「美味しいわよ」
「ふふっ、お気に召したようでよかったわ」
アビゲイルから渡されたクッキーを食べ、満足そうに言うエウリュアレと、嬉しそうに笑うアビゲイル。
そんな二人を横目に、オオガミはクッキーをラムダの口に運びながら、
「メルトの感想は?」
「……しっかり美味しいわよ。今回は変なものは入ってないみたいだし」
「別に毒味をさせようってわけじゃないんだから、そんな目をされても……」
「いつそんな目をしたってのよ。私はいたって普通なのだけど」
「さっきから何回か指を噛まれそうになってるけどね」
「それはそうよ。ぼんやりしてる方が悪いわ」
「そんな理不尽な……」
いつ指を噛まれるかと戦々恐々としているオオガミに、ラムダは嗜虐的な笑みを浮かべながら、
「まぁ、必死に避けるのを見ているのは楽しいのだけどね」
「はは……そのうち本当に噛まれそうだな……」
乾いた笑い声を出しながら、自分でもクッキーを食べるオオガミ。
すると、向かいから視線を感じ振り向くと、そこには不安そうな顔をするアビゲイルがいた。
「マスター、その、お口に合ったかしら」
「ん。うん、美味しいよ。さすがアビーだ」
「っ、え、えへへ……とっても嬉しいわ! あ、そうだ、マスターのために特別なお菓子も用意したの!」
次の瞬間、オオガミたちの脳裏を駆けめぐる今までのアビゲイルの料理たち。
今までの事を考えると、アビゲイルの今の言葉は、ひまわりのような笑顔で背筋が凍るような一撃だった。
そんなことは露知らず、アビゲイルは上機嫌で厨房に向かっていく。
それを見送ったオオガミは、
「ちょ、どうするのさ! 宇宙恐怖的な何かが出てくるかもなんだけど!」
「知らないわよ諦めて食べて爆発しなさい」
「危険物質! 爆発物なの!?」
「知らないわよ諦めて食べて狂っておけば良いわ」
「発狂不可避だね安全は一切ないっていう信頼スゴいけどそれでいいのか二人とも! 普段のお姉さん面はどうした!?」
「「無理だとわかってるものは無理」」
「う~ん潔い諦めの姿勢!」
もはや平常運転と言わんがばかりの二人に、オオガミは両手で顔を覆う。
そんなオオガミに、エウリュアレは優しい笑顔を浮かべながら、
「骨は拾ってあげるわ」
「命に別状はないんだよね!?」
「食べたらわかるわ」
「それ手遅れってやつじゃ……?」
オオガミの問いに、ただただ微笑むエウリュアレ。
「だ、大丈夫……まだただの美味しいお菓子の可能性はあるから……!」
「マスター! これ、タコ煎餅って名前のお菓子だそうよ! 頑張って作ったから、食べてくださいね!」
正気度が削れそうな気配を漂わせた煎餅を持ってきたアビゲイルに、オオガミは静かに死を覚悟するのだった。
なぜかとても需要を感じたのでアビーの宇宙恐怖的お菓子回。
私の中でこの手のネタは一名にしか刺さってないのはわかるんだ……! でも手癖のように書いてしまうんだ……!