真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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連合の名の許に集った多くの人々。

既に名のある者、これから名を上げようとする者。どちらも目的は同じ、筈。

その中には、桃香たちにとって重要な人達も多く居るのかも知れない。

2020年11月19日更新開始
2020年12月10日最終更新


第二十三章 英雄達の集結・1

 袁紹(えんしょう)の檄文を受けとった桃香(とうか)たち徐州(じょしゅう)軍は軍議の末、連合への参加を決めた。勿論、その胸中は複雑であった。

 袁紹の檄文を要約すれば、“董卓(とうたく)洛陽(らくよう)で暴政の限りを尽くし、民は怨嗟(えんさ)の声をあげている”となるが、それが真っ赤な嘘だと徐州軍の中核の者達は皆思っていた。それは、董卓こと(ゆえ)の性格を知っているからだ。

 (りょう)や桃香たちはかつての黄巾党(こうきんとう)の乱の際に月と共闘しており、彼女が争いを好まない心優しい性格だと知っている。

 その彼女が他者を(ないがし)ろにし、私利私欲に走る等とは、誰一人思っていない。彼女を知らない者は檄文の内容から董卓について若干の疑念を持ったが、涼たちが熱心に否定した為、どちらが正しいかを理解した。

 それでも徐州軍は「反董卓連合」に参加する事を選んだ。檄文の内容が“董卓を倒して帝をお救いする”となっていたからだ。言う迄も無いが、帝とは漢王朝の統治者であり、即ちこの漢大陸の覇者を指している。

 幾ら弱体化しているとはいえ、依然として民衆が漢王朝を支持している以上、表立って漢王朝に楯突く真似は出来ない。ならば、帝をお救いし漢王朝を支える事がひいては自分達の利になると考えたのが袁紹であり、この連合に参加している諸侯の大半もまたそう思っていた。

 一方、涼や桃香が参加を決めたのは少し事情が違う。

 彼等は前述の理由もあって、個人的には董卓軍の味方をしたかった。いつも正しい事をしたいと思っている二人にとっては当然の事であった。

 だが、彼女達は今、徐州を治めている州牧やその補佐という立場にある。その地位は当時の帝である劉弁(りゅうべん)少帝(しょうてい))によって任命されており、つまりは漢王朝のお陰で地位を得たという事になる。

 それなのに連合に参加せず、逆賊である(とされている)董卓についたらそれは即ち自分達も逆賊になるという事であり、不忠以外の何物でもない。

 そうなれば、袁紹は徐州にも連合軍を派兵し、桃香たち徐州軍を攻めると思われる。場合によっては徐州に住む民衆をも攻撃するだろう。何せ彼女達には逆賊を討つという「錦の御旗」があるのだから。

 徐州牧として、また、一人の人間として、民衆を危険に晒す訳にはいかない桃香にとって、板挟みとなる問題であった。

 結果、桃香は徐州を見捨てる事は出来なかった。勿論、納得はしていない。

 涼もそれは同じだったが、彼もまた、月を助ける事を諦めた訳では無かった。何か方法は無いかと考えながら遠征の準備を整え、出立した。

 この遠征には八万もの大軍を動員した。先の青州(せいしゅう)遠征の際には十万もの動員をしたが、それから未だ日が空いていない事もあり、今回の遠征は徐州に残していた兵を中心に編成した。

 一方、将は遠征組・残留組双方から選んでおり、万全の態勢で遠征に臨んでいた。

 ここで、今回の陣容を列挙する。

 

『総大将・劉玄徳(りゅう・げんとく)

『副将・清宮涼(きよみや・りょう)

『筆頭軍師・諸葛孔明(しょかつ・こうめい)

『副軍師・徐元直(じょ・げんちょく)

『副軍師補佐・鳳士元(ほう・しげん)

『副軍師補佐・程仲徳(てい・ちゅうとく)

『兵糧管理官・簡憲和(かん・けんわ)

『兵糧管理官兼第一遊撃部隊長・陳漢瑜(ちん・かんゆ)

『副軍師補佐兼第二遊撃部隊長・孫公祐(そん・こうゆう)

『第一部隊隊長兼部隊統括・関雲長(かん・うんちょう)

『第二部隊隊長・張翼徳(ちょう・よくとく)

『第三部隊隊長・趙子龍(ちょう・しりゅう)

『第四部隊隊長・劉徳然(りゅう・とくぜん)

『第五部隊隊長・田国譲(でん・こくじょう)

『第六部隊隊長・糜子仲(び・しちゅう)

『第七部隊隊長・糜子方(び・しほう)

『第八部隊隊長・廖元倹(りょう・げんけん)

『第九部隊隊長・陳元龍(ちん・げんりゅう)

 

 この様に、現在の徐州軍に於ける重臣達が軒並み選ばれており、先の青州遠征及び南方外交では留守を任されていた者も、先の理由で今回は選ばれている。

 その為、今回の留守は前州牧の陶謙(とうけん)騎都尉(きとい)臧覇(ぞうは)が中心となり、下邳(かひ)を始めとした街の防衛を陳到(ちんとう)曹豹(そうひょう)闕宣(けっせん)張闓(ちょうがい)窄融(さくゆう)趙昱(ちょういく)王朗(おうろう)といった武官・文官が務めている。

 今回の陣容では筆頭軍師の変更が注目される。

 今迄は義勇軍、連合軍、徐州軍で桃香たちと共に歩んできた徐庶(じょしょ)こと雪里(しぇり)が筆頭軍師を務めてきた。彼女の実績は疑いようが無く、また、武官文官問わず慕われている事からも解る様に、その人柄も良い。

 それなのに今回、彼女は筆頭軍師ではない。何か失敗をしての降格でもなく、実際は彼女自身の希望だったりする。

 彼女は今回の筆頭軍師である諸葛亮(しょかつりょう)こと朱里(しゅり)とは旧知の仲である。(つい)でに言えば副軍師補佐の鳳統(ほうとう)こと雛里(ひなり)程昱(ていいく)こと(ふう)とも同様だったりする。

 それだけに雪里は彼女達の実力をよく知っており、朱里だけでなく風と雛里を今回の遠征に推薦したのも、他でもない彼女である。(もっと)も、涼たちは初めから彼女達を帯同させるつもりだったが。

 既に述べた様に雛里や風も副軍師補佐に抜擢されているが、雪里の推薦があったとはいえこの人事は異例と言えなくはない。

 未だ雛里は理解出来るかも知れない。彼女は先の青州遠征で援軍を率い、遠征の成功の一因を作っている。だが、風は涼に勧誘されて徐州軍に入ってからの日が浅く、また実績らしい実績もない。一応、帝への奏上文を届けるなどはしているが、それだけとも言える。幾ら雪里の推薦があったとはいえ、その様な人物の帯同を許し、しかも役職に就けるというのは普通なら反発を買うだろう。

 だが、実際には反発は起きなかった。その理由は、彼女が徐州軍の一員となってからの仕事振りを皆が見ているからである。

 元々、風が親友の戯志才(ぎしさい)こと(りん)と共に旅をしていたのは仕えるべき主を見定める為であり、その為にすべき事はやれるだけやってきた。彼女の身体は余り大きくなく、その為か武力も無いので、文官として、可能なら軍師として仕えたいと思い勉学に励んできた。

 とは言え、軍師になりたいと思うだけで軍師になれる訳では当然無いので、風は実績を積む事にした。軍師は戦時に於いては主の為に献策をするのが仕事だが、平時に於いては普通に文官の仕事をしている。

 風が徐州に来た時はちょうど青州遠征の最中であり、援軍にも選ばれなかったので献策して実績を積む事は出来なかった。だが、戦後直ぐという事でそれに関する仕事は大量に有った。

 戦後処理の仕事は膨大な数の事務処理と言ってよく、人手は幾らあっても足りないくらいだ。風はそんな難仕事を、徐州に来たばかりであるにも係らず楽々とこなし、その結果、皆に自身の実力を認めさせ、信頼を得る事に成功した。

 こうした「実績」が有った為に雪里は風を推薦し易く、皆も「実績」を知っている為に誰も反対しなかった。

 武官に関しては、武将の数が増えた為に必然的に部隊数が増えている。部隊の数字が小さい順に武将としての地位が高いが、それはあくまで対外的なものであり、実際にはそれ程厳格では無い。この辺りは他の軍と大きく違う所であろう。

 また、例によって桃香は自身が総大将になる事に難色を示したが、流石に今回は自身が州牧になっているという事もあって、一応言ってみただけの様だ。


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