「高い……高いわ……ここ、何階なのかしら……」
「雲が近くなってきたねぇ。確か80階だっけか」
「うぅ……この高さはちょっと、大丈夫だとしてもちょっと怖いわ……」
「オレは即死だから、突き落とさないでくれよ?」
下を見て頬を引きつらせているアビゲイルと、念のため距離を取っているアンリ。
「マスター、早いわね」
「ささっと登っていくねぇ。あのスピード、いつまで持つかねぇ」
「まぁ。マスターならきっと大丈夫よ。さ、早く行きましょ」
アビゲイルは走って階段を登っていき、アンリも追いかける。
そして、八十二階にて、休んでいるオオガミを見つけるアビゲイル達。
「あ、お疲れ。今休憩中だよ」
「お疲れ様マスター。明日も頑張るの?」
「うん。明日には百階を攻略したいかなって思ってる」
「頑張るねぇマスター。んで? 今日はここで終わりかい?」
「まぁね。二人も階段を登るので疲れたでしょ。一旦休憩という事で」
「ハハッ。まぁ、始まったばかりでここまで行けるなら上出来だろうさ。休み休み行こうぜマスター」
「だから休憩してるんだってば」
ため息を吐き、大の字に寝転がるオオガミ。
「そういや、他に誰かいないのか?」
「みんな温泉だよ。疲れてるからね……俺も入ってきたいけど、ここに戻ってくるのも一苦労だから寝たいなぁって」
「あら。毛布くらいかけて寝ましょう? 風邪を引いてしまうわ?」
「それもそうだね……たくさん持ってきた魔術礼装をかけて寝よう」
「贅沢だなぁ~……てか、こんな使い方想定してないだろうなぁ~……」
アンリの声を無視して寝ようとするオオガミ。さりげなくアビゲイルも一緒に横になって寝ようとするが、アンリはそれを引きずり出して止める。
「何をするのよっ!」
「こっちのセリフだっての。それだとマスターが寝れないだろうが。見張ってるくらいで良いんだっての」
「むぅ。それは寂しいわ。私は一緒に寝たいの」
「何言ってるんだコイツ……だから、マスターは今疲れてるんだっての。それなのにアンタが入っていったら、静かに寝れねぇだろう?」
「そう? 私はむしろちゃんと寝れるわ。ふふん」
「何と張り合ってるんだよ……いや、確かにそういうのもいるだろうけども」
「ねぇ……アンリは、どうしてそんなに必死にマスターをしっかり寝させようと必死なの?」
ピシリッと一瞬固まるアンリ。
アビゲイルそれを見逃さない。
「何の話かさっぱりだ。オレは普通に、マスターのはしっかりと休んでもらいたいと思ってるだけだけどな?」
「嘘よ。だって、アンリはそんなこと気にしないじゃない」
「……あ~……本音はアレだ。錯乱してオレを使うとか言い出さないように、判断力を回復してもらおうかと」
「ふぅん?じゃあ、そういうことにしましょう。じゃあ、おやすみなさいアンリ」
「おぅ。おやす――――おいちょっと待て。どこで寝る気だ」
アンリの奮闘むなしく、アビゲイルは当然のようにオオガミの横を陣取るのだった。
頭を抱えたアンリは、諦めて、アビゲイルが犠牲なるのを祈る事にしたのだった。
珍しく23時越えてしまった……やらかした……うぐぐ……