「っはぁ~………疲れた~……」
「お疲れ様。今日くらいは優しくしてあげるわ」
そう言って、自分の膝を枕にしているオオガミの頭を撫でる。
優しく、優しく、割れ物を扱うように優しく頭を撫でつつ、
「今回はどんなところだった?」
「ん~……綺麗なところではあったよ」
「そう。それなら私も行ってみたかったわ」
「シミュレーションルームで疑似再現は出来るだろうし、後で行ってみるのも良いかな」
「それは楽しみね。でも、また今度ね。あなたが元気になったら行きましょう」
そう言って、笑みを浮かべる。
チラリと向けられたオオガミの視線を感じつつ、
「それから、あなたがいない間に何人もの召喚があったのだけど。モルガン、バーゲスト、バーヴァン・シー、メリュジーヌ。モルガンとメリュジーヌに限っては、聖杯が使われていたのだけど、知っているかしら?」
「うぐっ、いやその、それは、なんと言いますか……」
「えぇ、言ってみなさい? どうしてかしら」
私がそう言うと、ふらふらと視線が泳ぎ出す。
その様子に思わず笑いそうになるが、すぐに心を落ち着かせてオオガミの返事を待つ。
「あ~……その~……入れました。聖杯。気付いたら、湯水のように……」
「別に、怒ってるわけじゃないの。理由を聞いただけよ? でもそうね。反省しているのなら、おとなしく撫でられていなさい?」
「……はい」
そうして、しばらくされるがままだったオオガミ。
だが、意を決したようにゆっくりと起き上がる。
私は少し悲しそうな顔をしながら、
「あら、私の膝枕は嫌いだったかしら」
「嫌いなわけではなく、驚きと言うか……うん、そうですね。驚きが強いです。ステンノ様」
「ふふっ、残念。疲れきっていたようだから、今なら騙せると思ったのだけど」
そう言って、エウリュアレよりもちょっぴり刺激的な笑顔を浮かべるステンノ。
オオガミはため息を吐き、
「騙して何をするつもりだったんですか」
「それは――――気分次第かしらね」
「なるほど……?」
エウリュアレとは違う、妖艶な笑みを浮かべるステンノ。
それを見たオオガミは、何とも言えない顔をしつつ、
「それで、目的は達成されました?」
「そうね……どこで気付いていたかだけ教えて貰っても良いかしら」
「……膝枕に頭を乗せた時くらいですね……」
「帰ってきてすぐではなく?」
「まぁ、疲れていたので。普通に気付かなかったですよ」
「本当に疲れていたのね。じゃあもう少し休んでいきなさい。あなたの部屋に帰るのはその後で。あそこは今とっても危ないもの」
「え、なんですかそれ。めちゃくちゃ不安なんですが」
「一日くらいで変わりはしないわ。瞬きほどですもの」
そう言って、ステンノは強引にオオガミをベッドに寝かしつけるのだった。
エウリュアレ様不在のレア回。
2部6章の傷を癒さねば……なんだか感情がどっか行ってしまったみたいなんだ……