《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん   作:ケンタシノリ

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第4章 敬太くんとワンべえとの出会い
その1


 敬太は、おさいたちと過ごしていた峰紅村を出て再び山道の中に入って行きました。しかし、その山道の険しさはこれまで以上に過酷なものとなっています。雨が降り続いたので、敬太が山道を歩くと足がぬかるみの中にすっぽりとはまってしまいます。

 

 山道のぬかるみに足がはまると、なかなか前へ進むことができません。しかし、敬太は持ち前の負けん気でぬかるみに入った足を高く上げて進むことができました。

 

「それにして、山道を一旦下っても、しばらく行ったらまた上り坂になるんだよね」

 

 敬太が歩き続けている山道のまわりには、人家は全く見当たりません。それでも、敬太は持ち前の明るさで、元気いっぱいの笑顔を見せながら歩き続けています。

 

「あんなに力が凄まじかった獣人との戦いと比べたら、ぼくが山道をずっと歩き続けても全然平気だよ!」

 

 敬太にとって、険しい山道を歩き続けることはたやすいものです。しかし、何時間も山道を歩いたり走ったりしたので、敬太は次第にお腹がすいてきました。

 

「ぐぐうううっ~、ぐううっ~」

 

 お腹がすいた敬太は、何か食べる物を探しています。すると、山道の右側に大きな木がいくつもあります。

 

「うわ~い! じいちゃが言っていたヤマグワの実がいっぱいあるぞ!」

 

 敬太は、大きな木にヤマグワの実がなっているのを発見しました。さっそく、大きな風呂敷と小さい風呂敷を下ろすと、すぐにヤマグワの木に登り始めました。

 

 敬太は、ヤマグワの木の幹に両手と両足でつかむと、敬太はそのままヤマグワの実がある木の枝の近くまで登っていきました。

 

「うわ~っ、おいしそうなヤマグワの実がたくさんあるぞ!」

 

 ヤマグワの木の枝には、おいしそうな果実がいっぱいついていました。その小さい果実は、まるでブラックベリーみたいです。

 

「よいしょ、よいしょ」

 

 敬太は木の枝を両手で握ると、両手を少しずつ移動しながら進んでいます。ヤマグワの実は、木の枝が枝分かれした先端の部分にあります。

 

 木の枝の太さは、先端に近づくにつれて少しずつ細くなってきます。でも、そこまで行かないとヤマグワの実を手に入れることはできません。敬太は左手を使って、枝の先端にあるヤマグワの実があるところへ手を近づけました。

 

「あと少し、あと少し……」

 

 敬太は必死に左手を伸ばすと、ヤマグワの実に近い先端の枝をつかみました。そして、敬太はヤマグワの実を枝ごと取ることができました。

 

「やったあ、ヤマグワの実をいっぱい取ったぞ」

 

 敬太は、左手でヤマグワの実がついた枝を持ちながら喜んでいます。

 

「よーし、すぐにヤマグワの実を食べるぞ!」

 

 敬太はそのまま地面に着地すると、すぐにヤマグワの実を1つずつ食べることにしました。

 

「うわ~い! おいしいぞ! ヤマグワの実はとっても甘くておいしいよ!」

 

 敬太は、甘くておいしいヤマグワの実を全部食べてうれしそうな笑顔を見せました。

 

 山道をしばらく歩くと、山道の左側から水の音がかすかに聞こえてきました。

 

「水の音が聞こえるぞ。もしかして、近くに湧き水があるかも」

 

 敬太は、いろんな木々に囲まれた森の中をかき分けながら進んで行きました。それにつれて、水の音がだんだん大きく鳴り響くようになりました。

 

 そして、山奥の森の木々を抜けて行くと、敬太の目の前には岩の間から勢いよく水がふき出しているのが見えました。勢いよく吹き出した水は、山の緩やかな斜面に沿って流れて行きます。

 

「わ~い! 岩から水が湧き出ているぞ!」

 

 のどが渇いた敬太は、大きな風呂敷と小さい風呂敷を置いてその場所へいきました。そして、水がふき出しているところに両手を入れました。

 

「うわあっ、気持ちいい! ちょっと冷たいけど、水の中に手を入れたら本当に気持ちいいぞ!」

 

 両手を水の中に入れた敬太は、冷たくて気持ちいいと大喜びしています。あまりの気持ちよさに、敬太は水が湧き出ている岩の前へ行きました。

 

「わ~い! わ~い! この水は、冷たくてとってもおいしいぞ!」

 

 敬太は両手ですくうと、冷たくておいしい湧き水を何回も飲み続けました。

 

 雲の切れ間からは、太陽が顔を出すとギラギラと地面に照らされています。太陽の光に照らされているので、敬太の体からは汗がいっぱい出ています。

 

 そんな中にあっても、敬太はいつも赤い腹掛け1枚だけでいつも元気いっぱいです。敬太は、山の斜面を流れる小川に自分の両足を入れました。

 

「わ~い! わ~い! 冷たくて気持ちいい!」

 

 敬太は、川の水を両手でパシャパシャし始めました。無邪気に川遊びをしている姿は、元気いっぱいの7歳児の男の子そのものです。

 

「もっと川でいっぱい遊びたいけど、おっとうとおっかあに早く会うためにもそろそろ行かないと……。でも、もっと川で遊びたいなあ……」

 

 大きい風呂敷を背負った敬太は、右手に小さい風呂敷を持ちました。敬太はもっと川で遊びたいところですが、お父さんとお母さんに会いたいという目的を忘れているわけではありません。

 

「そうだ! 川に沿いながら歩いて行こう!」

 

 敬太は小川に沿って歩けば、険しい山をを下って海に出ることができると考えました。

 

 しかし、川沿いの道幅はほとんどありません。その上、途中に大きな石や木々が密集している危険な場所が少なくありません。

 

「危険なところが多いけど、ぼくはこんなことで逃げたりしないぞ!」

 

 敬太は、川沿いに沿って歩くことにしました。どんなことがあっても、すぐに逃げ出したりすることはありません。敬太は、一度決めたことは絶対にやり遂げる心の強さがあります。

 

 しばらく歩いていると、少しずつ川幅が広がってきました。敬太は、川の中に右足を入れてみました。すると、深さは敬太の膝のところまでの深さとなっています。

 

「うわっ、川の中に入ったらこんなに深くなっているぞ!」

 

 敬太は、川沿いをしばらく歩いただけでこんなに深くなっていることにびっくりしています。すぐに川の中から右足を出すと、再び川沿いを歩き出しました。

 

 すると、何やら助けを呼ぶ声が敬太の耳にかすかに聞こえてきました。敬太は、駆け足で川沿いを走って行きました。そこには、川の真ん中でかわいらしい子犬の男の子がおぼれているのを発見しました。

 

「だ、だれか助けて、助けてワン……。あっぷ、あっぷ!」

 

 その子犬は、すぐ助けてほしいと必死に叫んでいます。その姿を見て、敬太は大きい風呂敷と小さい風呂敷を下ろすと、すぐに駆け足で川の中に入りました。

 

「すぐに助けに行くからな!」

 

 川の流れは非常に速い上に、少し入っただけで敬太の腰の辺りまでの深さとなっています。しかし、敬太はおぼれている子犬を早く助けようと、急いで川を泳ぎ始めました。

 

「だれか助けて……。あっぷ、あっぷ、もうだめだワン……」

「今から助けるから、ぼくの体につかまって!」

 

 敬太は必死になって泳ぎ続けると、おぼれている子犬がいるところへたどり着きました。そして、敬太はその子犬を両手で抱きかかえました。

 

「さあ、もうちょっとだから、がんばって!」

 

 敬太は子犬を抱きながら川のほとりまで戻りましたが、おぼれていた子犬はぐったりしたままです。

 

「大丈夫か? 大丈夫か?」

 

 敬太は逆さに吊り上げてから上下にゆすったり、左右に軽く振ったりしました。すると、子犬は意識が戻ると飲み込んだ水をすぐに吐き出しました。

 

「気がついたのか、もう大丈夫だよ」

「ぼ、ぼくを助けてくれたのワン……。ありがとうワン」

 

 敬太は子犬にやさしく語りかけると、子犬は自分を助けてくれた敬太に感謝しました。子犬は、自分を助けてくれた敬太を見て安心しています。

 

「きみの名前はどんな名前ワン?」

「ぼくの名前は敬太といって、力が強くて元気いっぱいの7歳児の男の子だよ! ぼくは、いつもこの赤い腹掛け1枚だけで元気に歩いたり、駆け足で走ったりするの」

 

 敬太は、子犬に自分の名前と自己紹介を元気な声で言いました。敬太の明るい笑顔を見た子犬ですが、なぜかすぐにうつむき気味になりました。

 

「敬太くんっていうんだワン。ぼくは、生まれてすぐに父ちゃんと母ちゃんからはぐれてしまったから自分の名前は無いんだワン……」

「実は、ぼくもおっとうとおっかあを探すために旅に出ている途中なの。そして、旅の途中で立ちふさがる獣人たちをやっつけているんだ」

「敬太くんも、ぼくと同じように父ちゃんと母ちゃんを探しているんだワン……」

 

 生まれてすぐにお父さんとお母さんからはぐれた子犬の声に、敬太もすぐ耳を傾けました。

 

「それじゃあ、名前がないのなら、ぼくが名前をつけてもいいかな?」

「敬太くんがいたおかげでぼくも助かったから、ぜひともぼくの名前をつけてほしいワン」

「う~ん、どんな名前がいいかなあ……。そうだ! 元気な子犬の男の子だからワンべえにしようか!」

 

 子犬は、自分の名前がありません。そこで、敬太は元気な男の子にピッタリなワンべえをその子犬の名前にしました。

 

「ワンべえは、元気な子犬の男の子にピッタリの名前だワン! 敬太くん、名前をつくてくれてありがとうワン!」

 

 ワンべえは、自分にピッタリの名前をつけてくれたことにとてもうれしそうです。そして、あまりのうれしさに、思い切りジャンプをすると敬太の左肩にいきなり飛びつきました。

 

「ペロペロペロペロッ~」

「もうっ、ワンべえくんったら、ぼくといっしょにいるのが本当にうれしいんだね」

 

 ワンべえは敬太の左肩に飛びつくと、敬太の顔をうれしそうにペロペロとなめなめしています。敬太は、かわいい子犬のワンべえといっしょにいるので楽しそうです。

 

「敬太くんの顔をペロペロするのは、ぼくと敬太くんの友達のしるしなんだワン」

 

 ワンべえはしっぽをピュンピュン振りながら、敬太の顔をなめなめし続けています。それは、ワンべえと敬太の友達のしるしです。

 

「じゃあ、ぼくも今日からワンべえくんと友達になるから、よろしくね!」

「敬太くんとはこれからもずっとぼくの友達だワン!」

 

 敬太は、ワンべえに友達のしるしとして自分の右手を差し出しました。そして、ワンべえの小さい右手を軽く握ると、ワンべえもしっぽをピュンピュン振りながら大喜びしています。

 

「ペロペロペロペロペロッ~」

「ワンべえくん、くすぐったいよ~」

 

 敬太は、新しい友達になったワンべえといっしょに川沿いを再び歩き始めました。しばらく歩くと、ワンべえが木々の密集する森の中へ入って行きました。

 

「ワンべえくん、ものすごく速い走るんだね」

「敬太くんだって、まだ小さい子供なのに駆け足で走るのがとても速いんだワン」

 

 ワンべえは、その小さな体からは考えられないほどの速さで走っています。しかし、敬太も駆け足ではワンべえに負けていません。

 

 そのとき、ワンべえは鼻をクンクンさせながら進んで行きました。少し進むと、ワンべえが何かを見つけました。

 

「敬太くん、ここを見てワン! 見てワン!」

「ワンべえくん、これはどこかで見たことがあるぞ!」

 

 ワンべえは、大きな木の近くに葉っぱがつる状に伸びているのを何本も見つけました。それは、敬太がヤマノイモを見つけたときのと同じです。

 

「わ~い! ヤマノイモだ! ヤマノイモだ!」

「ヤマノイモなのか、ぼくも食べたいワン!」

 

 ワンべえは、敬太にヤマノイモを今すぐにでも食べたいとしっぽをピュンピュン振っています。

 

「よ~し! すぐにヤマノイモを掘り出すから、ちょっと待っててね」

 

 敬太は、自分の両手を使って土を深く掘り続けました。そして、敬太の両手がすっぽりと入るほどの深さにヤマノイモを見つけることができました。

 

「うんしょ、うんしょ、うんしょ、えーい!」

 

 敬太が両手で引っぱると、根っこにヤマノイモが3本も掘り出すことができました。

 

「ワンべえくん、こんなに長いヤマノイモがいっぱい掘り出したぞ!」

「敬太くん、早く食べようワン! 食べようワン!」

 

 敬太は、掘り出したばかりのヤマノイモをワンべえに見せました。ワンべえは、ヤマノイモを早く食べたいとせがんでいます。

 

「それじゃあ、今日はヤマノイモの中でも最も長いのを食べようか! ワンべえくんにもヤマノイモを食べさせてあげるよ」

「敬太くんが掘り出したヤマノイモはとってもおいしいワン!」

 

 敬太は、ヤマノイモを少しずつワンべえの小さい口に入れました。ワンべえは、自分の口に入ったヤマノイモをとてもおいしそうに食べています。

 

「敬太くんのおかげで、晩ご飯のヤマノイモをいっぱい食べることができたワン!」

 

 ワンべえは、ヤマノイモをいっぱい食べてお腹がいっぱいになりました。しかし、ヤマノイモを食べたのはほんの少しに過ぎません。

 

「敬太くんは、ヤマノイモをいつも食べるのワン?」

「ぼくは、いつもイモをいっぱい食べるのが大好きだよ! ヤマノイモがまだこんなに残っているけど、残りを全部食べてもいいかな?」

「ぼくは、もうお腹いっぱいだから、残りは敬太くんが全部食べてもいいワン!」

 

 敬太は、まだ残っているヤマノイモを全部食べることにしました。敬太はヤマノイモを両手で半分に折ると、そのまま自分の歯で丸かじりしながら食べました。

 

「自分で掘り出したヤマノイモは、とってもおいしかったぞ!」

 

 ヤマノイモは、掘り出したばかりで土がまだついています。しかし、敬太はそんなことは気にしません。敬太は、大好きなヤマノイモを食べたのでとてもうれしそうです。

 

「敬太くんが掘ったヤマノイモ、とってもおいしかったワン! 明日もまたヤマノイモを食べたいワン!」

「ヤマノイモはまだ2本あるから、明日もワンべえくんといっしょに食べようね」

 

 敬太とワンべえは、大好きなヤマノイモをお腹いっぱい食べたので満足しています。敬太は、ワンべえといっしょに山道に戻る方向へ歩き出しました。

 

 森の中から出た敬太とワンべえは、山道のほうへ入ってそのまま歩き続けました。すると、敬太とワンべえの目の前には1軒の小さい家が見えてきました。その家は、山道よりも小高いところにあります。

 

「小高いところに小さい家があるぞ。もうすぐ日が暮れるし、今夜お泊りができるか確かめよう」

 

 敬太とワンべえは、すぐに山道から小高いところまで駆け上がりました。

 

 小高いところにある小さい家は、少しボロボロになっています。敬太は、家の外から一声かけることにしました。

 

「こんばんは! どなたかいませんか」

 

 敬太は、人がいるかどうか確かめようと声をかけましたが、家の中からは何も返事がありません。

 

「敬太くん、おうちの中にも、その周りにも人間がいないんだワン」

「ワンべえくん、ここには人が誰もいないってことかな?」

 

 ワンべえは、家の中にもその周りにも人間がいないことに気づきました。敬太たちの周りには、自分たち以外に誰もいないというくらいの静けさです。

 

「それじゃあ、この家の板戸を開けてみようかな。もし、家の中に人がいれば、板戸は閉まったままかもしれないぞ」

 

 敬太は誰もいないようなので、その小さい家の板戸を開けることにしました。すると、力を入れなくても簡単に開くことができました。

 

 小さい家の中は、小さい台所と板の間があるだけの簡素な造りです。そこは、まるでもぬけの殻のように人が誰もいません。

 

 これを見たワンべえは、恐がる様子を見せながら敬太の体にへばりつきました。

 

「ワンべえくん、恐がらなくても大丈夫だよ。ぼくが守ってあげるから」

「ぼくも、敬太くんみたいに恐がらないようにがんばるワン!」

 

 太陽が西のほうに沈むと、辺りは次第に暗くなっていきました。敬太は、寝るときに使うお布団を出すために大きい風呂敷を開けました。

 

「ぼくのお布団はあるけど、ワンべえくんのお布団はないんだよなあ……」

 

 敬太は寝るためのお布団と掛け布団を出すと、そのまま板の間に敷きました。しかし、敬太といっしょにきたワンべえが寝るためのお布団はありません。

 

 すると、家の奥のほうに布団らしきものが置いてあるの見つけました。敬太が行ってみると、そこには小さいお布団が畳んでいました。

 

「これは、ぼくのお布団よりもかなり小さいし、赤ちゃんが寝るときに使うお布団みたいだなあ。でも、ワンべえくんなら、このお布団にピッタリだなあ」

 

 そのお布団は、赤ちゃんが寝るときに使うものです。その大きさなら、ワンべえが寝るお布団としてピッタリ合います。

 

「ワンべえくんのお布団があったよ。ぼくのお布団の隣に敷いておくからね」

「敬太くん、ぼくのためにお布団まで用意してくれてありがとうワン!」

 

 敬太は、ワンべえが使う小さいお布団を自分のお布団の隣に敷きました。これを見たワンべえは、敬太への感謝の気持ちでいっぱいです。

 

「それじゃあ、ワンべえくん、おやすみなさい」

「敬太くん、おやすみワン! 明日もよろしくワン!」

 

 敬太とワンべえは布団に入ると、ぐっすりと眠りの中へ入りました。そして、かわいい笑顔を見せながら楽しそうな夢を見ています。


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