「うん。本拠地の移転。大いにアリだ」
「もとから、あの部屋に入れる人数ギリギリだったもの。当然よね」
オオガミとエウリュアレのやり取りに、キッチンから戻ってきたキャットが、
「キャットはどちらでも構わぬがな。狭い方が心理的距離も物理的距離によってぎゅぎゅっと縮まろう」
「いやそれが原因で消えかけてたのが一人いたから」
そういうオオガミの視線の先には、もはや形容できない顔で倒れているクレーンがいた。
キャットはそれを見て呆れたような顔で、
「流石のキャットも、あの鶴には狩猟本能が疼かぬ。むしろ自分から狩られに来そうな勢いなのだな。そういう手合いはオリジナルに任せよう」
「玉藻もこれは受け取り拒否でしょ……あぁいや、でも、一応紅先生の関係者か……」
「ふむ。ならば帰ってからの処遇は終わった後だな。キャットは次のトレーニングがある故行かせてもらうぞご主人」
「一緒に行くけどね?」
「良いのか? ご主人は忙しそうに見えたが」
「特に何かしてた訳じゃないし、今の最優先はAxXxSだから」
「ふむ……あいわかった。では一緒に行くとしよう」
キャットはそういうと、軽く身だしなみを整え、
「ところでエウリュアレはどうする? キャットは一緒でも構わぬが」
「そうね……今日はやめておくわ。ちょっとやりたいこともあるし」
「何かあった?」
「一緒に行けるところとそうじゃないところがあるの。やられたりはしないだろうから安心しなさいな」
「まぁエウリュアレがやられるとか微塵も思ってないけどさ……うん。いってらっしゃい」
「えぇ、いってきます」
そう言って、オオガミはキャットと一緒にトレーニング場へ。エウリュアレは一人でどこかへ向かうのだった。
* * *
「で、レッスンを見た感想は?」
「前回よりも動きのキレが良くなってるね」
「歌はどうかしら」
「完璧としか言えないでしょ」
「ならよし」
上機嫌でそういうメイヴ。
オオガミは釣られて笑みを浮かべながら、
「メイヴから見て、えっちゃんは?」
「いいわ。とてもいい。私たちを打ち負かしたのはまぐれなんかじゃないもの」
「……素直に認められるのがメイヴのいいところだよね」
「あら、いいものを認めないほど盲目じゃないわ。いいものはいいと言った上で、その更に先を目指す。その方がいいに決まってるでしょ?」
「確かに。比べるものがないならそこに価値があるのか怪しいものだしね」
「えぇ。私はただ勝者になりたい訳じゃないもの」
そう言って不敵に笑うメイヴ。
そんな顔を見て、オオガミは何かに納得したように頷き、
「これは確かに、狂気の軍隊が生まれるわけだ」
「なぁに? もしかして見惚れちゃった?」
「ちょっとだけいいかなって思った」
「ふぅん……? まぁ今日はそれくらいで勘弁してあげましょう。じゃ、私は戻るわね」
メイヴはそういうと、レッスンに戻っていくのだった。
ふふ……エウリュアレの霊衣はまだか……?