転生したら兄が死亡フラグ過ぎてつらい   作:由月

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遅くなって申し訳ない。難産でした。書き直す事数回以上。ニ、三話分は確実に没にしましたつらい。


今回ジェネヴァ君視点のみ。後々への布石もかねて。

この話は後々ルート分岐する予定……なのですが、どうしようか検討中です。


先送りした問題は後々主張してくるものだ

 

 

 

 

 ――救いがない話なんて世界には掃いて捨てる程転がっている。

 

 

 暗がりの中で声がする。とても聞き覚えの、親しみがあるようなその声はこちらへと投げかけるように言葉を連ねていく。

 

 

 ――何にも出来ないでバッドエンドを迎える。それも珍しくない話だろう。

 ――例えば、物心つく前に命を落としてしまう子どもだとか。

 ――例えば、事件や事故もしくは何者かによって取り返しのつかない傷を負ってしまうとか。

 ――例えば、飢えを、痛みを、悲しみを、憎悪を、抱えきれない程に持ってしまうだとか。

 

 

 ああ、そうだな。俺はその声に同意する。頷けたかどうかも怪しいが、幸か不幸か声の主は気にしないようだった。

 

 ――だから、これは“運が良い”内だと思うんだ。

 

 ――あんたもそう思うだろう?なぁ――。

 

 

 はて、この声の主は誰だろうか。俺はそんな単純な事に引っ掛かりを覚え、疑問を大きくする。

 確認する為に瞼を開けようとして、俺はそこで気づいた。ああ、これは夢だ。だから目を瞑っていたのか、と。

 

 悪あがきで開けた一瞬に、見えたその人物は。白に近しい銀色の髪、深緑の瞳に一切の光が宿らない少年。一歩間違えば少女に見えてしまうその美貌は、それこそ俺がこの世界で一番見知っていた。

 

 

 ジェネヴァ。

 

 

 彼がほんのり目を細めてこちらを見ていた。

 

 

 

 

 ハッとそこで目が覚めた。俺はガバリと身体を起こす。枕元の目覚まし時計を見れば、時間はまだ午前四時を指していた。悪夢によって乱れた呼吸も少しずつ、落ち着いてきた。

 

 ふぅと最後に深呼吸をして、俺は起きる事にする。お湯を沸かしてインスタントのコーヒーでも淹れようと思ったのだ。そして気持ちを落ち着かせよう、と。

 

 それにしても、と俺は未だに感覚の残る先程の夢を思う。あれは、なんだったんだろうか。俺の精神状態が宜しくないから見たのか、それとも深層心理にジェネヴァ君が居て彼が顔を出した結果がアレなのか。うーん、判断に迷うなこれ。

 

 アレコレ考えていたら、電気ポットがお湯が沸いたのを知らせる。適当にインスタントの粉をマグカップにいれてコーヒーを淹れる。

 ずずっと淹れたばかりのコーヒーを啜れば、幾分か頭の動きがマシになってきた。眠気覚ましに砂糖は入れていない。舌が痺れそうなこの苦みは少し苦手だ。

 

「あつッ……」

 

 舌に伝わる熱さにぼやきつつ、俺は再度物思いに耽った。つーか、あの夢が俺の心理状態の現れだったらヤバくね?と。SAN値の心配をせねばいけないだろうか。いやだな、そんな理由で精神科に通うとか。

 

 ああでも、俺よくよく考えてみたら――。

 

「あれ、もしかして名前も知らないんじゃあないか」

 

 よく考えなくてもその通り。俺は、ジェネヴァ君の本名どころか、使っているであろう偽名も知らない。常々記憶なんとかしないとやばいかな、と思っていたが、予想以上に詰んでいる状況だ。経歴以前の問題である。

 

 その内、このふざけた状況も元に戻るかと思っていたがそう都合のいい話はないらしい。このジェネヴァ君の、細い身体に違和感を抱かなくなってきた。それだけの月日が経っているのだ。

 

 三カ月。もう、と言うべきかそれともまだなのか。けれど、目を逸らして生きていくのもここらで限界だ。

 

 俺は知らなくてはいけない。少なくとも知る努力をするべきである。

 

 生年月日、名前という基礎情報から、何故組織に入らなくてはいけなかったのか。その理由と彼が辿った過去の足跡を。その欠片でも。

 何故なら彼は架空の人間ではなく、少なくともここに生きていた一人の人間だからだ。“俺”とは違う、一人の人間なのだと愚かにも夢を見て思い出したのだ。

 

「先ずは、家の中からかな」

 

 実は俺はそこまでこの家を真剣に探索していなかった。なんとなく、触れてはいけない気がしてジェネヴァ君の日記もさほど読み込んではいなかった。言葉に表すならば、罪悪感に似た感情だった。

 

 けれど俺はその遠慮をもう止める事にした。流石にこのままだと命が危うい気がした。能天気の俺でもそれくらいは分かる。ジンの兄貴の前での失言は物理的な命の危機である、と。

 どうでもいいが、俺の座右の銘は「思い立ったら吉日」。つまり、判断がついたら行動は早いのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あふ、と俺は欠伸をかみ殺す。窓から注す光の眩しい事か。まだ朝の十時ちょっとだから仕方ないけれども。

 

 組織の施設の廊下をいつも通り歩いている所だった。表向きは普通の一般企業だったりするもんだから怖いよなぁと他人事のように考える。

 

 今日の予定は午前中の訓練を消化したのち、解散。そして夕方から薄暗いお仕事となる。薄暗いと言っても、警察などの公共機関を頼れない脛に傷を持つ人物の護衛――言ってしまえばいつものお仕事だ。なんでそういう人に限ってお金持ってんのかね、と俺は少し荒んだ気持ちになったのは内緒だ。組織のパトロンなのだから面倒臭い。

 

 毎日のストレスは流石黒の組織、ブラック企業すら目じゃないくらいのアレである。生死に関わるお仕事(物理)とかね。ほんともうねーよと俺の語尾も思わず震えてしまうくらいだ。後、忙しい時とそうじゃない時の落差とかどうにかならないかな、と思う次第である。お昼も食べる暇がない時はうっかり兄貴を恨めし気に睨んでしまって死亡フラグの強化とかいうつらい展開がついこの前あったし。

 

 それは兎も角、先日の衝撃の兄貴呼び禁止事件からもう三日とか月日は早いですね。つらい。あれ以来俺は如何にジンニキを呼ばないようにするかと苦心している。日本語ってホント便利。……最終手段は無言のジェスチャーに頼るしかないとか俺の胃の限界が試されているような心地だ。この年で胃痛の悩みとかブラックジョークにもならないわ。

 

 懸案事項はあれか、ライの事だろうか。まさかNOC(ノック)だとばれているだなんて。まあジンニキも怪しんでいる段階で、言いがかりも甚だしいから実行段階じゃないんだろう。……なんで俺、原作生存キャラの心配をせねばならんのだろう。死亡フラグ的に原作に居ない分、俺の方が心配だわ。

 

 ジンに釘を刺されてしまったのもあるが、ライは俺――ジェネヴァと関わらない方が良い気がする。勘に近い感覚だが、間違いではないだろう。関わるにしてもジンの兄貴の目は今まで以上に気をつけるべきだろう。

 

 じゃないと、原作の大まかな流れすらクラッシュしてしまうような気がする。クラッシュって言うか大惨事間違いなしだ。

 

 と、そこで俺は前方を歩く金髪の後姿に気づいた。ここは組織の射撃訓練場も近いし、まあ居ても可笑しくはないだろう。それにしても組織の施設ってなんで観葉植物の類が少ないのだろうか、蛍光灯の光を反射する白一色の廊下は清潔感があるが無機質さが一層際立つような気がした。

 

 あの後姿バーボンだよな、と俺は冷静に思ったがふと先日の妖精さん呼びを思い出した。よっしゃ、ちょっくら復讐してやろう。

 

「お兄さん」

 

「うぉっ!? って君か、ジェネヴァ。何かありました?」

 

 そっと気配を消して膝カックンしてやったら、数歩たたらを踏んであっさりと体勢を立て直した。バーボンのハイスペックさに俺は内心ギリィッと歯噛みしておく。くっそ、イケメンは無様な姿を見せないのか。転んでくれ。

 

「……お兄さん、随分愉快な呼び名で俺を呼んでいるらしいね?」

「――呼び名?」

 

 俺のおうおう、随分な仕打ちじゃねーかという言葉に最初怪訝そうにしていたバーボンだったが、やがて合点がいったのだろうかその顔を少し歪めた。おう、思い出せて良かったぜと俺は頷いておく。

 

「……もしかして、妖精とかそこら辺の事かい?」

 

 大分気まずそうなバーボンの確認に俺はまた頷く。バーボンはがっくりと肩を落とした。お、珍しいなと俺は瞬きする。

 

「違うんですよ、それ。――違うというか行き違いがあったと言うべきか……。まあ忘れて下さい」

「?……そう。まあもう言わないならそれでいいけど」

 

 げんなりとしたバーボンの呟きに俺は首を傾げながらも譲歩する。もう妖精呼ばわりしないんだったら許してやんよ、と。

 

「――ありがとうございます。今度お詫びに奢りますね」

「え」

「どこが良いですか?イタリアンとか、フレンチとか。ああ、スコッチが和食に連れて行ったんだったら他がいいですよね?」

 

 こっちの返事もお構いなしに並びたてられるバーボンの言葉に俺は口元が引きつりそうだ。このコミュ力カンスト勢め……。

 

「……行くなんて一言も言っていないんだけど」

「まあまあ、君に不快な思いもさせてしまった事ですし。少しは挽回させてください」

「――貸し一つにしておく、というのは」

「ははは、この業界に『貸し』にしておく事程怖いものはないよ」

 

 ですよねー。俺のせめてもの抵抗の提案はバーボンの笑顔の言葉にサラリと躱される。まあ明日が命日、って言われても可笑しくない世界だもんな、と俺は頷いた。

 

「……まあ、分かったよ」

「よかった。それで、何処が良いですか?」

 

 渋々と頷いた俺にバーボンは眩しい笑顔のまま要望を聞いてくる。……奢るって言われてもなぁ、と俺は少し考えた。

 

 バーボンはおそらくは俺から組織の情報やら兄貴の情報やらが欲しいのだろうと思う。何せ俺は現時点で組織の幹部最年少。年齢が低ければ、それだけ難易度が下がると思われても致し方ない。それか俺の立ち位置がこないだの接触では釈然としなかったか。

 

 ……言ったんだけどなぁ。と俺は初対面での光景を思い出してちょっと現実逃避したくなった。やっぱり自己申告でのモブ宣言は受理されなかったようだ。モブというか、あまり実力はないよーとマイルドに言ったつもりだったんだけど。

 

「場所か……。じゃあ――」

 

 繰り出された俺の願いに、目の前の完璧な笑顔は崩れた。ぽかんと崩れたその間抜け面は少し笑えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれよあれよと状況が整えられて、俺はリア充の怖さを知った気がする。なんでそう言えば連絡先知りませんね?からの交換しましょうになるのか。余りも流れが自然過ぎて俺はうっかりメアド交換に応じてしまった。まあメールアドレスや携帯の番号なんて所詮変えれば済む話だしね。

 

 結局、明日のお昼を一緒にとる運びになった。俺の気分は不良番長に体育館裏にお呼び出しをくらった哀れな下級生並だ。つらい。アレだよな、精神的にボコられるのは覚悟した方がいいよな?

 

 出来れば平穏に終わってくれないかなーという俺のささやかな願いはなんというか意外と叶えられた。てっきりスコッチとタッグを組んでアレコレ根掘り葉掘り聞かれるかと思ったけれど、そんな事はなかった。

 

 先の俺の願いというのはテイクアウト系で休憩所とかで食べようぜ、というものだった。

 正直、お店で個室系とかだとちょっとした尋問とかになりそうだし、それでなくてもこの目立つ金髪イケメンとお食事とか俺にとっては罰ゲームもいい所だ。本当はバーボンに何か作ってくれという無茶ぶりもほんの少し考えたがそれは流石に命が惜しいので脳内で却下した。公安の皆さんが待ち伏せとかあり得るじゃないか。逮捕エンドはご免である。

 

 だから組織の喫煙所の近くの休憩所という選択をした。俺のささやか過ぎる嫌がらせだ。時間も長引かないだろうし、俺天才じゃね?と自画自賛しておく。

 

 けれどそれが習慣化するだなんて誰が思うだろうか。

 

 

 

 

 

 

 組織の施設は結構設備が整っている。当然喫煙室、喫煙スペースが一応設けられている。そこに机と椅子が数個設けられていて、そこが休憩所となっているのだ。まあ組織の人間ってヘビースモーカーが多いので、喫煙スペースとか関係なしに皆スパスパ吸っているから一応という言い方をした。

 

 このスペースに座ってぼんやりと煙草を吸っていたりする姿も見かけてもいたので休憩所としては一応機能している、そんな場所だった。

 

 

「君って意外と欲がないんですね」

 

 ポツリ、とバーボンが呟いた。もふっと彼が咀嚼するのは美味しそうな玉子サンドで、そういやアニメでこの人美味しいハムサンドとか作っていたなと俺は懐かしく思った。

 

 もうこの奇妙なランチタイムも三回目を数えた所だ。毎日ではなくて、バーボン達と予定が合えばというスタイルなので週に一回あればいい方だ。

 

 なんでこんな事になったのかね、と俺はげんなりしながらも答える。

 

「……欲?」

「おいおい。いきなりどうした、バーボン」

「いきなりでもないんですけどね、スコッチ。コレの始まった経緯とか思い出したらつい、ね」

「ああ、アレだろ?――休憩所でいいなら、って奴」

「ええ、それですよ」

 

 首を傾げる俺をよそに、友人同士バーボンとスコッチが話し合う。俺は自分で作ってきたおにぎりを齧りながら、居心地悪くて目を逸らした。ちなみにスコッチの手元にはコンビニで買ったような総菜パンが三、四つ置かれていた。コロッケパンが美味しそうでほんの少し羨ましい。

 

 口に頬張った米を咀嚼してから俺は頭を横に振る。

 

「そんな事ないよ」

「そうかい?」

 

 実際、俺は後ろ暗い人間だ。真っ黒なこの組織の人間らしく、自分が生きる為に暗殺すら全うしてしまうそんな人間だ。自分の命と他人の命を天秤にかけて、それでも自分の方をとってしまう、そんな選択を何度か繰り返している。こんな風に五体満足で、美味しくご飯が食べれるだけでも十分欲深いだろう。

 

 そんな俺の自嘲が無表情の下からもれたのだろうか、ポンと俺の頭を大きな手が軽く撫でた。驚いた俺が見上げれば、スコッチが少し困ったように笑った。そのままぐしゃぐしゃと掻き撫でられる。遠慮ないそれに俺の頭はぐわんぐわんと揺られる。

 

「!?」

 

「ははは、まあ人生は長いんだ。徐々に見つければいいさ」

「スコッチ、止めてあげてください。目を回しているのが分からないんですか?」

「うぉっ!? 悪い、大丈夫か?ジェネヴァ」

 

 遠慮なく俺の頭を撫で繰り回すスコッチを止めてくれたバーボンに俺は感謝しつつ頷く。スコッチの悪気はないのだと知っていても、耐性がないジェネヴァ君には別の優しさをお願いしたいところだ。なんの耐性かって?アレだよ、家族とのほのぼのとしたやりとりとかだよ。くっそびっくりしたわ。

 

「……平気」

「そっか」

 

 乱された髪を手櫛でさっくり整えた俺にスコッチはホッと息を吐いた。とても子供扱いされているような気がする。

 

「そう言えば聞きましたよ。君、今ジンの下に付いているそうじゃないですか」

 

 サラッと世間話の体でバーボンが俺に話を振ってきた。お、ついに来たかと俺は少し心を落ち着かせる。俺の鉄仮面っぷりはジンの兄貴とのやり取りで保証されているものの、目の前にいるお二人さんは公安警察の精鋭だ。つまり、下手な嘘は効かない。

 

「まあね」

「大丈夫か、一応アレだろ。危険な任務ばかりだろう?」

 

 いつも通り、淡々と頷く俺にスコッチが心配そうな声で問う。バーボンの方もスコッチに同意するように頷いている。

 

「別にそうでもないよ。……バーボンには言っただろうけど、俺まだコードネーム持ったばかりだし、下っ端だからね。そう大役を任される訳でもないよ」

「そうかい?まあ、一応我々の方が先輩な訳ですから、困った事があったら一言相談してもいいんですよ?」

 

 静かに語った俺に微笑みながら優しく助言をするバーボンは原作を知らない者から見れば思わず頼ってしまう程違和感がない。元から人当たりがいいからなのか。これがコミュ力カンストの力か、と俺は内心感心する。

 

 まあ、俺はこのバーボンが原作時にはトリプルフェイスをも使いこなす演技力だと知っているから絆されたりはしないけど。いやまあ、いい人だとは思っている。

 

「そうだぞ、ジェネヴァ。こういう業界だから、伝手は大事だよ。それに、話半分に聞いておけばいいのさ」

「話半分は酷いな」

 

 無言の俺に気を遣ったのだろうか、スコッチの軽口のフォローが柔らかにされる。バーボンは苦笑気味に肩を竦めた。

 

 俺は二人の眼差しにまだ敵意がないのを見て、肩の力を少しだけ抜く。この二人もまだ様子見ぐらいのものだろう。

 

「ありがとう。――万が一の時は相談させてもらおうかな」

「万が一、か。怖いですね」

「はは、自業自得だな。バーボン」

「違いない」

 

 表面上は和やかな会話に俺はおにぎりの咀嚼を再開させる。表面上、じゃなくて普通に仲良しだね、この二人。今日の夕飯は何にしようカナー。

 

「ところで、ジェネヴァ。君、今銃を持っていないようですけど普段もそうなんですか?」

 

「は?」

 

 え、なんでそんな事分かるの、この人。俺の思考の半分は今日の夕飯に占められていたので、反応にちょっと素の部分が出てしまった。

 

 そう、俺は基本的に銃を携帯していない。勿論、物騒な組織のお仕事の際はちょっと組織の武器庫から拝借している。ので、さほど困っていないし、まあいっかと今日まで来てしまっていた。やっぱり、愛用の拳銃とかは買うべきなのか。でもなぁ、大抵ジェネヴァ君のこのクソ高い身体能力でなんとかなってしまうし。銃弾、くらいならばある程度は避けられる上に直前に勘で分かる。……ライフルでの狙撃も避けられるなんて地味に凄くね?俺の勘。

 

 食後に缶コーヒーをちびちび飲むバーボンの隣でスコッチが右手で銃のジェスチャーをやりながらしたり顔で頷く。

 

「まあ、ちょっと分かるけどな。外でバレたら面倒だものなぁ」

 

 そりゃあここ銃刀法なんてものがある日本ですし。俺は心の中で同意する。

 

 スコッチの言葉にバーボンは渋い顔をした。

 

「面倒の一言で命の危険、なんて笑えませんよ。……でもまあ、君くらい優秀なら銃なんて要らないくらいになるのかな?」

「…………」

 

 ねえ、ジェネヴァとバーボンがにこやかな笑みのまま、小首を傾げる。心なしか、お前下っ端なんて嘘やろというバーボンの副音声が聞こえてくるようだ。俺は内心冷や汗が止まらない。あ、これ諦めてないッスわ。と俺は悟って思わず魂を飛ばしそうになった。

 

 思わずスコッチに視線を投げる。黙ってないで助けろ、と。スコッチは少し肩を竦めた。助ける気はないらしい。

 

 大人げない、と俺がため息を吐いても誰も責めないだろう。

 

「――ただ単にうっかりしてしまっただけだよ」

「うっかり?」

 

 俺が観念して本音を言えば、バーボンは目を見開いて素直に驚いているようだった。思わず俺の言葉を反芻してしまう程度には。おい、イケメン口開いているぞ。

 

「流石に仕事の現場じゃあ持っていっているよ?」

 

 信じられない、こいつみたいな顔が耐えられなくなって、俺は渋々付け足した。ぼそぼそと尻すぼみになる俺の言葉にスコッチの方が呆れたように片手を小さく振る。

 

「いや、それ当然だろ」

 

 お兄さん、ちょっとソレ心配だわと眉を下げるスコッチにその隣のバーボンが無言で頷く。バーボンの真顔とかレアだな、と俺はどこか空回った思考をする。

 

「とにかく、君はもう少しちゃんとするべきですね。余計なお節介かもしれませんが」

「うん、なんかごめん……」

 

 バーボンのため息まじりの真面目なお説教を俺はただ頷くしかなかった。そんな残念な奴を見るような目で見なくてもいいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 一人暮らしをしていると独り言が多くなるのが難点だなと思いながら玄関を開ける。現在時刻は午前三時。もう一度言う午後じゃなく、午前三時である。こんな時間まで働けとか馬鹿じゃないの?とうっかり口を滑りそうになっても仕方ないと思う。まあそんな生き急ぎ野郎じゃないからしないけど。身長伸びなかったらマジ恨むとは思っている。

 

 まだマシな部類のお仕事だ。そつなくこなせば血を見る事なく片付ける事が出来る。命がけって言うのがちょっと、と思いはしても俺は文句は言えない立場だ。つらい。

 

 シャワーを浴びて、ラフな姿(Tシャツと短パン)に着替える。髪も雑に乾かせば、後は眠るだけとなる。いつもだったらベットにダイブして二秒で夢の住人となる訳だが、今日はもう少し頑張る事にする。

 

 突然であるが、ベットの下と言われて何を連想するだろうか。ましてや、それが中学生ぐらいの少年のという前振りが付くと俺は一択だと思う。青少年の嬉恥ずかしな欲望の現れだったりする訳だ。

 

 ……話が逸れた。それを踏まえて、ジェネヴァ君のベットの下にあった物はなんでしょうか?

 

 答えはトランクケースでしたー。わー、ぱちぱちってなんでやねん!! 俺は脳内でノリツッコミをこなしつつ、つい先日の朝の思い付きでの探索結果を眺めていた。ヤバい疲れでテンションが可笑しな事になっている。かと言って俺は通常の低いテンションでは確かめられない小心者だ。

 

 ベットの前に引っ張り出したのは、旅行とかで便利なトランクケースだ。人間一人ぐらいはギリギリ詰められそうな大きさで、ジェネヴァ君の持ち物じゃなければ旅行好きなんかなで話は終わる代物だ。要は怖くて開けられないのである。中身は空じゃなく、ずっしりと入っていたからだ。なにこれ怖い。

 

 気分はそう、禁断の箱を空ける愚者の如く。ごくりと生唾をのみ込み、いざと気合を入れて留め金を外せば、トランクケースはパカリと口を開ける。

 

「こ、これは――」

 

 俺は思わず震える手で、中身を一つ手に取った。ズシリと重い金属特有の重さ。安全装置を外せばいつでも人の命を奪えるソレ。

 

 拳銃が一丁(自動拳銃のガバメント、М1911が正式名称らしいが)、その弾倉(マガジン)が数個。それとジェネヴァ君の物と思われるパスポートが一つとファイリングされた資料が余りの空間を埋めていた。銃刀法違反じゃないですかー、やだーと可愛い子ぶってみても今更だよなぁ……と少し遠い目をしてしまった。

 

 後はパスポートの中身も確認しようと俺は手に取ってから表紙をめくる。そこにはジェネヴァ君の写真と名前が記されていた。あー……、と俺はまた天井を仰ぎたくなった。

 

「これどう見ても……」

 

 偽名だよなぁ?俺はその名前を見て苦笑いを浮かべそうになった。勿論、この素直じゃない表情筋はピクリとも動いちゃくれなかったが。

 

 

 黒野 静。静かと書いて“せい”と読むらしい。少し珍しい名前だな。

 

 

 それにしても“くろのせい(黒の所為)”とか。

 

 ギャグかな?と当の本人である俺が思っても仕方ないと思わないか?いや、まあこの名前を馬鹿にしている訳でも、嘲笑っている訳でもないよ?ただ、偽名だったら名付け親出て来いよと複雑な気持ちを抱いても許してほしい。

 

 例えそれが仮の名前だとしても、一歩前進だ。何も分からなかった時よりもマシだ。

 

 とそこでマナーモードにしていた携帯が机の上で震動していた。出なかったら結構まずいので俺は慌てて携帯を手に取り、通話ボタンを押す。

 

 

『遅い』

 

 開口一番のブリザードに俺の心が一発重傷になりそうになった。端的に言って挫けそうである。ただでさえ、このクソ遅い時間なのに。時間の概念がないのか、こいつと寛容的な俺でさえ悪態をつきたくなるものだ。

 

「ごめん……、少し寝てたから」

 

 グッと堪え(偉い俺という心の激励も忘れない)、俺は電話向こうのジンに謝る。

 

『チッ。まあ、この遅い時間だから仕方ないか。――明日の仕事の話だが』

「え。オフの予定じゃなかったの……。少なくても、午後からだよね?」

 

 時計を見れば時計の短針は四を指していて、今の時間が夜明けに近い事を知らせていた。それで俺に朝から働けとか鬼畜な事言われたらジェネヴァ君死んじゃう、とちょっとひやひやしながらジンに伺う。

 

『はぁ……。安心しろ、そんな事は言わねえよ。チビのままでも困るしな』

 

 ため息を吐きながら、暗に俺の身長の事を揶揄うジンの兄貴に俺はグッと言葉を詰まらせた。それが、電話口に伝わったのだろうか。少し間を空けて、クツクツと低く笑う声がした。

 

『なんだ、気にしてたのか。可愛いところもあるじゃねえか。まだガキだなァ、お前』

「なっ」

『心配しなくてももう少しで嫌でも伸びるだろうさ。俺の弟だしな』

 

 まるで子供を宥めるような口調のジンに俺は反論しようと口を開けた。だが、その反論が形になる前に電話口から柔らかな低音が聞こえた。

 

 正直、誰だお前と言わずにいられないような、家族に、大切な何かに声をかけるような、じんわりと温まるような優しさがそこにはあったような気がした。

 

 

『さて、無駄口はここまでだ。ジェネヴァ。――明日の午後からだが、どうという事はない。いつもの仕事よりは簡単かもしれねえな』

 

 俺が思わず言葉を失っていると、電話口の温度は戻る。寒暖の差がジェットコースター並である。

 

『助っ人、か。簡潔に言ってしまえば。後で詳しい事はメールで送るが、そのメンバーが――』

 

 

 電話で告げられた仕事仲間の名前に俺の口元が引きつる気がした。

 

 

 え、マジですか。それ。

 

 





この後バーボン視点(後半へ)と続きます。申し訳ない。
申し訳なさ過ぎてもはや語尾になりつつあります。反省?してますとも。

主人公の仮の名前がようやく出ました。多分余り出てこないとは思うんですが。

冒頭に書いたルート分岐。今の所なのでメモ程度だと思ってください。あくまで予定なので、変わってしまうかも。


①このまま、スコッチさんやら明美さんやらを救済して、ジェネヴァ君傷を負いつつもコナン君達と協力していくよ!ルート。
このルートを辿るともれなくジンニキと対峙します。で、兄弟対決と。こっちはジンニキの分かりにくいデレにジェネヴァ君が「こんのクソ兄貴がッ!!」とブチ切れルートでもある。

②組織のジンニキの下で働くジェネヴァ君。明美さんやスコッチは救済出来るけど、ジンニキを恨んでいる組織の人にちょっとボコられ、アポトキシン4869(試作品)を飲まされてまさかのショタ化ルート。
別名ジンニキルート。約束の時間になっても来ないジェネヴァ君を心配したジンニキが小さくなったジェネヴァ君を回収。そのままだとジェネヴァ君の命が危ないのでジンの兄貴が匿う→そして息子として手元に置き、組織を裏切る事を決意……?後々、コナン君や哀ちゃんの正体を察したジンニキが天井を仰いで「なんてこった」となる。
コナン君や哀ちゃんの正体が組織にばれないように苦心する世にも珍しい兄貴が見られる予定。彼らの正体がばれる→ジェネヴァ君も危なくなるという図式の為。

尚、②ルートではジェネヴァ君は死んだことになっているので数名、精神にダメージが及びます。多分。
後で誤解は解けますが。それと②だと家族愛が裏テーマになりそう。

お目汚し失礼しました。では。

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