――スマートブレインの上層部が握っているからだ。ラッキークローバーを始めとする上層部に食い込むには、オルフェノクに貢献する事が、近道に思えた。
だが、少年の日々は再び急変する。立て続けに上層部のオルフェノクが討ち取られ、失踪し、誕生したオルフェノクの王ですら、彼ら――
スマートブレインは倒産し、傘下のオルフェノク達は次々と離れていく。身よりのない少年にとって、その事実は重くのしかかった。
――今更、あきらめる気にもならなかった。
灰色に戻った日々に、少年は恐怖を抱いた。何もなしていない。
それだけは、否定したかった。
いや、違う。
最初から、意味などないのだ。それでも、再び
「――だから、一度だけ。もう一度だけ、花を咲かせようじゃないか」
彼は、独りきりのオフィスでひとりごちた。
さぁ、咲かせよう。我らオルフェノク、短い命を有効に使おう。
死の間際の短い煌めき。実を結ばない灰色の
続きを書くかどうかは、自分がファイズをおさらいしてから、さらにプロットを詰めて、……といった事前準備をして納得してからになりそうです。
あるいは要望が多いと投稿が早くなる……かも(ボソッ