「ひゃふぅ~! メルト強化だぁ~!!」
「……メルトさん、いたかしら?」
「えぇ、いません。完全に暴走してるだけです」
叫び暴れるオオガミを見ながら聞いたアビゲイルに、悲しそうな表情で首を振るマシュ。
いつも通りといえばいつも通りではあるが、いつもよりうるさいのは確かだ。
「何気に、今マスターを縛ってる理由はメルトさんが原因なんですけどね」
「まぁ。もしかして石を貯めてるのはメルトさんを召喚するため?」
「はい。まぁ、ここまで出てないので、そろそろ洒落にならない予感がするのですが……」
「石がたくさんあっても、来てくれないのね……やっぱり、数だけじゃダメなのね……」
「えぇ、まずは先輩を矯正するところからかと」
嬉しそうに荒ぶるオオガミに呆れつつ、マシュはレーズンを混ぜたスコーンを取り出す。
アビゲイルはスコーンに目が釘付けになり、
「ね、ねぇマシュさん。それ、食べても良いのかしら?」
「はい。先輩の隠し持っていたお菓子なので、問題ないかと」
「まさかマシュに荷物を荒らされてるとは思わなかったんだけど」
「私も驚いてるわ……マシュさんはそういうことをしないと思っていたのだけど」
「先輩に対してだけですよ。というか、休憩室から持って来たやつじゃないですか。なんでこんなの保存してたんですか」
「いや、持って帰れるかなぁって。なんとなく日保ちしそうだったし……」
「はぁ……流石に無理があるかと。というか、スコーンを持ち帰ろうとするのは驚きました。見つけたときにビックリしましたし」
「むしろ平然と中身を覗いてる後輩にビックリだよ。流石に服類は見てないよね?」
「当然です。衣服のバッグだけはちゃんと覚えてますから」
「むしろ不安だよ!! なんでそれだけ知ってるの!! 最初から漁る気しか無かったでしょ!!」
「言いがかりです。衣服のバッグしか知らなかったのは、ちょっとした情報網のお陰です」
「何それ不穏。衣服バッグだけ調べてる情報網とか、絶対ロクなもんじゃない。是非紹介してほしい」
「マスター……本音が漏れてるわ」
「おっとこれは失態。ともかく、そのスコーンを食べるのなら一口ください。再現用なんだよそれ……」
「むむむっ。そう言われると悩んじゃいます……どうしましょう、アビーさん」
「渡して良いと思うのだけれど……だって、作って貰えるのでしょう? 私は作ってもらう方が断然いいと思うわ」
「仕方ありませんね……一個で大丈夫ですか?」
「まぁ、大丈夫かな。問題は、今すぐは作れないってところだ。なんせ必要な道具も食材もないし」
「残念。でも、いつか作ってくださいな」
「出来るだけ早くするよ」
オオガミはアビゲイルに約束をし、マシュからスコーンを貰うのだった。
忘れてはいけない。彼は、今縛られ吊るされているのだということを。
そんなことよりメルト強化ですメルト強化。私は持ってないから関係無いとか思っているそこのあなた。めっちゃ泣きたくなるのでお止めください。致命傷です。
それはそれとして、嬉しいことは確かです。やったぜ。