真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十九章 帰還、それから・3

 さて、そうした涼達のコント? を見ていた華琳は、聡明なだけに自身の発言が桃香を焚きつけてしまった事に気づいていた。

 ただ、雪蓮の場合と違うのは、彼女は涼と婚約していない事と、恋愛感情といったものを涼に対してまだ抱いていないという事である。

 彼女は、涼に対して「興味」は持っている。だがそれは、「天の御遣い」だとか、過去の共闘で感じた事が主で、愛だの恋だのの対象としては殆ど見ていないのである。

 勿論、華琳とて年頃の娘である。異性に全く興味が無い訳ではない。だが、彼女は同性にも興味を持てる人間であり、現在の所はそちらの方が勝っている。

 とは言え、華琳はいずれ曹家を継ぐ立場にある。そうなると必然的に生涯の伴侶を得る必要に迫られる。その時の為に早めに候補を探しておく事も必要だろう。

 だが、涼はその候補に今の所入っていない。

 今の涼の立場や人気を考えれば、候補に入れておいてもおかしくないのに、である。

 勿論そこには、華琳なりの判断がある。

 一つは、「天の御遣い」の人気がこのまま続くとは思えない事。もう一つは、涼にはそれ程秀でているものが無いという事である。

 人気については、現代の芸能人やスポーツ選手などを見ても分かる通り、基本的には一時的なものであり、その期間が長いか短いかの違いがあるだけだ。

 華琳は知る由も無いが、涼の所には色々な所から手紙やら貢ぎ物やらが来ている。その意味は勿論、「天の御遣い」の威光に少しでもあやかりたいからである。

 だが、「天の御遣い」の威光が無くなれば、その数も自然と減っていき、いずれは零になるだろう。人気とは所詮そういうものだ。

 続いて、涼に秀でているものが無いという事についてだが、これは華琳が要求するレベルが高過ぎるというのもある。実際には、涼は結構優れていると言える。

 涼は現代では天才でも無く馬鹿でも無かった。学年何位とかそんなレベルでは勿論無いが、少なくとも英語以外は赤点とは無縁の成績を修めていた。

 また、個人的趣味として古代中国史と日本史が得意だった。古代中国史は三国志に、日本史では戦国時代について特に詳しくなっていった。

 古代中国史を知るにつれて、史記や漢文にも興味を持ち、更には孫子の兵法などを暗記したりと、涼は好きな物についてはとことんのめり込むタイプである。

 その為、三国志によく似たこの世界に来た時も比較的早くに順応し、この国の国語である漢文に対しても、以前独学で勉強したお陰もあって思ったより早く覚えた。

 史記や孫子の兵法を覚えていた為、それを役立てる事も出来た。他にも、秘密にしている未来知識も沢山ある。こうして見ると、涼は文官寄りの才能を充分に持っているといえるのである。

 だが、華琳にとっては史記や孫子の兵法を覚えているという事はそれ程凄い事ではない。

 彼女自身がそれを早くに覚え、周りの者もそれに(なら)っている者が多い。つまり、華琳にとっては「当たり前」の事なのである。

 勿論、武官の中には、例えば春蘭とかはそうした知識を必ずしも持ってはいないが、その代わりに強大な武力を持っている。

 また、部下が全員華琳と同等の実力を持つ必要は、当然ながら無い。中国史の中でもトップクラスの実力を持つ曹操と同じ名を持つ華琳は、桁違いの才能の持ち主であり、そんな彼女と同じ実力の持ち主はまず居ない。

 そもそも、そんなハイレベルな人物が居る必要は無い。もしそんな人物が華琳の傍に居たら、互いに牽制し合って相討ちになるか、勝っても弱体化するだけだろう。

 史実における曹操は、家柄や過去にこだわらずに才能ある者を求めるという、当時としては画期的な内容の求賢令を布告している。所謂「唯材是挙(ゆいざいぜきょ)」である。

 この世界の曹操である華琳は求賢令(きゅうけんれい)を出してはいないが、考え方はほぼ同じであり、平民であった許緒(きょちょ)こと季衣(きい)典偉(てんい)こと流琉(るる)などの登用を行っている。

 そうした事例を並べて考えれば、才能がある人物が居れば是非とも欲しがるのが、華琳という人間だといえる。

 では、涼は華琳から全く評価されていないのかというとそれもまた違う。

 黄巾党の乱や十常侍誅殺、そして先頃の兗州の村での涼の活躍を見てきた華琳は、彼を高く評価してきた。

 その理由の一つには、涼を麾下(きか)に加えれば自然と愛紗や鈴々たちが加わるという打算もあったが、きちんと涼の戦闘力、指揮能力、知識や経験なども考えての高評価だった。

 それでも華琳が涼を異性として意識しないのは、彼が一人の男として魅力に欠けるという訳では決してなく、判断材料が少ないという事が一番の要因だ。

 既に触れているが、雪蓮と違って華琳は涼と余り共に過ごしていない。その為に、涼を高く評価しながら、いざとなると自身の隣に立つ者として相応しいかどうか、判断しかねるのである。

 

(まあ、私の勘が確かなら、いずれ涼はもっと成長する。そうでなければ、“天の御遣い”という言葉は今すぐ取り消すべきね。)

 

 人知れず小さく笑う華琳は、目の前の喧噪(けんそう)(さかな)に酒を一口含み、それから一気に飲み干していった。


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