双獣の軌跡   作:0波音0

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最初は前回予告したとおりにフェイスチャットから始まります。
魔物として生きてきて身につけた能力その1として、どうしても出しておきたかったんです…!
そして、思った以上にフェイスチャットのネタが少なくて、本編と合体させちゃいました。
では、どうぞ!




6話 違和感

 

 

 フェイスチャット

 ※会話文のみ

 

 ~好き嫌い?~

 

 「イオン様、お食事をお持ちいたしました」

 「はい、ありがとうございます」

 「双子の分も一緒で…?」

 「ええ、いただきます。こちらの2つですね」

 「そうです。……では、失礼します」

 

 

 「アリー、シャル、食べるよ」

 「はい、です!……?」

 「………」

 「…なに、2人ともどうかしたの?」

 「…アリエッタ、これいらない…です」

 「…シャルも、たべたくない…です」

 「……え?…なんでさ?好き嫌いするなんてダメだろ?」

 「「……だって……」」

 「まったく……じゃあ、今日は食べなくてもいいから、次の食事は食べるんだよ。いただきま…」

 「……!だめ!」

(イオンを倒さない程度に飛びつく)

 「いおサマ、たべちゃ、だめ!」

(皿の上に勢いよく手を出す)

 「…なにを…!?」

 「これ、イヤなにおい、するです…!」

 「だから、だめ…!」

 「!?もしかして……!2人もまだ、口はつけてないね。……誰かいますか!」

 

 

 「イオン様!どうかされましたか!?」

 「この食事、毒味は誰が?」

 「は、……え、イオン様用のお食事はまだ届いていないはず…」

 「ということは、これは毒味も何もされていないもの、というわけですね」

 「!」

 「すぐにディストを呼んでください。それと、ヴァンにも報告を。……毒が入っている可能性があります」

 「かしこまりました!」

 

 

 「………先程食事を運んできたのは……」

 

 

 

 

 

 ~好き嫌い?2~

 

 「イオン様」

 「……ヴァン。どうだった?」

 「微々たる量ではありましたが毒物が。ディストによるとあの量の摂取で大事にはなることはありませんが、身体に蓄積され、最悪…」

 「そう」

 「イオン様のお部屋へ食事を運んだ者は、やはり過激派の教団員のようで……すぐに捕らえることが出来たので、詳しい目的を吐かせている最中です」

 「……そう」

 「ご無事でなにより……よく、お気づきになりました」

 「……双子さ」

 「?」

 「双子が2人して食べるのを拒んだんだよ。最初は好き嫌いかとも思ったんだけどね。『イヤなにおいがする』んだってさ」

 「…………凄まじい嗅覚ですね、あの毒物、一応無味無臭のものだとディストは言ってましたが……」

 「野生の勘…って奴なのか、はたまた本当に匂いを嗅ぎ分けたのか、だね」

 

 

 「とりあえず、双子が気づいたってことはディストには黙っといてよ。食事を持ってきたヤツが怪しかったから、とでも言っといて」

 「……それは構いませんが、なぜ…?」

 「あいつなら、『無臭のものに気づく嗅覚を調べたい』とかいって僕の可愛い双子を実験体にしそうだから(キッパリ)」

 「……承知しました」

 

 

 

 

 ~ともだち~

 

 「イオン様……」

 「だめ、ですか…?」

 「うーん……」

 

 

 「イオン様。どうされたのですか?」

 「あぁ、ヴァン。実はさ…」

 「そうちょう、アリエッタたち、ママにゆるしてもらいました」

 「ともだちも、いいって、いってる、です」

 「「ダアトでも、いっしょにいたい…です…」」

 

 

 「……どういうことだ?」

 「つまり、双子の友だちや家族の魔物が双子に協力してくれるってこと。そのためには討伐って事態にならないよう立ち入りについて知らせなければならないだろう?それを僕の独断でやる訳にはいかないから困ってるのさ」

 「なるほど…、ただ知らせるだけでは教団中に話が行っても理解までは簡単に行かないだろう……魔物の部隊を作る、というのも手ですな」

 「魔物の部隊…」

 「ライガの元で育ったために、魔物と意思疎通できる……ここでは他に追従を許さない能力なはずです。それを生かす場を作れば、見方も変わるのではないでしょうか」

 「……それで、いってみようか」

 

 

 「…なにより、あの能力を生かす場があれば……利用することもできるからな」(ボソッ)

 

 

 「…ヴァン、何か言った?」

 

 

 「────いえ、何も」

 

 

 

 

 ~おきて~

 

 「そういえば、2人……ライガクイーンに言ってた……掟、だっけ?あれ、他にはどんなのがあるの?」

 「…えと、『守りたいものができたら、己の命に代えても守りきれ』…の、ほか?」

 「うん」

 「えっと……『兄弟姉妹ができる時は、みんなで狩りに行く』とか『たくさん走れ』とか…」

 「『他の種族は従わせない、同じ立場のものである』、『毛づくろいは大切』……とか…」

 「……真面目なものから、不思議なものまで色々なんだってことがよくわかったよ。そもそも2人は毛づくろいどうしてたの?」

 「「…?こう…(お互いの髪の毛を鷲掴みにして…)」」

 「あー、いい、やっぱいい。せっかく綺麗に髪の毛まとめてるから、くしゃくしゃにしないの」

 「「…うー……はい」」

 「こういう揃ったとこを見ると双子だなぁ。普段は全然違うのに」

 

 

 

 

 「「「(いえ、違いがわかるのはイオン様くらいです)」」」←偶然見ていた守護役や教団員の皆様

 

 

 

 

 ───────────────────────────────

 

 

 

 イオンがを導師(フォンマスター)を継ぎ、双子が導師守護役(フォンマスター・ガーディアン)として働き始めて、いつの間にか2年半もの月日が経っていた。

 最初は士官学校を出たわけでもない、知識も守護役としての技量も仕事の要領も劣っている双子は、同じ守護役の仲間から嫌がらせを受ける時期もあった。

 無理もない。双子は7つになるまでは人としての教育を全く受けず、栄養も満足に取れない生活をしていたため心身ともに成長が遅れており、見た目通りの、もしくはそれ以下の幼さの物事しか分からなかったのだから。加えて守護すべき主であるイオンからの寵愛を一心に受け続けていたことも理由の一つだろう。

 しかし双子は技術も礼儀も知識も、周りの誰よりも劣っていても、誰よりも努力家だった。努力して、努力して、分からなければ尋ね、失敗しても二度繰り返さないように気をつけ、少しずつでも成長していき……そんな姿を周りに見せ続けていた。いつしか同僚達にも認められ、幼くてもそれを理由にしないで努力を惜しまずに何があってもイオンに尽くすその姿勢に双子の周りも自然と触発されはじめ、そんな空気を無自覚に作り上げた双子は守護役だけでなく多くの教団員からも頼りにされることが増えてきていた。

 また、導師守護役になると同時にヴァンの協力を得て結成した少数部隊…通称、『魔物部隊』のあげた成果が著しくよかったことも理由の一つである。

 

 「アリエッタ様!エンゲーブより、手紙を届けたフレスベルクが外に…」

 「はい!…『おつかれさま。預かるね』…えっと……こっちは総長、こっちは第二師団宛、です。届けるのお願いします、です」

 

 「シャルロッタ様、この街道に現れる魔物の討伐に何頭かお借りしたいのですが…」

 「…うん。じゃあ、シャルも一緒に行く。…いおサマ、アリエッタ、行ってきます」

 

 魔物部隊は魔物の中でも上級にあたるライガやフレスベルク、グリフィンなど双子の〝ともだち〟を中心にまとめた部隊で、人間は双子と他、魔物を畏怖せず受け入れた少数の神託の盾兵(オラクル兵)のみ……つまり〝ともだち〟の方が多く所属した部隊だった。主に鳩よりも早く大きな荷物を運ぶ運搬の仕事、ダアトの巡礼に使われる街道の安全確保などのために役立っていた。運搬も魔物討伐も双子のどちらかが同行すれば部隊の魔物達も立派に任務をこなすため、双子のどちらかが導師守護役が非番の時に指揮を執っていた。これによって非番の時でも仕事に駆り出されるとはいえ、双子にとっては家族や友達と過ごす心休まる時間でもあり、月に1度から2度ライガクイーンの元へ顔を出す時間をとることが出来たためにイキイキと参加していた。

 ただ魔物を受け入れられる一般市民はそういるはずもない。そのため、近くの森や裏道などを使い姿を隠す配慮をしながらの任務であり、せいぜいダアト内外での知名度は偶然目にした人々の「ダアトには魔物と意思疎通のできる少女たちがいる」程度の噂が流れる程度であったが。

 このように導師守護役と魔物部隊の二足のわらじ(後者は本人たちにとって家族や友だちと一緒に過ごすついで扱いだが)をこなし、大好きなイオンとの時間をより近くで楽しく過ごしていた。

 

 「イオン様」

 「いおサマ」

 「「アリエッタとシャルロッタはイオン様の手足です。だから、…ずっと、ずっとおそばに置いてくださいね…!」」

 「うん、……そうだね、大切な僕の守護役。……本当に、ずっといられたらいいね…」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「イオン様、今日のお仕事です」

 「あぁ、アリーか。……もう、傷はない?」

 「…はい、平気、です。……ごめんなさい、イオン様。アリエッタ、イオン様に攻撃、させちゃった…」

 「気にしなくていいんだよ、シャルもよく動いてくれたんだから。後でお礼を言わなくちゃね」

 「でも…」

 

 その日、イオンの執務室にはアリエッタが守護役としてつき、シャルロッタは魔物部隊へついていた。執務室にいるアリエッタの顔色は暗い。先日、イオンと双子はグランコクマでのピオニー陛下の即位式の帰りに導師の思想に理解を示さない神託の盾兵から襲撃を受けたのだ。そばにいたアリエッタが身を呈してイオンを守り、同じくそばにいて飛び出そうとしていたシャルロッタは、アリエッタを見るやすぐさま目標を変え襲撃相手に飛びかかったのだが、普段譜術に重きを置いた戦術でなかなか武器を振るわないシャルロッタは吹き飛ばされ……可愛がっている守護役(ペット)を傷つけられた怒りから最期のとどめをイオンがダアト式譜術で刺したのだ。本来ならばイオンの力を借りずに守護役のみで片付けるべきだったのだと双子はかなり落ち込んでいた。

 

 「僕は実際に助けられてるし、それに2人がいたおかげで襲撃者に隙が作れたんだ。むしろ……ッ!ゴホッゴホッ!」

 「!イオン様!…あ、…だれか…!」

 「問題ない、すぐに治まるから…呼ばなくて、…ゴホッ!」

 「…っ…イオン様……」

 

 突然イオンが咳き込み、アリエッタは慌てて医者を呼ぼうとするもイオン自身に断られ、近くに寄って背中をさする。最近、こんな日が増えてきていた。イオンの体調が優れない日が増え、ベッドに伏せることもしばしばあり……それでも、医者でもない双子には何もすることが出来ず、心配になりながらもそばに控えている事しか出来なかった。自分のことを本心から心配するアリエッタ……ここにはいないがシャルロッタのことを思い、小さく笑みを浮かべる。

 

 「ありがと、治まってきたよ。………やっぱり、この子たちは、僕のものだ。アイツにはあげたくない、……渡せない、な……」

 「イオン様…?」

 「……なんでもないよ。さぁ今日はまだ大丈夫だから、…ほら、スケジュール教えて」

 「………はい、です」

 

 イオン様が心配、でも大丈夫だと言われれば信じるしかできない。双子の片割れにも早く伝えよう、次のお休みにはイオン様に早く元気になれるように、…寂しくないように、なにかプレゼントを考えよう。アリエッタはそんなことを考えながら、仕事へと入っていった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「イオン様!」

 「いおサマ!アリエッタ、いおサマが、大変って…!」

 「あぁ、2人とも。もう平気ですよ、心配かけましたね」

 

 結局あの日から数日後、イオンはベッドにふせ、守護役も双子と言えども私室へ入れない日が続いた。病気で弱っているところを見せたくないし、すぐに戻るから。そう言われて、信じて待っていたのだ。……待つしか、なかった。

 そして数ヶ月。待ち望んだ今日イオンの面会謝絶がとけ、双子は知らせを聞いてすぐ一目散に飛び込んできたのだ。一応病み上がりでまともに動けないためだろう。イオンのそばには先に部屋へついていた守護役やヴァンが控えている。

 

 「イオン様、元気になって、よかった、です」

 「心配、した……です」

 「ふふ、大丈夫ですよ。2人とも待っていてくれてありがとうございます。僕は既に仕事に出てもいいくらいなのですが今日はヴァンが許してくれません」

 

 ですから我慢して明日から頑張ります、そうにこやかに話すイオンを見ながらアリエッタは、何かが引っかかっていた。

 イオンの、口調だろうか?──それはきっと他の守護役やヴァンがいるから。いつもイオンは他の人がいるとき、貼り付けたような笑みと敬語のようなふんわりした雰囲気をまとうのだ。

 ではヴァンとばかり話して自分たちの方をあまり見てくれないと感じることだろうか?──まだまだ未熟な自分たちよりは信頼できる守護役たちだから、そっちを優先してもおかしくない……

 

 ぐるぐる。ぐるぐる。

 

 考えてもわからないが、それでも、何かが気持ち悪くて……アリエッタはどこか不安そうな表情をしていただけだが、その隣で同じように小さな違和感を感じていたシャルロッタは目を見開いたまま小さく首を横に振っていた。

 そして口を開く。

 

 「…あの、」

 「…?どうかしましたか?」

 

 その返答を聞いて、あまり我慢のできないシャルロッタの理性はついに崩壊した。と、同時にこの小さな違和感をアリエッタも理解していた。

 

 「……ちがう」

 「え?あの、どうかしましたか…?」

 

 

 そうか、わかった

 

 

 「…っ、ちがう、ちがうちがうちがう!いおサマ、じゃない!」

 「…!」

 「いおサマ、いおサマ、どこ…!?」

 「シャルロッタ!」

 「だって…!いおサマ、さっきからずっと、」

 

 

 シャルとアリエッタの名前、呼んでくれない……!

 

 

 悲痛な叫びとなって部屋に広がったその言葉によってアリエッタは先程までの言いようのない気持ち悪さの原因に確信を持った。

 そうだ、部屋に入ってから今まで、一度も自分たちの名前を呼んでいないではないか。イオンの話し方や口調は他人行儀でも、双子が話しかけた時にまとめて返事をしたり名前を呼ばなかったことなんて一度もない。

 よく双子を知らない人からすればそんなこと、と思うかもしれないがアリエッタとシャルロッタにとってはありえない事だった。出会った時から必ず双子を見分け、ただ1人だけしっかりと自分を見てくれていた人に名前を呼ばれない……ただでさえ数ヶ月の間、会えなかったのだ。溜まった不安が爆発してもおかしいことではなかった。

 

 「アリエッタ、シャルロッタ、一度部屋へ戻りなさい」

 「でも、ヴァン総長!」

 「やだ、やだ!いおサマ、」

 「…………」

 「イオン様は病気が治ったばかりでお疲れなのだ。疲れているからそう見えるだけで、いつものイオン様と何ら変わりはない。安心しなさい」

 「でも、…でも……」

 「…………シャル、帰ろ?イオン様、元気になったらまた来よう…?」

 「………うん」

 

 自分も声をあげようとした瞬間にヴァンによって離されることになった。双子は嫌がったが結局ほかの守護役にも促され、渋々守護役の待機部屋へと足を進めた。同じ守護役仲間は、双子のイオンへの懐きようを依存に近い親愛の情を知っているために同じく確信は持てずとも違和感を感じていた。だが、双子のように口に出すことは出来ない。

 

 

 

 その後、双子を除いた導師守護役も部屋を退室し、その部屋はイオンとヴァンだけになる。

 

 

 

 「…まさか、こんなに早く違和感に気づくとは思わなかったな」

 「すみません、僕の力不足です…」

 「いえ、イオン様のせいではありません。…しかし、彼女たちは周囲に無意識に影響を与えている。現に他の導師守護役にも違和感を芽生えさせた。……これは何か対策を考えねばなりませんね」

 「そう、ですね。心苦しいところがありますが……(それに、あんなに必要とされている。被験者(オリジナル)がうらやましい……)」

 

 

 

 

 

 

 執務を再開した導師イオンは以前と変わらないかのように見えた。しかし、少しでもそばで仕えていたものにとっては違和感を感じるものであったらしい。

 

 ────後日、改めてイオンに呼び出された双子に対し、導師守護役解任の通告がされた。理由も告げられることなく、イオン本人からの通告。これと共に、前代未聞の導師守護役、総入れ替えが行われることとなる。

 

 獣の世界から連れ出され、人間の世界を知らない双子が5年もの時間の中で心から慕い、仕えてきた人からの解任の宣告に、双子は何をすることもできず多大なショックを受け、泣きながらその場から去るしかなかった。

 

 

 〝ずっと、ずっとおそばに置いてください〟

 

 

 そう告げた約束は、──────……

 

 






フェイスチャットと本編の雰囲気の差…!!
何でこうなったんでしょうか。書いているうちに、こんな展開に…
次回、ゲーム本編軸に突入させるかヴァンの元で六神将として働く場面を書くかで迷っています。

では、また次回をお待ちくださいませです。

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