「ねぇ。それ、何かしら」
休憩室に来たばかりのエウリュアレは、ノッブが持っている食べ物を見て、ノッブの隣に座りつつ聞く。
「何って…お主、あれだけ菓子を狙っておったのに、知らんのか?」
「だって、そんなの昨日は無かったもの」
「ふむ。そうだったのか……あ、王手じゃ」
「むっ。なら…こうだな」
「ちょっとノッブ。早く教えなさいよ」
「どんだけ知りたいんじゃ……柏餅じゃよ…」
「あぁ…それが柏餅なのね」
今更だが、ノッブは巌窟王と将棋をしていた。
始めたばかりなので、初戦である。
「それ、貰ってもいいかしら」
「自分で持ってくればいいじゃろ」
「えぇ…私が行くの?」
「いつも自分で取って来るくせに、こういう時は嫌なのか」
「別に、もうここにあるからいいかなって」
「……はぁ、二つまでじゃぞ? それ以上は自分で取って来るんじゃな」
「ありがと。ふふ、この前までは断固としてくれなかったのに、どういう心変わりかしら」
「別に、そんな大層な理由は無いんじゃが……あれじゃよ。何となくと言う奴じゃ」
「あぁ、そう。まぁ、そういう時だってあるわよね。じゃ、いただきまーす」
「全く……自由な奴め。あ、王手じゃ」
「これは……どうするか…」
柏餅を食べるエウリュアレを横目で見ながら、巌窟王を追い詰めていくノッブ。
その時、休憩室にマシュが入ってくる。
「あ、皆さん。ちょっと話を聞いてもらっても良いですか? 半分愚痴みたいになってしまいそうですけど」
「良い良い。色々やってるように見えるが、それほどでもないからの」
「私も別に構わないわ。というか、私は今柏餅を食べるので忙しいの」
「俺も構わないが、こちらに集中して聞いていなかったらすまない」
「はい、別にそれで大丈夫です。本当に大したことではないので」
巌窟王の隣に座りながら、マシュは一枚の紙を机の上に置く。
「昨日資源を確認しに行ったらこの紙が置いてあって、代わりに聖晶石が30個無くなっていたんですよ。30個溜まったんだ~。って喜んでいたのに、また振り出しです。何を考えているんでしょうか…」
「なんかお便りコーナーみたいじゃな…まぁ、それでも応えるのが儂じゃけども」
「楽しそうね。というか、何をどう応えるのよ」
「あれじゃよ。石が無くなったのなら、また稼げばよい。まぁ、もうフリークエスト無いけどねっ☆」
「どう考えても無理じゃない」
30個はもう絶望的だろう。と、全員は思っている。
ただし召喚をするのなら、別に聖晶石だけではない。
「いや、今回のイベントはいつの間にか呼符が増えてるからな。代用品はある」
「まぁ、たぶんマスターが頑張ってるんじゃろうけどね」
「全く。何時になったら帰ってくるのかしらね」
「まぁ、エウリュアレもマシュも向こうにたまに行っておるから、儂らよりマシじゃろ」
「船長とエリザベートは滅多に帰って来ないわよねぇ…」
「キャスターとアーチャーが多いのか、単純に使えるからなのか…まぁ、儂は使われないだろうけども」
「卑屈になるな信長。俺よりはマシだろう。俺など、新宿以来レイシフトしてないぞ」
「……それもそうじゃな。というか、自虐かよ」
「うふふ、頑張ってね。二人とも」
「流石にそれは煽っておるじゃろ」
「そんなことないわよ? というか、もう柏餅が無いわ」
「…………よし分かった。戦争じゃな。任せておけ。またワンキル決めてやろう」
「あら怖い。でも、今度こそ勝つわよ? 死霊魔術で連続ガッツ決めてあげるんだから」
「幸運の無駄遣いじゃな」
「言ってなさい」
火花を散らす二人。
少し離れた所でこちらに殺気を放ってきたエルキドゥから即座に目を逸らし、二人はトレーニングルームで第13次お菓子争奪戦争を始めるのだった。
ちなみに、将棋はノッブが勝った。巌窟王はその後土方と戦うのだった。
絶対無課金を貫くならば、呼符は希望の星。
いつもお菓子で喧嘩してるなこの二人。もう絶対わざとやってるでしょ女神さま。