アンリが空を舞い、男湯に戻されたのを確認したアビゲイルは、温泉に肩まで浸かると、
「全く、アンリには失礼しちゃうわ。こっちに入ってくるなんて、マナー違反よ」
「普通に犯罪行為なんですよね。まぁ、アビーさんが前もって投げ飛ばしてくれたので、私としては助かったんですけどね」
「えぇ、えぇ。本当に許せないわ。マスターならまだしも、アンリはダメよ」
「そうですね。ですが、一つだけ。先輩もダメですから」
マシュの目は笑っていなかった。アビゲイルは即座に目を逸らした。
「でも、先輩も一緒に入ってるはずなのに、一緒に来なかったというのは珍しいような。アンリさんと一緒に悪ノリで入ってくると思ったんですけどね?」
「マシュさんはマスターをどうしたいのかしら……入ってくるなって言ったのに、入ってくると思っていたなんて……」
「入ってきて欲しくはないですし、入ってきたら叩き出すつもりですけど、こういう状況で先輩が動かないというのは、なんとも気持ち悪いと言いますか、何を考えているのか不安になると言いますか……なので、見えないところで迎撃されているのが理想ですね」
「入ってくる前にやられるってことかしら……何もしてないのに可哀想だわ……」
ここまでアンリが何もしていないときでも理不尽に八つ当たりしていたり、投げ飛ばしたりしていたのを無かったことにしつつ、アビゲイルはそんなことを言う。
「先輩は、基本自由すぎるんです。もう少し落ち着いてもいいと思うんですよね。遊ぶのも程々にして、やることをやった方がいいと思うんです」
「あら。マスターは頑張っていると思うわ? 遊んでるように見えても、今回だってすぐに終わっちゃったじゃない」
「これがいつもならいいんですけど、結構サボるんですよ。特にボックスガチャイベントの時は、自分の目標を達成できてませんからね」
「まぁ、それは見ていて分かるけど……でも、意外とやる時はやると思うわ」
「やる時は、やるんですけどね……基本、やらないので……」
「……で、でも、頑張っているのは確かよね?」
「そうですね。ちょっと許せないときもありますが、やる時はちゃんとやってますしね」
カルデアでは休憩室で暴れていたり、ノッブやBBに混ざってふざけていたり、今はアビゲイルやアンリと遊んでいたりするが、やる時はやるし、なんだかんだ育成をしていたりするので、一概にやってないとは言えない。
「さて。本題に戻るんですが、先輩が入ってきたら全力で叩き出してくださいね。アンリさんも一緒に」
「当然よ。私だって恥ずかしいもの。入ってくる前に追い出すわ」
そう言って、アビゲイルは男湯と女湯の境に目を向けると、水柱が上がる。
「またアンリね。マスターじゃないもの」
「アンリさん、懲りませんね……」
二人は、やれやれと言いたそうに、首を振るのだった。
アンリ……君は勇者だと思うよ……なむなむ。
あ、インフルにかかりました。B型です。もしかしたら更新できないかもしれないので、その時は倒れていると思ってください。