「さて、延長ライブも終わったことだし、そろそろ帰り支度しましょうか」
「あの、マスターが息をしてないのだけど……」
「あれは本望じゃろ。是非も無し」
倒れて動かなくなっているオオガミを無視して部屋に戻ろうとするノッブとエウリュアレに、アビゲイルは首をかしげて聞く。
「本望って……何かあったの?」
「えぇ、さっきBBを捕まえて話を聞いたのだけど、一人だけフィルター無しで聞いてたみたいよ。あの宝具級のボイスを、生で」
「えっと……マスター、虐められてるの?」
「まぁ、BBはそのつもりだったようなんじゃけど、あいにくとマスターは耐えられるんじゃよねぇ……」
「明日には何事もなかったかのように戻ってきとるじゃろ」
「マスター、本当に不死身なのね……」
その異常な耐久力を再認識して、アビゲイルは二人を追いかける。
そして、それと入れ替わるようにやって来たのは、先程ノッブたちといなくなったはずのエウリュアレ。
「はぁ……BBと話してたら遅くなったわ――――って、誰もいないのだけど……ねぇマスター。ノッブたちはどこに行ったのよ」
倒れているオオガミを無理矢理起こし、質問するエウリュアレ。
オオガミは明らかに体調の悪そうな顔色で、
「ノッブたちなら、エウリュアレに変装した新シンさんと一緒に部屋に戻ったよ……あと、揺らすの止めて。気持ち悪い……」
「完全にやられてるじゃない……だからフィルターをつけてもらいなさいって言ったのに」
「それはそれ、これはこれ、だよ。聞きたいんだから仕方ない」
「別に、命の危機に陥る必要はないと思うのだけど……」
ただでさえも青かった顔が更に青くなったところで投げ捨て、エウリュアレはため息を吐く。
「はぁ……仕方ないわ。ほら、さっさと起きなさい。私の泊まってる方に新シンがいるのはなんとなく許せないから取り返しに行くわよ」
「えぇ……寝てちゃダメ……?」
「まだ仕事は残ってるわよ。ほら、早く起きて仕事しなさい。そして明日帰るわよ」
「うぅ……エウリュアレが時々マシュ並みに厳しい……」
「バカなこと言ってないで早く行くわよ。どっちかって言うと、新シンがアナに殺されてないかが心配だわ」
「あ、それは一理ある。急がなきゃ」
そう言って、普通に立ち上がるオオガミを見て、エウリュアレは半目になりつつ脛を蹴ると、
「普通に立てるならさっさと立ちなさいよ」
「ひ、酷いっ! 立てるようになったから立ったら思いっきり蹴られた……!」
頬を膨らませながら歩くエウリュアレの後ろを、オオガミは涙目で追いかけるのだった。
さりげなく変装を見破ってるいつもの光景。