「おぅマスター。ようやく来たか」
「あ~……うん。ようやく終わったよ」
「アビーさん、ご機嫌ですね?」
「えぇ! 大暴れ出来て、とっても楽しかったわ!」
結局、チョコ聖杯をチョコ英霊ごと破壊してきたアビゲイル。オオガミもそれを見ていて苦笑いだったが、無事終わったのでホッとしている。
「あちゃ~……な~んか、大変なことがあったみたいだなこりゃ。ま、こっちには関係無い事情なんで、働いてもらうぜ~」
「アンリの鬼! 悪魔!」
「はいはい。なんとでも言ってくれや。実際、マスターはいるだけで良いしな」
「存在の必要性……!!」
アンリの言い分に、涙目になるオオガミ。
だが、目の前のモノを解体するには、やはりオオガミではほとんど無力だろう。
「うっし。アビゲイルも来たことだし、サクッとやるか~」
「はわ~……こんなに大きいの、壊せるかしら……」
チョコレート工場。見上げるほどのソレは、普通に壊したら一体何週間、何ヵ月掛かるか分かったものではない。それが10棟あるのだから、一番時間が掛かる。
それを短時間で終わらせようというのだから、サーヴァントは凄い。
「しっかし、オレとアビゲイルで終わるかねぇ、コレ。どう思うよ」
「今私は機嫌が良いのよ。すぐに終わるわ、このくらい」
「言うじゃねぇの。んじゃ、二人とも下がっとけよ~。オレは潰れても良いけど、アンタらは死んじまうからな。気を付けろよ?」
「うぐぐ……なんかアンリがしっかりしてるから不安だけど、仕方ない。危ないのは確かだしね」
「えぇ。少しの間、先輩と離れて見ていますね。頑張ってください!」
「おぅさ。こういう時は任せとけ」
「えぇ、頑張るわ! マシュ! マスター!」
そういうと、屋根の上まで器用に登っていく二人。アビゲイルは、触手で。アンリはわずかな隙間に手をかけて登っていく。
マシュとオオガミは離れつつそれを見ていた。
「ん~……アビーの登り方は想定通りなんだけど、アンリの登り方、プロの動き方のような……」
「解体業者のですか?」
「外壁を登っていく解体業者とかめっちゃ見てみたいわ。じゃなくて、あの外壁のちょっとした凹凸に指をかけて登っていく感じ。ボルダリングとかそこら辺の雰囲気だよね。うぅむ、修得したい……」
「先輩は何処を目指してるんですか……それ以上スキルを身に付けたら、割となんでも出来る超人になっちゃいますよ?」
「それはそれで……アリかな」
「先輩はそういう人ですよねぇ……というか、クライミングが出来ないのは意外でした……先輩ならフリーランニングを出来ると思ったんですけど」
「流石にまだ出来ないかなぁ……出来たらもうちょっと無茶してる」
「そうですか……つまり、今までも無茶と思いながらやってたことがいくつかあるんですね? そうですか……残念です……」
「えっ、何? あれ、なんかとっても不味い地雷を踏んだ気分。えっ、なんで? なんか嫌な雰囲気なんだけど? マシュ? マシュ~? 聞いてる? マシュ~!?」
ススス……と距離を取っていくマシュ。オオガミはそれを、必死に追うのだった。
一体オオガミ君は何処を目指しているのだろうか……おそらく器用貧乏ルート……