転生したら兄が死亡フラグ過ぎてつらい   作:由月

10 / 27
更新!……後日修正入るかもしれません。

前回のコメント、誤字報告ありがとうございました。ジンニキが可愛い、とのお言葉にニヤニヤしてしまった私です。
誤字報告も大変助かっております。一応二回ほど流し読んで確かめているのですが、どうしても漏れが出てしまうので。お恥ずかしい限りです。今後も気づいたら教えてくださるとありがたいです。はい。

さて、今回はシェリー回(+αで明美さん)です。ジェネヴァ君視点です。
・キャラ崩壊注意です。
・こんなにシェリーたんがデレるはずないやろ!出直せ!! という方にはお勧めいたしません。

おっけー?
1/3 一文修正。シェリーはマグカップを持っていない方の手~を片手で~に直しました。描写ミスです、すみません。内容に変更点はありません。


名前をつけない関係もあるのさ

 朝の衝撃的な事件――兄貴のベッド蹴り上げ事件から少し経った後。ジンが帰ってから、俺は改めて部屋の時計を見直して、ガックリと肩を落とした。まだ朝の八時で、逆算するとジンの兄貴の乱暴な朝の起こし方をされたのが午前七時頃となる。

 

 こういうこちらの都合を容易く無視するような兄貴の理不尽さには多少の耐性を得ている俺だが、流石にどうかと思う。こんなんだから、人望があんまり宜しくないんだぜ?と俺はため息を吐きたくなった。だってウォッカぐらいじゃないか、兄貴支持派って。

 

 話は逸れた。それで、俺は兄貴のお願いもとい、命令を遂行するべく現在組織の研究施設の一つに訪れていた。ジンの話では十一時頃に先方(せんぽう)にアポイントメントをとっているそうで、既に代理に任せると連絡は済んでいるようだった。流石にそういう常識は持ち合わせているか、というその時の俺の感慨は心の隅に置いておく。

 

 約束の十一時に間に合うように、俺はいつもの日常である訓練(身体を動かす系の奴)を消化し、シャワーを浴びて着替えてから訪問、現在に至る訳である。着替えと言っても、いつもの通りのラフな格好で、我ながら裏社会の組織の荒事を担う人間には見えないと思う。黒のジャケットに黒に近い灰色のシャツ、ズボンは適当に白にしておいた。人間って見かけによらないんだなぁとジェネヴァ君になってから常々思う俺だ。

 

 だからこの注目度なのかなぁと俺は現在の注目度に関して諦め半分で遠い目をしてしまった。分かってる、めっちゃ浮いているもんな、俺。

 

 周りは研究所に相応しく、白衣を着た人間が半数を占めている。忙しなく行き交う彼らスタッフはコードネームを持っていなくとも、世間に認められた、優れた科学者又は学者であったりするのだ。表向きはこの研究所は製薬会社の看板を背負っているので、さほど違和感はない。近代的な設備も見受けられ、普段俺が通っている施設よりかは暴力の臭いはしない清潔感のある建物だった。観葉植物も飾られ、幾分か印象が和らいで見える。まあ、その分怪しげな精密機械も多いんだけど。

 

 俺は受付の人に用件を告げ、関係者を示すIDカードを貰う。その首から下げるタイプのホルダーは一般企業のソレと変わりなくて、こういうシステムは組織でも変わりないんだなぁと変に感心してしまった。

 

 それを仕方なく首に下げ、俺は施設を受付で聞いた案内に従い、施設内の廊下を歩いていた。それですれ違う人達に視線をめっちゃ注がれて肩身の狭い思いをしている訳だ。

 

 シェリーの居る研究室まではあと少しなので、我慢だ俺と自分への鼓舞も忘れない。

 

 歩いて五分くらいで目的の部屋へと辿り着いた。シェリーはコードネーム持ちなので、一応自分専用の研究室を別に持っているそうな。共同研究室以外での時間のほとんどはそこで過ごしているらしい。随分、受付の人はお喋りな女の人だったなとぼんやりと思い出す。いいのか組織、それで。いやまあ俺のこの見た目だから、か。

 

 部屋のドアを一応ノックして少し待つ。

 

 一分程待っても返答がなかったので仕方なく俺は部屋のドアを開けた。幸いにも施錠はされていないようだ。

 

 部屋は意外とスッキリと片付いていた。推定十畳のその部屋でまず目に入ったのは入口に背を向けて置かれた事務机、それと革張りの椅子。それからその机の上にはパソコンが置かれ、空いたスペースには資料が何十枚と雑に置かれていた。隅に追いやられたフラスコとビーカーなどの実験器具は綺麗に管理されていた。少なくとも埃は全く被っていない。本棚や、南京錠のかかったガラス張りの棚(中には様々な薬品が入っていた)が少しばかり空間を狭めていた。

 

 そこで俺はどこからか香ってくるコーヒーの匂いに気づいた。淹れたばかりの香しさに俺はその匂いの先に視線を向ける。

 

 そこに彼女は居た。どうやら、入り口から見て右側に簡易的な給湯室が設けられていたようだ。そこに佇む茶髪の女性は手にマグカップを持ち、壁に身体を預け、こちらに首を傾げる。

 

 肩までの茶髪に灰色の瞳。こうして実際見ると彼女は可愛いよりも美しい、が似合う美人さんだ。その涼し気なスッキリした印象の目元はクールビューティと称えるに値する。

 

 シェリー。組織の誇る才媛だ。

 

「気が済んだかしら?可愛らしい侵入者さん」

「……ごめん。失礼します、くらいは言うべきだったよね」

 

 仄かな微笑を浮かべ、余裕の態度の中に微かな敵意を感じる。その証拠にその美貌に浮かぶ微笑、その瞳は冷え切っていた。あっちゃあ、と俺はシェリーの好感度の低さを内心嘆きつつ、頭を下げた。どうせ、この無表情はピクリとも動かないんだろ、知ってると半ば俺はやけくそだ。

 

「そういう話じゃないのだけれど……」

「うん?そう?」

 

 俺の論点のズレた謝罪にシェリーは困惑するように言葉の棘がなくなる。戸惑うように消える言葉尻に俺は首を傾げた。

 

「それよりも、貴方何者なの?……いつもはジンが来る筈じゃない」

 

 渋い顔をしながら手に持っていたそのコーヒーをシェリーは一旦机の上に置いた。それから俺に向き直り、嫌そうに質問した。滅茶苦茶嫌われているな兄貴と、俺は薄々察していたのを確信に変える。それと、どうやら情報の伝達は上手くいっていなかったらしい。

 

 困ったな、と俺は肩を竦めた。

 

「聞いてない?今日は俺がその代理。――ジェネヴァ。宜しく」

「……ジェネ、ヴァ……?」

「そう。俺のコードネーム」

 

 宜しく、と俺が差し出した握手の右手が宙ぶらりんで放置される。シェリーは予想外な事を言われたように固まっていた。そのままシェリーは目を見開いたまま沈黙し、俺は少し傷心して差し出した手を下げた。

 

 俺はこんな気まずい空気に耐えられず、話題を本題にかえる事にした。

 

「ま、まあ。そんなに重く考えないでさ、気楽にしてよ。アンタが嫌なら俺はそのまま帰るしさ」

 

 何なら愚痴とかでも良いんだぜ、特別に相談に乗ってもいいし。俺は誤魔化すように言葉を濁す。流石にこう嫌われちゃあ監視だの物騒な話は出来そうにない。男が女性に嫌がる事をやるとか俺の価値観ではギルティなのだ。

 

 幸いにもこの研究室に盗聴器等は仕掛けられていなそうだ。ジェネヴァ君の磨かれた第六感がそう告げている。ちなみに仕掛けられていると首筋の後ろ辺りがチリッと痛む気がするのだ。これは俺だけの特殊例なんだろうけど。

 

 そんな事をぐるぐると俺が考えていると、シェリーがふっと軽く笑う。今度は瞳が冷え切っておらず、本物の笑みだ。俺は肩の力を抜いた。よかった、と。

 

「ごめんなさい、貴方が嫌な訳じゃないのよ。……ただ、少し驚いただけなの」

「……おどろいた?」

 

 シェリーの言葉に俺は首を傾げる。シェリーは頷きを一つした。

 

「貴方の噂は少し前に聞いた事があるわ。私とそう年の変わらない子が最近コードネームを持つ事になったって」

「……うん」

「それが、まさか年下だなんて。そう、驚いただけなの」

 

 ごめんなさい、また小さな声で謝ったシェリーは困ったような笑みを浮かべていた。

 

 これは建前か。俺は直感的にその言葉の嘘を見抜いてしまった。いや正確には三割四割は本当だけど、他に要因があったのだ。きっと。けれど、それを暴く程俺は野暮じゃない。

 

 俺は首を横に緩く振る。

 

「そっか。それならいいんだ。幾ら俺でも初対面に嫌われちゃ流石に傷つくからね」

「えっ」

「嫌われていないなら、それでいいんだ」

 

 そう言って俺はまた右手をシェリーの前に差し出す。目を見開いたシェリーは俺の差し出した手を見て益々目を丸くする。

 

「それなら。よろしく、そう言ってもいいよね?」

「ええ、そうね。こちらこそ、宜しくお願いするわ」

 

 俺の手に重ねられたその白い手は細く、傷一つない綺麗なものだった。俺の手よりも小さなその手はやっぱり女の人の手だなぁと俺はちょっと不思議な気持ちだった。

 

「それで、何かある?なんか相談、でもいいけど」

 

 当初の予定の様子見、その目的を果たそうと俺が尋ねると、シェリーは片手を顎に添えて考える。

 

 そして少しの思案の後、口を開いた。

 

「それなら、ジンに来ないで欲しいのだけど」

「あー……。分かった、言ってみるだけ言ってみるよ」

 

 私、あの人の雰囲気が嫌いなのよ、とぼやくシェリーに俺は同意したいのをグッと堪え一応の形で頷く。確約は残念ながら出来ない。俺にそんな権限はないからだ。

 

 兄貴にド突かれる覚悟を決め、俺が頷くとシェリーは意外そうに瞬きをした。

 

 まあ信用ないよね、と俺はなんとも言えない気持ちになりつつ、今日の所はこれでお暇する事にする。

 

「じゃあ、俺はここで失礼するよ。――ああ、問題なしで報告するからそれは安心して」

 

 じゃあ、これでと退室する為に俺がドアに手をかけると、グッと後ろに引かれる。見れば、ジャケットの裾をシェリーが掴んだようだ。

 

 俺の怪訝な視線にハッとシェリーが我に返った。咄嗟に引き留めてしまったらしい。もしかして、なんか伝え忘れがある、とか?

 

 直ぐにジャケットの裾を掴んでいた手が離された。俺は万が一の伝え忘れの可能性に、少し待つ事にする。

 

 シェリーは少し逡巡してから、

 

「また、会えるかしら?」

 

 とぼそぼそと歯切れ悪く言う。俯いてしまった為に表情は分からないものの、その羞恥を訴える赤く染まった耳に俺はうん?と首を傾げる。

 

「うん、まあ。そう言ってくれるなら、また会いに来るよ」

「そう……」

 

 俯いたままのシェリーは少し気になるものの、退室の流れだったので俺はそのままその場を辞した。

 

「またね、シェリー」

「ええ」

 

 退室際に見た、シェリーの表情は悪くないものだったからきっと悪い意味ではないのだ。それだけ分かっていたら、今の俺には充分だった。

 

 

 

 

 その後のジンの兄貴への報告の際にシェリーの監視を俺に任せてもらえないかと頼んだところ、あっさりと許可を貰え俺は驚いた。驚いたというか、拍子抜けの気分だった。

 

 ただその際に、「精々(せいぜい)、溺れないよう気をつける事だな」と言われ俺は呆れてしまうやらなんやらで。そういうんじゃない、と兄貴に返せば、クツクツと笑われるだけだった。解せぬ。

 

 監視、は月一の頻度で行われるそうだ。俺は彼女の愚痴やらなんやら相談に乗れればいいな、くらいの気持ちだった。今の俺に出来るのはそんなもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を思った五日後。俺は再びシェリーの元へ行く事にした。久々の非番、休日だったので、少し手作りクッキーを持参しちょっとした挨拶も兼ねての訪問だった。先日の約束もあることだし。

 

 時間は十時に施設にアポイントメントを電話で取り、その十五分前に着くように出かけた。そして、研究施設の前で声をかけられた。

 

「ねえ、君。ジェネヴァ君で合っている?」

「え。――そうだけど、そういうお姉さんは?」

 

 背まで伸びた真っ直ぐな黒髪、明るい光そのものの笑み。柔らかな印象を与える可憐な部類の顔立ちを裏切らぬ優し気な雰囲気の女性。

 

 宮野明美。シェリーの姉たるその人が俺の肩を掴み、にこやかな笑みで問うてきたのだ。とはいえ、“ジェネヴァ”は知らない情報なので一応彼女の名前を尋ねる。

 

「よかった。私は宮野明美。()、いやシェリーの姉よ。ね、お姉さんと少しお茶しない?」

 

 にこにこと善意100%の笑みの明美さんの誘いは何故か断れない謎の押しの強さをみせていた。これ、バーボンとどっこいな強引さを感じるぞ、と俺は少したじろぐ。

 

「十分くらいなら……」

「あら、何か用事でもあるの?」

「ん、まあ。約束があるから」

 

 俺の渋々とした条件付きの承諾に明美さんは首を傾げる。その問いに俺が答えれば、また微笑ましそうに笑顔になった。ぐっ、調子狂う。

 

 そのまま明美さんに背を押され、研究施設の近場のカフェに入った。そこの四人掛けのテーブルで紅茶一杯(ここのお店は紅茶が美味しいらしい)、明美さんにご馳走される事となった。

 

 店内は平日の十時少し前という中途半端さで空いていた。趣味の良いレトロな雰囲気のカフェで、店内にかかる古いジャズも相まってノスタルジックな雰囲気にさせてくれるところだった。

 

「ふふ」

「?」

 

 注文して割とすぐに届いた紅茶を飲むと対面に座る明美さんがクスクスと笑った。俺が不思議に思って首を傾げると、手を振って否定される。

 

「違うの。君に、じゃなくて妹の話を思い出してつい、ね」

「シェリーの?」

「うん。あの子とさっき会ってきたばかりなんだけど。丁度君の話が出てきたから」

 

 ふふ、ごめんなさいねと軽やかに笑う明美さんに俺は少し呆れる。仮にも荒事を担うコードネーム持ちと会っているのだからもう少し警戒した方がいいのに、と。いや、そう言えばこの人あのライを“大くん”呼びをする猛者だったなと思い出して俺はその懸念の無駄を悟った。

 

「……ロクな話じゃなさそうだね」

 

 どうせ強そうじゃなかった、みたいな話だろう。もしくは意外と子どもでびっくりしたわお姉ちゃん、ぐらいか。俺は予測出来た話の内容に、不快さを少し感じる。要はいいもんね、これから大きくなるからと拗ねたのだ。

 

 そんな俺の拗ねた気持ちに気づいたのか、明美さんはきょとりと瞬いて頭を横に振る。

 

「違うわよ?――でも、私の口からは言えないけどね」

「え。逆に気になるんだけど」

「ふふ。ほんのささやかな事よ。……どうしても知りたかったら本人に聞いてみたらいいのよ」

 

 明美さんの意味深な言葉に俺は食いつく。それに柔らかに笑って明美さんは事もなさげに当人に聞けと言ってのける。流石、ライと恋人なだけあるなと俺は明美さんの評価を改めた。この人は、意外と強かなところもあるのかもしれない、と。

 

 でも当人に言えたら苦労しない訳で。俺はフイッと視線を逸らした。

 

「聞ける訳ないよ。……仲良くなってもいないのに」

「これからなればいいのよ。友達にも、なんにでもなれるわ。だってまだ二人とも若いんだもの」

 

 明美さんの声は静かなものだった。口元にはほんのりと微笑みが浮かび、声と同様優しいものだった。

 

「若さは可能性なのよ?」

 

 知っていたかしら?と悪戯っ子な笑みを浮かべた明美さんに俺は戸惑った。こうやって真正の優しさを向けられるとどうしていいか分からなくなるのだ。

 

 俺の戸惑いにフッと力の抜けた笑みを浮かべた明美さんは、

 

「あの子を宜しくね?」

「ごふっ」

 

 と爆弾を落とした。着弾した俺は無様にも紅茶を噴き出した。衣類に被害はなかったものの、俺は気管に紅茶が入り咳き込む。シェリーの身内にそう言われると不意打ち過ぎて、勘弁してもらいたいものだ。

 

「ああ、大丈夫?」

「げほっ。お姉さん、能天気だね。俺が言うのもなんだけど、もう少し考えてから言った方が良いんじゃない?」

 

 咳き込むのが落ち着いてから、俺はハンカチを差し出す明美さんへ鋭い視線で忠告をする。駄目だ、この人。人が良すぎて逆に心配になるタイプだ。少なくともコードネーム持ちなのを知っている人の台詞じゃない。

 

「考えてから言っているわよ?……だって、きみ優しそうな子なんだもの」

「ッ!?」

 

 ふふ、これでもお姉さん人を見る目だけは自信があるのよ?こと優しい人を見分ける事に関しては。優しい笑みで冗談交じりに言われる明美さんの言葉に俺は咄嗟に言葉を失くす。

 

「――とんだ節穴なんじゃないの?……それ」

 

 優しい瞳に俺は居心地が悪くて思わず視線を外した。言い返した言葉は自分でも笑えるくらいに掠れてしまった。

 

「ふふ」

 

 そんな俺の渾身の憎まれ口も明美さんは柔らかに笑うだけだった。なんだこれ、予想以上に恥ずかしいんだけど。

 

 十分経ってから、明美さんと別れ俺は予定通りにシェリーに会いに行った。約束の十時には間に合いそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは。約束、果たしに来たよ」

「……そう」

 

 またシェリーの個人研究室にお邪魔して、俺が約束を果たしに来たと言えばシェリーは少し目を伏せる。心なしかしょんぼりと元気ないように見える。少なくても、あの初対面の険のある表情はそこにはない。

 

 俺の言葉を聞いて、やっぱり監視がジンの兄貴に戻る、と思ったのだろう。勘違いさせてしまったかなと僅かな罪悪感があるものの、俺は少し満足する。

 

「それから、今後は宜しく」

「は?」

「これから、月一で会いに来るから」

 

 きょとんとしたシェリーの顔が、月一という言葉に合点がいったような顔になる。そしてじわじわとその白い顔が赤に染まった。どうやら、先程の勘違いに羞恥を感じているようだ。少し可愛い、と俺は心の中で微笑ましく思った。

 

「ばっ。――ッ、そう。好きにしたらいいんじゃない」

 

 馬鹿って言いたかったんだろうなぁ。俺はそう推察する。グッと無理矢理言葉を飲み込んだシェリーはキッと睨んできた。残念ながら、俺とシェリーに身長差はない(シェリーの方が若干高いかもしれない)ので上目遣いにならなかった。俺、十三歳だから仕方ない話なんだけど、妙に悔しくて俺はこれから毎日牛乳を飲む決意をする。迷信?いいんだよ、それは。

 

「うん、好きにする。それと、これ。良かったら食べて」

 

 感じた悔しさを俺はなかった事にして、ラッピングした手作りクッキーをシェリーに差し出す。今住んでいるマンションは家賃の高さに見合った設備が揃っている。当然、オーブンも備わっていて、難易度の低いクッキーをまずは作らせてもらった。ちなみに可愛いヒヨコと猫のクッキーだ。

 

 シェリーは俺の差し出したその可愛いクッキーをしげしげと見つめた。

 

「もしかして、これ手作りかしら?」

「ん。可愛く出来たでしょ?」

「……、まぁそうね。お菓子に罪はないものね」

 

 シェリーの問いに俺は頷き肯定する。不自然な間が少し空いたものの、シェリーはそれを受け取ってくれた。複雑そうなその様子に俺は首を傾げる。何がいけなかったんだろうか、と。

 

「もしかして、猫より犬派なの?」

「違うわよ」

 

 猫じゃなくて犬の方が良かったのか、という俺の反省の言葉にシェリーは呆れたように否定した。

 

「貴方を警戒するの、馬鹿らしくなるわ」

 

 はぁと特大級のため息の後、そうシェリーに言われ俺は何とも言えない気持ちになった。どういう意味かな?それは。

 

 その日はシェリーにコーヒーを淹れて貰って持参したクッキーを一緒に食べた。うん、我ながら上手に出来た。シェリーも何も言わずに調子よく完食したので不味くはなかったのだろうと俺は満足しておく。

 

 

 

 後日、シェリーにお姉ちゃんに何を吹き込んだの?! と凄まれ、解せない気持ちで一杯になった俺だ。シェリーを揶揄(からか)ったな、明美さんと俺は悔しく思った。

 

 誤解は解けたものの、シェリーの怒りの矛先が明美さんに向ってしまった。けれど、その怒りは軽いもので、こういうのが家族というのだろうなぁと俺は眩しく思った。

 

 




補足
※才媛……学問・才能がすぐれた女性。才女。


次は多分シェリー視点かな。そこでシェリーさんの心情とか書けるかなと。


他の方の書かれた素敵な小説とか読んでいて、ふと思ったのですが私の書く小説って癖があるというか……。良く言っても個性的な文章だなあと個人的に思うのですが、皆様読みづらくはないでしょうか?大丈夫ですか?


読みやすいように試行錯誤している最中なので、温かく見守ってくださいね。
初期の文章とか早く書き直したい気持ちで一杯です(こそっと

ではでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。