また一つ年を重ねて、やりたいことがやれるようになるのと同時に、やらなくてはいけないこともだんだん増えていきます。
体を壊すことなく、今年も過ごせますように……
今回の話はシャルロッタ目線からはじまります。
前話のあの時、こんなふうに思ってたんじゃないかなー…を想像して書きました。
「これから、よろしくね」
そう言われてから、どのくらいたったんだろう。
◆
【いつも】1人は嫌で、引っ付いてた。
【いつも】暖かい隣が心地よくて、離れなかった。
【いつも】ポンポンってしてくれるのを待ってから起きる。
【いつも】ママは『仕方ない子だね』っていいながら、顔をなめてくれる。
【いつも】みんなで森の中を走り回る。
たくさんの【いつも】。
それが、【いつも】じゃなくなった、あのひ。
「がうっ!(おにいちゃん!)」
「うーっ!(みんな!)」
消えていく、消えていく。
あの銀色の何かに斬られた兄弟は、友だちは、跡形もなく消えていく。
キラキラ、キラキラ。
きれいだけど、これは全部みんなでできてる。
みんな、どこにいっちゃうの?
さっきまで一緒にいたのに。
さっきまで一緒に走り回っていたのに。
いなく、なっちゃった。
………こいつの、せいだ。
こいつが、みんなを消したんだ。
なんにも悪いこと、してないのに。
ただ、【いつも】と同じように生きてただけなのに。
ただ、一緒にいたかっただけなのに。
仕返しをしようと、ママが獲物に当てるような光のかたまりを、ぶつける。
暗いかたまりをぶつける。
熱いかたまりを、冷たいかたまりを。
…でも、何もなかったようにこっちに来るこいつ。
………なんか、いやだ……っ
近くにいたら危ないって、行きたくないって思うのに。
いつのまにか、捕まえられて、たたかれて、何も、わからなくなってた。
……ママに伝えてって頼んだあの子は、ママのとこ、たどり着けたかなぁ……
目が覚めたら、まわりは、暗い、なにもない所。
でも、起きた時も一緒だったから、だいじょうぶ。
誰もこない。誰もいない。
来たって、誰も近づけたりしない。
「ガルルルッ!!!」
「グルルルッ!!!」
それを無視してはいってきた。
2人でいれるならそれでいいの。
だから、ママに、みんなに教えてもらったとおり。
「……うっ!」
かみついた、のに。
これで、いなくなると思ったのに。
「こいつら、本当に何も知らないんだ」
なんで出てかないの?
「こんなもの、大したことないよ。それよりも、」
なんで楽しそう、なの?
「こいつら、僕のペットにするよ。構わないだろう?」
なんで、……悲しい顔、なんだろう?
◆
「そう、そこで……うん、上手」
「……じょ、ず?」
「うん、上手」
イオンの部屋で生活を送るようになって3ヶ月。
姉妹は少しばかり落ち着いてきていた。
とはいえ最初は、姉妹の扱いについて詠師会は揉めにもめた。
話は約3ヶ月前に遡る。
まず一つ、ヴァンが自分の駒として教育しようと勝手に森から連れ出したこと。
詠師会では本心は明かさず、『魔物に幼子が囲まれて森に入っていったのを見た、という村人から依頼され保護した』と善意でしたことだと済ませようとしたが、誘拐といえるのではないか、と議題に上がったのだ。
しかしこれは保留となった。
姉妹の故郷はフェレス島。しかしダアトの諜報部隊を動かしても、故郷がどこかなど知ることができなかったのだ。つまり、姉妹の存在を表す戸籍が不安定。加えて保護者代わりになるとしたらライガクイーンなのだろうが、彼女は人間ではないため、言葉の通じない許可をとるなんてことが出来るはずもない。
真実はどうあれ『魔物に攫われた幼子を保護した』という名目で連れてきたが『身寄りがなく、預かった』と詠師会をまるめこみ、教団預りとすることに決まった。
問題になったのはここからだった。
最初は、ヴァンの寄越した(「自分が勝手に連れてきたんだから、ペットにするとはいえまずはお前が責任を取れ」という、イオンからの命令により派遣された)部下が世話や教育をし、空いた自由時間をイオンと過ごす(もちろん護衛付き)ことにしようとした。もちろんヴァンも顔を出せる時は部屋へ行く。こうすれば導師となる身のそばに得体の知れない存在を近づけても危険から守れるし、且つペットと過ごしたいという願いも叶えられる。妙案だと誰もが思ったが、彼らは忘れていた。
姉妹の大切な存在を屠ったのは、他でもないヴァンとその部下だということを。
ヴァンが部屋に来る。
→姉妹そろって威嚇&姉妹の周りに浮かぶ音素のかたまり。
=それ以上こっちに来るなら攻撃するぞ!
部下が部屋に来る
→一見同じ制服、兜などで顔が隠されているのに部屋に入った途端に気づき以下同文。
このままでは近づくことすらできないうえ、教育も進まない。それだけならまだしも、双子の世話を任された者の中に【人の言葉などわかるはずもないから何を言ってもわかりやしない】とばかりに双子を前にして暴言を吐くものまで現れる始末。
確かに言葉はわかっていないし、伝わっていないのだろう。しかしその分ほかの感覚が鋭くなっているのか、感情の機敏に気がつくのか、悪意を向けたものに対してはそこらのものを投げたり噛み付いたりと暴れて抵抗を重ねる結果となった。
どうしたものかと上役が頭を抱えている隙に、行動を起こしたものがいた。
「──ですから危険です!!ヴァン様でも無理だったんですよ!?」
「だいじょうぶですよ」
「〜〜っ、イオン様ぁ……」
そう、イオンだった。
頭を抱える面々を一瞥すると、「では今度は僕がいってみましょう」とにこやかに一言言って立ち上がれば、さっさと双子のいる自室へと歩き出した。イオンの行動を理解するのに数秒遅れて詠師たちは大慌てすることになるのだが、我関せずである。
「それに、ちょっと気になることがあるんです」
「気になること、ですか?」
「そう。ヴァンや部下は近寄ることすらできないと言っていましたよね?」
「え、はい…そう仰られていましたが…」
「では、なぜ僕達は平気だったのでしょう?」
「?、と、仰いますと…?」
「ヴァンやその部下ではダメだったようですが、僕は二人の頭を撫でることが出来ました。あなたたち守護役が近づいたとき……なにか被害を受けたことは?」
「……あ……」
「無いのでは、ありませんか?まぁ、多少逃げ回ったりはあったかも知れませんが…」
さすがのイオンとて、凶暴な獣も同然の檻に身一つで入る気は起きない。当然止められるだろうし、自殺行為をするのも嫌だ。
しかし、ふと思ったのだ。
ヴァンとその部下達は部屋に入る前から姉妹に何かしら反抗的な態度をとられることに変わりはない。恐らく足音を聞き分けたり匂いで気づいているのだろうと思う。
だが、それ以外の人物……イオン自身や食事やお風呂などを手伝う守護役の女性たちなどに対しては、唸り声をあげたり警戒するそぶりは見せるが過剰な攻撃をしようとすることは無いように感じたのだ。
そこから、【あの双子はなにかしら区別をして態度を変えているのではないか?】と仮説を立てた、ということ。
果たしてその仮説は正しかった。
イオンが扉を開けると双子は同時に顔を入口に向け、睨みつけながらお互いに身を寄せあったが、特に攻撃をしようとしているわけではなさそうだった。それを確認するとイオンはスタスタと部屋へ入り、いすに腰掛ける。
そして双子をのんびり観察をする。それだけだ。
何も言わない、何もさせない、何も手を出さない。ただ、同じ空間に一緒にいるだけ。
その日だけではなく、その日から毎日続けた。導師の教育を受けている最中でもあったため、勉強道具や回される書類などを部屋に持ち込まれることもあったが、イオンはかかさず双子の顔を見るようにしていた。
どのくらい続けたか、双子がイオンとその護衛の部屋にいることに対してそこまで警戒をしなくなった頃。
イオンは次の行動を起こす。
以前名前を告げた時のように双子へ少しずつ近づくようにしたのだ。警戒の声をあげられたらそれ以上は行かない、それがなければ少しずつ距離を縮めた。
そして約1ヶ月の間特に手を出さず、双子に対する悪意を見せることもなかったため、ほんの1週間ほどで警戒の声をあげられることなくそばに行くことに成功したのだ。
「アリエッタ、シャルロッタ。僕の、名前は、イオンです。い、お、ん…」
コンコン
「イオン様、お食事です」
「…、ありがとうございます。……食事を置いたら一度部屋の外へ出てもらえますか?」
「……わかりました。お食事の毒味は済ませてあります。何かあれば、すぐお呼びください」
「はい。………よし、行ったね。2人の分も、ご飯あるよ。ほら、ご、は、ん」
「「…………」」
「…見てるけどこっちには来ないか…いや、匂いはかいでるのかな?」
このように物の名前などを話しながら見せる。椅子に座る。ご飯を食べてみせる。
最初の頃は床に座り込んだまま動きそうになかったので床に食事を置き見ていると、手づかみや顔を皿に入れて食べていたために、なんとか人間らしい食べ方にしたいと一緒に食事をとる回数を増やすたびに2人は椅子に座ることを覚え、机で食事を取れるようにまでなっていた(この時はまだ手づかみ)。
その日も机につき、食事を始めようとした時だ。
「………」
「なに?アリエッタ」
アリエッタもだが、シャルロッタもじっとイオンの手元を見ていた。食べ物をとる時も、口へ運ぶ時も。
「……あぁ、食器が気になるのか。一応2人用にスプーンを持ってきてもらってるけど…」
「?」
「……ス、プー、ン」
「……ぷー…?」
「…!……そう、スプーン。ほら、こうやって使う。そう…」
先に手を伸ばすのはアリエッタ、その後にシャルロッタが続く。単語にもなっていない、たった1つの音でしかなくても反応が返ってきたことは大きな収穫だ。
そんな日々を過ごすうちに物の名前や単語などを繰り返すようになり、今では見様見真似で同じことをしたがるようにまでなった。
イオンが食事をとる時には双子も隣で食べる。
イオンが書類仕事や勉強をする時は双子にも紙とペンを与えられ自由に書く。
もともと魔物の間とはいえ自分の意思を持って伝え合うことが出来ていたのだ。ならばその意思を伝えるすべを与えてやればいい。同じことをすることで双子の今までの言語とオールドラントの人間の言語をすり合わせていく。今ではフォニック言語を勉強するまでになっていた。
「…いー…」
「ん?何、シャルロッタ。……ふうん、よく書けてるじゃん。えらいね」
「……!…♪」
イオンはできると褒め、頭を撫でてやる。できないと、怒りはしないがやり直しともう一度やらせた。双子は言葉ではまだ一致しなくても、撫でられる心地よさから「これはいいことだ」と判断し、同じことを繰り返す時は何かが違うのだと判断するようになった。
どんな事でも先に興味を持つのはシャルロッタ、行動を起こすのはアリエッタだった。どうやらシャルロッタは好奇心は強いが行動に起こすのは苦手らしく、アリエッタはその逆であるようだ。
順番に一つずつでも知識を蓄えていく2人を見ていてポツリとイオンは呟く。
「……僕が君たちに教えられるのはいつまでなんだろうね」
「いー?」
「いお、?」
「あぁ、ごめんごめん。なんでもないよ」
いずれ、2人はイオン無しで過ごすことになる。
「(その時までは、僕だけのモノ。
その時が来ても、僕の代わりになんてあげるつもりない。渡すもんか。)」
そんな思いを表に出すことなく、不思議そうにイオンを見つめる双子の頭を撫でてやるのだった。
終わりがうまく締められない…
これでちゃんとお話が終わっているように感じてもらえるといいのですが…;;
今回は双子とイオンが過ごす日常でした。
前半はいろんな感情や思いを言えますが、言葉を知らないためにところどころ抜けているものもあります。
例えば、「アリエッタ」の名前。
まず、名前という概念がないので呼べません。
他にもいくつかわざと書かなかったこともあります。
探してみてくださいね!←
答えは活動報告にでもあげておきます。
このお話の時点では、まだヴァンたち嫌われてます。警戒の対象です。
いつ、信じられるようにしよう…悩むところですが、ここまでで。
次回はまた、ネタがふってきたら更新します。