真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十三章 青州からの使者・8

 そうして涼達と別れた桃香達は、下邳から一路青州を目指した。

 十万という大軍の為、進軍速度は遅かったが、それでも可能な限り急いだ。

 彭城(ほうじょう)蘭陵(らんりょう)開陽(かいよう)を通り、青州の城陽郡(じょうよう・ぐん)東武(とうぶ)へと向かう桃香達。この進路にしたのは、開陽・東武間が徐州と青州を結ぶ主要交易路だからだ。

 この交易路に賊が居ては、人や物の出入りが滞ってしまう。それを防ぐ為にも、交易路の安全を確保しながら賊――青州黄巾党を倒すという方針になっている。

 勿論、青州黄巾党も黙っておらず、開陽・東武間に在る徐州と青州の州境で、青州黄巾党との最初の戦闘が起きた。

 敵の数は約三万。青州遠征軍の第一陣である関羽隊は約二万五千。兵数では僅かに負けている。

 とは言え、農民上がりの青州黄巾党と正規兵である関羽隊では、実力差があり過ぎた。

 半刻の戦闘の末、青州黄巾党は五千の数的優位を活かす事無く敗走。それを見た関羽隊は、後続から合流した第二陣の糜竺隊、第三陣の糜芳隊と共に追撃し、瞬く間にその全てを討ち取り、または捕縛した。

 この時、実質的に初陣だった糜竺――山茶花が緊張の余り弓矢を落としたりしたが、優秀な部下達のフォローもあって無事に戦闘を終えている。

 因みに、「実質的に初陣」とはどういう事かと言うと、山茶花は今迄賊の討伐等で戦場に出た事はあるが、それ等は全て一兵士としての参戦であり、部隊を率いる指揮官としては初めてだという意味である。

 そうして初戦を制した桃香達は、その勢いを殺さずに東進した。

 東武から不其(ふき)(てい)へ進み、そこで一度大休止をとる。

 青州に入って以来、各地から志願兵が集まっていた。

 その中には不覚にも青州黄巾党に敗れ、敗走中だった青州軍の部隊もあった。朱里はその部隊から様々な情報を聞き、対策を講じていった。

 元々朱里は、徐州に居た時から雪里達と色々な策を練ってきていた。

 それだけでも充分だったのに、今は実際に戦った人達の意見を聞く事が出来ている。

 「孫子(そんし)」という世界的にも歴史的にも有名な兵法書に、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」とある様に、敵と味方、両方の情報を知る事は、戦いに於いて重要な事である。

 様々な兵法書を読んできた朱里はその事をよく理解しており、情報を得るとそれを踏まえて策を練り直し、味方への被害を最小限にしながら敵への損害を最大限にしていった。

 その甲斐あって、青州遠征軍の東進は難無く進んだ。

 挺での大休止を終えた青州遠征軍は、昌陽(しょうよう)東牟(とうぼう)牟平(ぼうへい)と、海岸線に沿う様に反時計回りに進軍した。

 青州黄巾党の主力が包囲しているという州都・臨淄(りんし)から離れている所為か、各地に散らばっている青州黄巾党を倒すのは、思った程手こずらなかった。

 牟平で二度目の大休止を終え、そこから北西に在る東莱郡(とうらい・ぐん)(こう)を解放すると、桃香達は部隊を二つに分けた。

 一つは桃香や愛紗といった主力部隊が中心となり、もう一つは残った時雨や山茶花の部隊を中心にして、それぞれ(えき)膠東(こうとう)即墨(そくぼく)に向かう事にした。

 これは、同時に攻める事で一日でも早く青州から黄巾党を排除する為である。

 本当は昌陽・東牟・牟平の三ヶ所を解放する際もそうしたかったのだが、その時は十万の兵を三つに分ける事のメリットより、デメリットの方を重視していた。

 太子慈の話によれば、青州黄巾党の数は十万を超えており、その総数は恐らく数十万に上る。

 幾ら兵の精度で勝っているとはいえ、無闇に戦力を分散させる事は出来なかった。

 だが、今は青州各地から何万人もの志願兵が集まっており、そのお陰で戦力の分散が可能になっていた。

 その為、今回は部隊を分けて同時に攻める事に関しては不安は全く無い。

 不安があるとすれば、それは混成部隊の弱点と言える連携不足だろうか。

 当然ながら、所属する州や郡、県が違えば調練は違ってくるし、それによって兵士達の練度も違ってくる。

 練度が違えば連携に響くし、そうした小さな綻びが大きな綻びに繋がる事は決して珍しくはない。

 勿論、「臥竜」と呼ばれる諸葛亮はその事に気付いており、既に対策を練っていた。

 その対策はと言うと、連携がとれないのなら下手にとらなくて良い、というもの。

 果たしてそれが対策と言えるかどうかは微妙だが、時間がかけられない現状ではそれが最良なのもまた確かだった。

 詳しく説明すると、徐州軍は徐州軍の兵だけで構成し、青州軍は青州軍の兵だけで構成する。

 戦闘になった際は基本的な策に従いつつ、各自の判断で行動するという事にした。

 徐州軍の中に青州軍の兵を組み込んで戦うよりかは、別々にした方が綻びは小さくて済む。時間が無い中ではそうするしか無かった。

 そうして二手に分かれた青州遠征軍は、それぞれの目的地へと軍を進める。

 二手に分かれたとは言え、その兵力はそれぞれ八万を超えていた。

 州都に近付くにつれ、青州黄巾党も少しずつ強くなってきていたが、未だ噂程の数や実力は無く、八万以上の大軍である青州遠征軍の敵では無かった。

 掖と膠東、更に即墨といった三ヶ所を難無く解放した桃香達は、膠東で部隊を再編成し、西に在る北海国を次の目的地と決めて進軍した。

 その途中で幾度か戦闘になるも、既に兵数が二十万を超えていた青州遠征軍には大きな被害は無かった。

 そんな中、桃香達は部隊を幾つかに分け、周辺地域の平定に向けた。

 その為、味方が少ない時に戦闘になる事もあったが、(あらかじ)め朱里が対応策を考えていた事もあって、さほど問題無く進んだ。

 そして今、桃香達は北海国の平寿に到着していた。

 此処には、黄巾党の乱等の影響で州牧不在の中、実質的にその仕事をしている孔融が居る。

 州都である臨瑙で青州を治めていた孔融は、州都が青州黄巾党に狙われている事を知ると、太子慈に徐州への救援要請を託した後、民を密かに臨瑙から脱出させてから応戦していた。

 だが、多勢に無勢だと覚っていた孔融の部下は隙を見て孔融を逃がした。

 勿論、実質的な州牧である孔融は部下の進言を素直に聞かなかった為、半ば無理矢理に逃がされたのだが。

 その孔融は、桃香達が青州に来たのを知ると、直ぐ様桃香達と連絡をとる為に使者を送り、対黄巾党について連携をとろうとした。

 だが、桃香達の進軍速度が孔融の予想より速かったり、黄巾党の残党に邪魔されたりで中々連絡がとれなかった。

 漸く連絡がとれたのは、ほんの一週間前の事だ。

 そうして合流し、桃香達と会談した孔融は、州都から共に逃げてきた兵士達と、避難先で集めた兵士達の大半を預けると申し出、桃香はそれを受け入れた。

 その後、桃香達は今後の目標を決める為に軍議を開いた。

 勿論、その目標は州都である臨瑙なのだが、ただ闇雲に進軍するだけでは、幾ら黄巾党とは言え数十万を超える相手には簡単に勝てないだろう。

 だが、軍師の朱里は慌てる事無く瞑目していた。

 

「朱里ちゃん、何か良い策でもあるの?」

「はい。策という程の物ではありませんが、大軍に対して効果的な方法があります。」

 

 自信に満ちた表情の朱里は、桃香の問いにそう答えると、机の上に広げてある地図のとある場所を静かに指差した。

 

「私達のとるべき策は――。」

 

 静かに語り出す朱里。

 それを聞き終えた時の桃香達の表情は皆、朱里と同じ様に自信に満ちていた。




第十三章 青州からの使者(劉備の北伐、清宮の南進・前編を2014年2月24日に改題)をお読みいただき有難うございます。

この章は前回のエピローグと新展開のプロローグを兼ねています。この時は出来るだけ簡潔に書いていく予定だったのですが、現実は未だに青州編が終わってません(笑)
こうなったら、とことん書いていこうと思います。原作では比較的簡単に流されている青州編を、ここまで長く書いてる方は居ないだろうなあ。

この章では太子慈を登場させました。個人的に魯粛と共に原作で何故外されたか、というキャラです。出来るだけ活躍させたいけど、上手くいくかなあ。

次は涼の出番です。外交を書くのは難しい。
ではまた。


2012年12月3日更新。


朱里たちが地香の事を知っている一文などを追加しました。

2017年5月30日掲載(ハーメルン)

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