「マスターさん! 決戦よ!」
「はい?」
突然廊下で声をかけられるオオガミ。呼び止めたのはナーサリー。
「どうしたの突然。というか、決戦って?」
「私の乗り物の話よ! かわいいのを作ってくれるって言ったじゃない!」
「えっ。これからSE.RA.PHに突撃するつもりだったんだけど」
「そんなのより、私の乗り物を手に入れましょうよ!」
「えぇ……ん~……まぁ、別にAPはそんなに溜まってないし良いか。それで、どっちから行くの?」
ナーサリーの気迫に負け、周回に行くのを中断してナーサリーに付き合う。
しかし、冷静に考えるとメンバーにナーサリーも組み込まれていたことを思い出す。どの道付き合うのが一番だと気付く。
「ん~……メディアから行きましょう! きっとすぐに協力してくれるわ!」
「その自信がどこから出てくるのか分からないけど、とりあえず行こうか」
「きっと部屋にいるわ! 基本この時間帯はいつもいるもの!」
「なんでそれを知っているのかを知りたい感じなんだけど? どれだけ入り浸ってるのさ」
メディアがどういう風に動いているのかを知ってるかのようなナーサリーの発言に突っ込みながらも、ナーサリーに手を引かれて行く。
* * *
「それでどうして私の所に来るのかしらねぇ……」
「メディアなら、大きなお人形さんも作れて、しかもちゃんと動くのも作れそうじゃない!」
「買い被り過ぎよ。そこまで万能じゃないわ」
「むぅ……そんなことないわよ! メディアは凄いもの!」
メディアの部屋の前で話す二人。
「ナーサリー。とりあえず、いったんストップだよ。ちょっと待っててね」
「わわっ。マスターさん! まだ私が話しているのよ!?」
「ここから先は任せなさいって。俺が頑張るから」
「……分かった。マスターさん。お願い」
「うん。じゃ、休憩室で待ってて」
ナーサリーは小さくうなずくと、スタスタと休憩室に向かっていく。
それを見送ったメディアは、
「ふぅ。それで、結局なんなの?」
「大体はナーサリーの言ってた通りだよ。昨日パッションリップの上にナーサリーが乗ろうとしてたから、注意したんだけど、それからこうなった」
「完全に私は関係ないじゃない。というか、なんて説得したのよ」
「『メディアとノッブに頼めば何とかしてくれるはず』って言った」
「…………アレと共同作業をしろっていうの? まぁ、作れるとは思うけども、あっちはどうなのよ」
「たぶん了承してくれるんじゃないかなぁって思ってる。まぁ、理由は無いんだけども」
「いい加減ねぇ……まぁ、向こうが良いっていうなら考えるわ。それまでは保留ね。ささ、行ってきなさい」
それだけ言うと、メディアは部屋の中に戻って行く。
オオガミはとりあえず、ノッブがいるであろう休憩室に向かった。
* * *
「あれ? ノッブは?」
「さぁ? 今日は見てないわね。昨日ナーサリーを振りほどいてからずっと見てないわ」
「……工房かな?」
「なんじゃない? 私は知らないけど」
本日のお菓子はサラダ煎餅らしい。今日は甘いものの気分ではないようだった。
「ん~……エウリュアレが知らないとか、珍しい事もあるもんだね」
「私があいつのいる場所を常に知っているとか思わないで。それに、四六時中一緒なわけじゃないわよ」
「まぁ、レイシフトしてる間は一緒じゃない方が多いよね」
「でしょ? なら、私が知ってるとか思わない。ほら、行ってきなさい」
「分かった。っていうか、ナーサリーは?」
とりあえず、ノッブの工房に向かおうとし、ナーサリーがいないことに気付く。
「ナーサリーなら、見てないわよ?」
「えぇ? おかしいなぁ……ナーサリーには先に休憩室にいるように言ったんだけどなぁ…」
「ん~……誰かに捕まってたり?」
「いやいや。そんなこと無いでしょ」
そう言うと同時、休憩室の扉が開く。
「ふはははは!! 一日かけて作ってやったわ!!」
「なんだそれぇ!?」
「ちょっとノッブ!? そんなの作ってどうする気!? エルキドゥに見つかっても知らないわよ!?」
突然の釜形の乗り物。人が一人か二人乗れそうなほどのもので、ノブはその隣にいる。
「ふん、ナーサリーが昨日叫んでおったからな。儂は振りほどいた後から頑張って作っておったのじゃ。んで、完成したから見せようと思ったらちょうどナーサリーが歩いておってな。真顔で逃げようとしたから捕まえて乗せてやった」
「もはや拉致じゃんか!」
「助けてマスター! ノッブに捕まったわ!!」
胸を張って言い張るノッブにオオガミが突っ込みを入れると、ナーサリーが釜の中から飛び出して言ってくる。
「む。その言い方だと、まるで儂が悪者じゃな」
「明らかにそうだよ。ほら、すぐに開放して」
「げげっ! エルキドゥ!! いや、本人が嫌がるなら無理して乗せる必要は無いんじゃけどね?」
「っていうか、ノッブ。一人で頑張ってたの?」
「もちろんじゃ。こんなこと、誰かに協力してもらうとか恥ずかしすぎるじゃろ」
「そんなことないと思うけどね?」
エルキドゥにナーサリーが救出されるのを横目に、ノッブと会話するオオガミ。
「ん~……それ、普通に動くの?」
「ん? 動くぞ? ノッブUFOを研究した成果じゃ。とくと見るが良い」
ふふん。と得意げなノッブ。だが、目的はそこではなかった。
「それさ、たぶん見た目の問題でナーサリーが嫌がってるんでしょ? なら、メディアと一緒に作らない? 少なくとも、見た目は解消されると思うけど」
「ふむ……そうじゃな。向こうが良いのならそうさせてもらうとするかの。では、行ってくるのじゃ」
そう言うと、ノッブは休憩室を出ていった。
「ナーサリー。乗り心地はどうだった?」
「悪くもないし、それほど良くもなかったわ。まぁまぁって感じ。それで、マスターさん。私の乗り物は何時出来るの?」
「それは……本人たちしか知らないかなぁ……」
ナーサリーの質問に、そう返すのが精一杯なオオガミだった。
ノッブは頑張った。とりあえず、それが今回の話だと思うのです。
基本小さな子には優しいカルデアなのです。皆子供に甘いのですよ。まぁ、心身ともに小さいのがナーサリーしかいないんですけどねっ!