転生したら兄が死亡フラグ過ぎてつらい   作:由月

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久々の更新、申し訳ありません。ちょこっと原作との食い違いが発覚しまして……。少し、プロットの直しをしてました。詳しくは後書きにて書かせてもらいます。
さて、前回のコメント誤字脱字報告感謝です。いつも励みとさせてもらっています。感謝!! 
後で修正入れるかもしれません。

今回の注意事項
・多少の流血表現。
・キャラ崩壊(いつも)

今回もジェネヴァ君視点です。どうぞ。


助けるのに理由が要る、臆病者も居るものさ

 

 さて、あの印象深い兄貴達とシェリーとのお仕事からだいたい一カ月。俺がジェネヴァ君として生きて、早四カ月ぐらいだ。季節は移り替わり、今や初夏の日差しが眩しい頃だ。この白い肌の天敵の日光が強くなり始める頃でもあるので日焼け止めが手放せない時期となった。……女子か、俺は。日焼けすると真っ赤になってシャワーが大変沁みるだけでなく、お仕事にも支障が出るから仕方ないね。素直に虚しい。

 

 先に言った通り、比較的平和な日常を過ごしていたので、誰かとの仲が拗れたとかの厄介ごととも無縁だった。かと言って仲良くなったか?と問われると首を傾げるけど。悲しい。あ、でもシェリーとはくだらない会話とかお互いのお勧めを教え合えるような友好を築いている。まあ、組織の人間にバレない程度にこっそりとしたやりとりだけど。

 

 後近況報告としては、少しばかり夢見が悪くなっているのが気になる。気のせい、で済ませられる範囲だし、これは様子見か。悪夢を見ようとも、どうせ寝るからな俺は。図太い?ほっとけ。

 

 起床して、朝食を適当に摂り、支度を終えた頃。時計を見ればもう八時を指しており、少し急ぐことにする。今日は久々にバーボン達との奇妙なランチタイムがある日なのだ。まだ続いているとか地味に凄いよな。……あの人もめげないな。

 

 気分が向いたから今日は手作り弁当を持って行くことにする。週三くらいでお弁当箱を持参して食べている。仮にも成長期なんだし、栄養バランスは考えた方がいいだろう。毎日じゃないのは昼を食べている余裕がなかったり、単に面倒だったりするからだ。モチベーションって大事だよな。ちなみにお弁当箱の中身は定番ものが多かったりする。卵焼きにたこさんウィンナー、プチトマトで彩りを作ったりするアレだ。昨日の夕飯の残りも入っていたりするけど。

 

 今日の予定は午前中はいつもの特訓、午後も特訓を継続するが、夜になると兄貴達とお仕事に行かないといけないのだ。なんでも怪しげな取引の付き添いだそうで、俺の今後のお勉強の為の同行らしい。つまり後ろで見てろ、という簡単なお仕事である。フラグかな?

 

 いかんいかん、簡単な仕事と聞いて普段との差に死亡フラグを幻視してしまった。俺、疲れてんのかな。いつも兄貴の言う“簡単な仕事”にフラグが立っていたからそう見えちゃうのも許されるだろう。

 

 まあ流石にないだろ。俺は自身の心配を振り切り、家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 一日の折り返し地点、昼食を摂る時間となったので恒例となった休憩所の所まで足を急がせる。意外な事にこの休憩所、人気がなく誰かに見られる心配がほとんどない穴場だった。完全なる誤算である。……他にも休憩スペースあるし、ここは組織の施設の端にあたるから利用しにくい場所であるのは承知の上なんだけど。仕方ない、俺の特訓場所に一番近かったのがここなのだから。

 

 休憩場所に着くと、奥の席に既にバーボンとスコッチの姿があった。彼らは手を軽く挙げ、気楽な挨拶をくれる。それに頷きで応え、彼らの前に着席する。

 

「久しぶりだな、ジェネヴァ。元気だったか?」

「うん。――スコッチ達こそ大丈夫?」

「おう、勿論。まあ、バーボンの方は忙しさに拍車がかかっているみたいだけどな」

「バーボン、それはどうかと思うよ……」

「放っておいて下さい。僕はいいんですよ」

 

 スコッチは笑顔で温かな労わりの言葉をくれる。それに頷き、彼らの心配に首を傾げれば、スコッチは苦笑してバーボンを指し示す。どうやら、相当無理をしているようだ。……この人原作でもトリプルフェイスとか訳分からない忙しさだったもんな。数年前である現在も同じくらいの忙しさを押し通しているのだろう。注視してみれば、彼が疲れている事ぐらいは分かる。

 

 俺の呆れた視線にバーボンは目を逸らして分かりやすく拗ねる。

 

 仕方ないので、お弁当箱を広げて昼食を食べ始める事にする。バーボンとスコッチもそれぞれのお昼ご飯を食べ始める。――二人ともいつ見ても買い食いなんだな。大体がコンビニか、お店で買ったか。この二択である。ちなみにスコッチのチョイスはお総菜パンが中心で、バーボンのチョイスは少し女子力が高い――いや、お洒落なモノが多い気がする。これだからイケメンは、と俺の心がちょっとやさぐれる。

 

「――それにしても、ジェネヴァ。君、結構料理上手なんですね?」

「確かに。俺、お前の年ぐらいじゃ料理とか出来なかったなぁ」

「……そう?」

 

 バーボンとスコッチの視線が俺の手元に注がれる。そんなに手間をかけている訳ではない弁当箱の中身をまじまじと見られるのは少し恥ずかしい。

 

 そんな気恥ずかしさを誤魔化しつつ、首を傾げる。

 

「ええ、自炊出来るというのはいい事だと思いますよ。――というか、君保護者とか居ないのですか?てっきり組織の人間に養育されているのかとばかり思っていましたが」

「うん?一緒に暮らす家族、という意味では居ないかな。一人暮らしを満喫中さ。特に困るような事もないし……」

「そうですか……」

 

 バーボンのザックリと踏み込んだ質問にしれっと素知らぬ顔で返せば、複雑そうな顔をされた。隣のスコッチさんもなんだか地雷を踏んじゃった、みたいな苦い顔である。うーん、やっぱりこの十三歳で一人暮らしというのは彼らの倫理観的にもアウトなのだろう。あ、卵焼き美味しい。

 

「やっぱり美味しいは正義だよね」

「――君って結構能天気というか、見た目を裏切る前向きっぷりですよね……」

「うん?」

「いい事なんじゃないか?うじうじするよりかはよほど建設的だからな」

「確かに」

 

 俺の心の底からの呟きにバーボンが呆れと感嘆が混じった言葉が返される。思わず首を傾げたが、見事にスルーされた。スコッチのフォローにバーボンが疲れたように頷いていた。……俺は口出しせずに黙々と箸をすすめるのみである。

 

「それにしても、なんか今日機嫌良さそうだな。最近いい事でもあったのか?」

「……ん?うーん、最近初めての友達が出来たことぐらいかな?」

「ともだち、か……」

 

 スコッチに話を振られ、それに素直に答える。――が、それに返ってきたのは沈痛な響きの静かな呟きだ。え、何このシリアスな空気、とバーボンに視線で無言の助けを求めてもそちらはそちらで顎に手を添え思案中だった。……無慈悲すぎない?

 

「――なら、僕らとも友達になりますか。結構お得ですよ?」

「え。嫌だけど」

 

 バーボンは小首を傾げてサラッと告げてくる。それに俺はお断りの返事を即答してしまった。ピシリ、と固まるバーボンに俺はああ、違う違うと慌てて弁解する。

 

「なんか……。多分、今のままがいいんだ。俺は」

「?なんだそりゃ。それは友達になろうと一緒だろ?難しく考えんなよ」

 

 俺の抽象的な例えにスコッチは片眉を上げ、怪訝そうな顔になった。ズバッとそのまま清々しいまでの正論を言われたが、俺はゆるゆると頭を横に振る。そうじゃない、と。

 

「兎も角、今のままの方がやり易いんだ。お互いに」

「そうですか?――君がそう言うならいいんですけど。でも残念、友達ならこうやって癒し画像を送っても平気なのに」

「ぐっ」

 

 ぴろりん、と軽快な音をたて手元の携帯がメールの着信を告げる。送り主であろうバーボンを見れば、奴はやれやれと肩を竦めた。わざとらしい。ぐぬぬ、と内心の悔しさが呻き声となってこの口から零れた。悔しい。それをスコッチが呆れたような眼差しで見ていた。くっそ、お前助けろよ。

 

 手元の携帯を渋々開ければ、何処かの家猫と思われる親子の姿が映されていた。その証拠に毛並みも綺麗だし、おそろいの赤い首輪がついてる。子猫はどんな猫でも可愛い。青空の眩しい背景から察するに偶々見かけて写真を撮ったのだろう。仕事で荒んだ心をこういった癒しで慰めるなんて、と無理矢理バーボンに憐憫を抱いて気を逸らそうとも無駄だ。普通に猫可愛い。

 

「君って意外とそういう可愛いものが好きですよね」

「!? ――え」

「へぇ?そうなのか。まあ、大人だって可愛い動物とかで癒されるんだし、いいんじゃないか」

 

 待って。バーボンが確信を持った声でこちらの嗜好を当ててくる。確かに俺は可愛いものとかに癒されるタイプだ。男だから、と意地を張る前に誰だって小動物がてくてくしてたら癒されるものだろ?つまり可愛いは正義。まあ俺は眺めるだけで満足出来るんだが。でもジェネヴァ君、としてそれを表に出した覚えはない。なにこれ怖い。

 

 俺が無言でバーボンにドン引きしていると、スコッチはうんうんとこちらをフォローしてきた。こう思春期の男子だったら恥ずかしいかもだもんな、みたいな善意の塊だ。

 

「――いや、そんな無言で引かれても困りますが。君、無表情なだけで普通に見ていたら分かりますよ。これでも二、三カ月の付き合いじゃないですか」

「え、怖」

 

 呆れた声でバーボンは補足を付け足す。が、それは俺の恐怖心を募らせるだけだった。思わず素直な呟きも口から零れるものである。バーボンの洞察力も怖いが、俺の思ったよりもザルだった鉄仮面の自信も無くなりそうだった。これからもっと気をつけよう、うん。

 

「ほんと、遠慮がなくなりましたよね」

「いいんじゃないか?それはそれで」

「それはそうですが……」

 

 頭を抱えた俺に構う事なく、交わされる二人の会話は当初の緊張感はないものだった。少なくとも、この奇妙なランチタイムが始まった当初よりは。

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 現時刻午後八時を少し過ぎた頃、雲一つない夜空は都会だけあって星々の輝きが少し霞んで見える。その代わり周りの建物の電灯や電飾は一層輝いて見えた。

 

 俺は仕事の為にジン達に追従していた。今回の仕事は簡単も簡単。ただこれから行われる取引を見学するだけである。これが今後、俺の仕事に追加される可能性が高いという前提がなければもっと気楽だった。

 

 取引現場は東都の繁華街の外れにある廃ビルの一つ。元は雑居ビルだった建物は不況の煽りで軒並み入っていた店舗が退去。今はこうして裏のある人間が利用するようになったのだ。だからか、四階建てのビルの外観は廃墟特有の陰鬱さがあった。まだ廃業となって、三年程だというのに。幽霊とか出そうな貫録すら感じる。

 

 ジンの兄貴は躊躇せずにそのビルに足を踏み入れた。その後に続くウォッカは少し身構えていた。あれか、取引相手が裏の人間なので警戒はして然るべきなのだろうか。当然、電気なんて通っている訳なく、仕方なく懐中電灯を持って足元を照らしていた。俺は夜目が利く方なので、兄貴達が照らす光源のみで充分だった。……なんで夜目が利くのか、ジェネヴァ君の記憶に聞くのはやめておく。藪蛇(やぶへび)だ、きっと。

 

 取引現場となるのはビルの三階。懐中電灯が照らした空間が埃が舞ってきらりと光る。流石に階段に足跡が付く程積もってはいないが、それでも部屋にあった机などの備品に手をつけばくっきり跡がつくだろう。

 

 無言でさくさくと足を進める兄貴の手には取引に使うジュラルミンケースがあった。今回は拳銃の密輸だとか。……そういえば原作一話でもやってましたね、拳銃の取引。それなら相手は暴力団関係者とかそこら辺なのだろうか。あんまり踏み込んでも百害あって一利なしなのでこういうのは聞かない事にしている。俺、捜査官でもなんでもないし。

 

 取引現場となる三階に着いた。元はバーだったのだろうか。カウンターや客席はそのままに埃だけが積もり、酒瓶が置かれていたがらんどうの棚が物寂しさを感じさせる。

 

 取引相手は奥の方で椅子に座って待っていた。四十代後半のスーツ姿の男性で、髪をオールバックで固めていた。一見、サラリーマンに見えなくもないが、その瞳の荒んだ眼光がそれを躊躇わせる。こういう裏の人間同士が分かる、同種の人間特有の仄暗さがあった。

 

「金は用意してあるのか」

「ああ」

 

 言葉少なに最低限の確認をするジンに取引相手の男は眉一つ動かさず頷く。一瞬、俺に視線が向けられたがそれ以上の反応はなかった。顔を晒すのを防ぐために、今俺は上着に付いているフードを目深に被っていた。ちなみに色は黒だ。お仕事の時の服の色が黒固定、というのがつらい。夏とかめっちゃ暑いわ。

 

 取引は静かに行われた。品物を見せて、確認の後金を受け取る。その金を一応確かめて、解散の流れとなった。

 

 あまりにすんなり済んだので俺としては肩透かしをくらった気分だった。念の為に拳銃と護身用ナイフを隠し持っていたのが馬鹿らしくなる程だ。いや、まあお仕事の時は警戒してもしたりないくらいでいいんだけどね?

 

 先に取引相手が引き上げた。立ち去る相手の背中を見送り、こちらもいざ帰ろうと階段を下りる。無言だが、兄貴が相手なので俺としてはそちらの方が気が楽だった。まさか、兄貴とウォッカと仕事をして、無言の空間に慣れる時が来るとは……。最初の俺には考えられない変化だろう。

 

 そして、雑居ビルから足を踏み出そうとしたその時だった。今日は早く終わったな、と一息つこうとして。瞬間、ピリッと項辺りがざわつくのを感じた。それは直感に等しく、とても覚えのある嫌な感覚。これは――。

 

 考えている猶予なんてない。

 

「ッ!」

 

 短く息を吸い込み、一歩踏み込み目の前の長い銀髪の主の背中に突進を決める。感覚から二秒と経たない間の出来事だ。

 

「?!」

「!? ――ッてぇな、何してんだテメェ!!」

 

 ドン、と衝撃により、大きくバランスを崩したジンは後ろを振り向き怒鳴る。ウォッカは突然の事で目を白黒させていた。

 

 

 ――ドッと肩を銃弾が貫通し、鮮血が舞う。

 

 

 狙撃、しかもライフル等の遠距離射撃だ。銃声なんて聞こえない上に、遠距離の敵意を察するのは難しい。――狙撃の標的は恐らくはジンだ。その証拠に銃弾が貫通した個所は丁度先程ジンが居た場所、しかも心臓の位置だった。俺はグッと奥歯を噛みしめ、痛みを堪えた。

 

 目を見開き、こちらを凝視したジンはすぐに状況を察したらしい。舌打ち一つの後、こちらの無事な方の腕を掴み、走りだした。

 

「ウォッカ、行くぞ」

「え」

「分かりやした!」

 

 力強い有無を言わさぬ力で腕を引かれ、俺はされるままに走った。その前にチラリと狙撃したであろう、ポイントの方向を盗み見るのも忘れない。が、所詮夜の暗闇の最中だ。特定は難しい。何せここは繁華街、似たようなビルはごまんとある。

 

 そのままジン達は一旦路地裏に入る。先程の雑居ビルから直ぐの路地裏は多分追加の狙撃の防止策だろう。こっちが見つけられないなら相手も優勢とはいえほぼ同じ。暗視スコープだって限度があるのだ。

 

「――チッ、ぬかったな。下手人は先程の取引相手の組織か、それとも奴らを陥れようとする敵対組織か。はたまた、俺個人を恨む輩か。……まあいい。ウォッカ、車を回せ。次の行き止まりで合流だ」

「はい」

「言うまでもねえが、待ち伏せに()られるんじゃねぇぞ」

「勿論ですぜ、兄貴」

 

 ジンの指示に合点承知、と気合十分に頷いたウォッカは走って路地裏の曲がり角に消えていく。そう言えばあちらに車を止めていたのだったか。

 

 狭い路地裏は空き缶などのゴミが転がり、何とも言えない臭いがあった。そして路地裏の奥は繁華街のネオンや淡い月明かりが僅かにしか届かない。夜目が利かなければ歩くのさえ困難だ。

 

「おい」

「何?」

 

 

 未だ腕を掴まれたまま、不意に呼ばれる。周りに向けていた視線を渋々向ければ、この暗がりでさえ分かる程露骨に不機嫌な様子だった。具体的には視線が殺されそうな程に鋭くなっている。うわぁ。

 

「…………怪我は」

「?――大丈夫だよ。弾は貫通しているし、撃たれたって言っても掠った程度だから。後で手当てすれば平気」

 

 ぼそりと呟きに近い問いに俺は首を傾げつつ、素直に答える。撃たれた箇所は肩、と言っても中心より外側だ。つまり皮を抉られた程度の怪我だろう。止血処置さえ誤らなければ掠り傷に等しい。いや、普通なら病院直行なんだろうけど。

 

「そうか」

 

 するりと掴まれた手が外れた。あんなに鋭かった視線もいつの間にか普段通りのソレに戻っている。うん?

 

「――小言は後にしてやる。行くぞ」

「うん。……()()、追わなくていいの?なんなら、俺が行ってこようか」

 

 さっさと背を向けて路地裏の奥に足を進めるジンに思わず問いかけてしまった。なんか、こうしっくりこないというか。ジンの兄貴ならああいう手合いは皆殺し、ぐらいのイメージだったので、こうもあっさり引き下がると調子が狂うのだ。ほら、原作時の殺意の高い兄貴を思い出すと、さ。

 

「チッ、ガキが調子に乗るな。――別にいい。仕留め損ねた奴らは手ぶらでは古巣に戻れやしねぇよ。かと言って、今襲撃がない以上、奴らは次の好機を(うかが)うだろうな。その時に思い知らせるからいい」

 

 舌打ちし、こちらの問いを斬り捨てようとするジンに視線で訴えかければ、殺意満点の返事が貰えた。あー、ですよねー。しかし、思い知らせるって……。

 

「……何を?」

 

 怖いモノ見たさで恐る恐る問えば、返ってきたのは無言。が、ニヤッと口端がつり上がった凶悪な笑みが、何よりも雄弁な答えだった。こう、何が何でもぶち殺すという鉄の意思を感じる。……俺は何も見なかった、いいな?

 

 肩を撃たれたのでインナーの袖を破り、それで簡易止血をした。それらの作業を歩きながらしていたら、ジンのもの言いたげな視線がやばかった。心なしか、歩く速度が緩められたような……?気のせい、という事にしておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 合流地点へは徒歩で五分程かかった。暗く狭い道幅故か、前を歩くジンの足がゆっくり目だったからか。

 

 もう既にポルシェ356Aが停車していた。運転席にはウォッカが待機している。――辺りに気配はなく、先程のような焦燥のような直感も感じない。敵影はなし、か。

 

「……早く乗れ」

「は?」

「?怪我してんだろ、早くしろ」

 

 いつの間にかポルシェ356Aの後部座席のドアを開けて待機していたジンの兄貴に俺はぽかーんとしてしまった。え?俺の為に?いやいや、先に乗ってろよという俺のツッコミが口から出ることはなかった。その後ドスの利いた低い声で乗れ、と促され俺は流されるまま乗り込んだ。

 

 乗り込んで、運転席のウォッカとバックミラーで視線がかち合う。ウォッカもサングラスで分かり辛かったが、ぎょっと驚いているようだった。だよな?と俺もウォッカのリアクションに全力で同意した。

 

 ジンの兄貴の親切とか明日の天気に槍が降るか心配する奴じゃないですか、やだー。すっごい死亡フラグだわこれ。明日の夜とかに背中から拳銃でパンッとされるルートですね、分かります。俺は混乱のあまり思考が可笑しな方向へと飛んでしまった。

 

 ジンは俺の隣に乗り込み、ウォッカに指示を出す。

 

「ウォッカ、このまま医者の所へと急げ」

「……分かりやした」

 

 俺が思考に没頭している間にウォッカとジンの会話は終了してしまった。静かに走り出す車はいつものように沈黙が満ちる。俺は手持ち無沙汰に窓の外を眺めた。……追跡車の存在もない、か。傷がジクジクと痛むのもあって、思考を逸らしていたかった。

 

 

「なぜ……」

「――?」

 

 思考が飛んでいたから、ジンの掠れた呟きを拾うのが遅れる。珍しい、と視線を向ければ、あの三白眼が伏せられていた。え。

 

「何故庇った?お前にそうする理由なんてないだろうが」

「は?」

 

 突拍子もない問いに、俺は素の反応を返してしまう。先程よりも間抜け面を晒した気がしたが、気にする余裕なんてない。俺のそんな反応が気に食わないのか、ジンの眉間の皺が増えた。伏せられた三白眼も鋭さを取り戻す。即刻止めろください。

 

 というか、助けるのに理由が要る身内って……。冷静に考えるととても悲しくなる現実なので俺は一旦そこで考えるのを止めた。理由なんてなくてもいいだろうに。

 

「……理由、必要?同じ組織だし、兄さんを助けてもいいだろ。別に」

「…………」

「俺が兄さんを助けたかった、これぐらいでいいんだよ。理由なんて」

 

 俺の言葉に納得してない様子のジンの兄貴に俺はため息まじりに言葉を付け足した。他に聞いている人なんてウォッカしかいない訳だし、ここは敢えて“兄さん”呼びにさせてもらう。つーか、無言の威圧怖すぎかよ。

 

「――分かった」

「お」

「これは“借り”だ、後で返す」

「……そう」

 

 一瞬でも分かってくれたかな、と期待した俺が馬鹿だったわ。駄目だこれ、と俺は内心嘆きながらもジンの言葉に頷いておく。

 

 まあ、考え方によってはあのジンの兄貴に貸しを作れたとか凄くね?……使うような鬼畜ルートが来ない事を祈っているけど。

 

「それから、あんな事はもうやるなよ。――お前に守って貰う程、耄碌(もうろく)していないからな」

「…………」

 

 静かな、けれど譲らない強さの声で言われた。そうは言われても、アレは咄嗟の反射に近い動きだったので困る。返事に困った俺にジロッとジンの視線が突き刺さる。

 

「返事」

「――了解」

 

 断る事を許さない気配を感じたので、促しに渋々俺は頷いた。それをジンは面白くなさそうにフン、と鼻を鳴らした。

 

「早く治してしまえ、そんな傷」

「まあ若いから早く治るんじゃない?」

「言ってろ」

 

 俺の軽口染みた言葉に、ジンの吐き捨てるような呟きが返ってきた。ちなみにウォッカはそんな俺達のやり取りをハラハラと見守っていたのを追記しておく。ごめんて。……後でウォッカに何か差し入れよう。

 

 後日肩の怪我は数針縫うのみで早々と治った。入院?この真っ黒な組織にそんなシステム存在すると思う?というか医者って闇医者の部類だしね。余程重傷じゃないと入院なんてことにはならないんだよなぁ。

 

 

 

 

 





※兄貴の心情は読者様にお任せします。多分、とても焦ったし戸惑ったし、苛立った事でしょう。素直に助けさせてくれない男、それが兄貴クオリティ。この後兄貴を狙撃しようとしたモブの末路はお察し。



さて、前書きに書いた原作との食い違い。多分、お察しの方もいらっしゃるかもしれません。そうスコッチさんの事です。
この前友達と話していて知ったのですが。赤井さんと降谷さんの確執の原因ともいえるあの事件、それが四年前だそうで。そんでもってこの作品の現時間軸は三年前。
うん。一年違いますね。言い訳させてもらいますと、作者がこの作品を掻き始めた当初、まだ原作でも分かっていなかった未確定情報だったので、大体の当たりをつけたんですね。それが三年前だったんです、はい。
単行本九十二巻(ぐらい)の情報って……。アニメ派への慈悲はないのですか……。え?遅筆過ぎるのがいけない?はい、その通りでございます。
そんな訳で食い違いが出てしまいましたが、拙作の中ではスコッチさんの事件の時期が異なる事になります。……原作前、という大幅な括りで見てやってください。
どうか海のような広い心で、お許しいただけたら幸いです。
ではでは。

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