「ん~……とりあえず、変態紳士は殴り倒していくに限るけど、リンゴを使わないと案外時間がかかりそうだな……」
「そりゃかかるわよ……むしろ、なんでかからないと思ったのかが知りたいわ」
「それはそうなのだけど、あの、マスター。どうして私は肩車をされてるの……?」
アビゲイルを肩に乗せながら真面目な顔で話すオオガミ。隣にいるエウリュアレも気にしていないので、尚更アビゲイルは首をかしげる。
それに対して、エウリュアレは、
「それは簡単よ。だって、マスターが空元気の時に近付いたんだもの。そんな状態のマスターに近付いた時点で、肩車されるのは自然なことよ」
「えっ、初耳なんだけど!?」
「なんでマスターが驚いているの!?」
エウリュアレの説明に、誰よりも驚いているオオガミ。
むしろアビゲイルはオオガミが驚いていることに驚いていた。
「まぁ、無自覚なことに定評があるマスターだもの。というか、ほとんど何も考えてないときの方が多いわ」
「そ、そうなの……でも、やる時はちゃんとやるもの。マスターのそう言うところがいいと思うの」
「むしろやるとき以外は残念なのだけど。貴女も思い当たるところはあるでしょ?」
「ねぇ待って二人とも。本人を置いて話を進めないで……」
何やら変な方向に流れ始めた会話に、思わず声をあげるオオガミ。
すると、エウリュアレは心の底から不思議そうな顔で、
「……むしろ、この話は本人が聞いてちゃ行けないと思うの」
「じゃあなんで目の前で話すんだよ!?」
正論過ぎる突っ込み。
しかし、エウリュアレは少し考えると、
「つまり、今から貴方を追い出せばいいってこと?」
「あ、そう言う方向に持っていくんですね!?」
つまりは、いる方が悪いので、排除する。ということだろう。中々狂気的で、オオガミも思わず頬を引きつらせる。
「という訳で、アビー。やってしまいなさい」
「アイアイマム!」
アビゲイルはそう言って、器用にオオガミの肩から飛び降りると、即座に門を使ってオオガミを落とすのだった。
エウリュアレはそれを笑顔で見送り、数秒してから一瞬で真顔になると、
「……記憶を消すために殴っておくのを忘れたわ」
「あっ……ど、どうしましょう……今から追いかけて殴っておこうかしら……」
どうやら、冷静を装っているものの、内心は恥ずかしさで真っ赤になっているようだ。
しかし、エウリュアレはため息を吐くと、
「まぁ、やっちゃったものはしょうがないわ……今から行っても手遅れだろうし、そのうち忘れるでしょ」
「そ、そうね……でも、意外と驚いたわ。エウリュアレさんでも、あんなに動揺するのね」
「……別に、そんなことはないわ」
「……ふふっ。えぇ、そう言うことにしておくわね」
不機嫌そうな雰囲気になったエウリュアレに、アビゲイルはにこにこと笑いながらついていくのだった。
普段何気なく言っていることも、ふと自覚すると何言ってるんだってなるときありますよね……