「オオガミ。聞いてほしいのだけど」
「え、メルトが……? 何があったの。天変地異?」
厨房でいつものようにお菓子を作っていたオオガミに声をかけるラムダ。
その様子があまりにも珍しく、思わず言葉が出ていた。
「あなたが私をどう思ってるかについては後で話すことにするけど、今はそこじゃないの」
「あ、うん。覚悟しておく」
「えぇ。泣いても許さないわ。で、本題なのだけど」
そう言って、少し深刻そうな顔をすると、
「私のリヴァイアサンがメリュジーヌのところから帰ってこないの」
「喧嘩したのかと思ったら誘拐事件だった」
作業を続けながら聞いていたオオガミは、その手を止めて真剣に聞く。
「で、いつから帰ってきてないの?」
「夏祭りから。確かに三体くらい愛でてもいいと促したけど、そのまま持ち帰るとは思わなかったわ。あの駄竜、どうしてくれようかしら」
「なるほど。それでここ最近メリュジーヌを見ないわけだ」
「あら、あなたのところに来てると思って来たのだけど、無駄足だったみたいね。仕方ないわ。こうなったら直接部屋に乗り込んで取り返すしかなさそうね」
「ちなみに話し合いの余地は?」
「無いわ。私のリヴァイアサンは安くないもの」
「まぁ、それもそうだよね。けど意外だな……連れ去るくらいには気に入ってるのか……」
オオガミはそう言うと、作っているお菓子を冷蔵庫に入れ、軽く片付けてから、
「よし。エミヤさ~ん! ちょっといってくる~!」
そう言って、厨房を出てラムダと一緒にメリュジーヌの部屋に向かうのだった。
* * *
「あ、マスターだ~」
「うん。このドラゴン、ダメになってる」
「これだとどっちが誘拐したのかわからないわね」
メリュジーヌの部屋に入ると、そこには三体のリヴァイアサンに囲まれ、だらけきった顔で倒れているメリュジーヌの姿があった。
部屋は簡素なもので、ベッドと、異様に大きい冷蔵庫が置いてあるだけだった。
「……ねぇメリュジーヌ。この冷蔵庫は?」
「この子達の食料を保管しておくのに必要だったから。ちゃんと自力で調達したとも。最強だからね」
メリュジーヌの発言に、そこは最強関係あるのか? と言いたげな目を向けるオオガミとラムダ。
「それで、君はどうしてここに? もしかして、私に会いに来てくれたの?」
「まぁ、そんなところ。メルトのリヴァイアサンが帰ってこないって聞いてね」
「あ~……もしかして、もう返さなきゃ?」
「とっくに期限切れよ! そもそも持ち帰り禁止だから!」
「残念。また貸してね」
「気が向いたらね!」
そう言って、リヴァイアサンを回収するラムダ。
すると、一体だけメリュジーヌにくっついて離れようとしない。
ラムダがいくら引っ張ろうとも、必死でしがみついている姿に、オオガミは苦笑しながら、
「メルト。全員回収しなきゃダメ?」
「……まぁ、回している魔力は少ないし、エサをもらえるならある程度は自力で存在確立出来てるだろうから問題はないわね……あぁもう、いいわよ。譲ってあげる。でもその子だけだから!」
「い、いいのかい!?」
「回収できないんだから、いいもなにもないわよ……」
拗ねたように言うラムダに、メリュジーヌは満面の笑みで、
「ありがとう! 大切にするとも。約束しよう!」
「いいわよ別に。こっちが諦めたんだもの。好きにしなさい」
そう言って、部屋を出ていくラムダ。
オオガミは彼女を追おうとして一瞬視線を向けるも、すぐにメリュジーヌに戻し、
「無理しない程度に可愛がってあげてね。何かあったら言ってほしい。出来るだけ力になるよ」
「ありがとうマスター。私はあまり世話をする、というのは得意じゃないから、色々よろしくね」
「うん。それじゃ、またあとで」
そう言って、オオガミはラムダの後を追うのだった。
空界最強のアルビオンと言えど、海界最強のリヴァイアサンには勝てないと言うわけだよ……