真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第六章 戦いが終わり、戦いが始まる・4

 その後、各部隊の視察や街の様子の確認等をした涼は、疲れながら城へと戻った。

 城に在る広場の一つに足を運ぶと、そこでは孫策と程普が斬り合っていた。

 軍議中の事もあったので一瞬仲間割れかと思った涼だったが、直ぐ傍で孫堅が二人の戦いを見ていた為、それが模擬戦だと解った。

 

「随分本格的な鍛練だね。」

 

 涼がそう声をかけながら近付くと、二人は一旦手を止めて涼に挨拶をする。

 忘れてるかも知れないが、涼は連合軍の総大将なので、彼女達の上官なのだ。

 

「これぐらいやらないと身に付かないからね。」

 

 孫堅が涼に近付きながら言った。

 

「孫堅さん。」

「私は今貴方の部下なのだから、さん付けは要らないと言った筈だけど?」

「済みません。けど、これが俺のやり方なんで。」

 

 苦笑しながら涼が言うと、つられたのか孫堅も笑った。

 

「やっぱり貴方、変わってるわ。」

 

 孫策に言われた事と同じ事を孫堅にも言われた涼だった。

 その為改めて苦笑していると、孫策が近付きながらこう言った。

 

「丁度良いわ。私と手合わせしてくれないかしら?」

「えっ!?」

 

 突然の申し出に涼は困惑した。

 

「幸い今はあの五月蠅い関羽も居ないし……良い機会だと思ったんだけど?」

「そうかも知れないけど、わざわざ手合わせしなくても結果は見えてるよ。」

 

 涼は自分より孫策の方が強い事を解っていたので、苦笑しながらそう言った。

 だが、孫策はそれを違う意味にとったらしい。

 

「ふうん……そんなに腕に自信が有るのなら、尚更手合わせしたいわね。」

「……え?」

 

 全く想像していなかった言葉を聞いた涼は、苦笑する事さえ出来ずに思考が停止してしまった。

 そして思考が再び活動を始めると、涼は現状を理解した。

 

(もしかして孫策さん、すっごい誤解をしているのか!?)

 

 どうやら孫策は、涼が言った「結果は見えてるよ」を「自分(涼)が勝つ」という意味に捉えたらしい。

 

「いや、俺は別に強くないから。」

「強くもないのに連合軍の総大将をやれる訳無いじゃない。」

「それがやれてるんだよなあ……。」

 

 慌てて否定するも、孫策は全く信じようとしない。それどころか、総大将である以上はそれなりの実力が有ると考えている様だ。

 

「それに、本当に実力が無いのなら、私は貴方に従うつもりは無いわ。」

「困ったなあ……。」

 

 急に冷たい口調になった孫策は、殺気立った雰囲気になって涼を見据える。

 凄まじい殺気が涼を襲うが、数ヶ月間戦場に居るだけあって、涼はたじろぐ事すらしなかった。

 だが、それが却って孫策に戦う興味をそそらせる事になってしまった。

 

「三つも剣を持っているんだし、それなりに強いんでしょ? だったらその実力を私に見せてよ。」

「うーん……多分見せる間も無く終わっちゃうと思うよ。」

 

 涼はあっという間に自分が負けるだろうという意味で言った。

 だが、またも孫策は違う意味に捉えてしまった。

 

「つまり……私なんか簡単に倒せるって事かしら?」

「何でそうなるんだっ!?」

 

 二度も勘違いされて、思わずツッコミを入れる涼。

 だが、そのツッコミすら今の孫策の耳には届いていない様だ。

 

「ゴチャゴチャうるさいっ! そっちが来ないなら、私から行くわよっ!」

「ええっ!? ちょっと、二人共見てないで孫策さんを止めて下さいよっ!」

 

 剣を構える孫策を見た涼は、慌てて周りで静観している孫堅と程普に助けを求める。

 だが孫堅は、

 

「頑張りなさい♪」

 

と言って手を振り、また程普は、

 

「お気をつけ下さい。」

 

とだけ言って、助けようとはしなかった。

 

「ちょっと二人共ーっ!」

「余所見するとは余裕ねっ!」

 

 涼が孫堅と程普に文句を言おうとしていると、孫策が剣を構えたまま走ってきた。

 涼は慌てて雌雄一対の剣の一振り、「紅星(こうせい)」を抜いて構える。

 その間にも孫策は剣を右上に振り上げながら近付き、やがて振り下ろした。

 

「くっ!」

 

 キィン! という金属音が辺りに響き渡ると、そこには剣と剣を交えている涼と孫策の姿があった。

 

(何て重い一撃だよ……普通に受け止めてたら剣が折れたんじゃないか?)

(へえ……受ける際に剣を斜めにして衝撃を逃がした……。やっぱり、結構楽しめそうね。)

 

 涼は、孫策が振り下ろした剣に対して自分の剣を垂直に構え、更に剣と剣が当たる瞬間に斜めに倒した。

 そうする事で剣や自分に対する衝撃を和らげる事が出来る。まともにぶつかるのは、体にも剣にも良くないのだ。

 暫くそのままの姿勢で互いに剣を押し合い、次の一手を探っていた両者だったが、先に動いたのは孫策だった。

 

「はあっ!」

「ぐっ……!」

 

 孫策は剣を押し付けたまま蹴りを放ち、涼の左脇腹を抉った。

 内蔵が揺れる感触を初めて感じる。斬られる痛みより、ある意味苦しい痛みが涼を襲った。

 痛みの余りバランスを崩して倒れそうになる涼。そしてそんな涼に向かって剣を振り下ろす孫策。

 涼は痛みを堪えながら倒れ込む様に前に進み、孫策の足下に転がり込む。

 そうやって孫策の一撃が涼では無く地面に直撃すると同時に、涼は孫策の左足を掴んで力任せに引っ張った。

 

「きゃあっ!?」

 

 突然の事に立つ事が出来なくなった孫策は、剣を掴んだまま後ろに倒れた。

 だが、流石は孫策と言うべきか、この突然の事態にも孫策はきちんと受け身をとってダメージを最小限に抑えている。

 更に、掴まれていない右足を動かして涼を蹴りつけようとしていた。

 だが、その蹴りは目標に当たる事無く空を切った。

 

「……っ!」

「……っ。」

 

 涼は仰向けに倒れた孫策に馬乗りになり、その喉元に剣を突き付けていた。

 孫策を地面に倒した直後、涼は孫策がどう反撃するか予測した。

 倒れている人間が立っている相手に対してとる攻撃手段は限られている。

 テレビで観た総合格闘技等では、倒れた選手が立っている選手の足を蹴ってダメージを与えていた。涼はそれを思い出し、先に動いたのだ。

 

「……斬らないの?」

「仲間を斬る必要は無いだろ。」

 

 孫策の問い掛けにそう答えると、涼はそのままの体勢で剣を納め始めた。

 

「……未だ終わってないわよ。」

「え?」

 

 涼が疑問符を口にすると、孫策は涼の服の襟を掴んで力一杯投げ飛ばした。いつの間にか自分の剣を手離していた様だ。

 

「うわああっ‼」

 

 投げ飛ばされながらそんな悲鳴にも似た声をあげた涼は、孫策と違って上手く受け身を取れなかった。その為、固い土の上に叩きつけられた涼は一瞬呼吸が出来なくなり、やがて咳き込んだ。

 

「戦いは、相手を殺すか完全に屈服させる迄続くものよ。そんな事も解らないのなら貴方……死ぬわ。」

 

 そう言って孫策は立ち上がり、剣を掴んだ。

 涼は漸く立ち上がるが、剣を抜こうとはしない。

 

「……そんな事は解ってる。けど、今は殺し合いをしていた訳じゃないだろ。」

「まあね。……けど、私は言ったわよね? 自分より弱い相手に従う気は無いって。」

「……確かに、そんな事を言ってたね。」

 

 痛むのか、蹴られた左脇腹を右手で押さえながら会話を続ける涼。

 孫策が言っている事は間違っていない。寧ろ正しいだろう。

 この世界は乱世の兆しを見せている。そんな中では強い者が民や兵を率いるのが普通だ。

 それなのに、弱い者が“天の御遣い”というだけで総大将になっている。それが孫策には気に入らないのだろう。

 

(まあ……部隊の指揮は上手いし、ちゃんと自らも戦っている姿勢は認めるけど。)

 

 孫策は涼を睨み付けながらそうも思う。

 

(けど、だからといって今のままじゃ私の気が収まらないのよね。)

 

 認める所は有っても納得出来ない事も有る様だ。

 

(……だから、少し怪我するかも知れないけど、我慢しなさいよね。仮にも貴方は、私達の総大将なんだからっ!)

 

 心の中でそう語り掛けながら、孫策は涼に向かって走り出した。

 その頃城の廊下では、董卓が軍師であり親友である少女に話し掛けていた。

 

(えい)ちゃん、街の様子はどうだった?」

「大分安定してきたわ。これなら、近い内に洛陽に凱旋出来そうね。」

 

 それに対し、「詠」という真名を呼ばれた親友、賈駆は簡潔に感想を述べた。その顔には少し疲れが見えている。

 

「詠ちゃん、少し休んだ方が良いよ。何だか顔色が悪いみたい……。」

「有難う、(ゆえ)。けど、これくらいで休んでいたら、アイツに何言われるか解ったもんじゃないし。」

「アイツって……雪里さんの事?」

 

 董卓を真名である「月」と呼んだ賈駆は、「アイツ」と言いながら顰めっ面になった。そんな賈駆に対して、董卓は疑問符を浮かべながら徐庶の真名を口にした。

 

「そう! アイツったら、連合軍の筆頭軍師だからか知らないけど大きな顔してるし、何だか癇に障るのよ。」

「けど詠ちゃん、筆頭軍師を決める時に辞退したのは誰だったかな?」

「それは……ボクだけど……。けどそれは、月が連合軍の総大将じゃないから辞退しただけだし……。」

「けど辞退しちゃったんだよね?」

「う、うん……。」

 

 笑顔のまま確認する董卓に、賈駆は口ごもりつつ答える。

 

「だったら少しは我慢しないとね。それに、雪里さんは悪い人じゃ無いよ。」

「月は優し過ぎるのよ。……あの男にだって優しいし……。」

「あの男?」

 

 賈駆の言葉が誰を指すのか解らない董卓は、賈駆の言葉を繰り返した。

 

「うちの総大将の清宮涼の事よ。」

「あ、ああ……。」

 

 言われて漸く気付いたらしく、董卓は途端に焦りの表情を見せる。

 そんな董卓を複雑な表情で見つめながら、賈駆は話を続けた。

 

「……確かにアイツはうちの総大将だけど、実績で言ったら未だ未だ月の方が上なんだからね。今からでも役職を取り替えたって良いと思うわよ?」

「だ、駄目だよ詠ちゃんっ。そんな事したら連合軍が分裂しちゃって大変だよぅ。……それに、私より清宮さんの方が指揮は上手いじゃない。」

「……そうなのよねぇ。徐庶が上手く補佐しているからだろうけど、指揮や鼓舞に無駄が無い。」

「あと、私と違って一人でも戦える。」

「総大将が自ら前線に赴くのはどうかと思うけど、実際、意外とやるのよね。これも関羽や張飛のお陰かしら。」

 

 この会話から察すると、どうやら董卓と賈駆は涼を認めている様だ。

 まあ、賈駆は何だか釈然としていない様だが。

 

「愛紗さんと鈴々ちゃん、それに今は時雨さんも清宮さんの武術の先生だもんね。」

「天の国じゃ武器を持った事すら無かったらしいけど、今じゃ黄巾党みたいな賊くらいなら簡単に倒せる腕前になってるみたいよ。」

 

 董卓が笑顔のまま話すと、賈駆もつられて微笑みながら応えた。

 二人が言う通り、涼は義勇軍結成以来ずっと愛紗と鈴々に武術の稽古をつけて貰っている。また、最近では時雨も稽古に加わっており、涼の実力は飛躍的に向上している。

 因みに、桃香も一緒に稽古をしているのだが、涼の様には強くなっていなかったりする。

 

「うん。だからやっぱり私より清宮さんが総大将に合ってるんだよ。」

「……まあ、月がそう言うなら良いけどさ。」

 

 相変わらず笑顔のままの董卓にそう言った賈駆だったが、暫く考えてから話し出した。

 

「そう言えば、月は関羽達とは真名を預け合ってるんだよね?」

「うん。皆さんとはもう長い付き合いだしね。」

 

 董卓達が涼達と出会い、義勇軍を結成してから、間も無く五ヶ月になろうとしていた。

 その間に兵士達は勿論、武将や軍師、指揮官も皆交流し、親交を深めていた。

 董卓が関羽達の真名を呼んでいるのがその証だ。

 

「……それなら、ね。」

「……何?」

 

 賈駆が歯切れが悪そうに話した事に気付いたのか、董卓は不安な表情になって聞き返した。

 賈駆はそんな董卓の眼を見ながら言葉を繋ぐ。

 

「……何で清宮には真名を預けていないの?」

「え……ええっ!?」

 

 思いも寄らない質問だったのか、董卓は大声をあげて驚いた。

 何故か顔が真っ赤になっている董卓は、焦りながら賈駆の問いに答える。

 

「そ、それは……っ。」

「それは?」

「えっと……ほら、清宮さんは“天の御遣い”だから、畏れ多いし……。」

「けど、関羽達は真名を預けているわよ?」

「へぅ……けどほら、愛紗さん達は義勇軍結成時からの仲間だし……。」

「張宝軍との戦いの後に仲間になったあの二人は真名を預けているみたいだけど?」

「へぅぅ……。」

 

 賈駆に言い負かされた董卓は、焦りと落ち込みを同時に表した器用な表情になって俯いた。

 それを見て意地悪し過ぎたかと感じた賈駆は、董卓の髪を軽く撫でると、優しく、それでいて複雑な気持ちを内包した声で言った。

 

「……何が有ったか知らないけど、ボクはいつだって月の味方だよ。だから、もし相談したくなったら遠慮無く言ってね。」

「うん……有難う、詠ちゃん。」

 

 董卓はそう言って笑顔を見せた。

 だが、それを見た賈駆は表面上は笑顔を返したものの、心の中では董卓に謝っていた。

 

(……ゴメンね、月。本当は、貴女の悩みが何なのか判ってるんだ。)

 

 賈駆は董卓と知り合って長い。それだけに彼女の事は誰よりも理解している。ひょっとしたら、董卓の家族より理解しているかも知れない。

 だから、賈駆は董卓が涼に真名を預けていない「本当の理由」にも、何故そうなったかも見当がついていた。

 だが、賈駆はそれを董卓に言うつもりは無い。

 

(いつか月が自分から言ってくれる迄待つ。それが、ボクの答え。……まあ、複雑な心境なのは変わりないんだけどね。)

 

 自分の為、そして何より親友の為に、今は深く追及しない事にした。

 そんな賈駆と董卓の耳に、一人の少女と一人の少年の声が聞こえてきた。

 

「はああああっ‼」

「くうっ!」

 

 しかもその声は、話し声という類のものでは無い。

 

「な、何よ今の!?」

「今の声……孫策さんと清宮さん!?」

 

 まるで戦っているかの様な二人の声に驚き、戸惑いながらも、董卓と賈駆はその声の許へと向かった。

 涼と孫策の声は、城の中に在る広場の一つから聞こえている。

 その広場に着いた二人は、見たくない光景を目にした。

 

「なっ!?」

「清宮さん! 孫策さん‼」

 

 二人の目に映ってきたのは、涼に斬りかかる孫策と、それを紙一重で避け続ける涼という光景だった。

 

「邪魔しちゃ駄目よ、董卓さん、賈駆さん。」

 

 慌てて止めようとした二人にそう言ったのは、孫策の母であり孫軍の大将である孫堅だった。

 更に孫堅の正面約十五メートル先には程普が座っており、二人共、涼と孫策の「戦い」を静観している。

 そんな二人に対し、董卓は困惑しながらも出来るだけ毅然とした態度で尋ねた。

 

「孫堅さん、これは一体どういう事なんですかっ!?」

「どういう事って……見ての通り、うちの孫策と総大将殿の模擬戦よ。」

 

 だが、孫堅はそんな董卓に微笑みながら答えた。

 続けて、賈駆が尋ねる。

 

「とても模擬戦には見えないんだけど?」

「うちはいつもこんな感じよ。ねえ?」

「はい。」

 

 孫堅と程普が平然とそう言った事で董卓は困惑し、賈駆は疑惑の目を向けた。

 現状を把握しきれない董卓は、オロオロしながら孫堅達と涼達を交互に見るしか出来なかった。

 そんな董卓の両肩を掴みながら、賈駆は励ます様に言葉を紡いだ。

 

「月、落ち着いてっ! 混乱するのは解るけど、今はボク達に出来る事をしましょう!」

「私達に出来る事……?」

 

 未だ困惑している董卓だが、賈駆が何度も励ましていくと落ち着きを取り戻していった。

 

「……私は邪魔しちゃ駄目って言った筈だけど?」

 

 そんな二人に、孫堅は涼達の「模擬戦」を見ながら再び忠告する。

 だが、賈駆はその忠告を毅然とした態度ではね退けた。

 

「悪いけど、ボク達が貴女の言う通りにする必要は無いわ。」

「ふうん……どうしてかしら?」

 

 強気な賈駆に孫堅は視線だけを向けたが、その口元は少しだけ綻んでいた。

 賈駆が孫堅のそんな表情の変化に気付いたかは解らないが、先程の孫堅の問いには答えていった。

 

「月……董卓は連合軍の副将で、ボクは副軍師。一方、貴女達は一軍の将とは言え、立場は劉備・清宮軍や董卓軍より下になっている。解っているでしょうけど、指揮系統の確立や軍律の遵守は、組織を保つ為に必要不可欠なもの。なら、立場が上であるボク達が貴女達に従う必要は無いわ。違う?」

 

 そこ迄言うと、賈駆は孫堅と程普を交互に見据えた。

 だが孫堅も程普も表情や姿勢を崩さず、静かに賈駆の次の言葉を待っていた。

 どんな組織にも役職が有る様に、連合軍にもまた役職が有る。

 連合軍結成当初は、総大将以外は各部隊毎に動いていたが、盧植や曹操の離脱や連合軍の規模の拡大、戦いの長期化といった経緯を辿った結果、明確な役職や厳格な軍律が決められた。

 その結果決まった主な役職は次の通り。

 

『総大将・清宮涼(きよみや・りょう)

『副将・董仲穎(とう・ちゅうえい)

『副将補佐・孫文台(そん・ぶんだい)

『筆頭軍師・徐元直(じょ・げんちょく)

『副軍師・賈文和(か・ぶんわ)

『副軍師補佐・簡憲和(かん・けんわ)

『部隊統括・劉玄徳(りゅう・げんとく)

『第一部隊隊長・関雲長(かん・うんちょう)

『第二部隊隊長・張翼徳(ちょう・よくとく)

『第三部隊隊長・田国譲(でん・こくじょう)

『第四部隊隊長・劉徳然(りゅう・とくぜん)

『第五部隊隊長・孫伯符(そん・はくふ)

『第六部隊隊長・程徳謀(てい・とくぼう)

 

 勿論、未だ役職は有るが今回は割愛する。

 因みに部隊の数字が小さい順に立場が上になっており、緊急時等の指示の優先順位も上になっている。

 その為、愛紗は部隊長の筆頭であり、孫策や程普の立場は愛紗より低い事になる。

 

「……軍律を乱したらどうなるか、孫文台ともあろう者が解らない筈無いわよね?」

「まあね。」

 

 賈駆の質問を、孫堅はやはり視線だけを向けて答えた。

 

「なら、副軍師として警告するわ。今直ぐ孫策を止めないと、貴女達全員の命が無いわよ。」

「うーん、未だ死にたくは無いわねえ。」

 

 状況は決して良いと言えないのに、何故か孫堅は軽く答える。程普に至っては先程から微動だにしていない。

 

「けどまあ、折角だから最後迄続けましょうよ。」

「……本気で言ってるの?」

「勿論本気よ。」

 

 そう言った孫堅は満面の笑みを浮かべていた。

 

「……仕方無いわね。」

 

 賈駆は孫堅の真意を測りきれないまま嘆息し、眼鏡の位置を整えながら言った。

 

「このまま見過ごす訳にはいかないわ。……月、ボク達は関羽達を探しに行くわよ。」

「う、うん。でも……。」

 

 董卓は、依然として孫策の攻撃を避けている涼を見ながら躊躇う。

 

「……残念だけど、ボク達じゃあの二人を止められない。アイツを助けたいなら、少しでも早く関羽達を見つけないと。」

「うん……っ。清宮さん、もう少しだけ待っていて下さいっ!」

 

 董卓と賈駆はそう会話を交わすと、今来た道を引き返し、やがて二手に分かれた。

 邪魔しちゃ駄目と言っていた孫堅はそんな二人を止めようとはせず、只静かに見送っていた。

 

「……良いのですか?」

 

 じっとしたままの程普が、姿勢を崩さずに尋ねる。

 

「良いんじゃない? あの娘達が関羽達を連れてくる頃には決着してるかも知れないし。」

「……了解しました。」

 

 孫堅の答えを聞いた程普はそう言って再び沈黙した。

 それが程普の常なのか、孫堅は何も言わない。

 孫堅はそのまま涼と孫策の「模擬戦」に目を向ける。

 相変わらず、涼は孫策の攻撃を避け続け、孫策は避けられても追撃し続ける。両者共に体力が尽きてきたのか息が荒くなっているが、それでも動きは止まらない。

 また、涼は先程納刀して以来一度も抜刀していない。つまり反撃してもパンチやキックしかしていない事になる。

 

(……抜刀して反撃しないのは、雪蓮が本気じゃないと思っているから? それとも、さっき言った様に戦う必要が無いと思っているから? ……どちらにしても、この時代にそぐわない甘い考えね。)

 

 避け続ける涼を見ながら、孫堅はそう思った。

 

(けど……その信念を貫き通せるなら、それは大きな力になる。そうなったら、私達にとって吉となるか凶となるか……楽しみね。)

 

 将来敵対するかも知れないと思いながら、孫堅は笑みを浮かべていた。


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