「この部屋にいると、時間の流れがゆっくりになるって言っていたけど、私にはとっても早く動いてるだけに見えるのだけれど」
「うん……この部屋にいると、目が痛くなってくる」
「部屋の中でチョコ関連の何かをしてないと時間がいつもと変わらず流れますからねぇ……限定的ですし」
「ま、意外と条件はガバガバな気もするけどな」
チョコの事を意識すれば時間が延びる。という、あまりにも使い勝手の悪い特殊な部屋。
大体、こんな部屋の需要はあるのだろうか。チョコの生産面を見ると確かに良いのだが。
「いやぁ……この部屋、どういう理論なんだろ」
「応用したらトレーニングも休憩も多く時間が取れそうですよね」
「おっと。マシュ嬢が恐ろしいこと考えてんぞ?」
「いえ、別に変なこと考えてませんよ……? ただ、先輩のやる気回復速度を上げられないかなぁって考えているだけで」
「流石だマシュ。この駄目マスターにもっと言ってやれ」
「アンリがすっごい手のひら返ししてくるんだけど」
「安心してマスター。後でアンリにも同じ目に遭ってもらうわ」
「うん。何の安心も出来ない。どう考えても被害に遭うのは確定してる」
事前回避ではなく、事後反撃だった。アビゲイルの中ではマスターが犠牲になるのは確定のようだった。
ただ、時間が遅くなるのは、意外と良い技術の様な気がしなくもない。作家だけでなく、工作要員にも。
「まぁ、時間遅延技術は技術班に任せるとして、そろそろ移動しようか。何となく、アビーとマシュの目が怖くなってきた」
「賛成。とっとと逃げよう」
そう言って、そそくさと走って逃げるオオガミとアンリ。それをマシュとアビゲイルが追いかけるのだった。
* * *
流星の如く降ってきて当然の如く不時着する三日月に見える完全チョコ製宇宙船。使い捨てなのかどうかは分からないが、どの道ここでは解体されるので使い捨てのようなものだろう。
「そう言えば、この宇宙船には点滅するカビがいるって聞いたのだけれど……」
「それは別の船体じゃないかな……?」
「そうなの? でも、やっぱりカビはいたのね。私、ちょっと見てみたかったわ」
「まぁ、流石に取って置けませんでしたけどね。ただ、何か企んでいたようですし、手を出さなくてよかったと思いますけどね」
「残念。ちょっと見たかったのに」
アビゲイルは残念そうな顔をして、さりげなく宇宙船の一部を削って食べる。
「あら。意外に美味しいわコレ。大気圏突入時の熱でちょっと焼けた感じがまた良いわ。マスターも食べてみない?」
「ん。食べる食べる。って、ちょっと待った。バレたら殺されない……?」
「流石に大丈夫かと。報告するような事でもないですし、たぶんまだ増えるでしょうし」
「雑だよねぇ……記念とは一体」
このチョコ製宇宙船をくれる惑星の人々は、なぜそんな記念品をくれるのか。謎が深まるばかりである。
「うん。まぁ、チョコは美味しいし、良いか」
「そうね。ねぇマスター。次の所行きましょ?」
「そうだね。ここにいると何時爆撃を受けるかわかったもんじゃないし」
「地面も壊れてはいませんし、大丈夫ですね。行けますよ」
「いつ降って来るかって、気が気じゃなかったぜ」
そう言って一番着地点に近かったアンリは、オオガミ達を追いかけるようにちょっと駆け足になり―――――
突撃してきた宇宙船に叩き潰されるのだった。
「「「あ、アンリ(さん)――――ッ!!」」」
悲しい、事件だったね……