転生したら兄が死亡フラグ過ぎてつらい   作:由月

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更新空けてしまい、申し訳ありません。その上、コメント返信をしていないとは……。すみません、後でまとめて返信します。勿論読んでますよ、励みとなっております。
作者、まだ今年の映画見れていないので今後今年の映画関連の話を書けるかはまだ未定です。

さて今回の注意事項。
・原作「そして人魚はいなくなった」のネタバレ。
・微妙なキャラの救済。
・キャラ崩壊(いつも)
・特にこんなのシェリー姐さんじゃねぇ!! 出直せ!という方は読まない方がいいと思います。
・無駄に長い
・なんでも許せる方向け。

おっけー?


足元の危うさを不意に思い知るもんさ

 prrr、とシンプルな定番の着信音が寝室に響く。深い眠りを貪っていた俺は夢うつつにその音の元を手に取り、開く。薄暗い室内に携帯のライトがぼんやりと光る。

 

「……まだ朝の五時」

 

 画面に表示されていた時間を読み、確実に機嫌が急下降していくのが分かった。朝はやめろよ朝は。

 

 着信先は早く出ないと即死案件の相手なので、渋々と通話ボタンを押した。

 

『起きたか。――今日の仕事の説明をもう少ししておかねえといけないからな』

「え?」

『今回はシェリーの監視兼護衛というのは話したな?――奴の仕事の内容は深入りするな』

「は?」

『今回のお前の仕事はただ疑問を抱かず、敵が現れたら排除に徹する。それのみで良いと言っている。――簡単なものだろう?』

 

 一方的に告げられる言葉に俺は疑問形でしか返せない。待って、寝起きの頭にもう少し優しくして?……冗談はさておき、とりあえず。

 

「ふーん?……それはいいけれど、今回の件そんなに危ない橋を渡るの?」

『一つ、親切心で教えてやろうか。――引き際を(わきま)える事だ。Curiosity killed the cat. そんな愚かな猫にはなりたくねえだろ?』

 

 日本語で訳すと好奇心は猫も殺す、か。これはもしかしなくても、これ以上聞いたら冗談抜きで殺されるやつですね。分かりたくないけど、凄い分かっちゃうわつらい。ジンの兄貴の声が絶対零度過ぎる。

 

「……そうだね。了解、詮索はしないよ」

「ああ」

 

 兄貴の有難い忠告に従えば無愛想な声で通話は切れた。うーん、どうしたものかね。これは。

 

 とりあえず、起きて準備してそれからだな。――どうやら今回の件、護衛の方が比重が大きいようなので、拳銃を携帯することにした。それから昨日収穫した冒険セット……じゃなかった秘密道具も仕込むことにする。服装は黒を基調とした、モノトーンコーデでいいだろう。どうでもいいけど、ジェネヴァ君の服のバリエーションが見事に黒か白かの二択になっていて悲しい。あれかな?割と服装とかどうでもいい大雑把派だったのかな?今度の休み、服を買いに行こう。白や黒が一番ジェネヴァ君に似合うけど、他の色も文句なしに似合うと思うんだ。折角こんな美少年な訳だし。

 

 最近温かくなってきたからソレに見合った軽装にしておく。武器類は羽織る上着の内側にでも仕込んでおく。……鞄はボディバッグでいいや。動きやすいし、邪魔にならないだろう。一応、素顔を隠すために伊達眼鏡しておこうか。確か変装用にしまってあるのがあったな。え?誤魔化せるわけないって?――このアニメの眼鏡先輩の仕事の凄さを見てみ?正体は隠すわ、盗聴器になるわ、発信機を受信して追跡まで出来るんやぞ!! え?違う?

 

 

 

 

 

 

 

 今日も今日とて晴天なり。車中の空気の重苦しさに思わず、思考を飛ばして現実逃避したくなった。現時刻午前十時を少し過ぎた頃である。途中でシェリーを拾い、目的地である福井県の若狭湾沖にあるという小島を目指している。普通に遠い。なんでそんな所に行くんだか。

 

 シェリーと合流して早一時間。彼女は膝にノートパソコンを置いてカタカタとタイピングに忙しそうだ。意地でも兄貴達と話さない姿勢を感じる。……そんなに兄貴が嫌いか。聞くまでもないか。

 

 一番つらかったのは昼ご飯の時だったか。兄貴とウォッカの服装があの黒尽くめの服装なのだからどんな店に入っても注目を浴びるのはもはや必然だ。――あまり思い出したくない体験でした、とだけ言っておこう。なんなの、あの人達実は天然だったりするの?流石のシェリーもドン引き……というか冷たい目で兄貴達を見ていたのが印象的だった。

 

 そんなこんなで目的地へと行く唯一の手段である船まで着いた。下から見上げれば大きな船だな、ぐらいの感想しかない。大型客船というか、そんな感じの船だ。

 

 船が出発してしまえば後は島に着くまで自由行動だ。昼を越えて、今は午後の二時頃。そろそろいつもならおやつの心配をする時間帯だ。いや真面目な時もあるけれど。

 

 ジンとウォッカは島に着くまで船室で座って待つようだ。まあウォッカさんは休憩が必要かもしれない。ずっと運転していたことだし。まあ、ここで会話なんてあるはずもなく。

 

 俺はこの空気の重さに堪えかねて、シェリーを連れ出した。船室から甲板まで出てくれば頬を撫でる潮風とこの青空も相まって中々気分転換に向いていると思う。兄貴が何か言ってくるかもしれない、と危惧していたがそんなこともなくすんなりと許してくれたのが意外だった。もしかしたらシェリーの顔色の悪さを兄貴も気づいた、とか?

 

 そんな訳でシェリーの気分転換も兼ねて甲板まで連れだしたわけだけど。どうやら成功だったようだ。シェリーは柵も兼ねている手摺に腕を乗せて穏やかに海を見つめていた。その顔色は先程より良くなっている。

 

 俺も隣で海を見ることにした。離れた所では民間人が和気藹々と思い思いの時間を過ごしているのが分かる。家族、友達、恋人。それぞれの時間を過ごしている事が話し声の騒めきで背中越しでも理解できた。

 

「髪、切ろうかな」

 

 ぼんやりとしていたからか、口から零れた呟きはシェリーに届いたみたいだった。意外そうな顔をされる。

 

「あら?勿体ないわね。結構似合っているのに」

「え、そう?」

 

 シェリーの言葉に俺は首を傾げる。その拍子に風に遊ばれ、視界を遮る銀髪を手でかきあげた。耳に髪をかけても風で直ぐに逆戻りだ。シェリーは似合っていると言ってくれるが俺としてはどうにもこの肩まで伸びた髪がこの中性的な容姿に拍車をかけているような気がしていた。

 

「いっその事ばっさりと短くするのもアリかな、と。こう、坊主頭とかさ」

「ふふ、なにそれ」

「だってさー」

 

 口元に手を当てて、クスクスと控えめに笑うシェリーに俺は密かに安心する。よかった、少しは余裕が出てきたようだ。

 

 この調子なら大丈夫そうだな、と少しばかり肩の力を抜いて手摺に寄りかかる。ぐだーと手を伸ばした俺をシェリーは微笑ましそうに見ていた。子どもっぽいと思われただろうか。

 

 それからシェリーは視線を再び海に向けた。俺もつられて海を見る。日光を反射する海原はキラキラとして綺麗だ。

 

 十数秒、ただ海をぼんやりと眺める。不意に訪れた沈黙は意外にも重苦しくなく、落ち着くような心地だった。

 

「ねえ、貴方は今回の仕事について何か聞いてる?」

「……いや、何も。そっちの仕事の内容すら聞いてないよ」

 

 ぽつり、とシェリーの口から零れた質問に俺は短く返す。ちらりと彼女の方を横見すれば、その視線の先は未だに海の向こうを見ていた。

 

「そう」

「……聞いてもいい内容?」

 

 少しだけシェリーの眼が翳ったような気がして、俺は少しの躊躇いの後一歩踏み込んだ。首を傾げた俺にシェリーは少し言葉を探すように口ごもる。

 

「…………そうね。貴方はこちら側の人間だから、少しだけならいいかもしれないわね。仕事自体は簡単なものよ」

 

 そこでシェリーは言葉を切って、少し迷ってから言葉を続けた。適切な表現を探したのかもしれない。

 

「そうね、確認作業……みたいなものかしら。きっと確証が欲しいのね、あの方は」

「ふーん?あの方が、ね」

「そう。あの方は石橋を叩いて渡るような慎重派だから」

 

 そこまで言ってから、シェリーはため息を吐いた。俺は視線で先を促す。まあ言ってみ?と。シェリーは少し渋りながらも口を開いた。

 

「――話は変わるけれど、これから行く島は“人魚のいる島”として有名だそうよ。ほら、八尾比丘尼伝説や不老不死伝説とかあるでしょう?あんな感じの。まあ、これは関係のない話なのだけど……」

「おい……」

 

 突拍子もない話の脱線に俺は思わずジト目になる。それを可笑しそうにシェリーは微笑んだ。

 

「ふふっ、ごめんなさいね。――ねえ?若さを保ちたくて若作りをする人はいるでしょうけど、その逆って聞かないじゃない?」

「うん」

「もしも、わざと老婆に装う人がいるのなら。その理由ってなにかしらね?」

「……よく分からないけど、色んな事情って奴があるんじゃない?」

 

 シェリーのたとえ話とやらに俺は少し迷ってから答えた。出来れば彼女の力になってあげたいので、今思いつく事を挙げていく事にした。

 

「それはもしかしたら、正体を隠すとか身を隠すまたは、誰かを守る為になんて理由もあるかもしれない。あるいは、その老婆に成りすます事によって守れる何かがあるのかもしれないね」

 

 まあどっちにせよ。

 

「自分で信じたい“真実”って奴は自分で調べて選ぶしかないと思うよ。俺はね」

「そうね……」

「あんまり深く考え過ぎない方がいいんじゃない?……真実って奴は案外気まぐれで、思いもしない時に見つかったりするもんだよ」

 

 手摺に上半身を預けさっきよりもぐったりとしながら言えば、シェリーは呆れながらも笑ってくれた。そうそう、そうやって笑える時に笑った方がいいんだよ。

 

「――少しは参考になりました?」

「なんだか、最後の言葉はなくし物をした人へのアドバイスみたいね」

「あ、そこ笑っちゃうんだ?」

「気のせいよ」

「そうかな」

「そうに決まっているわ」

 

 ツンといつものすまし顔に戻ったシェリーはそろそろ船室に戻りましょう、と身を翻し元来た通路へと足を進めた。俺は頷き一つで了承し、その後についていく。その場から離れる時に海に視線を移せば、船の進行方向に小さな島影が見えた。なるほど、もう少しで着くのか。

 

 ふと、シェリーの足が止まる。

 

「…………貴方は――」

「ん?」

「いえ、なんでもないわ」

 

 前を歩くシェリーの表情は俺から見えない。それ故に、何を言おうとしたのかさっぱり分からなかった。それを聞こうにも、タイミングを逃してしまって聞けず仕舞いとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 島に着く頃には時間が三時半を過ぎた。“儒艮(じゅごん)祭り”という案内看板がまず目に入った。辺りを見渡せば、神社に続く道や案内看板を除けば、少しばかり寂れた雰囲気の村だった。住宅と思われる家屋の他は神社しかないようだし、小さな漁船も港に停まっている以外のものはないようだ。なんとなく、一昔前の漁村を思わせるような素朴さもあった。

 

 少し進めば、祭りの受付がありそこで祭りの参加者は名簿に記入しないといけないらしい。しかも雰囲気を出す為なのか、筆ペンで書かないといけないようだ。……インクが服に付かないように気をつけないとな。

 

 名前を書けば参加者に木で出来た札が渡されている。遠目で見れば旧漢字で数字が書かれていた。……参加番号か、何に使うのかね?

 

 ジンやウォッカの後に続いて、俺も記入する。さて、あの二人はどんな偽名を使うのだろう?と興味に負けて、チラリと近くの欄を見る。

 

“黒澤 陣”

“魚塚 三郎”

 

 とそこに書かれていて、それが本名なのか偽名なのか少し判断に迷ってしまった。まあ、シェリーも居ることだし、本名じゃないとは思うのだけど。それにしても兄貴もウォッカもジェネヴァ君に負けず劣らずの名前のセンスですね、と俺は内心震えた。割とコードネームのまんまじゃね?

 

 あまり時間もかけられないので、俺も“黒野 静”と筆を走らせる。うん、綺麗に書けた。シェリーもささっと書いたようだ。

 

 兄貴達に追いつけば、顔だけ後ろに振り向いた。

 

「俺達は別件の仕事があるからな。お前達とは別行動だ。――ジェネヴァ、分かっているな?」

 

 くれぐれもシェリーを逃がすなよ、とジンは言外に、視線だけで告げる。俺はそれに頷き一つ返す。シェリーはさりげなく俺の後ろに居た。ここで振り向いたら不審に思われるので、あまり気にかけないようにする。

 

「合流するのは帰りの船の中だな。――じゃあな」

「ま、待って下さい、兄貴」

 

 さっさと先に進むジンの背をウォッカが慌てて追いかける。随分、あっさりと去って行ったものだ、と感心する俺の背にポツリとシェリーの呟きが届く。

 

「あのジンに随分と信頼されているのね、貴方は」

 

 その呟きは、小さく掠れていたものだから思わず振り向いた。目を伏せ、視線を俺に合わせないように逸らすシェリーはどんな気持ちなのか。その伏せられた瞳に浮んだ一瞬の(かげ)りが、複雑な何かに見えて俺には掴みきれなかった。

 

「……あれは違うんじゃない?」

「そう。――いきなりごめんなさい。私達も行きましょう」

 

 上手い言葉が見つからず結局言えた言葉も空回りした。俺とシェリーの間に気まずい空気が一瞬流れるも(俺が一方的に思っただけかもなんて)、先を促す彼女の言葉に一旦は気まずさがなくなった。

 

 シェリーは積極的に人々に話しかけていた。こうしてみると何かの調査みたいだな。……確認作業か。俺はただ後ろから傍観するのみである。

 

 まずはここの神社の美國神社へと足を運んだ。どうやら“命様”なる人物との対面を望んでいるようだ。神社の若い巫女さんに取次ぎを頼むも、祭りの準備で断られてしまった。シェリーは残念そうにするも、引き下がる。命様、というのはこの“儒艮祭り”の司祭的な存在らしい。どうも人魚の肉を食べて不老不死になった、という曰くがあるらしい。実際は百歳を越えても元気なお婆ちゃん、なだけらしいが。

 

 そんな話を島民に聞きながら、俺達は島を回る事にした。シェリーにそう提案されれば俺に断る理由はない。

 

 途中島民から、命様の家族がらみの話を聞き及んだ時のシェリーの反応が気になっただけで、平和に調査は進んだ。……なんか、やっぱりねと納得したようなそんな反応だったのだ。確か、今居るのは命様の曾孫だか玄孫だかの女の子のみでその人が命様と一緒に神社を切り盛りしているようだ。その人の母は二年前に行方不明になっているだとかきな臭い噂も聞けた。……意外と聞き込みが上手だね、シェリー。

 

 一通り聞き込みも終わっても、まだ祭りまで時間があるようだった。

 

「少し、この島の外周も確認したい所があるの」

「分かった」

 

 シェリーの言葉に頷きその確認したい所まで歩くことにする。どうやら砂浜や入り江の方へ行くようだ。

 

 ここら辺になると人も居ない。時期的に海水浴には少し早いからか、それとも皆祭り目的だからか。ただ黙々と歩くのもつまらないので少し気になっていた事を聞くことにした。

 

「なんでシェリーがこの仕事をやらないといけないのかな?」

「あら、私じゃご不満?」

「いや、そうじゃなくってさ。……純粋な疑問って奴。アンタじゃなくても出来そうな仕事だな、と」

 

 俺の素朴な疑問にシェリーは冗談交じりに拗ねてみせる。わざとなのだと分かっていても心臓に悪い。俺は頭を横に振って少し焦って言葉を補足する。

 

「そうね。――きっと私じゃなくても出来る仕事よ。これは」

「なら……」

「でも、そうしないといけない理由もあるのよ。懐疑的と言うか、単純に私の信用が足らないのね」

「……そう?」

「そうよ」

 

 シェリーの自虐に近い言葉に、思わず俺は首を傾げた。もしかしたら眉間に皺が寄っていたのかもしれない。シェリーは少し苦笑すると、人差し指で俺の眉間をほんの少し突く。

 

 その挙動にぎょっと目を見開くと、ふっと軽くシェリーの顔がほころぶ。

 

「貴方がそんな顔をする必要はないわ。――組織に信用されなくても、私には痛くも痒くもないわ」

 

 嘘だ。シェリーの言葉を聞いて咄嗟に思ってしまった言葉。俺はグッと言葉を喉に留まらせた。原作を見る限り、彼女は現在進行形で困っているのだろう。組織に一般人だった姉を巻き込まれ、人質に近い状態にされているのがいい証拠だ。

 

 けれど、俺に何が出来るというのだろう。“俺”は何も持っていない、“ジェネヴァ”が持っているのは純粋な暴力だ。こういう時に役に立たない、力だ。

 

「…………俺、出来る限り助けになるよ。友達、だからね」

 

 結局言えたのはこんな陳腐な言葉で。我ながら反吐が出る。声は震えていなかっただろうか、なんて格好悪い心配さえしてしまう有り様だ。シェリーはただ、静かな目で見ていた。

 

「やっぱり貴方って優しい人なのね。――同時に心配してしまう程の」

「アンタ、見る目がないね。優しくなんてないよ。だから心配無用さ」

 

 シェリーの優しい声に俺は緩く首を横に振った。そんな言葉を貰えるような人間ではない。そんな俺の否定的な言葉にシェリーはふぅ、と軽いため息の後仕方ないわね、と呟いた。

 

「……そう言う事にしておいてあげるわ」

「なにそれ」

「それよりも先を急ぐわよ。もう少し、調べたい事があるのよ」

「了解。なんなりと」

 

 この口からなんとか絞り出した小さな呟きにシェリーはこのしんみりした空気を換えるように明るい声に切り替えた。立ち止まっていた足を一歩前に踏み出し俺の前を軽やかに歩き出す。

 

 シェリーの作ってくれた流れに則り、俺は恭しく一礼する。

 

「なぁに?貴方、私の従順な従者にでもなってくれるのかしら?それとも忠誠を誓う騎士にでも?」

 

 ふふ、と笑みを浮べるシェリーは俺の反応を窺うような数拍の空白を開けた。ちらりとこちらを見つめる瞳には悪戯めいた光が見えたような気がした。シェリーのそんな茶目っ気交じりの態度に俺は言葉を失った。

 

「……なーんてね」

「…………それもいいかもね」

 

「えっ」

「冗談だよ。――あ、そういえばシェリー」

 

 なんてね、なんて一杯食わされた俺は逆に頷いてやった。それに僅かな動揺を見せたシェリーに俺は満足し、シェリーと同じように返した。すなわち、冗談だと。

 

 生憎、シェリーには気に食わなかったようだ。俺の言葉の途中で、フイッと顔を背けて一人でさっさと先に進んでしまう。

 

「何よ」

「…………ごめんね。友達の一歩として、連絡先教えてくれない?」

 

 ちょい、と先に進むシェリーの袖を掴めば、ぎろりと鋭い目と声が飛んできた。うぐっとたじろぎそうになるのを堪えて謝る。そしておずおずと昨日から逃し続けた連絡先交換を提案すれば、鋭かったシェリーの視線が和らいだ。というよりポカンと信じられないものを見るような顔をされた。失礼な。

 

「――友達、って冗談じゃなかったの?」

 

「当たり前でしょ。……幾ら俺でもそこまで外道じゃないよ。まあ、俺らは“普通”のお友達は難しいかもしれない。でも、まあ。お互いに困った時に少し手が貸せるような、そんな友達にはなれると思いたいんだ」

 

 シェリーの隣を歩きながら心の内を話せば、隣からため息が聞こえた。チラリと視線だけ向ければ、シェリーは呆れ笑いを浮かべていた。

 

「……呆れた。貴方って、意外と理想論者(ロマンチスト)なのね。――それがどれだけ危険な事なのか、分かって言っているのかしら?」

「勿論」

 

 シェリーの言いたい事は分かっているつもりだ。組織お抱えの科学者、それも組織の機密に近い人物。この肩書の持つ意味も。

 

「貴方のリスクが増えるのも?」

「当然」

「この友情にメリットなんてないわ。互いのメリットとデメリットを比べて、デメリットの方が勝つのに、馬鹿らしいじゃない?」

「友達、って損得勘定で計算するものじゃない。……そう聞いた事があるよ」

「…………ばかなの?」

「そうかもね」

 

 ポンポンとリズムよく交わされる会話。最後の方はただの罵りだ。ただ、その声は侮蔑とは無縁の、心底呆れたと言わんばかりの声だ。そして呆れの中に清々しさも感じる事が出来る。俺はと言えば、ただ穏やかに、思っている事を返しているだけ。

 

 そこに組織特有の腹の探り合いの黒さはない。技巧も、打算もない、ただの会話。もしかしたら、無意味だと言われかねない程素直に交わされるものだった。

 

「……ばかね。後悔しても遅いわよ?」

「しないさ」

 

 シェリーはやれやれ、と肩にかけていた鞄から携帯を取り出すと連絡先を交換してくれた。

 

 ふと、俺は思い立つ。そう言えば、コレジェネヴァ君としては初めての友達なんじゃ……?断片的な記憶を浚えば、まさかの肯定。まじか、ジェネヴァ君つくづくボッチだったんだなぁ。

 

「秘密の友情、ってなんか格好良いと思わない?」

「…………ばか」

 

 思わず浮かれてふざけた事を言えば、シェリーの小さなツッコミが返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 一通り海岸線を歩けば、祭りの時間までもう少しとなった。日が沈み、辺りは真っ暗に近くなる。月が出ているとは言え、この街灯も少ない島の夜道を明かりも無しに歩くのは難しい。シェリーの手をとって、祭り会場である神社まで戻ってきた。

 

 神社は観光客や地元の人で賑わっていた。海岸線を歩いていた時の閑散とした光景から雲泥の差だ。隣の人との隙間がなく、すし詰め状態に近いこの状況は護衛としてはつらいものがある。まあ、守りきるけれど。

 

 そしてシェリーに調べ物は大体終わったか問えば、頷かれた。

 

「そうね。……大体は大丈夫よ。出来れば決定打が欲しいところなのだけれど……」

「決定打?」

「そう。……これから“儒艮の矢”の当選会が行われるわ。そこで当選して、“命様”と運よく接触出来れば私の任務は完了ね」

「……そこは話すんだ?」

「ここだけじゃ大して分からないわよ。――もし、貴方が当選したら少し確かめて欲しい事があるから」

「ふーん?」

 

 シェリーの話を聞きながら、さりげなくジンやウォッカの姿を探す。あの黒ずくめの格好だ。この人混みでも判別可能だろう。夜だからあまり目立ちはしないだろうけど。

 

 しかし、彼らの姿は見つからなかった。まだ仕事中なのだろうか。

 

 しばらくすると本殿に一人の小さな老婆(あれが命様か)が現れて、障子に火をつけ始めた。それは参加者に配っていた木札に書かれていたような旧漢字の数字だった。

 

 あー、なるほど。この木札はくじも兼ねている、ということね。

 

 しかし、障子に現れた炎の数字は残念ながら俺のともシェリーのものとも違っていた。外れたらしい。

 

 シェリーにどうするか聞くと、彼女は仕方ないわよと諦めの姿勢だ。

 

「これは運。どうしようもない事だもの。組織もきっと分かってくれるわ」

「けど……」

「平気よ。さ、船に戻りましょうか。後三十分くらいで船が出る予定でしょう?」

 

 渋る俺を時間に遅れる方が問題よ、とシェリーが背中を押す。でもなぁ、そう言われても中途半端でダメでした、じゃあ笑えないんだよな。

 一応、俺はシェリーの護衛だ。故に今の所危険はないと判断出来てもここで別行動をとる訳にはいかない。

 

 だから俺は船までシェリーを送って行ってから別行動をとる事にした。何、ほんの十数分だ。まだ船の出航時間には間に合う範囲だ。

 

 船までもう少しという所まで着いた。

 

「シェリー。……確認事項を簡潔に教えてくれる?」

「何よ、急に。って貴方――」

「そう。少し走って確かめてくるから。――俺の仕事ぶりは伝え聞いているでしょ?」

 

 俺の意図はシェリーに正しく伝わったらしい。愕然とする彼女に、俺はいつも通り平然とした態度で接する。ちょっとコンビニ行ってくるから、くらいの気軽さで。

 

 時間がないから早く、と急かせば震える声で答えてくれた。いい子だ。

 

「……確認するのは、“命様”が誰かの変装であるか否か。その一点のみでいいわ」

「――その“誰か”は確認しなくても平気?」

「ええ。正直なところ大体の当たりはつけてあるのよ。だから“確認作業”な訳で」

「了解。行ってくる」

「……気をつけて」

 

 シェリーの見送りに頷き一つ返し、俺は踵を返す。あまり長くは離れられない。船の出港時間を鑑みても、残された時間は僅か十五分。内、五分を往復で使う訳だから使える時間は十分。難易度はベリーハードと言ったところか。コレ、ジェネヴァ君の健脚がなければ無理だったわ。ジェネヴァ君足、滅茶苦茶速いもの。

 

 人とすれ違わないように、けもの道を進む。近道、なんて言えば聞こえはいいが要はただの草むらを突っ切っているだけだ。一歩足を踏み出し地面を蹴れば、グンと景色は移り替わる。それだけの速度が出ている。最低限草木で肌を切らないように気をつけて進めばあっという間に神社へと辿り着いた。

 

 ぱぱっと服に付いた草や汚れを払えば準備はOKだ。さて、後は命様の居場所だが……。なんかこの場所といい、“命様”や“儒艮祭り”といい、既視感がある。実体験ではなく、テレビや本で見た事があるような曖昧さだ。

 

 首を捻って、アッと閃いた。そう言えば、この神社の外れに倉が立っていた事をふと思い出したのだ。なんとなく、そこに命様は居るような気がする。本殿の近くの自宅という線もあるが、こういう時は勘に頼った方がいい。何せ、ジェネヴァ君の勘は外れた事がないのだから。こと、仕事に関しては特に。

 

 そして問題の倉まで着いた。そこで俺は己以外の存在の気配を察知した。恐る恐る、覗き見れば三人組の後姿が見える。三人はマッチで火をつけているところで、その姿が暗がりにぼんやりと浮かび上がる。見れば、大学生くらいの若い女性三人組だ。……神社の巫女をやっている女性も同年代だったな、そう言えば。

 

 三人が何をするのか、見守っていれば信じられない事にマッチの火を倉の壁際に落とす。火が落ちた先は燃えやすい紙屑の山だった。アレはあらかじめ燃えやすいよう準備していたのだろう。つまり放火現場に出くわしてしまった訳だ、俺は。

 

 もはや迷っている猶予はない。火の手が倉全体に回ったら大ごとだ。今だったら小火騒ぎ程度で済む。俺に出来る事は――。

 

「ねえ!そこで何をしているの……!?」

 

 神社に居た若い巫女さんの声を真似て、あたかも今気づいたかのように三人組に声をかける。

 

「げッ、き君江!?」

「うっそ」

「逃げようよ皆!」

 

 三者三様の反応でわたわたと逃げて行った。なるほど、あの若い巫女さんはきみえさんというらしい。ま、後で確認なんてしないだろう。己の罪の方が大きい場合、確認は最小限に留め、気づかれていない可能性に賭ける方が多いからだ。最小限の確認なんて、きみえさん本人からすればなんのこっちゃ、という話だし。

 

 三人の去った後、俺はさっさと鎮火させた。幸いにもまだ火は小さく直ぐに消せる範囲だったのだ。ふぅ、よかった。

 

「……きみえ?そこに居るのかい?」

 

 倉の中から声がかかる。その落ち着いた声音は三十から四十歳くらいの中年女性を思わせた。少なくとも二十代の若者の声ではない。俺は少し迷ってから、一芝居打つことに決めた。漸く少し思い出したのだ。原作の「そして人魚はいなくなった」という回を。多分、この人はその犯人の母であり動機の中心となった人物だ。

 

 この人は命様の中の人、演じ手だ。組織が正体を探っていた人物だ。だから俺の仕事はここまでなんだけど少しばかりお節介を焼くことにしたのだ。

 

「――ごめんなさい。私、違うの。きみえ、という子の守護霊。あの子の大切な人である貴方の危機だったから、一回だけ助ける事にしたの」

「ッ!?」

 

 きみえさんの声のまま、倉の中の声に答えれば微かに驚愕の声が聞こえた。うん、分かるよ。実際、有り得ないオカルト体験だよな。いきなり守護霊(笑)とか言われても困るよね。

 

 ただ、倉の中の人には通じたようだ。こちらの言葉を待つ沈黙がある。感じる気配からは、緊張がありありと伝わって来る。――確か、あの回で確かな教訓があったはずだ。

 

「ねえ、大きな秘密を抱えるのなら。選択肢は二つよ。一つ、島を巻き込んで公然の秘密にしてしまうか。二つ目、徹底的に事実を隠蔽するか。……ああ、もう一つ選択肢があったわね。――秘密をやめてしまうか。お勧めは三つ目よ」

「……今更、どの顔を下げて戻れましょうか。秘密は抱えなくてはいけない理由があるから秘密なのよ。どうしても、譲れないものが私にはあるわ」

 

 倉の中から聞こえてくる声は沈痛さを滲ませている。そこは、部外者の俺では到底解決出来ない葛藤があるようだ。――結局最後は本人の選択が全てだ。

 

 最後に一つだけ。

 

「それって、貴方の命よりも大事な事?」

「え……」

「夜が明けてから倉の外を見てみて。それからさっき三人組の女の子達の声を思い出してみて。――貴方の天秤が、どっちに傾くのか」

 

 命か、その譲れない何かか。

 

「出来れば……命が重くなるといいわね。貴方の天秤」

 

 足元には先ほどまで燃えていた、小火の証拠がある。あの三人組は戻ってこないだろう。確認するにしても人の少ない明日の夕方辺りだろうか。

 

 俺はさっさとこの場を去る事にした。もう時間がない。後ろから、制止の声が聞こえたが振り向くことはない。

 

 ……それにしてもこの世界、油断も隙もあったもんじゃないな。ちびるかと思ったわ。表側の人間だからって油断も出来ないのは現実世界と同じか。あー、女言葉がつらかったわー。違和感バリバリだもの。

 

 急いで船に戻れば、出航ギリギリだった。ギリギリセーフ!と滑り込むと、待っていたシェリーに怒られた。そのついでに報告したら、納得するように頷かれる。どうやら推察していたものと相違ないらしい。良かった。

 

 船室には兄貴達も居て、兄貴に一言「遅え」とぼそっと呟きの後睨まれた。まあまあ、と受け流せば、ウォッカからマジかよコイツと信じられないものを見る目で見られた。普通にショックだ。

 

 

 

 

 

 

 

 今日一日の強行軍仕様なので、帰り道ともなれば当然夜の時間帯まで時間が食い込んだ。このままじゃ、深夜まで時間がかかるかもしれない。車で飛ばせるところは飛ばして、道路交通法を鼻で嗤う程度にはスピードが出ていた。こういう時、ウォッカさんの運転スキルの高さが窺える。あのスピードだというのに、カーブの時とか荒っぽさが出ていなかったからだ。

 

 さて、遠足の時のお約束が脳裏にふと蘇る。遠足は帰りまで、だからきちんとしましょう。そんな微笑ましい言葉だ。実際は微笑ましさとは真逆の状況下だったが。

 

 ウォッカがハンドルを握り、約二時間程の頃だ。その頃には夜の帳が深くなり、海が近かった景色も変え、都心近くの街並みとなったそんな頃合いだった。後部座席に座っていた俺に向けて、ジンが懐から何かを取り出し投げてきた。

 

 慌ててキャッチすれば、それはサイレンサー付きのジンの愛銃、ベレッタ(М1934)だった。おい、コレ隣にいるシェリーに当たったらどうしてくれる。隣のシェリーもノートパソコンを開けたまま、目を見開いて驚いていた。

 

「――後ろの奴がうるせえからそれで黙らせろ」

「あ、兄貴!?」

「ウォッカ、貴様はハンドルを握っていればそれでいい」

 

 突然のジンの命令にギョッとウォッカは動揺した。それに冷たく返すジンは安定の兄貴だった。

 

 ああ、やっぱり気づいていたか。俺は内心嘆息する。実は一時間前からこの車の後ろをピッタリと追随してくる一台の車があった。車種はごく普通の国産車でこのポルシェのような目立つものではない。同じ黒の車、という共通点以外は笑える程の差だ。よくウォッカの運転についていったものだ。途中結構飛ばしていたというのに。

 

 この追跡してくる車の主は何者か。警察組織の人間?それとも同業者?どっちもありそうだな……。

 

 ずっと撒けていない現状にとうとう痺れを切らしたらしい。原因の一端のウォッカの顔色は可哀想なくらい悪い。……仕方ないか。

 

「了解」

「……騒がれても面倒だ。一、二発で仕留めろよ」

 

 お前、それこの悪条件下だって理解して言ってる?了承した俺にプレッシャーをかけてくる兄貴に対する文句が喉までせり上がった。それをグッと飲み込み、頷き一つで返す。

 

 隣のシェリーから不安そうな、戸惑いの視線を感じた。まあ心配しなさんな。

 

 ドアウィンドーのスイッチを押して開ける。風が車内に勢いよく入ってくるが、少し我慢してもらおう。銃の安全装置を外す。半分くらい開けて、少し身を乗り出した。

 

 高速道路はさほど混んでいない。この車以外は大分離れた距離にいる。巻き込み事故は確率が少しは下がったか。

 

 車のライトが眩しく、夜の視界不良を更に悪化させる。付け加えるとこの暗闇で、車のタイヤの位置も狙うのは難しそうに思える。距離はおよそ二十mくらいか。

 

 後ろを見て一瞬で判断する。何処を撃つか、周りを如何に巻き込まないか。この状況下だと運転手の脳天を撃ち抜くのが一番簡単だが、周りの事やこの俺の倫理観の問題から却下だ。

 

 よって、狙うのは左前のタイヤだ。難しい、と言っても物理的に可能ならば不可能ではない。よく狙う必要はなく、ただ、研ぎ澄まされた感覚の中で引き金を引くだけでいい。それだけでジェネヴァ君の腕は正確に対象を撃ち抜いてくれる。

 

 パスッ、と軽い音の後、パァンと後ろの車がパンクした。ギキィッと甲高い車の悲鳴染みたブレーキ音の後、ドゴンッと遮音壁にその車体をぶつけたようだった。運転手も多分無事だろう。……よし、狙い通りだな。

 

 ドアウインドーから身体を離し、閉める。暴風染みた風が止んだ車内はシン、と静まり返っていた。あれ?命令されてから二十秒足らずで終わらせたのだから、文句は言われないと思うんだけど。

 

「はい、これ」

「ああ。――腕は鈍っていないようだな」

「まぁね」

 

 銃をジンに返す。ジェネヴァ君の前の銃の腕前、なんて俺は知らないがとりあえず頷いておく。

 

「――だが、甘いな」

「そう?」

 

 ボソッと呟かれたその言葉にヒヤリとしたものを感じる。素知らぬふりでそんな事ないんじゃない?とニュアンスを含ませて、俺は首を傾げておいた。すっとぼけるともいう。内心ではヤッベェ!! と冷や汗ダラダラだった。

 

「まあいい。後もう少しで着くからそれまで大人しくしてろ」

「うん」

 

 再び沈黙が車内を満たした。隣をチラリと見れば、シェリーと目があった。それも一瞬のことで、直ぐに彼女の視線は膝の上に置かれたノートパソコンに戻された。……もしかしなくても引かれたかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 途中でシェリーを下ろして、俺の家であるマンションまで着いたのは深夜二時もなる時間だった。言葉少なに兄貴達と別れ、自室のベッドに身体を沈ませた。あー、疲れた。

 

 シャワーを浴びて、それから軽く夜食をとろうか。そこで携帯にメールの着信を知らせるイルミネーションがチカチカと光っているのに気づいた。携帯を開いて、メールを確認する。そこにはシェリーからのメールで、回りくどい言い回しでこちらを心配する内容だった。……ツンデレかな?ちょっと癒されたわ。

 

 メールには感謝と少しだけの心配を一言二言付けて返信しておく。

 

 そして米を研いで、炊飯器にセットして炊くまでの時間でシャワーを浴びることにする。もう寝たいんだけど、凄くお腹が空いて寝れそうにないのだ。ほんと、あの沈黙に満ちた車中でお腹の虫が鳴かなくてよかった。

 

 脱衣室で服を脱げば、露わになる肢体にため息を吐きたくなる。なんか見ちゃいけない感が凄いんだよなぁ。肌は白く、身体は鍛えられてなお細い。傷も薄らと残るものもある。その大体が胴体に残っているので、服で隠せるのが不幸中の幸いか。つーか、これとか弾痕なんじゃ……後は切り傷と縫合した場所が数か所か。肌が白いから傷跡の赤が目立つ。

 

 ジェネヴァ君のこれまでの人生が物騒なのは薄々気づいていた。……覚悟するしかないんだよな。

 

 全てを思い出したら、俺はこの俺のままでいられるのだろうか。俺はもう既に前の世界の事はほぼ諦めている。もう、夢で片付けられない程この世界で生きてしまっている。この歳になってからオカルト案件を信じる羽目になるとはな。

 

 シャワーを浴びて頭をスッキリさせて、暗くなる思考を打ち切る。まずはご飯を食べて、寝て、朝日を浴びる事からだな。そうすれば大抵のネガティブは消し飛ぶってもんよ。疲れているから思考も暗くなるんだ、きっとさ。

 

 風呂から上がり、寝間着に着替えて髪を乾かす。冷蔵庫から牛乳をコップに注ぎ、ごくごく飲めばやっと一息ついた。丁度、炊飯器が炊き上がりを知らせる。おにぎりを握り、もぐもぐと食べた。残ったご飯もおにぎりにして冷蔵庫に入れておく。朝、レンジでチンして食べよう。

 

 腹も満たされ、襲ってきた睡魔に身を任せ、倒れるようにベッドの上に乗る。沈むように、眠った。

 

 

 




補足事項
※Curiosity killed the cat.日本語に訳すと好奇心は猫も殺す。
実はイギリスのことわざだそうです。英語に「Cat has nine lives.」(猫に九生あり・猫は9つの命を持っている/猫は容易には死なない)ということわざがあり、そんな猫ですら、持ち前の好奇心が原因で命を落とす事がある、という意味。転じて、『過剰な好奇心は身を滅ぼす』と他人を戒めるために使われることもある。(wiki調べ)

Q結局組織はシェリーに何をさせたかったの?
A これは完全な作者の推察です。多分組織は確認をしたかったのではないかな、と。状況証拠だけならば、命様に扮している何者かはアポトキシン4869の服用者、と疑われても仕方ない状況(態々老婆を偽り、権力者も参加するという祭りの主催者でもある。もしかしたら、権力者とのコネをも持つ厄介者、と思われたかも?)という完全なる想像です。
しかも宮野志保の母、宮野エレーナ博士は組織の裏切り者(推定)です。もしかしたらアポトキシンの完成品を横流ししたのでは?と疑われ、その娘のシェリーの忠誠心を計るついでに確認させたのではないかなぁ。という。これくらいの伏線があると私が嬉しい。


Q 何故兄貴が愛銃をジェネヴァに渡したのか?
A 単にジェネヴァ君がサイレンサーを持っていないのを知っていただけ。あまり深い意味はない。深読みするなら愛銃を一時的にも任せる事が出来る程度にはジェネヴァ君を可愛がっているというくらいですかね。まあ本人には一ミリも伝わっていないですけど。
ジェネヴァ君は組織の武器庫から武器を調達というか借りているパターンが多いので必然的にジンニキの目にもその利用履歴が入っているよ、というだけです。ジェネヴァ君もジェネヴァ君でそれに不都合を感じていないのが余計に悪い。


一気に書き上げたので後で修正入れるかもしれません(こっそり)
今度こそ早めに次の話をアップするんだ(血涙)
ではでは。

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