転生したら兄が死亡フラグ過ぎてつらい   作:由月

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更新!出来る内にちゃかぽこ更新していく作戦です。

さて前回のコメント、誤字報告ありがとうございました。嬉しく思います。特にこのままで読めるよ、という温かなお言葉感謝です。ありがてえ。

さて今回は前回のシェリー視点。三人称です。
上手く出来たかヒヤヒヤしています。後日修正入るかもです。

では、どうぞ。


不意打ちで縁が繋がる事もあるのだ

 

 

 シェリーがその存在を知ったのは少し前の話となる。

 

 組織の元で育てられて、将来組織の為に働く事を子どもの頃から決められた子が居るらしい、と。噂の域を出ないその話は、シェリーの心の縁に留まった。

 

 ああ、私と同じ境遇の人がいるのね、と。

 

 名前までは知る事が出来なかったけれど、もしその話が本当ならばシェリーはほんの少し話をしてみたかった。

 

 年の頃が同じくらい、とも聞いていたので組織の大人達のような怖さはないかもしれないという淡い期待もシェリーの中にはあった。少なくとも、あんな背筋がゾッと冷えるような気配はしないだろう、と。

 

 そして、分かってくれるかもしれない、と。

 

 この組織という鳥籠に捕らえられている、息苦しさと光に憧れてしまう微かな憧憬を。

 

 

 後にその子がコードネームを持つ事になったと聞いてシェリーは少し落胆してしまった。

 

 ああ、結局黒に染まるのね、と。

 

 それは自分勝手な失望だと気づいていても、理屈では割り切れないやりきれなさがシェリーの心の隅にいつまでも居座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 姉に言われた事がある。そんなに肩肘張らないでいいのよ。貴女にも、ちゃんと人生を楽しんで欲しい、と。

 

 そうね、とその時は返したけれど、それは無理な相談だとシェリーは知っていた。何故なら、組織がそんな事を許す筈がないのだ。黒が相応しい、組織の闇は研究職に就くシェリーでも分かる。組織の人間――特に荒事を担う人間に会えばそれは明確に理解出来るだろう。

 

 ゾッと底冷えするような冷たい眼差し、それから死を連想させるあの独特の仄暗い雰囲気。例えその身に纏う硝煙の臭いや血の残滓をどこまで綺麗に洗い流したとしても。それは決して消し去る事の出来ない類のモノなのだろう。

 

 特にあのジンというコードネームを持つ、組織の人間が顕著だった。あの男にとっては戯れの軽い殺気なんだとしても、シェリーにとってソレは死を覚悟したくなる程鮮烈なモノだった。

 

 だから嫌いなのよ、あの男も、組織も。シェリーは今日の予定を思い出して眉をひそめた。

 

 今日は月に一回の組織からの監視が行われる日だ。なんでもシェリーの今携わっている、母から受け継いだ研究があの方の長年の希望を叶える代物らしい。だからシェリーが逃げださないよう、監視としてあのジンが態々(わざわざ)月に一度訪ねてくる事となった。

 

 要は組織からの脅しなのだろう、とシェリーは理解している。もしシェリーが裏切ったら、シェリーは勿論、唯一の身内である姉も巻き込めるぞ、と。あの鋭い凶器そのものの男を派遣し、警告している訳である。シェリーの一番の大切な、あの陽だまりのような、人のいい姉を人質にして。

 

 自分のテリトリーである、この研究室であの男を出迎えるのは少し気分が悪い。けれど、あの男の前でこれ見よがしに忙しくしていれば割と早く帰ってくれるので都合が良いのだ。シェリーとて少しは悪知恵染みた手段をとる事もある。むしろ何か悪いかしら?と悪びれずに言えそうだった。

 

 確か、約束の日時は午前十一時頃よね、とシェリーは思い出す。壁掛け時計を見れば、後もう少しでその十一時を指すところだった。テスト前の学生よりも憂鬱な気持ちを払うべく、シェリーはコーヒーを淹れることにした。気分を少しでも落ち着けたかったのだ。

 

 シェリーが部屋に設けられた、簡易給湯室でコーヒーを淹れていると微かに部屋のドアがノックされる。

 

 二、三度叩かれたノックの音にシェリーは首を傾げた。あら?珍しい、と。何故ならジンならばいつもノックなしに乗り込んでくるからだ。なので、あの男の可能性は低い。けれど、他にこの部屋を訪ねる変わり者にシェリーは心当たりがなかった。

 

 ガチャリ、とノックされて一分ほどでドアが開く。

 

 果たして、招かれざる訪問者が部屋に一歩足を踏み入れ、辺りを視線だけで観察した。シェリーの居る給湯室は部屋のドアの位置からは見えづらい場所だったので気づかれていないようだ。なので、こちらも観察する事にした。

 

 肩まで伸びた癖一つない真っ直ぐな銀髪。それから、深緑の大きめな瞳、白い頬、バランス良く整った顔のパーツ。無表情なのも相まって、精巧に出来た人形のような少年だった。稀に見る美貌ってこういうのを言うのかしら、とシェリーは感心してしまった。

 

 年の頃は多分十代前半、身体の未成熟な線の細さから間違ってはいないはずだ。この子、組織の人間なのよねとシェリーはほんの少し、その少年に同情した。

 

 と、そこでその深緑の瞳がこちらに向けられた。シェリーはギクリと身を強張らせる。 光がない、深淵のような瞳。殺意も敵意もないけれど、それでも底の(うかが)えない深い闇を思わせる色をしていた。大人ですらこんな荒んだ目はしないわ、とシェリーは壁に身を預けていたまま冷や汗を掻く。グッとシェリーの中の警戒レベルは上がる。

 

「気が済んだかしら?可愛らしい侵入者さん」

「……ごめん。失礼します、くらいは言うべきだったよね」

 

 動揺をどうにか抑え、口元に微笑を浮かべさせる。笑みを持って、余裕を見せるのだ。それはシェリーの形ない武装の一つだ。但し、瞳は相手を鋭く貫く。

 

 そんなシェリーの武装に少年は頓着せず、論点のズレた謝罪にペコリと頭を下げた。その時でさえ、揺らがない表情にシェリーは毒気が抜ける気がした。

 

「そういう話じゃないのだけれど……」

「うん?そう?」

 

 一人相撲の虚しさにシェリーの言葉尻が戸惑うように揺れる。それに少年は首を傾げた。

 

 シェリーはしっかりしなさい、私と自分に喝を心の中で入れる。このままこの少年に話の主導権を渡してなるものか、と。

 

「それよりも、貴方何者なの?……いつもはジンが来る筈じゃない」

 

 握りしめていたマグカップを一旦机の上に置き、シェリーは少年に向き直る。自分でも険しい表情をしている自覚はあるけど、まだ警戒は解けないのだ。

 

 そんなシェリーの険呑さに少年は肩を竦める。

 

「聞いてない?今日は俺がその代理。――ジェネヴァ。宜しく」

「……ジェネ、ヴァ……?」

「そう。俺のコードネーム」

 

 少年の口から信じられない事が飛び出した。シェリーは上手くソレを飲み込めずに愕然とする。目の前の少年の差し出された右手に構う余裕もない。

 

 この、少年――ジェネヴァがジンの代理?それにこの子がコードネーム持ち?嘘でしょう。確かに、この少年には組織特有のあの仄暗い雰囲気も感じる。けれど、そこに敵意や悪意は感じられない、といった妙なちぐはぐさも感じるのも事実なのだ。

 

 これは幼さ故なのか。それとも――。考え、固まったシェリーにジェネヴァの差し出した右手が困ったように下ろされた。宙ぶらりんで放置してしまった、とシェリーは罪悪感で胸がチクリと少し痛む。けれど、その手を取る勇気はまだ少し足りないのだ。

 

 この目の前の少年、ジェネヴァを組織の人間という色眼鏡で見てしまうシェリーには。

 

「ま、まあ。そんなに重く考えないでさ、気楽にしてよ。アンタが嫌なら俺はそのまま帰るしさ」

 

 何なら愚痴とかでも良いんだぜ、特別に相談に乗ってもいいし。そう、ジェネヴァが誤魔化すように言葉を濁す。その伏せられた視線は迷うように彷徨っていた。

 

 まるで年頃の不器用な少年、そんな年相応の言葉にシェリーは目を見開いた。私は、何を視ていたのだろう。まだ目の前の少年は、黒になんか染まりきっていないのに。むしろ、こちらを気遣える程度には優しさを残しているのに。

 

 こんな初対面の大して優しくもない私を。シェリーは震えそうになる唇をグッと噛みしめ、そして緩ませる。

 

 馬鹿ね、私とシェリーはふっと力の抜けた笑みを浮かべた。それにジェネヴァが心なしかホッと瞳を和ませたような気がした。けれど、きっと気のせいねとシェリーは自分の中で片付ける。

 

「ごめんなさい、貴方が嫌な訳じゃないのよ。……ただ、少し驚いただけなの」

「……おどろいた?」

 

 首を傾げるジェネヴァにシェリーは頷きで相槌を打つ。

 

「貴方の噂は少し前に聞いた事があるわ。私とそう年の変わらない子が最近コードネームを持つ事になったって」

「……うん」

「それが、まさか年下だなんて。そう、驚いただけなの」

 

 ごめんなさい、シェリーは喉に飲み込んだ言葉の代わりに小さく謝った。貴方を信じられない事に対する謝罪なのだ、と言えたらどれ程よかったか。シェリーは困ったように小さな笑みを浮かべた。

 

 ジェネヴァはソレに首を横に緩く振る。いいのだ、と。

 

「そっか。それならいいんだ。幾ら俺でも初対面に嫌われちゃ流石に傷つくからね」

「えっ」

「嫌われていないなら、それでいいんだ」

 

 瞳を緩く細め、笑みにならない中途半端さでジェネヴァは静かに言葉を紡ぐ。それはふと次の瞬間に消えてしまうような儚い変化。もしかしたら、この少年は無表情の中に感情を一杯押し込めているのかもしれない。シェリーは呆気にとられつつ、頭の隅で思った。

 

 また目の前にジェネヴァの右手が差し出される。握手を求めるソレにシェリーは益々目を丸くした。

 

「それなら。よろしく、そう言ってもいいよね?」

 

 紡がれる言葉に嘘は感じられない。ジェネヴァに悪意も敵意もなく、あるのは純粋たる厚意だ。それに今、気づいた。シェリーは張り詰めていた緊張の糸を緩ませる。

 

「ええ、そうね。こちらこそ、宜しくお願いするわ」

 

 シェリーは差し出されたその手に自分の手を重ねた。ぎゅっと緩く包むジェネヴァの手はシェリーの手と同じように白いのに不思議と大きく、男の子の手だ、と思わせるものだった。

 

 その事にシェリーの頬が熱くなる前に手は離される。残るのは手に感じる温もりの残滓とほんの少しの気恥ずかしさだ。初恋を知る前の子どもじゃあるまいし、とシェリーは内心自分に毒づいた。

 

「それで、何かある?なんか相談、でもいいけど」

 

 無表情のまま首を傾げるジェネヴァに少し面白くないと一瞬だけシェリーは思ってしまった。不公平だ、とけれど直後にシェリーは気のせいよと思い直した。そして改めて、問われた事を考える為に顎に手を添えた。

 

 そして少しの思案の後、シェリーは脳裏に閃いた事を口にする。

 

「それなら、ジンに来ないで欲しいのだけど」

「あー……。分かった、言ってみるだけ言ってみるよ」

 

 私、あの人の雰囲気が嫌いなのよ、と思わずぼやいてしまったシェリーにジェネヴァが曖昧な頷きを返す。

 

 確約は出来ないけれど、努力してみる。そんな返事にシェリーは意外に思った。てっきり馬鹿言うな、とすげなく断られると思ったのだ。

 

 そんなシェリーにジェネヴァは背を向けた。あ、とシェリーは咄嗟に手を伸ばす。

 

「じゃあ、俺はここで失礼するよ。――ああ、問題なしで報告するからそれは安心して」

 

 じゃあ、これでとドアノブを掴むジェネヴァが立ち止まる。シェリーの手はジェネヴァの黒のジャケットの裾を掴んでいた。

 

 そこでシェリーは我に返った。わ、私何をやっているのかしら?、と。

 

 ジェネヴァは不思議そうにそのジャケットの裾を掴むシェリーの手を見ていた。その視線に羞恥を感じ、シェリーはすぐに裾から手を離した。

 

 シェリーが手を離した後も、律儀にジェネヴァは待ってくれる。理由を問う事も、答えを急かす事もなかった。

 

 ふと、思ってしまったのだ。このまま別れて、そのまま二度と会えない未来を。何を馬鹿なと笑えたらいいのだけど、残念ながらこの組織では笑えない想像だ。昨日元気だった顔が翌日もう見る事が叶わないなんて事もあり得るのだ。だから、シェリーは咄嗟に手が伸びてしまった。

 

 そんな後悔をするなら今恥をかいた方がマシよ、とシェリーは決意し、

 

「また、会えるかしら?」

 

 と言葉にした。ぼそぼそと歯切れ悪い、我ながらなんて恥ずかしいと羞恥を覚えシェリーは俯く。頬が熱く、今、顔を見られたくなかった。

 

 少しの間を空いた。俯いたシェリーの視界に入るのは彼の足元で、少し答えを聞くのが怖くなる。伏せた瞳をシェリーはギュッと瞑った。

 

「うん、まあ。そう言ってくれるなら、また会いに来るよ」

 

 聞こえてきたジェネヴァの静かな声にシェリーは瞑った瞼をそろそろと開く。その声には嫌悪はない。シェリーはホッと肩の力を抜いた。

 

「そう……」

「またね、シェリー」

「ええ」

 

 またね、そう言ってジェネヴァはひらりとこちらへと手を軽く振って退室した。

 

 

 パタリと静かに閉まったドアを眺め、シェリーはしばしぼんやりとしてしまった。

 

 冷めたブラックコーヒーの味は最悪ね、と感じる羞恥を誤魔化しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな話を五日後、姉と会った際にうっかりとシェリーは姉に口を滑らせてしまった。

 

 ここは施設内に設けられた食堂だ。とはいっても近代的なデザインの施設に似合いのカフェのような雰囲気のところで、大衆食堂のような窮屈さはない。テーブルは丸テーブルで、それぞれ適度に距離が離れていた。一面、ガラス張りでそこから見える中庭の様子が日本の四季の様子で目を楽しませる。薄暗い組織には珍しい、日光が当たる場所でもあった。

 

 まだ午前九時半頃。周りはまだ閑散としたものである。この食堂が一番混むのがお昼時だ。

 

 ここならば施設の部外者である姉と会っても、反対されることはない。それくらいには開放的な雰囲気の一角だ。

 

 そこで、姉、宮野明美とシェリーは久々の対話を楽しんでいた。会えない時間を埋めるように、会話は途切れることはない。

 

 そうして冒頭のシェリーのうっかりに繋がるのである。うっかりこの姉にジェネヴァとの出会いを一から十まで話してしまったのだ。

 

「で、で?そのなんだっけ、ジェネヴァ君?がどうしたの?」

 

 明るいお姉ちゃんは好きだけど、こうして瞳をキラキラ輝かせる時は要注意である。妹たるシェリーは長年の経験上知っていた。

 

「……なんでもないわ。それよりもお姉ちゃん、そっちはどうなのよ?」

「えー、教えてくれてもいいじゃない。志保ったらケチね。――私の方は変わらないわよ?大くんとも順調、幸せですとも」

「まだその“大くん”と付き合っているの?お姉ちゃん」

 

 この朗らかな姉に不満なんてないシェリーだが、一つだけ解せない部分がある。姉の恋人の趣味が悪い、という点だ。大体、あの“大くん”もとい、ライは組織のコードネーム持ちで、確かに顔は悪くないかもしれないが、その分人相も悪い。あの目元の隈がより一層あの鋭い目つきを際立たせているのだとシェリーは分析する。

 

 おまけに愛想も悪そうな男じゃない、とシェリーはほんの少し納得がいっていない。お姉ちゃんにはもっと素敵な人が似合う筈なのに、と。

 

 シェリーのむくれた顔に姉はふふっと幸せそのものの笑みをもらす。その笑みにシェリーはふぅとため息を吐いた。はいはい、分かっているわ。

 

「恋って理屈じゃないのよ、志保。きっと貴女にも分かる時がくるわ。――って私の事はいいのよ。志保の事を聞かせて頂戴」

 

 ね?ね?とあざとく小首を傾げる姉にシェリーは観念した。昔から、この姉に隠し通せた試しがないのだ。それに、聞いてくれると胸の内も軽くなるし。

 

「別に大したことないわ。……ただ、ちょっともやもやするだけで」

「もやもや?」

「ええ。――元々、同じような境遇だと人づてに聞いているから、かしらね」

 

 不思議そうにする姉にシェリーは自嘲の笑みを浮べる。仲間意識、というと少し違うかもしれない。もしかしたら同じ思いを理解できる同士になれるかもしれないと思ったのかもと後日冷静に思い返したのだ。

 

「んー、ちょっと違うような気がするけど。……志保は頭で理解しようとするからお姉ちゃん、少し心配なのよ?」

「それは、どういう……」

 

「言ったでしょう?感情は全て理屈で片付けるものじゃないわ。きっと、言葉に出来ない思いも、形に出来ない愛情もあるのよ。……だから、いいのよ。他人と違っていても」

 

 静かに語る姉はいつもよりも大人びて見えて、シェリーは咄嗟に言葉を失った。

 

「うん。だからそのジェネヴァ君と志保は友達になってもいいだろうし。なんなら、恋人にだってなってもいいんじゃないかしら?」

「は?」

「あれ?そういう話じゃなかった?」

 

 一つ低くなったシェリーの声に姉はきょとんと首を傾げた。

 

 怒り故か、それとも別の理由故か。シェリーはぶわりと熱くなる頬に、感情の赴くままに口を開いた。

 

「全然違うわよ!お姉ちゃんの馬鹿っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェネヴァが訪ねる約束の十時少し過ぎ頃にはシェリーの頬もすっかりと通常に戻っていた。

 

 

「こんにちは。約束、果たしに来たよ」

「……そう」

 

 訪ねて開口一番にシェリーとの約束を持ち出すジェネヴァにシェリーは少し胸を痛めた。

 

 それはまたジンに睨まれるであろう、月一の憂鬱を思い出した所為もあっただろうし、他にも目の前の年下の少年に対する寂寥(せきりょう)も二割は含まれた痛みだった。

 

 シェリーの感傷染みた痛みを知らないジェネヴァは変わらぬ無表情で頷いた。

 

「それから、今後は宜しく」

「は?」

「これから、月一で会いに来るから」

 

 よろしく、を上手くのみこめないシェリーが、月一の言葉に頭の中でカチリとピースが噛みあう。

 

 勝手に勘違いした事実にシェリーの頬がじわじわと熱くなる。はくはくと言葉にならない思いが音に鳴らずに口から零れる。

 

「ばっ。――ッ、そう。好きにしたらいいんじゃない」

 

 馬鹿、と罵りたかったのを、そう言えば目の前のジェネヴァは年下なのよねとシェリーの中で変なブレーキがかかった。要は年上の矜持だった。

 

 せめて、熱い頬のままにジェネヴァを睨めば、ただ目をほんのりと細められただけだった。それが、なんだか微笑ましい、と言っているみたいでシェリーは心の中で悔しさを感じた。

 

「うん、好きにする。それと、これ。良かったら食べて」

 

 どこまでもジェネヴァはマイペースらしい。頷きながらジェネヴァは手持ちの紙袋から綺麗にラッピングされたクッキーをシェリーに差し出した。

 

 シェリーは怒っているのが馬鹿馬鹿しくなり、渡されたクッキーをしげしげと見やる。透明な袋の中で可愛いヒヨコと猫が仲良く入っていた。うっかりとシェリーは可愛いと呟きそうになった。危ない。

 

 そして薄々と感じていた予感をそのままにシェリーはジェネヴァに尋ねる。

 

「もしかして、これ手作りかしら?」

「ん。可愛く出来たでしょ?」

「……、まぁそうね。お菓子に罪はないものね」

 

 疑問は肯定で返ってきて、シェリーは複雑な気持ちになった。これ、私より料理が出来るんじゃない?いやでも私の方が……という複雑な乙女心でもある。

 

 そんなシェリーの複雑な心情を知らないジェネヴァはこてりと首を傾げた。

 

「もしかして、猫より犬派なの?」

「違うわよ」

 

 ジェネヴァの天然染みたズレた答えにシェリーは呆れた。まったく、この子は。

 

 シェリーは特大級のため息を吐いた。

 

「貴方を警戒するの、馬鹿らしくなるわ」

 

 そう呆れを含んだシェリーの言葉にジェネヴァはそうかな、と納得していなそうに首を傾げていた。

 

 その後コーヒーを淹れてあげて二人でその手作りクッキーを一緒に食べた。クッキーは悔しい事にとても美味しいもので、シェリーは無言で完食してしまった。お店で売っていても可笑しくない出来栄えだった。

 

 

 

 

 

 

 後日、姉に「この前ジェネヴァ君とお茶しちゃった」と楽し気に爆弾を落とされ、更には志保の話も聞いたわよ?と面白そうに言われ、シェリーはジェネヴァを問い詰める事に決めた。

 

 それも後で誤解と分かり、姉の意外とお茶目な一面を思い出したシェリーだった。もう!とシェリーは久しぶりに姉に向かって怒りを表す事になった。

 

 

 

 




皆様の疑問だろう点について
Q結局シェリーたんはジェネヴァ君にどんな思いを抱いてたん?Love or Like?
A Likeの方です。Like成分多分三割弱かな、今は。 気になるは気になるけど、普通に友達になりたい的な気になり方です。でも組織のコードネーム持ちだし……それでなくても組織怖いのに、的なもやもや。

Qこれ組織の人間にバレたらまずくない?
Aぶっちゃけまずいです。なので、ジェネヴァ君は今後も気をつけてシェリーさんと接するでしょう(主に周りに対して)
シェリーさんもわざわざ油に火をつける迂闊な事はやらない、又は気をつけると思います。何せ、怖いので。


次はどうしようか。赤井さん編かまたは中学生工藤君に登場してもらうか。迷いますね。うーん。
間空けないように頑張ります。
ではでは。

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