「どこまでも広い青空、山の向こうの積乱雲、蝉の声! 夏って感じだね!」
サマキャンのときに訪れた蓬莱の地で、背伸びをするオオガミ。
すると、
「今日ほど水着を持っていてよかったと思った日はないですね。ペレの権能がなくても真っ黒になっちゃいそうです」
「儂らの頃より暑くね? これ本当に日本の夏? 鎧とか着てらんないんじゃけど」
バスターと大きく書かれたTシャツを着てうちわを扇ぐノッブと、チアリーダー服を着て同じようにうちわを扇ぐBB。
時折山を抜けて吹き抜ける風が涼しいが、その風がなければ今すぐにでも倒れそうな暑さだった。
「これ、開始お昼からですよねぇ……どうしますぅ? このままだと暑くて倒れますよぉ~……?」
「ん~……何か画期的なアイテムはないの?」
「儂ら冷却魔術とかからっきしじゃからなぁ……あ~、風は涼しいから、扇風機用意するか……BB。倉庫の奥に昔ライブ用に作った送風機あるじゃろ。あれ持ってきてくれんか」
「あ~……ホコリ被ってそうですし、一回点検しないとですねぇ……昨日のうちに準備しておくべきでした。こんな暑いとか想定してなかった自分を悔やみます……」
そう言いながら、門を生成して工房へ帰っていくBB。
ノッブは汗をぬぐいながら、
「そういえば、今回の夏祭りに申請してる出店。見ない名前もあったんじゃけど、マスター知っとる?」
「あぁ、うん。知ってる。一応お客さんではあるけど、扱いは普通の出店と同じでいいよ。最低値はアビーで」
「それ即退場ものなんじゃけど。でも一度も退場させてないから最低値がそこになるのは是非も無しかぁ……」
失敗したなぁ……と呻くノッブだったが、すぐに首を左右に振り、
「まぁ問題ない。どちらにせよ、あれを可とするのなら大抵はアリじゃな。よくわからん怪しい店も、一応許容範囲というわけか。いやはや、寛大を通り越して無防備というか……それも嫌いじゃないけどね!」
「死傷者無しなら問題無し。その流れでなんだけど、警備はどうなってるの?」
「ん? いつも通りのエルキドゥに、新人のメリュジーヌと、メルトがペンギンを派遣してくれたくらいじゃな。メリュジーヌは――――」
「僕を呼んだかな、マスター」
「話題が出ただけで飛んでくるの、アビーを感じたね」
どこからともなく爆音爆速で現れたメリュジーヌに、思わず顔が引き吊るオオガミ。
だが、話題の本人は少し不服そうに、
「仕事中はメリュジーヌじゃなくてランスロットがいいな。確かにここにはランスロット卿がいるけれど、僕もランスロット卿としての仮面を被った方がいいこともある。それを君はよく知っているだろう?」
「確かに。でも、紛らわしいかな……」
「いや大丈夫じゃろ。あの不倫騎士、振る舞い雑じゃし、警備には向かん。気付いたらいないのがデフォルトなところあるからな。それよりも、あの騎士の名前を授けられるとか拷問じゃよね」
「ノッブ。一応ちゃんと強いよあの人は。普段死ぬほどダメダメだけどね」
「普段ダメならダメじゃろ~」
「……ランスロットはメリュジーヌのものってことで。あっちはダメダメお父さんにしておくか」
「なんだかランスロットって名乗るのをためらいそうになるんだけど……」
複雑そうな顔をするメリュジーヌに、オオガミは苦笑しつつ、
「まぁ、今日はメリュジーヌじゃなくてランスロットって呼べばいいんだよね。そもそもダメダメお父さんの方には滅多に会わないし、問題ないよ」
「マスター避けられてるんか?」
「いや、単純に会わないだけだと思うんだけどね……?」
「まぁカルデアはそれなりに広いからそう言うこともあるかのぅ……?」
う~ん? と考えるノッブ。
すると、メリュジーヌが、
「じゃあ、僕は見回りに行ってくるよ」
「うん。祭りが始まったら、出店を遊び歩きながらでもいいからね」
「嬉しい提案だけど、それはまだ先になりそうかな。それじゃあ行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」
そう言って、大空に飛び立つメリュジーヌ。
既に点のようになっているメリュジーヌを見上げていたオオガミは、ノッブに視線を移すと、
「準備としては、どうにかなりそう?」
「12時までには余裕で間に合うじゃろ。暇なら手伝ってくれてもエエんじゃよ。儂らのやつ」
「13時には予定あるからね?」
「いやさすがにそこまではかからんと思うよ?」
そんなことを話しながら、オオガミはノッブの後をついていくのだった。
このあと帰って来たBBと送風機をめぐる戦いが起こるが、それはまた別の話……