菓子の取り合い(なんで私もいるんでしょう……)
「さて……今日はマスターが菓子当番。故に、今が襲撃時ということだ」
「ふぅん? 普通に貰ってくればいいんじゃないですか?」
食堂の机に隠れつつ厨房を覗くバラキーとカーマ。
平然と言うカーマは、しかし、オオガミのお菓子希少性を知らない。
「そんなに簡単に手に入るのなら争いは起こらん……マスターの菓子は美味いが、ほとんどエウリュアレが持っていくからな……めったに手に入らない事で有名なのだ……この前のホワイトデーとやらは、珍しく菓子が配られた……そのせいで求める者が増え、今や出来上がるまでのこの時間は空気が針のように刺さる……」
「なんだか面倒そうですね……というか、そんなに美味しいんですか……ちょっと気になります」
「アビゲイルやナーサリーの茶会に出たなら口にしているかもしれんがな……なぜ奴等が許されるのに吾は許されぬのか。不思議でならぬ」
「目的の違いですかね……まぁいいです。それで? 今は何をしてるんですか」
ため息混じりに聞くカーマ。
それに対してバラキーは思い出したように、
「あぁ、そうだ。菓子が出来ると同時に取り合いが始めるから、教えておこうと思ったのだ。取り合いといっても、ルールは存在する。第一に、菓子を手にした者への攻撃はなし。これを禁止せねば、菓子を取ったものは安心して食えんからな……吾も怯えながら食いたくはない。次に、一人一袋までだ」
「袋? 小包にされてるんですか?」
「うむ。最近まではしていなかったが、ついに実装された。なんせ、一枚一枚を取り合いをしていたら苦労のわりに成果が少なくて泣けるからな……」
「なるほど。まぁ、納得です。他にはあるんですか?」
「うむ。最後に、死人を出すな。だな。気絶はいいらしい。最終的に意識を刈り取ったもの勝ちなのだが、まぁ、それほど簡単でもない」
「そうなんですか……ちなみに、監視役とかいるんですか?」
「いるぞ。エルキドゥだ」
「……正直、一回も戦ったことがないので、どれだけヤバイのか分からないんですが……」
「神性はかなり相性悪いぞ……何せ拘束されるからな。吾は神性無いけど思いっきり締め上げられたからな……まぁ、一度身をもって体感した方が早いと思うがな……」
「アバウトですね……」
そんなやり取りをしていると、厨房から袋詰めをしているような音が聞こえてくる。
「むっ。そろそろか……行くぞカーマ。吾らの菓子のため、今こそ死力を振り絞るとき!」
「絶対使い道間違えてますって。ちゃんとタイミングを考えましょうよ」
しかし、そんなカーマの心配はバラキーには届かず、いくつもの袋をかごに入れたオオガミによる開始の合図と共に、取り合いが始まるのだった。
イベントが無い空白期間最高……種火集めよ……