さて、今回は日常回です(という名のお茶濁し回ともいう)
ジェネヴァくん視点。
今回の注意事項
・キャラ崩壊(いつも以上の)
・カッコいい兄貴はいません(え)
・ひたすら会話。
・内容がないよう
・短い(最近の奴に慣れているとひたすらに物足りない)
・下世話な話題(性事情とか結構あけすけ)
・ジンニキのキャラ崩壊(まじでごめん)
・後で書き直したい
以上
おっけー?
ではどうぞ。
あの衝撃の一夜から早一週間。表向きは穏やかに日々は過ぎていく。スコッチの裏切りは水面下での動揺はあれど、すぐに収まった。そう、組織では別段珍しい話ではないのだ。あの時にお願いした、バーボンとライの仲間意識に亀裂を入れると見せかける計画は思ったよりも上手く実行されている。噂では、スコッチを始末したライをバーボンが逆恨みしている、とか見当違いな事が囁かれている。事実はもう少し複雑なのにな。
時刻は午後七時半を過ぎた頃。夕飯時の時間で、俺は今日は食べたいものを食べようと朝から楽しみにしていた。
目の前にぐつぐつと煮えたぎる鍋の様子を食い入るように見つめる。カセットコンロの上に置かれた土鍋の中に白菜や長ネギ、えのき、豆腐、豚肉が沸騰による泡で揺れている。煮えていい匂いが漂い、食欲を刺激する。キムチ鍋の香辛料特有の刺激臭もただただ美味しそうという感想しかない。最近寒くなってきたから鍋の季節だな、と思い立ったが吉日。その日の夜には鍋の準備が出来て実行してしまった。それにここ暫くジェネヴァ君が成長期なのか、やけに腹が減るのだ。まだ十三歳だし、伸びる可能性は無限大だ。
「おい」
目の前の不景気そうで凶悪なお顔がなければなお良かったのにな、と俺は聞こえてきたド低音の方へ渋々視線を上げる。そこには今日も今日とて眉間に盛大な渓谷を刻む、我らが兄貴の姿があった。ちなみにこうやって我が物顔で我が家に上がり込み、夕ご飯を食べるのは珍しくなくなってきた。毎週のように居るんだものな、この人。
その暑苦しい黒のコートは脱いであり、インナーのタートルネック姿になっていた。そして、その長い銀髪は頭頂付近で一つに纏めて結ってある。所謂ポニーテールだ。ちなみに食べる時に一々髪を掻き上げる兄貴の姿に俺がキレて無理に結んだ結果だ。ラーメンやら汁物系で一々そんな事やられたら少しは苛立ってしまうのも無理はないと思う。それが今ではスムーズに結ばせてくれる。まあ大人げない抵抗は良くないと思う。というか、その長い髪は地毛だったんかというのが当時の衝撃だ。え?カツラじゃないの?マジで?
「……何?ああ、鍋ならもう少し待って」
後五分は煮たい、と俺はおざなりに兄貴の声に返す。今日は平穏に過ぎた一日で気分がいいから終わりもそうあってほしい。
「そんな事を聞きたい訳じゃねえんだが……。――確かに、お前にはどうでもいい話かもしれないな」
「ふーん?俺には関係ない話?」
兄貴の若干呆れた声に、俺は締めはやっぱり雑炊かと考えながら深く考えずに口にする。
はぁ、と目の前からこれ見よがしに吐かれたため息。ダイニングテーブルで向かい合わせに座っているので聞こえない訳がなく。……なんなの?と視線を鍋からもう一度兄貴に戻す。
「……まあドチビだから腹いっぱい食って伸ばせよ」
「は?喧嘩なら買うけど?」
可哀想なものを見る目でド失礼なことをぬかす兄貴に言い返したのはほぼ反射だ。思わず低い声になった俺に兄貴は首を緩く横に振る。
「そんなくだらない喧嘩は御免だ。事実を突かれて
「……で?」
兄貴の息をするように出てくる煽りには乗らずに出来上がった鍋から兄貴の分をよそる。それで元々なんの話なの?と手渡しついでに促す。それを受け取る兄貴の顔は複雑そうだった。何その苦虫を噛み潰したような、理解しがたい何かを見るような顔は。とりあえずそのしかめっ面は止めてほしい。
「…………時々お前が大物なのか、ただの馬鹿なのか分からない時があるな。――まあいい。お前、この男は知っているな?」
「大物に決まっているでしょ。――で、知っているも何も。何度か一緒に任務をこなしたし、覚えているよ」
俺は兄貴が机の上に滑らせた写真を手に取り、頷く。というか、ジンの兄貴の煽りスキルの高さには脱帽ですわ俺キレそうだもの。
手の中の一枚の写真の写りは悪いものの、そこに映っている人物の顔の判別くらいは付く。如何にも呆れました、とため息と一緒に答えを口にする。
「“スコッチ”。――よくバーボンやライとも組んでいるんだっけ」
「ああ、よく知っているな」
「で、そのスコッチがどうしたって?」
俺の答えは及第点に届いたらしい。簡潔なその頷きにそれで?と続きを促す事にする。どうせ、この兄貴の事だ。ただの世間話程度で写真まで出てくるものか。これは恐らくは――。
どうやら俺の推察は正しいらしい。
兄貴の、ジンの瞳がこちらの促しに冷たく細められる。いや、そんな圧を出されても鍋を食べながらだと凄い締まらないのが困る。――俺を笑わせにくるのは止めてくれ。
「――ソイツは組織の裏切者だ。先日ライに始末させて、もうこの世には居ないがな」
「へぇ?」
それで?ソレが俺になんの関係が?
「彼奴はサッサと始末したらしい。――が、それがどうにもな」
「仕事が早いのはいい事じゃないか。そうだろ?」
腑に落ちないらしい兄貴は未だその眼光を鋭くして気を張り詰めている。この話の流れはまずいな、と俺は軌道修正することにした。だって必殺仕事人並みの始末効率は兄貴の望みの筈だ。兄貴自身だって“疑わしきには罰を”とか言ってさっさとあの世送りにしているしな。
そんな俺の言葉が気にくわないのか、兄貴の眉間の谷がいっそう深くなる。怖い。
「……まるで霞を掴まされたようで、気にくわねぇ。彼奴がサッサと始末しちまったせいで、裏切者の古巣も分からない。今更何処の狗だとして、組織の敵になるとは思えないが……」
成程。スコッチの所属も、更に言うなら身元も分からないから気にくわない、と。まあ、実際ソレが分かってしまったら、組織の手による密偵がどうこうするのだろう。危ない危ない。……そんな事をされてしまったら、原作前に組織の傘下に警察組織が屈するとかバッドエンドもいい所の展開になる可能性もあったのか。怖。
「……まあ、兄さんはライが気に入らないからそう思うのかもしれないけど。問題のどちらかが片付いただけでもいいじゃない。よく言うでしょ、二兎を追う者は一兎をも得ずって」
「ハッ、よく回る口だな。まあ確かに漁夫の利にしては上出来か。獲物を得られぬ猟師ほど悲しいものはないものなァ?」
「そういうこと」
こちらの説得が効いたらしい。兄貴の不機嫌そうな顔に悪そうな笑みが浮かぶ。口端だけを吊り上げて笑うその笑みは流石堂に入った悪党ぶりだ。まあ、実際兄貴はその悲しい猟師、その人になっている訳だけど。口に災いあり、言葉にしない方がお利口だ。
「ん、おかわり要るでしょ?」
「ああ」
そろそろ頃合いだろ、と兄貴の空いた器にもう一度キムチ鍋をよそる。……この人結構食べるの早いんだよな。かといって食べ方が汚いという訳じゃないのが救いだけど。
ふと、そう言えばと思い出したことが口を突いて出た。ぽろり、と。
「兄さんって、煙草止めたの?」
「あ?」
こちらの思い付きにギロリと睨みが返された。怖い。あ、なんでもないですもぐもぐするのに戻ってくださいほんと。あまりの迫力にそうやって撤回しようと、俺の口が開く前。
「……別に偶々だ。
「…………」
「それよりもジェネヴァ。冷蔵庫からビール取ってこい」
「は?」
「ここに来た時に入れておいたアレだ」
衝撃的な発言で固まる俺に兄貴はおざなりに短いお使いを命じる。は?今日来た時に冷蔵庫でがさごそしているな、とは思っていたけどまた酒いれてたんかい。俺は賢いからそのツッコミを口にすることはないが。
俺は大人しく指示に従い、冷蔵庫からビール缶を幾つか取り出して兄貴の前に置く。コン、と木の机を叩く涼やかな音が響く。
「はい。というか、ビールとか珍しいね」
「ん。まあな。気分が悪けりゃ酒も不味くなる。それで高い酒は勿体ないだろう。――というか、お前。その
「……何突然」
ビールを受け取った兄貴が突拍子もない事を言う。まだ飲んでいないのにもう酔ったのか兄貴さんよ。
「いいや?……酒ぐらいなら、あと二年、か?」
それぐらい経ったら合法だよな、とか兄貴の口から意味不明な発言が続く。おい、ここは少年誌だぞ。そんな訳あるか。というか神妙な顔して天然ボケな発言を続けるのは止めてほしい。こっちはツッコミの手を抑えているんだぞ。この手がツッコミの衝動のあまり震えそう。
「なんの話なの?」
「何、上手い酒の飲み方を教えてやる話だ。……煙草で硝煙を誤魔化すような男になるより、お前は上手い事やるのだろうしな」
「……二年、って俺まだ十五歳の計算だけど?」
「充分だろう」
兄貴の言葉に俺は呆れて返す。それをものともせずに、ケロリと返す兄貴は流石だ。まあそれで怯むような小悪党なら原作も二十年を超す連載を続けてはいないだろう。
「はぁ……」
「そもそも今教えてもいいくらいだ。お前は知らないかもしれねぇが、この業界じゃ酒や女を用いた罠は珍しくもない。それに掛かっちまう哀れな贄も同様にな」
「ふーん?」
要はハニトラとかのやべー罠への耐性は早めにつけておけ、ってことか。その点ならジェネヴァくんは結構問題ないと思うんだけどな。そもそも俺を捕まえられるようなやべー奴ならそんな小手先の罠なんぞ使わずともいいくらいの化け物クラスだろうし。
「女の方は……。まあシェリーが居るんだろうし、心配は要らねぇか」
「いやシェリーはそういうのじゃないんだけど」
よそった鍋の具材をもぐもぐ咀嚼しながらの会話は我ながら下品だ。というか、全体的に兄貴が悪いと思うんだけどな。何度も言うけど、ここは少年誌の世界だ。あまりレーティングを上げるような発言はしない方がいいと思う。どうすんだよコレ。
というか兄貴のシェリーと俺は恋仲的な発言に我慢できずについ否定してしまう。俺の否定に兄貴の目が面白そうに眇められる。ははは、こいつ思春期だな、みたいな微笑ましい反応は切実に止めてほしい。俺とて羞恥心ぐらいはある。何が悲しゅうて実兄に性事情をあけすけにしないといけないのか。
「ほぉ?この俺の耳にもお前のシェリーに対する献身は聞こえるのに、か」
「なんのことやら」
「随分、甲斐甲斐しく守っているそうじゃないか。まるで、
「なんのことやら」
「囲うなら早めにしておけよ。あの手の女は羽化するのも早いからな」
「ナンノコトヤラ」
俺は某青鳥のbotの如く、棒読みを繰り返す。しらばっくれるともいう。
流石にここまで続くと俺にも分かってくる。このクソ兄貴は俺を揶揄っているのだ、と。というか十三歳の少年に囲え、とかえぐい発言は止めろ。お前はセクハラオヤジか。
「羽化した蝶はさぞ美しく羽ばたくのだろうなァ?」
ひらひらと。兄貴の目が愉悦に笑みのカタチに細まる。その目が言っていた。
その美しい蝶の羽を手折るのはさぞ気分がいいだろうな、と。
ぶちり。
「――シェリーに手を出したら、いくらアンタでもぶち殺す」
理性の鎖は断ち切られ、その衝動のままダン、と箸を机に突き刺す。衝撃でカセットコンロ諸共鍋が揺れ、少し零れる。しーん、と静まり返った室内に静かに響く鍋の沸騰の音はシュールだ。
怒りで妙に感情が冷え込む感覚がする。頭に血が上っているのに、どこかそれを冷静に見る自分が居る。そして目の前の敵を如何に効率よく潰せるかを計算し尽くすのだ。
だって、俺は知っている。あの原作という紙の上でシェリーとジンのやりとりも。あのシェリーの怯えようは尋常じゃない。つまり、あの時点で何かあったのではないか。ジンがシェリーの心の柔らかい所を傷つけるような、何かが。それが今再現される?ふざけるなよ。
普段だったら絶対しないだろう、あのジンに殺気の込めた視線で一瞥してやる。もし人を視線で殺せるなら、今殺しているだろう。そう思えるぐらいのモノだった。
「……ッ、ククッ」
ブフッ、と間の抜けた音が兄貴の口から聞こえる。笑いを堪えるのに失敗した、そんな空気の抜けた音が。
は?
「クハハハ! それで自覚がないとは笑わせるな。――そう睨むな。冗談に決まっているだろう?それに前言った通り、俺は割り切れない女は抱かない主義だ」
「……それって割り切れるようになったら抱ける、って事だろ」
爆笑、ぐらい珍しく笑うジンの兄貴に俺は複雑な気持ちで言い返す。ふざけんな、そんな曖昧な定義信用できるか。
「ククッ、成程な。だが、それはないだろうよ」
「なんで」
「――それが分からねぇようならまだ早いって事だ。馬に蹴られて死ぬ間抜けにはなりたくはねぇしな」
「は?」
可笑しくて仕方ない、と兄貴は喉を鳴らすような笑い声を零す。……発言の内容は兎も角、俺が揶揄われたのは確かなようだ。――シンプルにキレそうである。ふざけんなヒヤッとしただろ。
「青いな。――まあ、仮にフラれても気にするな」
「おっさんみたいだよ、兄さん」
発言が、とマイペースな兄貴にツッコミを入れておく。これくらいの意趣返しぐらいなら許されるはずだ。俺は机に刺さった箸を抜き去る。げ、机に穴が開いたじゃないか、おのれ兄さん。
「今のお前に何を言われてもな。――後、ベルモットにはそういった意味では気をつけろ。奴の十八番は女の色香を使った甘い罠。美しい蝶かと思って追いかけてみれば、自ずと奴の張った罠に足をとられちまうなんて事になる。アレは
「……流石の俺でも兄さんの女をとる訳ないよ……」
兄貴に愉快そうに忠告をされる。その内容にドン引きしながらも、どうにか絞り出した言葉は我ながら笑えないモノだ。というか、そうなる可能性の方が低いだろう。いくらベルモットだってショタコンなんてことは……あるね?そう言えばあの
「アレは俺の、って訳ではない。――そうだな、お前に分かりやすく言えばその場限りの付き合いってものもある。大人って奴は色々と逃げ道を考えるのに必死なんだぜ」
「虚しいものだね。――そんな付き合いなんて」
しかも爛れている関係だ。俺が口出しするような話でもないが。思わず苦言を漏らしてしまったが、そういう付き合いもあるのだろう。うん。俺のいない所でやってくれ。
この苦々しい思いが鉄仮面から漏れ出たのか、兄貴がまたブフッと吹き出す。
「クククッ、お前も案外ロマンチストだな。その純情とやらがいつまで保つのやら……」
「まさか兄さんに言われるとは……。というかほっといて」
ロマンチストの代名詞さんがなんか言っている。更にドン引きしながら、ぼやいた。いつの間にかクツクツ、と密かに笑っていた声が止んでいた。
「ああ。まあ好きにやるといいさ。恋は盲目、愛は愚昧の見る夢か。――それにつける薬なんぞ、人類は未だ発見できていない事だしな」
「……だとしたら、俺には過ぎた夢のような気がするけど」
「そうか?」
それにしては、お前。兄貴は唇だけで言葉を紡ぐ。だが、その後の言葉は動きが微か過ぎて読唇術でも読めやしない。
「何?」
「いいや、何も。ほら、残りも片付けるぞ」
とはいえ、鍋の残りなんて三分の一も残っていない。ここは締めを追加するべきか。
※※
食べ終わった後、洗い物をしながら、ふと疑問が思い浮かんだ。
「というか、兄さん。俺に酒を飲ませるって、最初何から勧めてくれるの?」
「あ?」
「兄さんの選ぶ酒って結構度数高いだろ?」
今手に持っているビールは別にして。そう問えば、返ってきたのは鼻で笑う音だ。うーん、普通に態度悪い。
「ふん。最初に呑む酒なんぞどれでもいいだろ。そもそもお前、家系的に言えばそれなりに耐性がある筈なんだしな」
雑。兄貴の大雑把な言葉に釈然としない気持ちを抱くも、うん待てよと引っ掛かりを覚える。え?家系?そう言えば、他の血縁の話なんて一度たりとも出た事ないな。ジェネヴァくんの記憶に聞いても音沙汰なし。無言だ。
「ふーん?家系、ね」
「ああ。揃って酒飲みばかりの屑だが」
屑っておいおい。あまりの言い草に俺は呆れた目で兄貴を見る。なんだ?と当人は素知らぬ顔だ。悪いなんてこれっぽちも思ってないお顔である。
でもまあ。
「悪党の血筋なんて、ロクでもないか」
「そうだな。――この世に残っちゃいねぇしな」
わぁぶらっくじょーく。俺の呟きに返ってきたのは中々に反応のしづらい言葉だ。え?血縁関係皆全滅なんです?まあ薄々そうなんじゃないか、とは思っていたけど……。
「最初はやはり、俺の名前の酒でも飲んでみるか?それともウォッカか、案外シェリーなんて面白いかもしれねぇな」
「……せめて何かで割ろう。ほら、炭酸水とか」
「薄め過ぎて、ジュースにならなきゃいいんだけどな」
最初から度数の高いものをセレクトしやがる。シェリーならまだしも、ジンやウォッカなんてストレートで飲んでみろ。急性アルコール中毒になるわ。
俺の内心の慄きなんぞ兄貴に軽く嗤われる。この野郎。
「なら、カクテルとか。缶で色々売っているでしょ。飲みやすいの」
「はぁ?アレは酒じゃねぇだろ。お子様向けのジュースだあんなの」
はいアウト。少年誌にあるまじき発言である。どんなにアルコール度数が低くてもお子様向けの酒はない。ここ日本ではそうなのだ。そんな葛藤を含む発言も信じられねぇ、と兄貴に切って捨てられる。
「うわぁ……」
「ああ。でもお前。カクテルでも、レディーキラーには気をつけろよ」
ドン引きする俺に兄貴の忠告が刺さる。思い付きの軽いソレは、その突拍子のなさでこちらの意表をつく。
「は?」
「―― 一見飲みやすい、女が好むような甘ったるい酒だ。その飲みやすさとは裏腹に度数のえげつなさで沈めるのさ」
「え、怖」
ビールを
「ああ。だから、気をつけろよ。その中にはジュースみたいな見た目と味の奴もあったりするからな。――今度、味見で舐めるくらいさせておくか」
「えぇ……いいよ、そこまでしなくても」
兄貴の意外な面倒見の良さをこんなしょうもないところで発揮されて思わず困惑してしまう。遠慮もしたくなるというものだ。なんか裏がありそうで怖いし。
「そう言うな。――俺もアレらの甘さは苦手だが、付き合ってやると言っている。素直に頷いておけ」
「そういうの余計なお世話って言うんだよ。――俺、不用意に飲み物や食べ物を貰って食べたりしないよ?」
「はぁ……」
俺の遠慮の食い下がりに兄貴の顔が面倒臭い、と顰められる。しかもその後に盛大なため息も追加だ。コイツ、なにも分かっていないと言外に言われたような気がして思わずムッとしてしまう。
「……好きにしろ。お前なら平気だろ」
雑。急に雑になるの止めてくれないかな。まあいいけど。
ひらひらと片手を振って話を終わらせる兄貴に、仕方ないかと最後の洗い物を終わらせる。ほい、とな。
「銃の事といい、身の安全に頓着しないのはどうかしている……」
「銃?」
ぼそり、と聞こえてしまったのは仕方ない。何せ兄貴が座っているダイニングテーブルと洗い物を片付ける台所は距離が近い。普通に話が出来るレベルだ。
拾った言葉の反芻に、兄貴の手にあるビール缶がべこりとへこむ。だから怖いって。
「……このベレッタのように、決まった武器がある訳じゃねぇだろ?お前」
机の下から普通に取り出したのは、兄貴の拳銃ベレッタМ1934だ。元はイタリア軍ご愛用の銃だ。ベレッタ社が作った銃だからその名前らしい。その銃の良さは故障の少なさと手入れの簡単さ。要は普段使いの良さだ。その分の短所もある。片手操作の出来ないセーフティーと軍用銃としては威力の弱い所。ま、威力は護身用なら十分なぐらいだから関係ないけれど。
でもまあ、ジェネヴァ君に限って言えば、そういう愛用の武器を作らないのには訳がある。
「……俺、変に癖をつけてはいけないって事で色々拳銃を変えて使っていたんだよね。その辺の事情なら俺より兄さんの方が知っているだろ?」
要は組織の教育方針って奴だ。確かに偏った武器を使っていては警察やらに足がつく可能性もある。なので、俺としては現状維持で不便はない。
「ああ。そうなんだが」
「?」
「チッ、なんでもねぇよ」
「そう?」
急に苛々し始めた兄貴に触らぬ神に祟りなし、で適当に流す事にする。今日は結構兄貴と話をしたような気がする。いつもはこんなには話さない上に任務の話が八割を占める悲しさだ。家族ってなんだっけ、と哲学染みた考えになってしまいそうになる。いや別に深刻な悩みじゃないけど。むしろ秒で忘れるわ。
時計を見ればもう夜の九時だ。明日の任務は早朝五時に起きないといけない。いつもより幾分か早いけど、もう寝てしまおう。
「おやすみ、兄さん」
「もう寝るのか。流石ガキだな。――そう睨むな。おやすみ」
「ん」
余計な事しか言わない兄貴にジト目を向ければ、返ってきたのは緩い苦笑だ。珍しく、おやすみと返されたことに存外悪い気持ちはしない。今日はまあまあいい夢が見れそうだ。
補足事項
※兄さんの唇だけの音にならない呟き
「いがいとほんきなんだな……」
ジェネヴァくんのシェリーへの献身を完全に恋心だと読むジンニキ。まあ若い者同士、好きにすればいいんじゃね?ジェネヴァがシェリーを縛る鎖になれば手間が省けて更にいいし、ぐらいの考え。
追記:上記はあくまでジンニキの見解なので、ジェネヴァ君の胸の内は秘密にしておきます。それでもシェリーさんに害が及ぶならあの兄貴に反抗できるくらいには大切、というか特別です(ジェネヴァ君の無意識のデレ)。それが友情か、恋情かは皆様の解釈にお任せ。
後書き
今回は各方面から怒られそうで怖いです(ガクブル)
ちゃうねん。当初は日常回+オリジナル任務話にしようかな、ってちゃんと考えていたんですよ。でもね、脳内ジンニキが任務終盤になると偉いはっちゃけるんですよ。赤のカーニバルで人間のトマティーナ祭り開催ですよ。返り血で。あっ、コレシリアスな流れやんけ(白目)
流石の作者も息抜き回()で赤のカーニバルは嫌だなぁと思いましてこんな事に。おかしいな、最初はほのぼのしていた筈なのにな()。
後でリベンジします(血涙)
次回はバーボンさん回か、ライさんか。どっちかかな。
あと前回のアンケート回答ありがとうございました。結果は後で活動報告で報告したいと思います。一番はこの本編で健全な番外編を書いてほしい、とのことで。何個か案があるので書いていきたいと思います。
他のシェリーさん以外との絡みの恋愛やらR-18編は自分用に書いておこう(戒め)
ではでは。