「ふふふ……これ以上マスターに悪い虫は付かせないわ……!」
「まぁ、気楽に頑張りなさいよ~」
書庫の中で不気味に笑うアビゲイルを、床に座って本を読みつつ適当に応援するエウリュアレ。
なお、件のマスターはイリヤと護法少女とマシュを連れて周回中である。
「でも、具体化にどうするの?」
「ん~……マスターは隔離しても出てくるから、虫を排除していくしかないかしら」
「物騒ねぇ……」
「でも、それ以外無いと思うのだけど」
そういうアビゲイルの言葉に、内心同意するエウリュアレ。
事実、あのマスターは監禁しようとしても気付くと脱出するので、どうしようもできない。
ならば、周りを倒した方が早いというのは、エウリュアレも知っていた。
「でも、そもそもはマスターが原因で起こってるのよ?」
「えぇ……そこが問題なの。だから、私は思ったの。むしろ、ずっと一緒にいる印象をつけておけば、誰も近づいてこないんじゃないかって」
「その理論が通じてるなら今頃マスターの近くにいるのは私と貴女だけよ」
その手段が通じないことは、現状を見れば既に証明されていた。
その事実に気付いたアビゲイルは、静かになると同時にうずくまり、
「なんだかバカらしくなってきちゃったわ。ふて寝する」
「はいはい。膝は貸してあげるわよ」
エウリュアレがそう言うと、アビゲイルは門を使ってエウリュアレの隣まで行くと、その膝を枕にする。
「はぅ……なんだか落ち着くわ……」
「まぁ、そのうちもう一度やる気が出るでしょ。そしたらもう一回行ってらっしゃい」
「……止めないのね」
「えぇ。だって、その方が面白そうでしょう?」
「……そうね。ふふっ」
そう言って笑うエウリュアレに、アビゲイルも笑って返すのだった。
* * *
「ただいま~……って、寝てる?」
「あぁ、お帰りマスター。アビーは寝てるわ。理由は聞かないで。そうすると、あまり面白くないもの」
帰って来たオオガミに、微笑みながらそう言うエウリュアレ。
膝の上で寝ているアビゲイルの髪を片手で弄りながら、本を読んでいた。
「そう……なら聞かないけど。でも、エウリュアレがそうやって本を読んでるの、久しぶりに見たよ。暇だった?」
「えぇ。暇だったわ。何処かの誰かさんが置いていくんだもの。とっても暇だったわ」
「ん~……BB呼ぶ?」
「いつの間に連絡が着くようになってたのよ……」
「ついさっき。突然出て来て、通信機だけ置いていった」
「……向こうも暇なのかしら」
エウリュアレはそう呟いて、ため息を吐くのだった。
エウリュアレの膝枕をされるという貴重な体験。果たして何人がその膝の上で寝ることができただろうか……