「ようやく来たのね。遅かったじゃない」
「儂らが入ったときは誰もいなかったと思うんじゃけどな? なんで先回りされとるのか」
エウリュアレ達が湯に浸かっている中、ノッブ達は体を洗う。
数名ほどそのまま入ろうとしたが、ノッブが止めて洗いにいかせた。
「私たちはちゃんと後から来たわ。まぁ、全速力で走ってきたから、途中で追い抜いたけど」
「速度で負けたかぁ~……うむ、まぁ、儂ら歩きじゃったし、是非もなしか。それで、四人だけか?」
「いえ、バラキーもいるのだけど、施設内を探索してくるって言ってどこかに行ったわ」
「ふむ……つまり、5人か」
「あぁ、いえ、来たのは7人よ」
「む? ここにはおらぬが……?」
「そりゃ、男性二人だもの。
「……うむ」
体についている石鹸を流そうとしていた手を止め、火縄銃を召喚して衝立に向かって引き金を引く。
乾いた音の後に、向こう側で何かが倒れる音がした。
『あ、アンリ~~っ!!』
「う、うわぁ……叔母上、ヘッドショットしてるぅ……」
「なんでそんなに精度高いのかしら」
「誰もアンリを心配しないのね……」
「まぁ、いつもの事じゃし……とりあえず、向こうにいるのはアンリとマスターか。放っておいても良いか」
「その為だけにアンリは犠牲になったのね……」
わりと引き気味のメンバー。遊んでいるジャックとバニヤンが唯一の癒しだろう。
ただ、一人だけ静かにしていたスカディが、
「い、痛い! なんだこの液体は! ぬううぅ……!」
「あぁ……シャンプーが目に入ってしまったのね……早く洗い流しましょ」
「う、うわぁ……ひどくかっこがつかないんじゃけど、この女神……」
「ちょっとノッブ。それは私への宣戦布告ととっても良いの?」
「なんでお主が反応するんじゃ面倒くさい。妹の方も反応するなって」
衝立の穴を適当に塞いで、石鹸を流すノッブは、すぐにスカディを助けに行く。
「ぬうぅ……このような武器があるとは思わなかった……まさか目を潰されるとは……」
「まぁ、顔にかけられたらと考えると肝が冷えるが、そもそも髪を洗うだけじゃしなぁ……基本目には入らんて」
「いや、目には入るって。入らないように洗えるようになってるだけで。子供の頃とか基本それじゃん。シャンプーハット取ってこよう」
「いや、もう洗い終わるから良いんじゃけど……」
「そういう道具があるなら先に教えてくれても良かろう! なぜこの洗い終わるタイミングなのか!」
「だって出来ないって思わないじゃん? 想定外の極み……」
「というか、身長差があるから凄い構図よね。頭一つ分違うんだもの」
「エウリュアレ程じゃないんじゃけどね? まだ分かる範囲じゃろ。というか、身長的なものなら、エウリュアレがやる方が適任だと思うんじゃけどね?」
「嫌よ、面倒くさい」
ま、そうじゃろうな。と答えつつ、ノッブはスカディの頭にお湯をかけてシャンプーを流す。
「流石に体は自分で洗えるじゃろ。出来んかったら……まぁ、その時じゃ」
「ぬぅ……またよく分からぬものが……」
「これはこう使うんです」
「あぁ、なるほど……」
ノッブが去っていった後、アナスタシアがスカディのフォローをする。
「さて、そろそろじゃろ」
「何が?」
「ん? あぁ、外を見とれば分かる」
疑問を浮かべるエウリュアレだったが、すぐにノッブの言っていることを理解した。
「あぁ……えぇ、これは良いわね」
「ふふん。そうであろう?」
吹雪が止み、射し込む光でキラキラと輝く雪。
眼前に広がるのは、白く煌めく山だった。
「モデルは?」
「ん。無い! 温泉が近くにある雪山とか、そんな覚えとらんし、そもそもBBに用意させる上で、共有とか出来んからな」
「そう……まぁ、それならそれで良いのだけどね」
そう言って、エウリュアレはぼんやりと目の前の山を眺めるのだった。
ほのぼのしている裏で、確かにアンリが犠牲になっているということを覚えていて欲しい……去らばアンリ(無情