双獣の軌跡   作:0波音0

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今回はシンクとディストとの会話がメインです。
…メインなんです。
後半の会話の方が大事、に見えたら後半がメインなんでしょう。
もうアレです、アニスがとんでもなく極悪人にしか思えなくなってくる…

多分、きっと、いつか、救済話も書きます。

というわけで、今回のお話です。どうぞ




外角大地編
10話 森の火事


 

 

ディストが双子にぬいぐるみを与え、それを気に入った2人が同じように抱えるものだから、ますます見分ける方法が髪色の少しの違いと性格と、少し関わりを持たないとわからない、ということになってから半年。いつの間にか双子がダアトに来て9年が経ち、姉妹は16歳になっていた。まだ導師守護役を務めていた頃である12歳の時くらいに2人の体は成長を止めたのか、16歳になっても体は小さなままで言動もそれに引っ張られるように幼いまま。それでも二つ名を持つ師団長として、少ないながらも魔物部隊を率いて任務をこなし、時々なら1人でも仕事をこなせるようにもなってきた。

魔物を率いる双子が2人で任務にあたることから〝双獣〟の二つ名で知られているが、魔物を使役し譜術を駆使する〝妖獣〟のアリエッタ、接近戦で獣のごとく爪を振るう〝猛獣〟のシャルロッタというそれぞれでも呼び名が囁かれ、浸透していっていた(そして密かに双子はそれぞれ自分だけの名前だ、と喜んでいたりする)。

 

危険と隣り合わせの仕事をこなしながらも様々な時を一緒に過ごす人間の仲間(七神将)を得て、たまに里帰りしては母親(ライガクイーン)兄弟姉妹(ライガたち)との逢瀬を楽しみ、幸せだったのだ。空き時間になればお茶会を開いて集まって、普段からよく一緒に過ごすアッシュやシンクに構われながら、ディストに甘え、ラルゴやリグレットが見守る。師団へ行けば人間の世界でやっていくことにした双子について来てくれた魔物たち(ともだち)とおしゃべりしたり、日向ぼっこをすることが出来る。納得出来ないことといえば、元々自分たちが仕えていた導師イオンの姿をなかなか見ることが出来なかったことくらいで、一応、満足した生活だったのだ。

 

「「…………」」

 

執務室。そこは普段書類の処理をしたり、忙しい中時間を開けてはお茶会や情報交換などで七神将が集まる部屋だった。その部屋にアリエッタとシャルロッタは真っ青な顔色で座っていた。偶然その部屋へ書類を片手にやってきたシンクは、扉を開けた時の格好で数秒固まり、我に帰りテーブルについて双子を眺めているディストを(仮面で見えないが)ジト目で見る。

 

「どうしたのさ、そこの2人。泣く寸前の顔してるじゃん……アンタのせい?死神」

「っ、薔薇だ薔薇ァ!私は死神ではないと何度も……っ!……はぁ……、わたしではありませんよ……アッシュが持ってきた情報を聞いてから、コレです」

「はぁ?」

 

〝アリエッタ、シャルロッタ〟

〝はい…?〟

〝どうかしたですか?アッシュ〟

〝お前らが育ったのは、北の森……だったな〟

〝うん、……どうか、したの…?〟

〝……ヴァンからも聞いてないのか?〟

〝〝……?〟〟

 

   ──北の森が火事になったらしい──

 

 

「なるほどね」

 

双子の唯一である家族が危ないかもしれないのだから、真っ青になるのも当たり前というわけだ。七神将として出会ってからそれなりに付き合い、2人のことを結構理解している自覚のあるシンクだったため、2人の心境もよくわかるつもりだ。きっとすぐにでも北の森(ふるさと)へ駆けつけたいのだろう。ただし、これだけは言っておかなくてはいけない。双子は理解しているようだが釘を刺す。

 

「わかってると思うけど、勝手には行けないからね」

「……うん……」

「わかって、ます……」

「……そうですねぇ、勝手に行くことは許されません。あなた達は幼いながらに軍人、しかも二つ名を背負う身でもありますから、訓練、任務、遠征……多くの義務があります」

「「…………」」

 

そう、ただの子どもであれば保護者同伴であれ、いつでも好きな時に好きなところへ行くことはわけないだろう。しかし双子は軍人。仕事をもらって働いている立場であり、なにより師団長という地位を持っている。普通の教団員よりも縛られる制限は多く、果たさなければならない義務だって多い……活かす活かさないはともかくとして、その分多くの権利や権力をもらっているのだから。それが理解できている双子は、黙り込むしかない。

そんな2人を横目に、ただ見ているだけだったディストが何でもないことのようにシンクへと話しかけた。

 

「しかし、……任務の帰り道が重なった時はどうしようもないですよねぇ、シンク?」

「「!!」」

「……まぁ、そうだね。なにかの原因でそこを通らざるを得なければ、誰にも文句は言えないね。だって本来の任務は終わらせてるんだから」

 

もちろん2人は双子に対して話しているわけではなく、世間話という体での会話である。強いていえば確認作業といった所か。ただ、〝偶然居合わせた人に聞かれてしまうくらいの大きさの声で話している〟が。そう、沈んだ表情をした子どもの耳にしっかりと入るくらいには。

 

「ディ、ディスト…」

「…はい?……あぁ、あなた達がいたことを忘れていました。ですが、私とシンクの話は聞こえていませんよね?」

「…?…いま、はなして…むぐ」

「は、はい!聞こえてない、です!ね、シャルロッタ?」

「…ぅ〜?」

 

じゃあ、帰りならママのとこに行ってもいいんだ、と聞こうとしたシャルロッタに自然と聞かせていない体を装うディスト。バカ正直に聞こえていたと言いそうだったシャルロッタの口をディストの言いたいことを察したアリエッタが慌てて塞ぐ。むぐむぐしながらも、そこまで抵抗しないのは姉だからなのか……不思議そうにしているのはあえてここでは全員無視するらしい。

 

「まぁ、おとなしく任務をしっかりこなすことだね。ボクらはついて行かないから。誰も見てないからって勝手すぎることはしないでよ?」

「はい!」

「…?…?」

 

シンクは、ディストは、任務が終わったあとのことは見ていない、気にしないことにしてくれるらしい。よく分かっていないシャルロッタには後で教えるとして、アリエッタはその言葉の裏の優しさに嬉しそうな笑顔で返事をして返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ」」

「「…あ」」

 

それから北の森方面の任務が入ることを心待ちにしていた双子は、この日、ありそうでなかなか無かった出会いをしていた。導師守護役としてアニスを従えたイオンと再会したのだ。

 

「………あ、あの……」

「……ぅ……」

「……2人とも、元気そうですね」

「「!!」」

「あの日、2人には辛いことを言ってしまいましたから。少し気になってたんです」

「イオン様…」

「いおサマ…」

 

近づく機会なら、あったにはあった。師団長として警護につくこともあったし、導師からの任務では報告する時に会えたかもしれない。守護役と言えども神託の盾兵としての階級は双子の方が上である場合もある。元守護役という立場、そして階級を使えば会うことにそう弊害はないはずだった。

ただ、話しかける勇気が出なかったのだ。

 

〝守護役はあなた達である必要はありません〟

 

そう言われたことが未だに燻っていて、嫌われたとばかり思っていたから。自分たちにあったところでイオン様は気分を害してしまうかもしれない。自分たちが我慢すれば、イオン様が嫌な気分にならないなら。自分たちは遠くから見れるだけでも、姿を見れるならそれで……そう、会いたい、話したい気持ちを押し殺していたのだ。だから報告だって他の師団員に任せていたのに。

まさか、普通に廊下ですれ違うなんて思ってもいなかったから。

でも、イオン様は話しかけてくれた。謝ってくれた。2人はそれが嬉しかった。

 

「あの……イオン様、アリエッタたちは…」

「あの〜、イオンさまぁ〜。この子達誰なんですか〜?なんかすっごく親しげで、アニスちゃん気になるんですけど〜?」

「「!?」」

「すいません、アニス。彼女たちはアニスが来る前……元々ボクの守護役をしてくれていたんです。ええっと、……アリエッタと、シャルロッタ。双子なんですよ」

「へー、そうなんですか〜……」

 

久しぶりのイオンとの会話を続けようと口を開いた矢先に割り込んできた1つの声。言わずもがな、イオンの守護役として一緒にいたアニスである。

双子は、驚いていた。口調もそうだが今、会話をしているのは上司である導師なのだ(双子は知らないが、双子はアニスより神託の盾兵としての階級が上である)。その導師との会話を遮って、自分の疑問を優先させた……しかも内容は自分たちのこと。そんなことは別れてから聞いてもいいことではないか!自分たちと違って、私室まで一緒にいられるのだから聞く機会なんていつでもある。

呆気に取られている双子をよそに、双子についての説明を聞いたアニスはぬいぐるみを抱きしめる双子を上から下まで値踏みをするように見やって、

 

「……根暗っぽくて小さいくせに。こんなのがイオン様の側付きだったんですか〜?入れ替えがあってよかったじゃん」

「「!?」」

「アニス、」

「…はーい、失礼しました〜」

「はぁ……すみません、2人とも…」

「い、いえ…!」

「いおサマ、わるく、ない…です!」

 

言い放ったのは、双子を貶す言葉。確かに双子はアニスよりもイオンよりも身長は小さい。根暗…なのは、ただ人見知りが激しいために、そして言葉が追いつかないためにそう見えるだけだろう。だって一部の人(仲間や家族)と一緒にいる時の双子は表情豊かで子どもらしい無邪気さだって見せるのだから。

アニスとしては自分を認めない他の導師守護役からの嫌がらせがあったことでストレスが溜まっていた故の発言かもしれない。しかし双子は努力し、周りに認められた上で側付きをしていたのだ。その発言はイオンのためにしてきた努力をすべて否定された気分でしかなかった。

結局イオンはアニスを軽く止めるだけにとどめ、話を続ける雰囲気でもなくなってしまったので分かれることになった。

 

静かに頭を下げる双子とすれ違い、去っていったイオンとアニスの後ろ姿を見ながら双子は話す。ぬいぐるみを強く抱きしめ、その頭に顔を押し付けながら。

 

「……アリエッタ」

「…なに?シャルロッタ」

「シャル、あいつ、きらい。シャルたち、がんばった……がんばった、のに…」

「……アリエッタも、嫌い。礼儀…ダメだよね?イオン様を遮るなんて…」

「それに、…」

「……」

 

まだ、遠目に見ているだけなら気にはなるけど気にしなくてもいい存在だったのに。この相対で双子はすっかり(アリエッタは以前からだが)アニスに苦手感情を持ったようで、出てくる話題は不安や不満ばかりだった。だいたいが〝イオンの評価を悪くしないか〟ということだったが。

 

ポツポツと言いたいことを言い合っていた双子だったが、じっ、と2人の歩き去った廊下を見ていたシャルロッタがふとなにかに気づいたようにぬいぐるみから顔をあげた。

 

「……アリエッタ」

「……なに?」

 

 

 

 

「いおサマ……アリエッタとシャルロッタ、わかってた……?」

「…………」

 

 

 

 

それを聞いたアリエッタも廊下の向こうへと視線をやる。

 

〝ええっと、……アリエッタと、シャルロッタ。双子なんですよ〟

 

「どう、かな……でも、…まだ、そうだって決めつけちゃうのは、早いよ…だって、イオン様だから。アリエッタとシャルロッタを見分けられないはず、ない……よね…?」

 

 

悲しそうにつぶやく声が、その場に溶けていった。

 

 






シンクとディストが出張ってます。
アニス、なんか物凄い悪者感が出てます(2回目)
ここらで双子とアニスを会わせておかないと、本編中で「根暗ッタ」呼びにさせられないんですよ…会ってないことになっちゃうかもなので。
そしてついに(?)双子がイオン様にも疑問を持ちました。これからどうなるのでしょうか?ある程度は決めていますが、双子が暴走したら私もどうなるかわかりません。

次回は本編に入ります。
ただ、活動報告にもあげたとおり、双子の登場……といいますか、合流のさせ方に迷ってます。
二人同時にママに会いに行かせるか……シャルロッタ単体で会いに行かせるか……それによって、タルタロスでのあれそれや、フーブラス川でのあれそれに違いが出てくる予定です。
シャルロッタ単体だと、きっと平仮名ばっかりで言いたいことを説明できるのかが疑問ですが、やれないことはないと信じてる。

書き進めながら悩むことにします。
では、今回はこのあたりで。失礼します。

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