真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

142 / 148
第二十三章 英雄達の集結・2

 徐州軍が出立して約二週間後。一行は(ようや)く会盟の地である河内(かだい)に到着した。

 河内は黄河(こうが)を挟んで洛陽の北北東に在り、下邳からはほぼ真西にあたる。陸路なら黄河を渡らなければならなかったので大変だったが、今回は孫堅(そんけん)軍の船で進軍していた事もあって全員無事に着く事が出来た。孫堅軍の巧みな操船技術によるものである。

 尚、その際の孫策(そんさく)こと雪蓮(しぇれん)の言葉は、『将来の良夫(おっと)の為なら、これくらい当然よ』だった。何故か桃香たちの機嫌が悪くなって涼が困ったのは別の話。

 さて、ここ河内には既に沢山の諸侯が到着していた。

 そこかしこに数え切れない程の旗がたなびく様に林立しており、一体何万人がこの地に集まっているのかと興味をそそられる程であった。ちなみに涼たち徐州軍が掲げている旗は、各武将の姓を記した旗以外では所属を表す「徐州」などである。

 その様に数え切れない程の人数がこの地に集まっている訳だが、当然ながら彼等はバラバラに集まった訳では無い。涼たちが「徐州軍」として大軍を率いてきた様に、この地の兵士達は皆どこかの軍に所属している。

 涼たち以外の軍を規模の大きさの順に列挙すると、袁紹軍、袁術(えんじゅつ)軍、曹操(そうそう)軍、孫堅軍、馬騰(ばとう)軍、公孫賛(こうそんさん)軍、青州軍、劉表(りゅうひょう)軍、益州(えきしゅう)軍、その他、という具合だ。

 特に袁紹軍は檄文を送った袁紹自らが率いるだけあって三十万という大軍だという。兵数は多めに言うのが普通ではあるが、幾ら何でもこの三十万は多過ぎるというのが涼たちの見解だった。だが、後に本当に三十万だった事が判明し、涼たちを驚かせた。兵糧は足りるのか、という意味も含めて。

 次いで多いのが袁術軍の二十万。以下、曹操軍七万、孫堅軍六万、馬騰軍五万、公孫賛軍四万、青州軍三万、劉表軍二万、益州軍一万。以下は数千単位となっている。

 これを見ても解る様に、袁家の兵数は他を圧倒している。袁家以外の軍を全て集めて、漸く袁家総数の半分を超えるという戦力差だ。

 尤も、袁家の兵はそれ程強くないとの評判もある。先の徐州侵攻で大軍を擁しながら返り討ちにあった事がその理由だ。

 勿論、四方八方からの攻撃で部隊が大混乱に陥ったという事情はあるが、袁紹の指揮能力、特に大軍でのそれは大いに疑問符が付く結果となった。だからこそ、前回以上の数となる三十万という大軍で敵を圧倒しようとしているのかも知れない。

 約八十六万という、この大陸でも史上稀な大軍勢を擁する事となった「反董卓連合軍」。こうなると、総大将は誰になるかという話題が自然と出て来る。

 檄文を送ったのが袁紹である為、袁紹が総大将になるのでは? という意見が多かった。次いで袁術や涼に劉備(りゅうび)、孫堅や曹操と続く。

 涼たちは未だに総大将が決まっていない事に驚いた。というか、そもそも軍議すら開いていないらしい。

 何せ、これだけの大軍で、しかも色々な土地から来た部隊を纏めた連合軍である。不測の事態が起きるのを防ぐ為にも早急に総大将やら何やらを決め、各部隊の統率に努めなければならない筈だ。

 だが、袁紹たちはそうした事を全くしていないらしい。それで今のところ何も起きていないのは、只々ラッキーだったと言うしか無い。

 涼たちは袁紹軍の兵士によって、徐州軍の陣地へと案内された。約八万という大軍なのでそれなりの広さが必要の為、最後方に配置されると思っていたが、実際には後ろから三番目、袁紹軍と袁術軍の前があてがわれた。

 (あらかじ)め、先触れを連合軍に向かわせていたので、徐州軍の陣地を前もって決めていたのだろう。だが、先日の戦いの件があるので、袁術軍を挟んでいるとはいえ袁紹軍が後ろに居る事を徐州軍の面々は不安に感じている。

 陣地に着いて天幕を張り、兵馬を休ませる事にした涼たちだが、当然ながらゆっくりはしていられない。各陣営に徐州軍の到着を知らせると同時に、涼、桃香、朱里の三人が軍議に向かう事になっている。念の為、護衛に関羽(かんう)こと愛紗(あいしゃ)田豫(でんよ)こと時雨(しぐれ)が附いていく。それにしても、今まで開かれてなかった軍議が開かれるとは、まるで涼たちの到着を待っていたかの様だ。

 軍議は袁紹軍の陣内に在る天幕で行われると、伝令から知らされた。恐らく、袁紹が動きたくないから自分の陣地で軍議を行うのだろうと誰もが思った。

 軍議が行われる天幕は袁紹軍の陣地の奥に在った。流石に装飾は施されていないが、こんなに大きくする必要があるのかという程に大きかった。

 涼たちが天幕の中に入ると、既に各陣営の代表者が席に座っていた。

 中でも袁紹は涼たちとの遺恨があるからか、彼等をジッと見据えていた。何か文句を言われるかと思った涼たちは急いで空いている席に座った。

 涼たちに用意されていた席は三つで、桃香を真ん中にして左右に朱里、涼が座り、愛紗と時雨はその後ろに立った。因みに、その左側には白蓮(ぱいれん)たち公孫賛軍、右側には雪蓮たち孫堅軍が座っており、涼たちに好意的な面子が周りに居る。ひょっとしたら、涼たちが来る事を知った二人が席を空けたのかも知れないが、勝手に席を決められるのかは解らない。

 天幕の中は長方形のテーブルが入り口から見て縦に配置されており、最奥、日本的に言えば上座の位置に袁紹が座っている。

 以下、上座から順に陣営名で言うと、右側に袁術軍、孫堅軍、徐州軍、公孫賛軍、益州軍。左側に曹操軍、馬騰軍、青州軍、劉表軍の代表が座っている。他にもいくつかの小さな勢力がある筈だが、この場には居ない。遅れているのか、あとで伝令でも出して知らせるのだろうか。

 各陣営の代表は最低でも二人一組でこの軍議に参加している。五人で来た涼たちは多い方になるが、護衛を含めれば袁紹や袁術も同じくらいの人数を擁していた。

 始めに口を開いたのは袁紹だった。

 

「それでは軍議を始めたいと思いますが……漸く到着された方もいらっしゃる様なので、折角ですから自己紹介でもしてあげましょう。」

 

 誰、とは言わなかったが、口調や視線から察するに、明らかに涼たちに対する配慮という方便での口撃だった。

 かと言ってそれに対して怒ったりは出来ない。遅れて来た事は事実であり、初めて見る人も居る以上、自己紹介されるのは非常に助かるからだ。

 なので、先ずは涼たちから自己紹介をする事にして、着席していた三人はゆっくりと席を立った。

 

「徐州牧の劉玄徳です、宜しくお願いします。」

「同じく州牧補佐の清宮涼です。宜しく。」

「軍師筆頭の諸葛孔明です。宜しくお願いします。」

 

 三人はそう名乗って着席した。後ろの二人は護衛なので自己紹介するべきか迷ったが、桃香が折角だからと言って自己紹介を促した。

 すると二人は多少硬い表情のまま言葉を紡いだ。

 

「徐州軍第一部隊隊長、関雲長。どうかお見知り置きを。」

「同じく第五部隊隊長、田国譲。宜しく……です。」

 

 二人はそう言うと、背筋を伸ばして涼達の後ろに立ち直した。

 涼たちの自己紹介が終わると、次は曹操軍の番なのか金髪の少女が立ち上がった。それに倣う様に、彼女の右側に座っていた少女も立ち上がる。

 

「曹操軍代表、曹孟徳(そう・もうとく)よ。宜しく。」

「軍師の荀文若(じゅん・ぶんじゃく)です。宜しくお願いします。」

 

 簡潔に述べる曹操こと華琳(かりん)と、荀彧(じゅんいく)こと桂花(けいふぁ)。その表情から察するに、自己紹介をする必要性は感じつつも、袁紹の思い通りにするのが嫌だから簡潔に述べたのだろうか。それとも単に面倒だからかも知れない。なお、曹操軍は護衛を連れて来ていない様だ。

 続いて自己紹介をしたのは孫堅軍の面々だった。といってもこの場に孫堅こと海蓮(かいれん)は居ない。代わりに居るのは、

 

「孫堅軍副将、孫伯符(そん・はくふ)よ。宜しくね。」

「同じく部隊長の黄公覆(こう・こうふく)じゃ、宜しくの。」

「軍師の周公瑾(しゅう・こうきん)です。宜しくお願いします。」

 

と、起立して応えたこの三人だ。

 自己紹介が終わると三人とも椅子に座った。雪蓮を中心にして右に黄蓋(こうがい)こと(さい)が、左に周瑜(しゅうゆ)こと冥琳(めいりん)が居る具合だ。

 尚、涼たちが来てからの雪蓮は、冥琳に席を替わってほしいと何度か視線で合図していたが、冥琳はそれに気付かないのか無視しているのか判らないが、結局彼女の要請に応える事は無かった。

 まあ、気になる相手の側に居たいから席を替わって欲しいという理由が、軍議の席で通らないのは当然だろう。そもそも彼女は、仮に席を替えたらイチャイチャする気なのだろうか。こんな衆人環視の中で。少なくとも涼は嫌がると思うのだが。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。