すっかり日も暮れ、ライブも終わって少しした頃。
「ふぅ……いいライブだった」
「あなたずっとそれを言ってない?」
「いいものはいいからね。で、次はどうしようか」
「カーマのところに寄ってから花火が見やすそうな位置に移動するんでしょ。時間がないんだからさっさと行きましょ」
そう言って、オオガミを急かすエウリュアレ。
急かされたオオガミはエウリュアレを抱き寄せると、人の隙間を縫うように駆け抜け、目的地に到着する。
「あぁ、マスターさん。巡回ですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど。繁盛してる?」
そこは果実飴を売っていて、高校生ほどの身長に変化しているカーマが暇そうにしていた。
「えぇ、それはもう大盛況で。バラキーはさっきまでいたんですけど、フランクフルトとアメリカンドッグと綿あめを買ってくるとかで」
「どういうチョイス?」
「さぁ。おなかが空いたんだと思いますよ? 最初にここに来た時も、タコスにおにぎり、ケーキにアイスとかいう、統一感まるでない状態でしたし。それで、何か買うんですか?」
暇そうにアメを弄っているカーマに、オオガミは、
「飴細工とかやってるって聞いたんだけど」
「あ~、それですか~……あれは気分が良かったから作ってただけなんですけどね。作ってもいいですけど、周りの店と比べて頭一つ抜けて高いですよ?」
「問題ないよ。お願いしていいかな」
「はいはい。じゃあちょっと待っててくださいね」
そう言って完成しているイチゴ飴を手に取ると、慣れた手つきで飴の形を変えていく。
「慣れてるけど、練習したの?」
「まぁ、こういうのは喜びそうな人が多いですからね。覚えておいて損はないと思って練習しました。こうして小遣い稼ぎにはなってますし、面倒なことを除けばそんなに悪くはないですね」
「なるほど……で、今は何を作ってるの?」
「ん~……まぁ、こんな感じで。イチゴに体を巻き付けてる蛇ってところですかね。エウリュアレさんは蛇寄りですし」
「私をイメージしてって事?」
「まぁ、そんなところです。さっきメルトさんにはブドウ飴でペンギンでしたし」
そう言いながら、完成したイチゴ飴をエウリュアレに渡す。
オオガミはそれを見ながら、
「イメージで作ってるのか……でもそれ、コーティングしてる分じゃ足りなくない?」
「えぇ。でも、材料は有り余ってますから。飴よりも果実のほうが先に無くなりそうです」
「なるほど……俺のは?」
「ん~……何がいいです?」
聞かれたオオガミは、少し考え、
「ブドウ飴で同じ蛇をお願い」
「そうですか。じゃあさっさと作るので、6000QP用意しておいてください」
「おぉ、本当に高いね」
「えぇ。簡単にできるとは言っても、それなりに手間はありますから。気軽に注文されるのは嫌なので高めに設定してますよ。正直、もっと高くてもいいかと思いましたけど」
「まぁ、確かに。カーマの作るのはハズレがないからね」
「褒めても何も出ませんが。ほら、出来ましたよ。お望みのペアキャンディーです」
「なんでそういうことを言うのかな?」
渡しながらニヤリと笑うカーマに、頬を引き吊らせながら聞くオオガミ。
だが、否定できるところは何もないので、QPを渡しつつ飴を受け取る。
「それで、このあとはどうするんです? ステージはBBが撤去してましたけど、花火は通常ですよね?」
「うん。その予定。ノッブもBBも一生懸命準備してたからね。アシュヴァッターマンとバーゲストも手伝ってたから、十分だと思う」
「そうですか。どこで見るんです?」
「湖かなぁ。マンションまで行くと遠いしね。間に合わない」
「なるほど。じゃあバラキーが帰ってきたらマンションに行くとします。分体は置いておくので店は大丈夫ですから」
「わかった。急ぎすぎてドジらないようにね?」
「えぇ、そちらも、油断して足下を掬われないように」
そう言って、二人はカーマの店を離れる。入れ違いにバラキーがやってきていたが、何を話しているかまではわからないのだった。
* * *
「ふぅ……混んできたね」
「ライブもあったけど、こっちが一番の目玉だもの。見逃したら悔やみ続けることになるんじゃないかしら」
「そこまでのものかな……?」
「タイミングよ。そういうのは大事だもの」
エウリュアレに言われ、そういうものかと納得しつつ、周囲を見渡す。
すると、ラムダがリップと並んで空を見上げている姿を見つけた。
向こうが気付いている様子はないので、そのまま視線を湖に向けると、ちょうど湖の中心付近に浮かんでいる船から、ノッブとBBが手を振っていた。
「ねぇエウリュアレ。あそこ、ノッブとBB、こっちに向かって手を振ってない?」
「振ってるわね……目があったのだけど。振り返してあげればいいんじゃない?」
「それもそうか」
そう言って、素直に手を振り返すオオガミ。
エウリュアレは苦笑しつつ、
「冗談だったのだけど、まぁいいわ。それで、花火が終わったらどうするの?」
「コテージで。今回招待した人が、きっとそこにいるはずだから」
「そう。じゃあ、それも楽しみにしておくわね」
エウリュアレがそう言うと同時。
ドンッ!! と鈍い音が鳴り、ヒュルヒュルヒュル~………と風を切りながら上がっていく火の玉。
そして……
爆音を響かせながら、空に大輪の花が咲くのだった。
これで今日は打ち止め。コラボらしいことを欠片もしてない一大事ですが、まだあるので……!