双獣の軌跡   作:0波音0

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今回は外伝から少しと、オリジナルのお話です。
例によって例に漏れず、原作入りは果たしていません。
外伝の時系列を少しだけ無視しています。
ここに、なんとか、ディストさんとの絡みを入れときたかったんです…!!

と、いうわけで、続きをどうぞ。




9話 導師守護役であること

 

 導師守護役(フォンマスター・ガーディアン)総入れ替えによって、新たに選出された守護役たちは導師イオンとの対面の場で張り切っていた。

 

 「あ、あの…そんなに気合を入れなくていいんですよ?」

 「「「「いえ!イオン様を守るためですから!」」」」

 

 ────それはもう、守られる立場のイオンがひくくらいに。

 導師守護役は女性だけで構成された導師を守るためだけに存在する守護役集団であり、唯一教団の最高指導者である導師に意見することができる権利を持つ。これはもしも導師が自分の身を危険に晒す決断を迫られた際、導師自身を守護役である彼女らが何がなんでも守るために与えられた特権である。

 女性でありながら導師を守りきるための高い戦闘能力を有し、導師が権力者であるからこそ交流のある上流階級との会談や国王・皇帝との謁見にも護衛としてついて行く守護役は、教養や礼儀作法などもしっかりと身につけているため、もしも栄えある守護役を辞めることになったとしても貴族のメイドとして再就職に有利だったりそれこそ貴族へと嫁ぐ者がいたりといわば出世への近道、エリートコースである。その分厳しい訓練や教養、作法の講義などをこなさなければならないが女性なら誰もが憧れる職業なのだ。

 その彼女たちが総入れ替えによって自分たちがお守りする導師イオンと顔合わせ…ここで導師に気に入ってもらえれば、よりいい立場に立つことが出来る……彼女たち全員に気合が入るのも無理はなかった。

 いや、正確には、一人……

 

 「(はぁー…やんなっちゃうよ。異例の導師守護役総入れ替えだからって、みんなギラギラしちゃってさ…)」

 

 導師に気に入られようと守護役内で睨み合う中、一人だけ興味がなさそうにため息をついている子どもがいた。

 彼女はアニス・タトリン、新しい守護役の中でも一回り小さく、大詠師モースの推薦で就任した13歳…今期最年少の導師守護役だった。認められさえすれば守護役になるための年齢制限など無いようなものだが(現にアリエッタとシャルロッタは10歳で守護役として就任していた)、幼年学校を出たばかりで士官学校を出ていない彼女は、言い方は悪いが先に言ったような教養や礼儀などを求められる役職において異例の存在だった。

 だが、導師から見ると違ったらしい。周りがギラギラと睨み合う中、一人違う態度を見せるアニス。それに気がつくなり指示を飛ばす。

 

 「……えっと、では、そこの貴方。護衛はあなたひとりで十分です。そんなにたくさんの護衛なんていりませんし」

 「……え゛っ、あ、あたし…?」

 

 1人、違う態度を見せていたアニスを側付きの守護役として指名し、指名された本人も含めて驚かす。イオンとしては四六時中自分の近くでも睨み合いをされては困るし、うまく止める自信もないため、全く興味のなさそうで言葉通り「子ども」らしいアニスを指名したのだろうが、指名されたアニスは、「なんであんな子どもがイオン様に選ばれるのよ!」という視線に内心(あたしだって知らないわよ…)と言い返しながらイオンへとついて行った。

 

 そんな守護役たちの顔合わせを見ている者達がいた。

 

 「イオン様…なんで…あんなコ…」

 「いおサマ、シャルたちより、あんなこがいいの…?」

 「ケッ、あんなヤツ…」

 

 廊下の柱から顔を出して、イオンたちを涙目で見つめる双子に、同じく柱を背もたれにして舌打ちとともに眺めるシンク、の3人だった。

 当然3人に導師と導師守護役の顔合わせに立ち会う必要があったわけではなく、ただ、居合わせただけである。3人が3人共に【導師イオン】に思うところがあるために、居合わせただけで済まない感情を抱くことになっている……というところで、七神将で組まれている訓練にいつまで経っても顔を出さない3人を探していたラルゴがやってきた。

 

 「シンク、双子!ここにいたのか!これから演習だろう……いくぞ」

 「「うぅ〜…イオンさまぁ〜…」」

 「…ケッ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「…ラルゴ、いおサマ、かわっちゃった。じぶん、だいじ…しない……っ」

 「イオン様は大切な人だから、たくさん守護役いるっていってた、です。なのに、〝そんなにたくさんの護衛なんていりません〟って、いってた…っ」

 

 双子が動こうとしないのを見かねたラルゴが両脇で抱えて運ぶ中、姉妹は揺られながらポツリポツリと言葉を落とす。ラルゴは無言で視線のみを双子へ返す……自分は知っているから。あの導師イオンはイオンであってイオンでないモノであることを、双子の慕う人物はもう居ないということを。だが、ラルゴがそれを口にすることはない。これは双子をこちら側へと引き込み続けるためであるのと同時に、導師イオンの願いでもあったから。だから、静かに話を聞く。

 

 「それに、きょーだんのヒト、いってたもん。アニス、やくそく…やぶってるって」

 「施設外でお布施をもらっちゃダメ、ですよね?なのに、アニス…もらってた」

 「……ちょっと、それ誰が言ってたの?」

 「おそと、じゅんれーしゃ…?のヒト。おそとで、ふせきめぐりつあー…?えと…かんこー、ガルドでしてもらった…って、いってた」

 「アリエッタは、それしてるトコ見た、です。アニス、そんな任務受けてないのに…。シンク、それがどうかした、ですか?」

 「それ教団員じゃないじゃん、思いっきり一般人!…何やってくれてんのさアイツ…」

 

 一応(悪態舌打ちはあったし不機嫌そうだが)素直についてきていたシンクだったが、余程アニスを気に入らないと見える双子の言葉を聞いて顔を上げる。

 双子が言っていることははっきり言って【いけない事】どころではない。双子は巡礼者をローレライ教団の教団員のようなものとして認識しているようだが、実際は一般人である。その一般人は預言をローレライ教団の預言士に詠んでもらう代わりにお布施としてガルドを納める。そのガルドは教団へと還元されるため、決して個人でどうこうしていいものではない。第七音譜術士(セブンスフォニマー)としての素養を持たないアニスは預言を詠む…という偽りはしていないようだが、譜石めぐりツアーなどを個人で行いガルドを受け取っている。譜石についての説明をする任務を請け負う教団員もいるのに、だ。アニスは神託の盾としての給金を受け取るだけでなく、副収入を得ているということではないか。……今までバレていなかったものの、下手をすれば詐欺である。

 やっぱり双子の情報は侮れない、なんとか訴えられる前にもみ消さないと…などと考え始め、ウンウン唸っているシンクを不思議そうに見た双子は、ラルゴへと目をやる。

 ……なにか、変なことを言ってしまったのだろうか、と。

 

 「……気にするな。お前たちは、これからもそのまま、色々と不思議に思ったことは信じられる者にあとからでも聞け」

 

 双子は自分たちが言ったことの大きさに自覚のないまま同時に首をかしげ、よくわからないままに小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 あの顔合わせから月日は流れて、双子はディストの研究室へと呼ばれていた。曰く、双子の武器は方やぬいぐるみ方や手甲鉤となかなか使い手のいない特殊なものな為メンテナンスをしよう、ついでに少し手を加えようということらしい。双子にとって戦いの手本は人間ではなく兄弟や母親(ライガたち)であり、武器は道具ではなく手足の爪や鋭い牙を使うのが当たり前である。そのため使い手が周りになかなかおらず、使い手ではなくとも自分たち以外に武器に詳しい人がいることはありがたかった。

 この話……武器のメンテナンスといえば聞こえはいいが、要は改造である……を聞いた一部には、何かがあれば遠慮なく譜術をぶつけろとか叫んで誰かを呼べとか色々言われたが、ディストを全く危険視していない二人はその反応を不思議そうに頭に入れながらディストの部屋へと向かっていた。

 

 「あれ……」

 

 それを見かけたのは、きっと偶然だった。

 ────アニス。

 食事休憩中なのだろう、お盆を持って一人で歩く彼女を見つけてシャルロッタは足を止め、手を繋いでいたアリエッタも立ち止まる。アリエッタはアニスに気がついていないのか、急に立ち止まったシャルロッタを不思議そうに見ていたが。

 やはり、一人導師に指名されたあの時から彼女は他の守護役から恨みを買い、今は周りの目を盗んでいじめられたり仕事の妨害をされたりしているらしい。自分たちも最初は同じようにたくさんの人にいじめられたけど、導師守護役らしくあろうと、何より大切なイオン様のそばにいて恥ずかしくないように努力し続けていたら、いつの間にかいじめはなくなっていた。だから、ひとりぼっちのアニスを見たシャルロッタも(認めたくないけど)イオン様の守護役らしくあろうと頑張っていればいつかは終わるし、自分も乗り越えたことだからと視線を前へ戻した。

 

 「導師の動向を逐一報告しろ。お前は自分の立場を理解しておるだろう」

 「……モース様のお心のままに!」

 

 聞こえた会話に一度だけ振りかえる。

 

 「…………」

 「シャル?」

 「……なんでもない、…いこ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「あのね、ディスト……シャル、しりたいこと、ある…」

 

 ディストの研究室にて、今はアリエッタのぬいぐるみの調整をしていた。なんでも持ち主の音素振動数に反応して自在にぬいぐるみの爪を出し入れできるように改良されているのだが、それの経過報告とメンテナンスを行うとかうんたらかんたら……と、説明されても双子にはほとんど理解出来なかったので、使い心地と壊れたところがないか見ると噛み砕いた説明をされて大人しく待っているところだった(ちなみに次はシャルロッタの手甲鉤を見るそうだ)。

 

 「ふむ、珍しいですね、……いいですよ、このディスト様になんでも言ってみなさい!」

 

 譜業をいじるディストを大人しく見ていた双子だったが、ふとシャルロッタが声をかける。めったに自分からは話そうとしないシャルロッタを珍しそうに横目で見て、手は止めないまでもディストは聞く姿勢を見せる。

 

 「うん、あの、ね、……アニスの、こと…なの」

 「!、彼女ですか!彼女はこの薔薇のディストの友!私が10年間座り続けた食堂の席に座りに来て、この私が!話し相手となってあげている子ですね!」

 「そうなの…?」

 「ディスト、大人です」

 「そのとーり!私は大人ですから、面倒を見てあげる立場なのです!ハッハッハッ!」

 

 シャルロッタが出した「アニス」という名を聞いて、嬉しそうに語り始めるディスト。実際は食堂で空いている席を探していたアニスが、教団の中で変人と名高いディストと相席をしたくないと教団員が誰一人として座らず一人ディストだけが孤立していたテーブルに座り、一方的なディストの話を聞いてやっているのだが。

 そして、そんな事実を知らない双子は、ディストはアニスのお世話をしているのだと受け取り、やっぱりディストは大人だなぁ…と考えていたりする。深刻なツッコミ不足である。

 

 「今、彼女は導師のそば付きの守護役に選ばれたことに嫉妬する他の守護役仲間に虐められているらしくてですねぇ……」

 「あの、ね……」

 「彼女のぬいぐるみが守護役仲間に引き裂かれたようで。ついでに私もその場で彼女の地雷を踏んでしまいまして……」

 「その……えっと、」

 「残していったそのぬいぐるみ、この私が直して……せっかくなので、譜業を組み込んでこの天才ディストの友達に贈るプレゼントにしてしまおうと──」

 「……アニスがね…〝モース様のお心のままに〟って、いってた」

 「──これも音素振動数に反応して巨大化するよう……はい?…は、もう一度、いいですか?」

 「…えと、〝モース様のお心のままに〟って…」

 「……、……彼女は、導師守護役…なのです、よね?」

 

 自慢げに話すディストの話に区切りが見つからず、マイペースに言いたいことを言ってみたシャルロッタ。最初はスルー仕掛けたディストも、聞き返したことで彼女が何を伝えたかったのかを察したようだ。

 要は、導師守護役であるのに大詠師モースに忠誠を誓う言葉を話しているおかしさが気になったということ。

 導師守護役は導師直属の守護役であるから、当然直接の上司も導師であり、導師のためだけに存在する部隊と言っても過言ではない。それなのに、話しかけた、命令してきた相手が大詠師とはいえ導師の意向を伺う前に命令を受けるなど…あってはならないだろう。

 アリエッタもシャルロッタの言った言葉を聞いて理解したのか少しばかり顔をしかめている。

 

 「アリエッタ、アニス、嫌いです」

 「……理由をお聞きしても?」

 「アニス、アリエッタたちのイオン様を取った。それだけじゃない、イオン様よりもガルドをとって、えらい人に、……えっと、…ぐねぐね…?してる、です」

 「……一応聞きましょう。そのぐねぐね、とは?」

 「〝アニスちゃん、あなたのためなら、がんばっちゃいますぅ♡〟……とか」

 「……なるほど、ぶりっ子なところがある、と」

 「ぶり…?」

 「こ…?」

 「あぁ、2人は知らなくていい言葉です。保護者に報告しなくていいですよ。むしろしないで下さい。……そう、ですか……無視はできませんね」

 

 多分見たまま聞いたままに真似をしたのだろう、アリエッタのアニスのモノマネを聞いたディストがポツリ。ただ、下手な言葉を教えたと保護者(シンクやアッシュなど)に知られると(物理的か心理的にかはともかく)殺されるかもしれないため、双子には黙っているように言い含める。よくわからないまでも、頷く双子。

 頷いたのを確認して、ディストは少しばかり考える。このまま放置すると今後何かしらの影響が出そうだ…だが、うまく使えば導師の情報をこちら側に筒抜けに出来る。かといって下手に首を突っ込めば情報の出どころやら七神将側の目的を知られたり自分の目的の達成(ネビリム先生の復活)までの道が遠くなったりする…かもしれない。まぁ、自分の立ち位置は風向きを見て決めればいいかと考えをまとめた。

 

 「まぁ、また何か気づいたことがあれば私に、……いえ、私でなくても七神将の誰かに言いなさい。まだまだあなたたちは子供です。子供は大人に甘えてればいいんですよ。──では、アリエッタのぬいぐるみはこんなものでしょう。どうです?」

 「……はい、前よりも軽くなりました。ありがと、です、ディスト!」

 「いえいえ。では、シャルロッタ。あなたの武器も見ますよ。ついでに渡したいものがあるんです」

 「はい、です」

 

 ぬいぐるみを受け取ったアリエッタと入れ替わるようにディストの元へ行くシャルロッタ。手甲鉤を渡したのと入れ替わりにディストから手渡されたもの……それは、アリエッタの持つぬいぐるみに酷似していた。

 

 「…?」

 「それはカバンですよ。ほら、背負えるようになっているでしょう?前にアリエッタにぬいぐるみを渡した時、あなたも欲しそうにしてましたから。ぬいぐるみではありませんが……それも譜業です。シャルロッタならきっと使いこなせるでしょう」

 「……!アリエッタと、おそろい…!えへへ、ありがと、ディストっ!」

 「アリエッタも!シャルとおそろい、ありがとですディストっ!」

 「おっと、……あなた達くらいですねぇ…私のことを気にせず突撃してくるような子達は……では、もう少し待ってなさい」

 「「はーい、です!」」

 

 お揃いのものを貰い、椅子に座るディストへ抱きつくように突撃する双子。双子が小柄で本気で飛びかかって来ている訳では無いからなんとか、と、苦笑いしつつ受け止めるディスト。この3人だけだと精神的にも身体的にも幼い双子を相手にするだけに変人なディストも大人な対応ができるらしい。今後2人が成長してきたら、この突撃はやめさせなくてはいけない……そんなことも考えつつ、傍から見るとまるで親子のような触れ合いの一時は過ぎていった。

 

この日を境に、双子は同じようなぬいぐるみを持つようになった。片方は背負うタイプのぬいぐるみのはずなのだが……おそろいがよっぽど嬉しかったのか、体の前で抱えて持つことが多かったため、余計に双子の見た目がそっくりとなり、見分けがつけにくくなったのだとか。

 

 

 

 






外伝のあのお話の部分からずっと思っていたのですよね。導師守護役になっておきながら、導師にすでに報告してないわけ!?と。
この時からアニスが動いていれば、モース様失脚してたんじゃないかな、と。
そして、そのおかしさには当然双子は気がついてます。以前自分たちが同じような立場だったのを努力で周りを認めさせたのですから、アニスだって出来て当たり前だ、しかもあの時の自分たちと比べて年上だから、と助けには入りません。

あ、それとディストとの絡みは、どんなに変人でもズレていてもディストは双子よりも大人ということを見せたかったので……ここの小説でのディストは、やる時は完璧な対応ができる(ただやらないだけ)な性格です。

では、また次回をお楽しみに、です。

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