「はい。これ」
日付が変わると同時、エウリュアレはそう言いながら箱を手渡してくる。
ベッドに座ってたオオガミは、何が入っているか、見るまでもないそれを受け取りつつ、
「今年はなんだかあっさりしてるね」
「そう? 誰よりも早く渡しているのだけど」
そう言って、当然のようにオオガミの膝の上に座り、体重をかけてくるエウリュアレ。
その重みを感じながら、オオガミは天を仰ぎ、
「サラッとデレてくるじゃん……」
「嫌いかしら?」
「そんなことないのを一番知ってるのにそういうこと言うよね」
「当然じゃない。こういう態度が好きなのも知ってるのよ?」
「……もうすでに一生勝てない気がしてきた」
「ふふっ。一生勝たせる気なんてないもの」
そう言って不敵に笑うエウリュアレ。
オオガミはその笑顔に言葉を詰まらせていると、
「さて、これでメルトになんていうのかしらね。もうもらったって言うのかしら。それともまだもらってないって言うのかしら?」
「……ははっ、かわいいことしてくれるね?」
「押しかけ妻や記憶捏造ドラゴンよりはマシじゃないかしら?」
「そこと比べるのはどうかと思うけどね」
オオガミはそういうと、エウリュアレを抱きしめたまま横になる。
引き倒されたエウリュアレは、楽しそうな笑みを浮かべながらその場で体を反転させてオオガミに抱き着くと、
「刺されても知らないわよ?」
「刺されたくらいで死ねるとは思わないけどね」
「あら、そういうつもりではなかったのだけど」
「音速タックルを定期的に受けるようになっちゃったからね。もうなんか、たいていの物理攻撃には耐性があると思うよ?」
「肉体的な耐久性はもう何も心配していないのだけど。でも、死なないにしても動けなくなってしまうのは困るわ。代わりに誰が私のおやつを作るというのかしら」
「……生きている間はその係は誰にも譲りたくはないね」
「ふふっ。じゃあ厨房に立てるようにしなさいね。刺されてる暇なんて無いんだから」
「そうだね。死んでる暇もないや」
オオガミの右側に転がり落ちつつ、そのまま右腕を枕にするエウリュアレ。
そんな彼女の頭を撫でつつ、オオガミは、
「今年のバレンタインも意識を手放したくなるくらいの重量なんだろうなぁ」
「当然だけど、今年も食べるのは手伝ったりしないから。他人への貢物を食べるなんてこと、私にはできないわ」
「……正直手伝ってほしいくらいだけどね」
「ダメ。今年も苦しんでる姿を見せてね?」
「本当にいい趣味してるよね」
オオガミはそういいながら、一度起き上がってちゃんとベッドに寝る。
エウリュアレも一緒に移動して右腕を再び枕にしつつ、
「じゃあ、おやすみエウリュアレ」
「えぇ、おやすみ」
そういうと、二人は目を閉じるのだった。
デレデレエウリュアレ。これ以上の言葉は蛇足なのです……