真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十五章 再会と決意・4

 そうこうしている内に、窓から見える範囲での戦闘は終わった。涼達が一方的に攻撃しているだけだったが、正規兵と農民崩れの賊が戦えばこうなるのは当然だろう。

 

「こちらに来る様ですね。」

 

 稟がそう呟いた様に、涼と霧雨は凪達に案内されてこの建物に向かっている。

 恐らく、怪我人を助けてほしいと頼んだのだろう。涼が一人の兵士に指示をすると、その兵士は来た方向へと戻っていき、残りの兵士達は周辺の捜索と涼達の護衛に割り振られた様だ。

 やがて、建物の前で下馬した涼と霧雨は凪に先導されてゆっくりと入っていった。

 

「こんにちはです、お兄さん。」

「お久し振りです、清宮殿。」

程立(ていりつ)? それに戯志才も。」

 

 涼は見知った二人に驚きながら挨拶を交わした。

 そんな涼の様子を見ていた霧雨が話し掛ける。

 

「お知り合いですか?」

「ああ、黄巾党の乱の時に知り合った程立と戯志才だ。二人とはあの時以来会ってなかったから、一年以上振りになるのかな?」

「そうなりますねえ。いやはや、その間に徐州のお偉いさんになるとは、流石は天の御遣いさんです。」

「俺は別に大した事してないけどな。というか、程立はその肩書きを丸っきり信用してなかっただろ。」

「清宮殿は、二人の皇子をお救いしたのも大した事じゃないとでも?」

「俺一人でしたなら大した事だろうけど、実際には愛紗(あいしゃ)達の活躍が大きいからなあ。」

「用兵に長ける事も総大将として大切な事だと思いますよ、清宮様。」

 

 昔話に花を咲かせる、という程昔の話をしている訳ではないが、やはり知り合いと会うとそれなりに話が弾むのだろう。(しばら)くの間、霧雨を交えた四人の会話が続いた。

 その会話は、凪が申し訳なさそうに会話に入ってくる迄続いた。

 

「そうだった。霧雨、頼む。」

(かしこ)まりました。」

 

 涼の命を受けた霧雨が、凪に案内されて怪我人の所に向かう。少し遅れて涼達も向かった。

 その部屋には怪我人が沢山居た。皆若い男性で、その中の一人は兵士らしき格好のまま寝かされ、包帯が赤く染まっていた。

 

「失礼します。」

 

 霧雨はそう言ってその男性の治療を始めた。と言っても、彼女は医師では無いので出来る事は凪達と大差無い。

 そんな中、建物の出入り口の方から一人の若い男性の大きな声が聞こえてきた。

 

「患者が居るのはここか!?」

「だ、誰なの!?」

 

 男性の声に驚いた沙和が振り向きながら訊ねた。

 男性は近付きながら経緯を話し始めた。

 

「そう警戒しないでくれ、俺は旅の医者だ。たまたまこの村の近くを通った所、何やら大事が起きていると思い、門の近くに居た兵士に訊ねると賊に襲われたと言うではないか。なら怪我人が居るだろうと思い、微力ながら治療に来たという訳だ。」

「……よく、その兵士は貴殿を村に入れましたね。未だ戦闘は完全には終わっておらず、貴殿の身元も判らぬというのに。」

 

 稟が眼鏡の位置を直しながらその男性を見据え、当然の疑問を口にする。

 

「俺も思ったよりすんなりと入れたのは驚いたが、患者の命を救うには少しの時間も無駄に出来ないからお陰で助かった。一応、何人か兵士もここ迄一緒に来たしな。……それよりも、その男性が一番の重傷者の様だな。」

「ええ。」

 

 霧雨は短く答えると直ぐにその場から離れ、医者と名乗った男性に場所を譲った。

 男性は今迄霧雨が居た場所に腰を下ろすと患者の傷口や体温、脈拍等を診ていき、次いで腰に有る袋から更に小さな袋を取り出した。

 

「それは?」

 

 その袋を見た涼が何気なく疑問を口にする。

 すると、男性は患者を見たまま説明を始めた。

 

「これは“麻沸散(まふつさん)”という薬で、これを使えば患者は痛みを一切感じなくなる。この患者を救うには外科治療が必要なので、今からこれを患者に投与し、それから手術をするんだ。」

「成程、つまりそれは麻酔薬か。……って、“麻沸散”!? ……もしかして貴方は、名医と謳われる華佗(かだ)じゃないですか!?」

「ん? よく俺の名前を知っているな。確かに俺は華佗だが、名医じゃない。まだまだ学ぶ事の多い只の医者だよ。」

 

 華佗はそう言いながら麻沸散を投与し、手術器具らしき物を出して手術の準備を始めた。

 その様子を見ながら、霧雨が小声で涼に話し掛ける。

 

「清宮様、華佗と言えば確か以前、羽稀(うき)殿が休職中に診てもらった旅の医者の名前が華佗だったかと。」

「うん。羽稀さんからも、その話を聞いた雫からも聞いたから間違いないね。」

 

 徐州軍の陳珪(ちんけい)こと羽稀は、涼達が徐州に来る前に病気で一度軍を辞めている。

 その病気は治るのに時間が掛かるかと思われていたが、旅の医者に診てもらい治療を受けた所、予想より早く治り、そのまま復職出来たという。

 その旅の医者の名前が華佗であり、同じ名前の旅の医者が居ない限り、今目の前に居る男性がその時の医者と言う事になる。

 因みに、「華佗」という名前は「先生」を意味するとも言われており、三国志に「注」を付した裴松之(はい・しょうし)によれば華佗の本名は彼の(あざな)と関連していると言われている。

 

(それにしても、華佗は男なんだな。今迄も陶謙(とうけん)さんや丁原(ていげん)さんみたいに男性のままの人は居たけど……何か法則でもあるのかな?)

 

 涼は外科治療を始めようとする華佗を見ながらそう思った。三国志の登場人物の殆どが女性になっているこの世界では、華佗の様に男性のままというのは珍しい。

 それだけに涼は華佗に興味を持ったが、外科治療が始まった為にその場から離れた。人を斬る事に慣れてきているとはいえ、やはり内蔵を直接見るのは辛いらしい。

 涼と同じなのか、沙和と真桜も涼の後について行く。尚、霧雨と凪は華佗に手伝って欲しいと頼まれ、患者の体を固定したり手術器具を渡したりしている。

 涼はそのまま建物を出た。そこに、先程命じた兵士がやってきたので、彼が連れてきた軍医に建物の中に居る華佗を手伝う様命じ、兵士には自身の護衛を命じた。

 直後に、涼達が戦った辺りの賊は全て討ち取り、または捕縛したとの報告が伝令から伝えられた。同時に、鈴々率いる張飛隊も賊の殆どを討ち取っており、制圧も時間の問題だという事も伝えられた。

 その報告を受けた涼は鈴々の様子を見るのと同時に要救助者を保護する為、直ぐ様行動に移った。その際、沙和と真桜もついて行きたいと言ったので、涼は快く了承した。


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