ゆっくりと、だが確実に、霧は深まる。
映像にはほとんど霧しか映っていないのだが、そこはダ・ヴィンチちゃん。こうなることを予想してエルキドゥに事前に持たせておいたカメラの映像を映す。
サーモグラフィっぽくなってしまってはいるが、見えるので良しとする。
『これで大丈夫かい?』
「うむ。見えておるぞ」
「正直見辛い事この上ないけどねっ!!」
「仕方ないですよ。今はこれが限界ですからね……ダ・ヴィンチちゃんが今頑張ってますけどね」
『まぁ、それは後で試してみるとしよう。とりあえず、今はこれで行くよ』
その言葉と共に、映像は動き始めた。
* * *
「ぐぬぅ……茨木を連れて来ても良かったのぅ……」
「仕切り直し……欲しかったね……」
「ほら! やっぱり私以外の方が良かったじゃない!!」
「そんな!! エウリュアレがいなかったら最悪開幕で詰んでたでしょ!!」
「ルール追加で死にそうじゃけどね……」
「まぁ、必死で逃げてると、気付いたら10分経ってるから実質ないようなもの……」
半泣きで言うが、事実何も不自由を感じないレベルで襲われているので、特に問題は無かった。
「っ!? マスター、ヘシアン・ロボ以外の敵じゃ!」
「通常モンスター!?」
「ちょ……ここって、ホムンクルスとかじゃなかったっけ……?」
「ランサーじゃし!! こっちアーチャーしかおらんのだけど!?」
当然だが、ここは修正されつつある特異点で、特異点の時の残滓は残っている。
「魔術礼装は全部持ってきたよ!!」
「全部使うつもりなんか!?」
「オーダーチェンジで私を後ろに下げていいわよ」
「二人でチェンジも何もないわ」
裏に回れるはずもない。『交換できるメンバーはいません。』だ。
「とりあえず、ガンド撃って逃げるか、霊子譲渡でNP貯めて宝具撃って逃走じゃな」
「えぇ……とりあえず、吸血使って宝具一回突き刺して逃げるわよ!!」
「レベルはそんなに高くは無いが受けるダメージは痛いからね……一撃離脱で徐々に削っていくよ!!」
そう言って、オオガミ達は現れた敵を倒していく。
* * *
「あ~……特異点ですもんね。敵がいてもおかしくないですよね……」
『これは……僕が処理しても良いのか、それともこれはこれとして一つのイベントとして扱ってもいいのかな?』
「むぅ……そうだな。余は見守るのが一番だな。こっちが攻撃されたら反撃する、と言うので良いと思うぞ」
「どうにかすると思うし、そっちの方が面白そうよね」
『じゃあ、そうするよ。一応、ヘシアン・ロボも襲われるしね……』
「両者ともに辛いねぇ……」
「ふふふ……センパイ、もっと苦しんで下さいね」
「BBさん。後でお話がありますので、覚悟しておいてくださいね?」
「あっれ~? ここのマシュさん、危険じゃないですか~……?」
「諦めるのだな。あんな登場の仕方をしたからこんなぐれ方を……」
即座に地獄の扉を開けたBBは、なんでこんなことになったのかと、過去の事を思い出すが、心当たりは全くないのだった。
『じゃあ、再開していくよ――――っと』
襲い掛かってきたスペルブックを撃ち落し、エルキドゥは再び動き始める。
* * *
「わはは! これは辛い!」
「いいからさっさと凪ぎ払いなさいな!」
「うむ! 三千世界に屍を晒すが良い……!!」
放たれた、もはや弾丸とは言えない無数のレーザー。
それによってヘルタースケルター達は撃ち砕かれていく。が、
「むっ! やばい、気付かれたぞ!!」
「うぇぇ……!! このタイミングで!?」
「面倒ね……私の美声で魅了して上げるわ……!!」
「無理を言うでないわ!! この状況で逃げられると思うてか!!」
「えぇ、貴女がいるし」
「最悪瞬間強化にガンド、全体強化、霊子向上に緊急回避で瞬間攻撃力で怯ませて瞬間回避で全力逃走だよ!!」
「ちょいまてい。今の奴、何度魔術礼装を変えた!?」
「3回かな!!」
「高速換装とか、無茶を……」
「それくらいしないと、死にそうだし!!」
「うむ。それくらいの心意気じゃな!!」
そう言って、三人は再度突撃して突破口を作るのだった。
* * *
『……かれこれ5時間。時間が過ぎるのは早いねぇ』
「むぅ……後少しで終わるのか……」
「早いものねぇ……」
「でも、ここからが本番だね!!」
『最後の最後で逆転、なんてね』
「あはは……それは、かなりつらいですね……」
「私は先輩を信じてますから」
「センパイが、勝てると確信した瞬間にやられるっていうのが理想ですね」
「BBさん。今、自分で自分の首を絞めてるって知ってます?」
「嫌ですねぇマシュさん! そんな首を絞めるような事言ってるわけないじゃないですかぁ!」
「あはは。覚悟してくださいね?」
「…………」
『うん。雲行きが怪しくなってきたね。誰だい? BBとマシュを隣に座らせたのは』
珍しくエルキドゥが突っ込みを入れるが、全員が目を逸らすので諦めるのだった。
『そろそろ終盤だね。さぁ、見に行こうか』
「ラストスパートね! 頑張りなさい!」
「ここで負けるとか、さすがの余も頬が引きつるぞ」
その言葉と共に、エルキドゥは付近の敵を倒していくのだった。
* * *
「これ……逃げ切れるかのぅ……」
「もう、普通に倒せばいいじゃない」
「いや、あくまでも逃げるのが目的だし……」
ヘシアン・ロボを前に、三人は戦慄する。
逃げ切る事が問題なのではなく、周囲を囲んでいるモンスターが問題だったりする。
「よし。魔術礼装のリキャストが辛いけど、全力で逃げるよ!!」
「魅了で悩殺。ノッブで周囲の壁突破よね!!」
「任せよ!! って事で、NPチャージしたいんじゃが!」
「……霊子譲渡死んでるけどね」
「……これは終わったのぅ」
完全に、壁に追い詰められているようなものだった。
こういう時は、本当に仕切り直しのスキルが欲しいと思ったオオガミ達だった。
「……よし、最終局面じゃ!! 行こうじゃないか!!!」
「えぇ、止め刺してあげるわ!!」
「完全に耐久する気満々だよね!! まったく構わないけど!!」
そう言って、三人は逃げ切るためにヘシアン・ロボに立ち向かうのだった。
数分後、ロンドンから帰還した三人は、しばらく地に伏せて動けなかったという。
うぅむ……難しい。鬼ごっこ系って、結構書きづらいんですね……何だかんだ、観戦側が本編と化してません?
結果はあれです。逃げ切れたかどうかは、あなた次第。というやつですね。とりあえずBBはその後どうなったのか……誰も知らないのだった。