「お、恐ろしいことをするわね……」
「オキシドールって、じゃぶじゃぶつけて良いものだっけ……というか、目が痛いんじゃ……」
「そういうレベルでもないと思うのだけど」
苦い顔をしているオオガミとエウリュアレ。
そもそも、傷口に染みて痛くなるようなものに顔を突っ込ませるのは如何なものか。
「というか、食器から机まで全部消毒液臭いのは流石に勘弁だよね」
「想像もしたくないレベルね」
二人はそう言いつつ、ため息を吐く。
そこまで徹底的にやると、一周回って不衛生な気もするのだが、そこら辺はどうなのか。是非とも専門家に聞いてみたいが、生憎と専門家は近くにいなかった。
ただ、精神衛生的には地獄なのはよく分かった。牛魔王が御仏に頼りたくなるのも納得である。
「あぁ、なんというか、英国料理を食べてみたくなったのだけど」
「うぅむ、そう言われてもなぁ……円卓式で良いです?」
「……本気で言っているのかしら?」
笑顔で返すエウリュアレ。もちろん、目は笑っていない。むしろ殺意があった。
それもそうだろう。消毒臭とは別の方向性で、精神ダメージが大きい。なんせ、オオガミの円卓イメージはゲテモノ料理だからだったりする。
とはいえ、何を出すつもりなのか分からないのが問題だ。今日はワイバーンを主に狩ったような気がするので、おそらくその辺だろうが。
「うぅむ、ベオウルフにドラゴンステーキを学んでくるべきだったか……」
「そういう問題じゃないの。というか、それ、英国料理なのかしら……?」
「まぁ、ステーキ以外にも作れるだろうし、頑張ってみるよ。正直エミヤ師匠に帰ってきてほしいのだけど……」
「そうねぇ……流石に経験には勝てないものね。なんだかんだ、バリエーションが豊富だもの」
「レベルが足りないんだよ……仕方ない……」
作りたいものと、作れるものは別ということだ。やりたいことにやれることがついてこないのはよくあることだ。
とは言っても、料理の話をしていたせいで腹が減ってきた二人。どうしたものかと顔を見合わせ、
「そう言えば、肉まんがあったわよね」
「あぁ、肉まんがあったね……」
「食べられるかしら……」
「食べてみる……?」
「そうね。毒味をお願いするわ」
「マスターに毒味をさせるとは、流石エウリュアレ。悪魔だなっ!」
文句は言いつつも、取り出して食べるオオガミ。何の躊躇いもなく食べるので、見ている方が心配になったりするのだが、普通に食べているので問題ないようだ。
「どう? 美味しい?」
「うん、結構美味しい。ほら、エウリュアレも食べようよ」
「そうね、いただくわ」
そう言って、エウリュアレに新しい肉まんを差し出す。エウリュアレはそれを両手で受けとると、ぱくり、ぱくりと少しずつ食べ進めていくのだった。
なんだろう、色々言ったけど、最終的に肉まんのメシテロ……?