「……最悪です」
「いつになく不機嫌だね、カーマ」
食料保管庫の前で不機嫌そうな顔をするカーマに、オオガミは声をかける。
カーマは振り返りながら、
「あのスカディとかいう女神、一回海に沈めてあげます」
「そんなレベル……?」
「当たり前じゃないですか。どのエネミーからどの食材が出るのか分からないんです。欲しい食材を落とすエネミーを探すのがどれだけ手間か……これ、お菓子を全く作れないんです!」
「あぁ……バラキー用のね」
オオガミがそう言うと、カーマは深いため息を吐き、
「最近は同じ周回メンバーのよしみでキャスターのアルトリアさんのも作っているので、今までの倍くらい必要なんです……ただ、彼女が食べるというより、隣のバラキーが対抗するように食べるので、普段よりも食べるようになっちゃったんです」
「それは大変……というか、バラキーを止めるのが一番では」
「いえ、バラキーのはあれで良いんです。堕落の一途ですから」
「あぁ、そう……甘やかしすぎないでよ?」
「さぁ? 私は愛の神ですし、加減できないかもです」
「そんなにボイコット感無いよね。バラキー第一な感じが特に」
「別に、男女の仲を取り持つとか、そう言うのではないので。マスターさんも、そこは履き違えないように。エウリュアレさんとの仲が悪くなっても知りませんから」
「それは頼らない……というか、頼ったら殺される。もちろん自力で何とかしますとも。それで、食材を取りに行くの?」
話を変えようと、カーマのやろうとしていたであろう事を聞いてみるオオガミ。
すると、カーマは思い出したような顔をし、
「あぁ、そうです。ドライフルーツ。あれが欲しかったんですよね。シュトレンを作っているときに見えたので、あれをクッキーに練り込めないかなって思いまして。自作も考えましたけど、あれは面倒なので、あるなら貰っていこうかと」
「なるほどね……じゃあ取りに行こうか。他に必要なものは?」
「こうなる前に移動させてたストックがあるので、今のところは大丈夫です」
「わかった。じゃあ、行く?」
そう聞くと、カーマは目を逸らしながら、
「……あそこ、寒いんですよね……」
「……魔王モードなら暖かいんじゃないの?」
「水着ですよ? 布面積見てください。炎でどうにかなるレベルではないんです。確かにあれは熱いですけど、近い部分だけで、吹雪の中でも問題ない訳じゃないです。常人なら凍り付いてます。私も泣きます」
「キャストリアはそれなりに暖かそうだもんね~」
「はっ倒しますよ?」
「マスターを殴って暖を取ろうとするだなんて……!」
「暖かい魔術礼装があるんでしょう? 暖かそうなのをくれても良いんですよ?」
「そもそも通常でも薄着な自分をどうにかしたら良いんじゃ無いかな……!」
「……一理ありますね」
カーマはそう言うと、振り上げていた手を下ろし、
「じゃあ、暖かそうな魔術礼装を貸してください」
「もう追い剥ぎでしょそれは!」
そう文句を言いながらも、オオガミは念のために持っていたカルデアの制服を渡す。
カーマはそれを受けとると、
「……まぁ、今のよりはマシですね。次はカイロとかを要求しましょうか」
「まさかそのまま持って帰る気でいらっしゃる?」
「まぁ、周回の報酬ということで。少なくともこのイベント期間中は借りますね」
「良いけどさ……奪われないでよ?」
「奪われるなんて、そんな――――あぁ、いや、あり得そうですね」
カーマはそう言うと、手に入れた制服を見て、
「まぁ、奪われたら言いますね」
「手遅れな感じが否めないね?」
対策するつもり無いでしょ。というオオガミの小言を無視しながら、カーマは制服を着るのだった。
食料保管庫に被害が出るとうちのカーマは不機嫌になる……バラキーのお世話に支障が出るからね。しょうがないですよね。