「…………」
「ねぇ、マスターはなんでベッドに倒れてるのかしら……」
「エウリュアレさんをまだ引けてないんじゃないですかね。一向に姿が見えませんし」
「そうなの……マスターも大変なのね……」
倒れているオオガミに近付くアビゲイル。
だが、その様子を見ていてマシュはふとオオガミの悪癖をひとつ思い出す。
直後の事だった。
「きゃっ……!!」
腕を掴まれ、そのまま引っ張られて抱き込まれるアビゲイル。抱き枕状態だった。
「えぇ……マスター……?」
「あぁ……アビゲイルさんも犠牲になってしまいましたか……」
「ど、どういうことなの?」
「先輩は、時々人を捕まえて抱き枕にする癖があるんです。たぶん、疲れきっていたのと、エウリュアレさんが再召喚出来なかった精神ダメージのせいで起こってしまったんじゃないかと」
「ま、マスター……そんなに疲れていたのね……まぁ、私も嫌ではないから良いわ。思わぬお得ね」
「ぐぅっ……羨まじゃなかった。先輩が調子に乗らないくらいにしてくださいね」
「えぇ。でも、マスターが離してくれないと無理ね」
「あ~……基本的に起きるまで離してくれないので、数時間はそのまま……」
「じゃあ、数時間はこのままね。私はこのままマスターと寝るわ」
「ついにエウリュアレさん以外にも……!? だ、ダメです先輩っ! たぶん先輩にはそういうつもりは無いと思うんですが、それ以上は本当に、あらぬ誤解を受けると思うんですっ!」
そう言ってマシュはオオガミを起こそうとするが、今更だ。もはや手遅れと言って良いかもしれないレベルだ。
「マシュさん。もう手遅れだと思うの。それに、周りからの評価が最底辺でも私は構わないわ。だって、マスターと一緒ならたくさん冒険出来そうじゃない」
「アビーさん……そうですね。先輩は私を助けようと精一杯頑張ってくれたときもありました……でもダメです。それはそれ。これはこれです。基本的に先輩は周りに助けられながら進む人ですから」
「……実はマシュさん、マスターの事が嫌いだったりする……?」
「そんなわけないじゃないですか。最大の敬意と親愛をもっていますとも。だから全力でダメ人間の道から遠ざけてるんじゃないですか」
「だ、ダメ人間……?」
散々に言われているオオガミ。寝ているとはいえ、本人を前にして言えるというのは、一周回って凄い勇気だと思うアビゲイル。
最近、どちらが子供なのか分からなくなってきているが、今は気にしない。
「というか、マシュさん、さっき私が捕まったときに羨ましいって――――」
「あぁっ!! 急用を思い出しました! それではこれで!!」
「え、あ……行っちゃったわ……でも、否定も何もしないで行ったのは、どっちとも言えるから問題だと思うの……」
オオガミに捕まれているため、追うことが出来ないアビゲイルは、去っていくマシュをただ見ていることしか出来ないのだった。
まぁ、ほとんど引いてないんですけどね。200回くらいです。普通に出ませんでしたけど。
明日も頑張らねば……