前回の(話とは全く関係の無い)あらすじ
カルデアのマスターことオオガミは、今日の朝からノッブのスキルレベルを上げるために弓の修練場を周回していた。
そして、ノッブのスキルを上げながらふと疑問に思ったのだ。
――――この骨…何に使ってんの?――――
この真相を探るべく、彼は部屋で暇そうにしていたエリザベートと、先程まで一緒に修練場で戦っていたエルキドゥと共に、スキル強化素材を持っていったノッブを尾行するのだった――――
* * *
「……マスター。この行動に何の意味があるんだい? というか、この人選も気になるんだけど」
今になって、エルキドゥがようやくこの行動に突っ込む。
エリザベートは、暇だからついてきただけなので、特に意味は気にしていない。
「ふっふっふ。まず、意味があるのか。という質問に関してだけど、あるよ。ちゃんとね」
「あら。全く考えてないと思ってたんだけど、考えてたのね。マスター」
「エリちゃん、酷くない? さすがに言い訳げふんげふん。さすがに理由くらいはあるよ」
「ねぇ、今言い訳って言わなかった?」
「気のせいじゃないかな?」
「うん。言い訳でも構わないけど、マスター。その意味はなんだい?」
脱線しそうだった会話を修正しつつ、エルキドゥは話を進ませる。
「うむ。その理由はだね…ノッブが変なことを企んでないかを見守るためだよ!」
「なんで見守る必要があるのよ」
エリザベートの、最も適切とも言える一言。
しかし、エルキドゥはマスターがなぜこの言い訳にしたのかに気付いた。
「あぁ、確かに、聖杯を爆弾に変えようとするほどの人間だから、監視は必要だね」
「そういうこと。ってことで、尾行を続けるよ」
「「了解」」
そう言って、三人はノッブの後を追いかけるのだった。
まぁ、ノッブはその事を分かっていながら見逃していたのだが。
* * *
「ねぇマスター? ここにこんな階段あったかしら?」
「いや…無かったと思うんだけど…」
ノッブを追いかけてしばらくすると、いつの間にか全く人気の無い所まで来ていた。
そして、ノッブは全く見覚えの無い真っ暗な階段を下りていったのだった。
「あったよ。ただ、遠いから見覚えがないだけで。まぁ、僕も降りたことはないけどね」
「あぁ、なるほど」
エルキドゥの説明に納得し、また、まさかこんな施設の端まで来るとは思っていなかったので、帰れるかどうか不安になるオオガミとエリザベート。
最悪エルキドゥに頼ろうと考え、突き進む。
「しかし、暗いねぇ」
「そう? このくらいなんてこと無いでしょ?」
「エリザベート。マスターは人間だから暗視は普通持ってないよ」
「あぁ、それもそうね」
「ぐぬぬ…懐中電灯でも持ってくればよかった…!」
嘆いていても仕方がないので、とりあえず壁に手を付きながら歩き続けるが、不意に手を掴まれ、引っ張られる。
「うわっ!」
「遅いのよ! さっさとついてくる!」
「わ、分かったから! あと、速いってば!」
何度か転びそうになりながら進むと、やがて明かりが見え始める。
「……ランプ?」
「カルデアにこんな場所あったのね。ずいぶん古くさい感じだけど」
「ん~…紐に油を染み込ませて、その紐に火を付けてるのか…古典的というか、この時代で使われてるのを初めて見たんだけど」
それ以前に、いつの間にこんなのを設置したのかが気になったのだが、きっと最初に加入したときからやりかねないな。と思い、気にしないことにした。
「あ、マスター。着いたみたいよ」
「ん? あ、本当だ」
いつの間にか古めかしい木の扉がそこにはあった。
「……マスター。もう、気付かれてると思うんだけど」
「むぅ…やっぱり気付かれてるか…なら堂々と乗り込むのみさ!」
「ちょ、マスター!?」
オオガミは怯むことなく堂々と扉に手を掛け、開け放つ。
「御用だ御用だ! 魔人アーチャー! お前の悪事は知ってるぞ!」
「え!? いつの間に悪事を暴いたの!?」
「マスターの嘘に決まってるだろう」
後ろが騒がしいが、そんなこと知らぬとばかりに部屋の中にいるノッブを見る。
「おぉ、やっと来たか。全く。結局全部一人でやってしまったではないか」
「……ナニコレ」
ノッブの言葉よりも、その部屋の奥に置いてある物がオオガミの視線を奪う。
「何って…『がしゃ髑髏』じゃよ。ほら、儂の背後に佇んでたあれじゃ。1/1スケールでなんとか再現したいと思ってな。スキル強化素材と黄金髑髏はそういう訳だの」
「えっと、これを一人で作ってたの?」
「当たり前じゃろ。基本暇なのは少ないからの。それに、暇な奴はこういう地道な作業が好きな奴はいないし」
「うぐっ。まぁ、確かに少ないけども…」
「まぁ、別に退屈はしてないからいいんだけどね☆」
「それならいいんだけど…」
しかし、顔は黄金、体は深紅。そんながしゃ髑髏と夜に出会ったら心臓が止まる気がする。
「それで、ノッブ。これは完成してるの?」
「そんなわけ無かろう。まだ残っておるわ。次は八連双晶を用意せい。最終的に、このがしゃ髑髏に乗って移動する予定じゃからの!」
「なにそれ俺も乗りたい!」
「うむ! 完成させた暁には、乗せてやろうではないか!」
「……まぁ、八連双晶は集められる気が全くしないけどね」
「何!? おいマスター! それはどういうことなのじゃ!儂の言うことが聞けんと!?」
「ゴーレム狩りはもう嫌なんだってば!あいつら全然落とさないし! 需要と供給のバランスが酷いんだっての!」
「そ、そんな…ゴールデンがしゃ髑髏を乗り回すのは、まだ先のことじゃと…!?」
「そういうことになるね…うん…」
「なんということじゃ…こんなの、ゲームがあるのに電池が無いからお預けされている子供みたいじゃないか…!」
「その例え、的確すぎない…?」
「それは儂が子供みたいだと言うことかぁぁぁーーーー!」
「ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!! 英霊に振り回されたら死んじゃうからぁぁぁ!」
ぶんぶんと振り回されるオオガミを見ながら、エリザベートとエルキドゥは、
「マスター。私、そろそろ帰るわよ?」
「僕も戻らせてもらうよ。お邪魔みたいだしね」
「置いてくの!? 帰りはどうしろと!?」
「そのまま信長が一緒に来てくれるでしょ? ま、頑張ってね~」
そう言って、二人は階段を上っていってしまった。
「あ、あの…ノッブ…? 俺もその…帰りたいんだけど…」
「ふむ。まぁ、儂ももうやることは残ってないからの。戻るとしようかの」
「あれ。渋られると思ったんだけど、そんなことなかった…?」
「当たり前じゃ。ここに来るのは素材を貰ったときのみじゃ。さて、では、だ・ヴぃんちとやらに作らせた茶室に行くとしようか。儂自ら茶を点ててやると言ったからの。さぁさ。行こうではないか!」
さっきの攻撃はなんだったのか。と思うほどの笑顔をしているノッブにオオガミは押されながら、階段を上っていった。
扉が閉まるときに、ちらりと見たがしゃ髑髏の顔は、また会うときを待ちわびているように見えた。
八連双晶を越えた先にも、まだ爪と心臓が残っている現実…あぁ、恐ろしい…!