ありがとうございます…!拙い文章ですが、楽しんでいただけるよう頑張ります!
今回の話は、導師守護役になる前……つまり、イオンも導師になる前です。
イオンの思いつきから始まります。
双子が
イオンは執務、双子は導師守護役であるための最低限の知識が詰め込まれた課題をゆっくりとしたペースではあるがこなしていた。若干文字の覚えがいいアリエッタの方が進んでおり、シャルロッタが苦戦していると教えている姿がみえる。
そして、それはイオンの思いつきから始まった。
「そうだ、ご挨拶に行かないと」
「イオン様?」
「ご、あー…さつ?」
「シャル、ご挨拶ね、ご、あ、い、さ、つ。」
「ごあーさつ!」
「………ま、いいか」
「あいさつ…だれに、ですか?」
「誰って…二人のママに決まってるだろう?」
「「!!」」
「結局(ヴァンが)勝手に連れ出して、(ヴァンが)勝手にこっちで残ることに決めさせちゃったのに、何も言わないままなんてダメじゃないか。しかも、もう2年くらいママにとっては可愛い娘たちが行方不明なんだよ?」
「…いお、サマ」
「何?シャル」
「シャルたち…ママ、あいに、いく…いいの?」
「家族に会いに行くのに、ダメなわけがないだろう?」
「「……!」」
「いつでも行けるように、勉強がんばってね。課題が終わらないといけないよ?」
「「が、がんばる!…です!」」
ここ、ダアトに連れてこられてから、イオンのそばでは笑うことも増えてきた2人。それでも、ここまで本当に嬉しそうな笑顔を見せるのは初めてだった。
双子は言われた通り机に目を戻し、未だ慣れないフォニック言語の書き取りに戻る。心做しか先程よりもペンの動きが良いようにも思える。
「もっと早く提案できたら良かったんだけどね。でも、他の奴らを納得させる理由が必要だったし。……と、決まったからには準備しなくちゃね。僕の外出願いも出さないと…」
楽しそうな双子を見てイオンも微かに微笑みを浮かべる。そして、確実に許可を(ぶん)取るための計画を立て始めた。
数週間後。
双子はイオンや他の導師守護役に出された課題をすべて終わらせた。後はおいおい学んでいけばいいだろう、と守護役長からのお許しも出て、嬉しそうに喜びあっている。
そしてイオンは課題を終わらせたこと、導師守護役となる適性を見るという名目でヴァン以外の詠師から外出許可を得た。もちろん他の守護役を連れていくことが条件だったが。
◆
執務室にて書類を捌くヴァン。
双子が導師守護役になると決めたことで教団に縛ることが出来た、と計画の進みに満足していれば突如部屋の扉が開かれる。
そして、唐突に言われた。
「双子のママに会いに行くから、これ休暇申請ね。じゃ、よろしく」
書類を置き、すぐさま踵を返そうとするイオン。
「は!?ちょ、お待ちください!あ、あの、イオン様。突然すぎます。それにお言葉ですが双子の教育がまだ」
「もう終わらせたに決まってるだろう?」
「(あの量を!?)……し、しかし、あなたは預言に詠まれた身、おいそれと許可など出せませ…」
「他の詠師たちにはもう許可もらってるよ。それに僕について預言に詠まれてるなら
「しかし…」
「そもそもさ、勝手に連れてきたヴァンのせいで双子は帰れないわけだし。僕のペッ……じゃなくて、客人扱いのままなら帰れるのに導師守護役に推したのもヴァンだよね。……考えてみれば、全部あんたじゃん、原因」
「(まだあの双子はペット扱いだったのですか…)」
「じゃ、そういうわけだから。許可よろしく」
怒涛の勢いで言いくるめるとさっさと部屋から出ていくイオン。
少しばかり呆然としつつ置いていかれた書類に目を通せば本当に課程を終わらせ、適性を見るいい機会ということが書かれ、他の詠師らのサインもあった。
「……まぁ、理由をつけて私も向かうとしよう」
ヴァンは他の詠師からの許可を先に得れば自分への交渉が簡単だろうとイオンが考え、自分に先に持ってくればもっと楽に許可したのだが…などと思いながら許可証にサインした。
実際はイオンがヴァンを後回しにしたのはワザとである。それを知らないのは…幸せなのだろうか。
◆
「まさか、魔物の方が道を開けてくれるとは…」
「それか、追い払ってますね…ライガって、肉食だと思ってたのですが…」
「アリエッタがライガを撫でてる!」
「なに、これって、遠吠え…っ?………あ、あれはフレスベルク!?」
いつもなら獣の声や木々のざわめきしか聞こえない森に、人の声が響く。
まだ導師ではないものの、教団の規定通り導師守護役30人を連れてイオンと双子(ともしもの為の用心にと【なぜか】非番となってついてきたヴァン)はライガの森へとやってきていた。
森に住む魔物たちにとってはイオン一行は侵入者。森の入口の時点で戦闘しつつの里帰りを覚悟していたのだが…
『ガルルルルルッ!!』
「魔物です!お下がりください、イオン様!」
「…まって」
「シャルロッタ…!?」
現れたのは1頭のライガ。いきなりの上級の魔物が現れ、イオンを囲んで警戒の体制に入る守護役とヴァンだったが、それをシャルロッタが制する。戸惑い、動きを止めたその間にアリエッタがライガへと近づく。
「あ、アリエッタは何を…?」
「えと、…み、てて…です」
「…わんっ!」
『!』
「うー…うるるっ」
『がうっ!』
アリエッタがなにか鳴き真似をすると、唸りを収めたライガ。それどころか、アリエッタに背中を撫でさせ、じゃれあっているようにも見える。ふとシャルロッタにも目をやると、ニコニコとしながらアリエッタたちを見ていることから、人間には分からない会話を成立させ危険を取り除いたのだろうと察することが出来た。
「……シャルロッタ」
「!……そーちょ…なに、です?」
「総長、だ。アリエッタのあれはなんだ?」
「そーちょ!…えと、シャル、アリエッタ、あのコと……とも、ともだち?…です。こわくない、おしえた、です」
一応確認すれば、友だちなのだという。シャルロッタは言葉を探しながら答える。
少しして、アリエッタはライガを伴いながらこちらへと戻ってきた。襲う様子もないライガは、アリエッタに顔を擦り付けて甘えているようにも見える。
「イオン様、このこ、ママのとこまでつれてってくれる…です。ほかの魔物も、よせません」
「…!なら、シャルも、おてつだいする、です。いお、サマ。おそば、はなれても…いい、です?」
「……いいでしょう。僕もあなた達がどこまでできるかを見るために来ています。いい機会です」
そして、はじめの同行者たちの会話に戻る。
ライガは一定の距離を開けながら先を進む。アリエッタはライガの隣を歩き、ときおり頭を撫でてやる。ライガが先導するからか、ときおり他のライガが草むらの影に見える時があるくらいで、敵意を持った魔物が全く寄ってこない。
そしてシャルロッタはというと、一度大きく息を吸いこみ、「おおおぉぉぉん!」と、聞いたことのないような遠吠えをあげた。すると、上空から一体の魔物…フレスベルクが降りてきたのだ。周りが驚く中、シャルロッタはその魔物に抱きつくように頬ずりしていた。そしておもむろにその背に飛び乗ると、上空へと舞い上がった。
こうして下をアリエッタ(とライガ)の警戒と案内、上をシャルロッタ(とフレスベルク)が警戒しつつ、クイーンの住む場所へと向かうことになったのだ。
◆
「ママ!」
「マー!」
ライガクイーンが根城…住処にしている場所の手前でシャルロッタが地面に降り立ち、アリエッタと並ぶ。そしてライガの案内とともにそこへと足を踏み入れると……彼女は、いた。
アリエッタとシャルロッタは再会した母親の元へと駆け寄り、ライガクイーンは立ち上がってゆっくりと双子へと近づく。双子の匂いを嗅げば、その顔を舐め、双子はくすぐったそうにしながらそれを笑って受け入れる。その光景は、完全に親子のそれだった。
しばらく住処の入口で見守っていたイオンたちだったが、イオンはヴァンを伴いクイーンへと近づく。
「クイーン、…アリエッタとシャルロッタのママ…ですね。僕はローレライ教団のイオン…導師となるものです」
「…『二人を連れてきてくれて、感謝する。二度と会えぬものと思っていた』って、いってる、です」
「そうですか……アリエッタ、そのままクイーンの言葉を教えてください。シャルロッタはクイーンに僕たちの言葉を伝えてください」
イオンは人間の言葉を理解していてもうまく口にできないシャルロッタをクイーンへの通訳、人の言葉に変換して伝える役をアリエッタに命じる。命令され、自分のすべきことを理解した双子は、気を引き締める。
「……今日は、アリエッタとシャルロッタをそろそろあなたへ会わせようと思い連れてきました。僕たちのところで、多くを学び、魔物としてだけでなく人間としての力をつけているところです」
「……私はローレライ教団において主席総長をしているヴァンという。2年前のあの日、いきなり双子を連れ去ってしまい申し訳なかった」
「……『なぜ、双子を連れ去った。我らは人間に仇なすことなく森の中のみで生活をしていたはずだ』、って、いってる」
「近隣の村に住む村人が、魔物に子どもが襲われていると言われてな。その時はあなたに育てられているとは知らず、ただ、人間の世界へと返すために、保護しようとしたのだ。それ以外に、他意はない」
「『大柄の人間、お前は隠していることがありそうだ。我らは嘘を好かん。……だが、人間の娘たちに人間として生きる道を教えてくれたことには礼をいう』…ママ、むずかしいことば、いっぱい…」
ヴァンは頭を軽く下げ、後ろへと下がった。ただ、もしイオンに危険が行けばすぐさま抜刀できる位置にはいるが。何を言っているのか意味がわからないまま通訳しているのか、少しアリエッタが目を回しているが……話を続ける。
「『して、お前たちは何をしたい。我が娘たちを返しに来たという訳では無いのだろう?』」
「それは……」
言葉に、詰まる。
結果的に母親から、クイーンから娘を奪うことになったのにまた連れ出す許可を得なくてはならない。導師守護役にしたいと言って伝わるだろうか…少しばかり言い出すことにためらっていると、双子が話し出す。
「……あのねママ、アリエッタ、守りたい人ができたの。」
「シャ、シャルも!ライガの、いちぞく、の…おきて!」
「守りたいものができたら、おのれのいのちをかけ、まもる…って」
「シャルと、アリエッタ…いおサマ…まもりたい!」
「イオン様が、はじめて、アリエッタたちをみてくれた、です。だから…」
最初は森から連れ出され、警戒心の塊しか見えなかった2人。その2人が森へ帰ることよりも、イオンのそばにいることを選んだ。無理やり決めさせたようなものなのに、だ。ある意味孤独だったイオンに喜びの感情が湧き上がる。
ここまで彼女達に言わせておいて、自分が黙っているわけにはいかない。イオンは前へ足を踏み出す。(後ろから危険だとか声は上がるが無視する)
「ライガクイーン……僕はいずれ、導師となります。導師となる以上、危険がないとは言いきれません。そのため、僕を守護する部隊……導師守護役というものが存在します」
『…………』
「……僕は、アリエッタとシャルロッタの2人を導師守護役として迎えたいと思っています。自然の中で、ライガの一族として育った2人にしかできない力があると、……そして、僕自身、彼女達にそばにいて欲しいのです」
「「!!」」
双子はそれを聞いて驚いたような様子を見せる。だって、導師守護役になると言った時…イオンはあまりいい顔をしなかった。勉強を見てくれている時は優しかったけど、なんだか後悔しているような、そんな顔をしていた。それでも恩返しをしたいと思ったから、双子はそばにいると決めたのだ。
…そのイオンは、そばにいて欲しいと思ってくれていた。それは双子が初めて知ったイオンの思いだった。
「もちろん、こちらへの里帰りもできます。……2人とも、クイーンに会うのを楽しみに、一生懸命頑張っていたのですよ」
「『アリエッタ……シャルロッタ……これが、2人の人間としての名か。……お前なら信用できる。……娘たちを、我が同胞を頼む』……って、いってます」
1歩、前へ足を踏み出すと頭を下げるような仕草をするライガクイーン。
それに対し、イオンも頭を下げる。
ライガクイーンの許可を得ることが出来たのだ。
しばらく家族だけにしてやろうと、イオンと守護役、そしてヴァンは森の出入口へと足を進める。
そして、森から出てきた双子は初めて見るような晴れやかな表情をしていたのだとか。
「ママ、ありがとう…シャルたち、がんばる」
「ママに、むれに、はずかしくないように。でも…さみしくなったら、またきてもいい、ですか?」
『…いつでも帰ってくるといい。人間だろうと、お前たちは私の娘に変わりない。ここが、お前たちの家だ。』
「…!はい!」
「……っ、いってきます、ママ!」
『あの、大柄の男……あれには、気をつけなさい……我が、娘たち……』
書き終わったあとに思いました。
ヴァン、ほぼ空気…笑←
今回の主役はイオンと双子とクイーンなので、まあいいかなとほっときます。
あともう1個、閑話で書きたい話があるので、本編更新はその後…になるかも知れません。
もう少しお待ちくださいませ。
では、今回はこの辺で。