「たまに思うけど、あなた、かなり多芸よね」
「まぁ、サーヴァントの趣味に釣られて気付いたらって感じだけど。おかげでやりたいことは無限に増えるよね」
厨房で鹿肉の下処理をしながらそう言うオオガミに、エウリュアレは笑みを浮かべながら、
「ねぇ、今度は何を作るの?」
「干し肉。時々ロビンが呟くから作ってみようかなって。自然乾燥と燻製の二種類の予定」
「それ、私ももらえるかしら」
「初挑戦だから硬いかもよ?」
「それだったらアナにでもあげるわ。それで良いでしょ?」
「アナも大変だな……」
苦笑いでオオガミは言い、エウリュアレは楽しそうに笑う。
そして、下処理を終え、調味液を作り始めた辺りで、
「どうだマスター。作業は順調か?」
「エミヤ。順調だけど、一応確認してもらっても良いかな。解体はしても調理はあまりしなかったから出来てるかは不安かな」
「わかった、見るとしよう」
そう言ってオオガミから肉を受け取り、厨房の奥に行くエミヤ。
すると、どこかから現れたカーマがオオガミの手元を覗き込みながら、
「あれ、今日はお菓子じゃないんですか?」
「今日は干し肉の準備。濃いめと薄め、自然乾燥と燻製を作るつもり」
「それは……また面倒なことをしてますね」
本気で面倒そうな顔をするカーマに、オオガミは楽しそうに笑いながら、
「本業じゃなくて趣味だから、それくらい手の込んだ料理でもそれほど苦じゃないんだよ」
「そんなものですか……」
「そんなものだよ。カーマだって、たまに豪勢なお菓子を作って満足してしばらく休むでしょ。で、連続で作るときは簡単なものにする。そう言う感じだよ」
「あぁそういう……まぁ、今の私は一週間ずっと豪勢なお菓子を作るんですが」
やれやれ。と言いたげな顔で冷蔵庫を開け、何かを取り出すカーマ。
その手にはイチゴがふんだんに使われたホールケーキがあった。
しかも、生クリームではなくイチゴクリームを使っているので、その贅沢さは言うまでもない。
そのケーキを前にしたエウリュアレは、
「それ、あなたが作ったの?」
「えぇ、まぁ、一応。バラキーの要望を聞いて、収穫して、クリームも作って、スポンジも焼いて……正直なことを言えば、なんでこんなことをやってるんだろうって感じですが、これでバラキーが満足するなら良いかと……なんですかその顔」
カーマが顔を上げると、目頭を押さえるオオガミと、驚いたように少し目を見開いているエウリュアレがいた。
「ちょっと感動しちゃって……」
「何にですか。返答次第で蹴りますよ。というかなんと答えても蹴りますよ」
「理不尽!」
「本当、バラキーに甘いわよね」
「甘々コンビにそれを言われたらおしまいです。訂正してください」
「あら、甘々コンビですって」
「今はもう否定できる要素がないね」
「前からありませんよ……はぁ……二人に巻き込まれたら命がいくつあっても足りませんので、さっさとこれをバラキーに渡してきます。それでは」
「はいはい。じゃあね」
「私もバラキーに交渉して貰おうかしら」
「絶対渡しませんよ」
そう言いながら去っていくカーマとエウリュアレ。
そして、入れ違いになるように戻ってきたエミヤが、
「先ほどまでの騒がしさが嘘のようだな」
「女性陣はお肉よりもデザートって感じです」
「なるほど。では、こちらはこちらで豪勢なものでも作ろうか」
「豪勢なお肉ってことですかエミヤ料理長!」
「ふっ、それは出来てからのお楽しみさ」
そう言って、持ってきた鹿肉をオオガミに渡し、エミヤはまた厨房の奥へと去っていくのだった。
バラキー優先のカーマ。バラキーのために全力を注げる辺りバラカマ。これ一生書いてるかもしれん。
ちなみにこの鹿はオオガミくんがロビンとウィリアムさんと一緒に狩りに出掛けた時の戦利品。ワイバーンよりも苦労をしていたりする。