サブタイトルに意味?ないない。
今回はジンの兄貴とベルモットさんが出ます。
視点変更、少ない方がいいんじゃない?というお声があったので今回は主人公視点のみです。大人たちの内心は読者様の解釈にお任せ。後○○Sideというのもやめてみました。こんな感じでどうですか?
今後展開的にどうしても補足が必要な場合のみ、補足として第三者視点使わせてもらいます。
4/20 誤字報告が上がりましたので一部修正。ご報告ありがとうございました。
鏡に映る儚い印象の少年が無表情で見つめていた。これが俺とか、未だに実感が湧かないわ。無表情で更にビスクドールみたいな現実離れした美貌に見えてくるのだから美形って得だなと他人事みたいに思う。
「…………」
俺は無言で両手の人差し指で口端をくいっと持ち上げてみる。無理矢理つくられたその笑みは、逆に笑えてくるくらいぎこちない。
手を下ろす。戻った無表情に俺は口元が引きつる思いをする。
「まじか……」
鏡に映った顔はそれでも変化がなかった。ぐぬぬ、と俺は悔しい思いをする、何か負けたような気持ちだった。
いや待て鏡を見ながらだったらどうにか表情筋を意識的に動かして笑みを浮かべる事が出来るんじゃないか。
浮かぶ閃きに俺は勝利を確信する。
いざ挑戦、と俺は鏡と向き合う。
笑みというより、これ嘲笑なんじゃ……と思われる笑みが鏡に映る。見下される感が半端ない。俺はそっと鏡から目を逸らした。鉄仮面過ぎるだろ、ジェネヴァ君と俺は軽く絶望する。
朝から何やってんだろ、俺は虚しく思いながら朝の支度を急いだ。
時が経つのはなんて早いのだろうか。
時刻は既に夜の七時を超えていた。暗闇が完全に支配し始めるこの時間帯はこの仕事着の黒い服装がより不審者染みるつらい時間帯なのだ。ほら、ジェネヴァ君子供だから移動手段は交通機関を頼るかタクシーかの二択だからね、余計ね。
今日で護衛の任務も終わりだ、やったね!と俺は自分を鼓舞しながら自宅の玄関に上がり、意気揚々とリビングの扉を開けた。
すぐに目にはいる位置に配置されているソファに陣取る、見慣れた長い銀髪に俺の浮かび上がった気分が急降下する。靴あったっけ?浮かれてて気づかなかったわ、と俺は自身の失態を悟る。
「……兄さんって暇なの?」
「あ?何ふざけた事言ってやがる。――忙しいに決まってんだろ、殺すぞ」
「…………」
俺のシリアスを返せ、と喉元まで出かかっている言葉を俺はなんとか嚥下する。くっそ油断したと俺は床に力いっぱい拳をぶつけたい気持ちで一杯だ。
この数日、兄から事務的な連絡しかなかった。ので、家でのストレスがないって素晴らしいと俺の心の中で拍手喝采だった。え?仕事?金持ちのお嬢様の護衛の任務?まあ楽勝だった。この儚げ美少年の見た目じゃあお嬢様の怯えも抱かれないし、彼女の命を狙う不届き者もこのジェネヴァ君のハイスペックな戦闘技術でサクッとお帰り頂けたし。我ながら人間やめているレベルの身体能力で自分に引いたのは秘密だ。
このリビング然り、ジェネヴァくんの住み家であるこの2LDKの空間は広い割にシンプルな内装だった。リビングにはソファと机とテレビくらいしかないし、ダイニングに至っても食事をする為の机と四脚の椅子ぐらいだ。最も賑やかなのが俺が料理をするキッチンだと言えばそのシンプルさが分かるだろうか。
何が言いたいかというと、ジンの兄貴が居座る程ここは快適素敵空間ではないという事だ。……この襲撃が三度目だとは言え、一週間に来すぎじゃないですか、兄貴と俺のツッコミがスタンバイする。勿論、俺は言うほど命知らずの死にたがりじゃないから我慢するが。
「今日で終わりだろう。次の仕事の話だ、面倒だが直接じゃねえとアレだからな」
「……そう」
何があれなのか、俺は疑問に思いながらも一応頷いておく。まああれだもんね、ジェネヴァ君の(組織式)教育もジンの兄貴が今握っているもんね仕方ないねと俺は自分を納得させた。
「――ジェネヴァ」
「うん?」
やけに重々しい兄の声に俺は少し首を傾げる。
「……腹が減った。なんか作れ」
「…………了解」
なんだ、ただの暴君か。俺は内心ため息を吐きながら、了承し、調理をするべくキッチンへと向かう。
餌付け説が段々現実味を帯びてきてとてもつらい。ジンの兄貴の場合、猫とか犬とか可愛いものじゃなくて、獲物を屠る狼や豹といった獰猛さがあるから出来れば遠慮したい全力で。
うーん、今日は何を作ろうか。お米を研ぎながら俺は思案した。冷蔵庫に何があったかなと中身との相談だ。毎日自炊しているから、小まめに食材を買っていたりするのだ。どうせ食べるなら美味しい物を食べたいっていうジェネヴァ君になる前の俺の食い意地の結果なんだけど。
ちなみに冷蔵庫さんとの相談の結果、夕飯は煮込みハンバーグとなった。ご飯が炊けるまでの時間もあるし、丁度いいだろうと思ったからだ。まあ本格的な奴じゃなく、家庭で簡単に作れるケチャップ使用のソースなのでジンの兄貴の口に合うかは俺はそっと目を逸らすことにする。流石に料理が口に合わないからって銃でバンッと
何よりこうして俺がせっせと作っている間、奴は酒を飲み始めていた(この前持参してきたあのお酒だ)。なので文句を言われる筋合いはないな、と俺は直ぐに立ち直る。
まあ結局は自分で食べたいっていうのを作るのが一番、これに限る訳だけど。だって俺主婦じゃないし。愛情?入っている訳ない。
完成した料理に俺がその出来に満足し、至福の時を味わう。我ながらおいしく出来たと思う。これで対面に座る人がこの渋い顔をする悪人面じゃなければいう事なしなのに。
決してあのジンの兄貴に美味いって言われたい訳ではない。言われたら多分鳥肌ものだろう、と俺は思っているから問題なしだ。けれど、その不景気な顔で食べるのはやめてくれないか。不機嫌そうに眉をひそめるジンの兄貴に俺の胃が悲鳴を上げるから切実に。食べてる気がしなくなってくる。
「……おい」
「…………なに」
氷点下のジンの声に俺は渋々返す。鉄壁の無表情な上に声にも表れない安心仕様に俺はこの時ばかりは感謝した。
「テメェ、いつ
これ実の兄の台詞か?と思わず疑いたくなるのと思わない事への指摘に動揺を俺は瞬時に抑える。これだからこの組織は嫌になる。
「……最近始めた趣味だよ、兄さん。刃物の扱いは分かってるし」
「ふぅん?それにしちゃ、上手く出来てるようだが」
俺の回答にジンはくだらないと言いたげに食事を再開させる。俺はうん?と首を傾げた。
「
「あ゛?」
何言ってやがるんだ?的なジンの威圧に俺は自分の好奇心を呪う。やっべ、好奇心は猫を殺すということわざもあるじゃないか、と。
「…………まあ、悪くはない」
「!?」
ぼそっと聞こえた低い声に俺は耳を疑う。え?なん、だと……!? と衝撃は俺の無表情を崩す勢いで襲い掛かる。
思わず呆然と兄の顔を見れば、あの仏頂面が少し居心地悪そうに目線を逸らした。らしくない事は自覚済みらしい。ああ、よかったと俺は胸をなでおろす。もう少しで大丈夫?病院行く?とウォッカへの電話番号をプッシュしそうになった。なんでウォッカか、って?だってあの人ジンの兄貴の為ならタクシー代わりになってくれそうという俺の偏見だ。
「そ、そう。それは良かった」
「ん」
俺の動揺の揺らぎは多少で済み、兄の頷き一つで流された。俺、取り乱さないで良かった。
食後にコーヒーを兄にも淹れてやり、のんびりとした空気がこのリビングに流れる。と言ってもテレビも付けないこの沈黙は俺からすれば気まずい事この上ないのだが。というかやっぱりブラックコーヒー派なんですね、兄貴と使われなかった砂糖とクリープを俺は何気なく見ていた。
というか、やっぱりこの人生きてる人間なんだなーと俺はぼんやり思った。ちょっとくらい組織のサイボーグ説も疑っていた為、残念なようなそうでないような複雑な気持ちだ。
その後ジンは仕事の話をした後、これから仕事だからと去って行った。去り際、ぽんぽんと頭を撫でられたのは人生で一番の驚きだったとここに明記しておこう。何あれ怖い。驚きというより今年一番の恐怖体験に違いない。ジェネヴァ君の(あんまり思い出せない)過去も全力で頷いている。
仕事に関してはまあ今と同じくこの幼い見た目で油断させていくスタイルなんだそうだ。まさかこんな子供が、的な。だから組織にとって利用価値のある要人の警護だとか、邪魔な同業者の始末とかが主な仕事だそうな。どこぞの暗殺者かな?
つまり俺は返り討ちにされないように祈って仕事をしろって事ですね分かります。
その為に少し変装術も学ぶ予定を組んでおく、とジンの兄貴から不吉なお達しがされた。なんか嫌な予感がするというかなんというか。先生役の人の事も聞けないまま、兄は一方的に告げて去って行ったので俺の不安は計り知れない。
※※※
嫌な予感程当たるって何なんだろうね。
周りは色とりどりの洋服が洋服店にも劣らぬ品揃えで並びたてられ、頭だけのマネキンにウィッグが十数個、それと変装用マスクが数点。
俺は全身を映せる姿見の前で立ち尽くしていた。
俺は目の前の鏡に映る
「あら、可愛く出来たわね。貴方、綺麗な見た目をしているから化粧だけでなんとかなるんじゃない?」
「…………」
軽い調子で褒めてくれる妖艶さが滲んでいる声に俺は死んだ目でそちらを見る。
二十代後半か、若さあふれるナイスバディな金髪美女が化粧道具をしまいながら、ふざけた事を言っていた。美貌に裏打ちされた自信がその青い瞳をより魅力的にさせるのだろう、彼女の流し目は正体が分かっていてもなお、ドキリとさせる威力があった。
ベルモット。組織随一の秘密主義な女性が、今日の俺の先生役だ。あの兄の不吉なお達しから二日後に、組織の施設のとある部屋で授業をやるとメールで知らされ、いざ向かえばこの金髪美女がお出迎えしてくれたのだ。デスヨネーと俺は元々死んだ目が更に澱むのを感じた。
で、簡単な自己紹介の後、時間がないからと怒涛の勢いで授業が進んだ。その結果が今の俺の姿だ。
今の俺の姿は深窓の令嬢と言った感じだ。白のワンピースには裾にレースがあしらわれ、小物を入れる小さな肩掛け鞄が可憐さを演出する。足元の水色のパンプスはリボンが可愛さを主張していた。つらい。
化粧により、もはや違和感がないくらいに俺は美少女の見た目に化けていた。これで相応しい所作と声が揃えば、疑う人は居ないだろうと思える完成度だ。え?見た目は元々
俺は自分の思考に殺意が湧くくらいには地味に精神的に追い詰められていた。俺にだって男のプライドがあるんだと拳を握りたくなる。
「こんな所かしら。これまでで分からない所はある?変装用マスクの作り方も教えたし、体形の違いの誤魔化し方も大丈夫ね。――あのお方にも困ったものだわ」
ベルモットは確認事項を上げながら、ふとぼやくように呟いた。呟く、と言っても聞こえない程小さな声だった。なる程、俺はそれに納得する。可笑しいと思っていたんだ、この授業。だってベルモット側になんのメリットがないし、十八番な技術を同僚に、後輩に伝える程この組織は親切な作りをしちゃいない。
でもボスからの命令じゃあ断れないだろうなと俺はベルモットに同情した。まあこの授業、この一回のみの全部一回だけ教える超詰め込み授業で、習得できるとベルモットが思っていないから実現出来たんだろうが。
残念ながらこのハイスペックなジェネヴァ君は大抵一回で習得できる可愛さのない子供の代表なのでしっかりと吸収してものにしちゃっている訳だが。
「後は仕草をものにする観察眼と演技力が成功を左右するわ。まあ、そんなところね」
後は頑張って、と言わんばかりにベルモットは肩を竦める。
「そうですね。ご教授、ありがとうございました」
「あら、驚きね。貴方」
俺の口から出た可憐な声にベルモットの目が丸くなる。その後、苦く笑うように口紅の美しい唇が歪められた。
そう、俺は声だけなら元々ある程度変えられた。役に立つかな?くらいにしか思っていなかったこの技術は早い活躍の場を得られたのだ。
「でも無表情なのが欠点ね」
「……………」
ベルモットの
ああ、残念。もう時間ね、とベルモットは呟いてサッと身を翻し、
「ふふふ、でも多少ミステリアスな方が女の子は魅力的よ」
と素敵な笑みでお別れをしてくれた。流石は大女優、その美貌は目に眩しいくらいだった。
「俺、男だけど……」
俺の虚しいツッコミは誰に聞かれるでもなく寂しく消える。あ、涙が。
ところで、ベルモットさん。原作では俺の兄であるジンとの恋人疑惑がある人なんだっけか。マティーニな関係云々のアレだ。あの人が義理の姉になる可能性が俺の脳裏を掠り、思わず頭を横に振る。なんておそろし、いや恐れ多い。無理無理。もしそうなったら兄とは絶縁させてもらおうそうしようと俺は決意を新たにした。
さっさと着替えてしまおう、と俺は気持ちを切り替え化粧を落とした。そんでもってこういうのはなるべく回避していく方向でいくか。
という訳で女装()もこなせる系美少年のジェネヴァくん。線の細い少年で身長はきっと百六十前後、と密かに思っています。下手したらそれより下か。まだ十三歳だものね、しょうがないしょうがない。ほんと着替えがあってジン兄貴は幸運に感謝すべき(※一話参照)
今回はジンの兄貴の不器用なデレに苦心しました。キャラ崩壊一歩手前かな。と思いながら書いてました。今の兄貴には頭ポンポンが限界だ(※なおやられた当人は)
まあこの作者なのでこれからもっと崩れるんですけどね☆
※主人公の携帯にはジンの兄貴の連絡先と念のためのウォッカさんの連絡先が勝手に登録されていますという裏話。
※ベルモットさんの「ミステリアスな~」というくだりはわざとです。彼女のお茶目成分。
本編とは関係ないお話なんですが、日間ランキングに日曜日らへんに載っていた気がします。……通知がこないので作者の気のせいという可能性が……。
それはそれとして沢山のお気に入り登録、感想などありがとうございました。何があったのか、未だに作者分かっていません。
次回はアレですねスコッチさん辺りとか書いていきたい(こそっと。