真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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「早く帰ってレッドクリフのDVD観よう♪」


2009年8月26日更新。
2009年8月28日最終更新。

2017年4月2日掲載(ハーメルン)


第一部・桃園結義編
序 章 日常


「えっと……パンフレットにキーホルダーに、ストラップに……。」

 

 閑静な住宅街を、一人の少年が歩いている。

 肩にかけたバッグの中身を確かめながら、ゆっくりと帰路についている。

 

「あとは……何と言ってもこの図録だな!」

 

 厚さ三cmはある本を取り出し、外だと言う事も構わずにページを開き、読んでいく。

 その本の表紙には、「三国志の時代・信念を持った勇士達の記録」と箔押しされたタイトルが記載されていた。

 

「やっぱり、日本も外国もこういった時代の方が歴史としては面白いよなあ。」

 

 少年は読みながら歩き続けていた。

 前から来る通行人が自ら避けてくれていたから、ぶつかる事は無い。

 自動車に関しても、少年が歩いているのはきちんと舗装されている歩道であり、更にここは時速三十kmの速度規制が設けられている為、余程の事が無い限り交通事故は起きない、比較的安全な場所だった。

 

(しょく)劉備(りゅうび)()孫策(そんさく)、そして何より()曹操(そうそう)! この面子はやっぱり凄いよなあ。」

 

 三国志を詳しく知らない人でも、一度は聞いた事のある登場人物の名前を挙げながら、少年は歩き続ける。

 と、そこに、若い女性の声がどこからともなく聞こえてきた。

 

「そこの読書家なお兄さん、ちょっと良いですか?」

「ん?」

 

 「読書家」と言われて、少年は頭を上げた。

 読書家と解るには本を読んでいる姿を見ないといけないが、こんな道端で本を読んでいるのは自分くらいだという事は、流石に少年でも理解していたらしい。

 その少年が頭を上げた先、つまり左前方には一人の少女が立っていた。

 少女は一見すると不思議な格好をしている。

 白いノースリーブに薄紅色のプリーツスカート、それ自体は不思議でも何でもない。

 黒いオーバーニーソックスや水色のシューズも同様。

 只一つ普通と違った格好は、灰色のつばなし帽子から、顔を覆い隠す様にして、白と黒が混じったヴェールを頭に被っている事だった。その為、年若い少女という事は何となく判っても、どんな顔かはよく判らなかった。

 

(……何だろ?)

 

 変に思いつつも、少年は少女に近付き話を聞く事にした。

 すると少女はこう続ける。

 

「……お兄さんには、これから大変な運命が待ってます。それも、沢山の人々の運命をも巻き込む程の大きな運命。その人々を幸福にするか、不幸にするか、それはお兄さんの決断次第。……占っておいて何ですが、大変ですねえ。」

「はあ……。」

 

 そう応えてみたものの、少年には少女が何を言っているのかサッパリ解らなかった。

 唯一解ったのは、少女の占いが本当だった場合、何だか面倒な事になりそうだという事だった。

 

「おや? おやおやぁ? ……ひょっとしてお兄さん、私の言う事を信じていませんね?」

「そりゃあ、ねえ……。」

 

 見知らぬ少女に突然占われて、ハイそうですかと信じる程単純では無いと、少年は自負している。

 

「成程。まあ、それも当然でしょう。ならば、私の占いが本物だと言う証を見せましょう。」

「証?」

 

 まさか水晶玉でも出すのか? と、少年は思いながら、少女の行動を待った。

 すると少女は、水晶玉を取り出すでもタロットカードを取り出すでも無く、只、少しの言葉を紡いだだけだった。

 

「……貴方の名前は、“清宮涼(きよみや・りょう)”。年齢は十七歳で、聖フランチェスカ学園に在籍している高校二年生。家族構成は両親と妹が二人。但し離れて暮らしている為に現在は一人暮らし、と。……まあ、こんな所ですかね。」

「……!?」

 

 少女の言葉を聞いていた少年――清宮涼は絶句した。

 何故なら、今少女が語った事は全て間違いの無い事実だったからだ。

 

「何でそんな事迄……。」

「占い師ですから♪」

 

 いやいや、答えになってないから。

 涼はそう思ったが、何故か口には出せなかった。

 それよりも、少女が涼の事をピタリと言い当てた事で、涼の胸中は一瞬にして不安で一杯になっていた。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私は怪しい者ではありませんから。」

「いや、充分怪しいから。」

 

 流石にそこはツッコミをいれないとダメだと思ったらしい。

 

「手厳しいですねえ。まあ、余り深く考えない方が良いですよ。“いつも通り”にいけば大丈夫です。」

「そ、そうなんだ……。」

 

 そう言って少女の言葉に応えつつも、涼は新しい疑問に対して自問自答を始めた。

 

(“いつも通り”の俺って、どういう事だ!? この子は俺の性格迄占いで知ってるって事か!?)

 

 混乱しつつ目の前の少女を再び見るが、やはりヴェールの所為でよく見えない。

 只、微かに見えた表情は悪くなかった様に思えた。

 

「……ところで。」

「な、何?」

 

 反射的に身構える涼。

 甘く可愛い声の少女に恐れるというのも滑稽だが、現状では仕方ないか。

 

「今日は帰ってから観たい物が有るのでは無いですか?」

「え?」

 

 予想外の言葉を聞いて、一瞬何を言われたのか解らなかった涼だが、やがてその意味を理解して叫んだ。

 

「あっ! た、確かにそうだっ!」

 

 涼は慌てながら、持っていた図録をバッグに入れる。

 

「そ、それじゃあ俺はこれでっ!」

「ええ、ごゆっくり♪」

 

 そう言葉を交わして、涼は自宅へと駆け出した。

 少女は笑みを浮かべながらその様子を眺めている。

 ずっと、ずっと。

 そんな事に気付かない涼は、駆けながら考えていた。

 

(……何であの子、俺の事知っていたんだ? 個人情報が漏れているのか?)

 

 振り返ってみようとしたが、その時間すら惜しい現状に改めて気付き、止める。

 

(……まあいっか。それより早く帰って、今日買ってきた“レッドクリフ”のDVDを観ようっと♪)

 

 博物館の売店で売っていた、「三国志」を元にした大作映画のDVD。

 既に単品では二作共持っていたが、二作が一緒になっているBOX版は持っていなかったので、迷わず買っていた。

 ……普通は迷いそうだが。

 そんな風に浮かれていたので、涼は気付かなかった。

 先程の少女が、いつの間にか姿を消していた事に。

 この街は勿論、既にこの世界から居なくなっていた事に。




皆さん初めまして、またはお久し振りです。

最近(2012年11月14日現在)は余り更新出来ていなかったのですが、少しずつ再開していきます。
で、その際に更新済みの部分の誤字脱字修正をしてみたのですが、今回後書きを追加してみようと思いました。
元々連載していたモバゲーには後書き機能が無かったので、今迄使ってなかった訳ですが、折角あるのだから使ってみようと思った訳です。
これから各章の誤字脱字を修正していく際に、後書きを追加する予定なので、楽しみにして下さいね←

で、序章の後書きですが、この頃は「真・恋姫†無双」の二次創作を書こうと意気込んでいた時なので、勢いだけで書いてますね(笑)
恋姫世界に行く前の主人公、清宮涼について軽く書いておいて、次への場面転換に備えています。
謎の美少女の正体は現在も明かしていませんが、幾つか伏線を張っているので既に解っている方もいるでしょうね。
「レッドクリフ」を出したのは、当時テレビか映画で観たからだと思います。同時に、主人公が「三国志」バカなのも表現出来たかと思います。

取り敢えずこんな感じですね。上手く書けたかな?
次は一章を修正してから書きますね。


2012年11月14日更新。

2017年4月2日掲載(ハーメルン)

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