「あら、早かったわね」
「まぁ、当日最速って決めてたし」
当然よね。と言って笑うエウリュアレに、オオガミは隣に座りつつやや強張った笑みを浮かべる。
凍てつきそうなほどの海風が吹くここは、カタチの無い島。
その海辺で一人ポツンと海を眺めていたエウリュアレに、オオガミはなぜか不安を感じていた。
「ねぇエウリュアレ」
「なにかしら」
「なにか考え事でもしてる?」
「……特にはないわね。それと、こうやって海を見てるのは、そういう気分だったからよ」
「そう?」
「そうよ。だからほら、そんな不安そうな顔をしないで」
エウリュアレはそう言って、オオガミの頬に触れる。
オオガミはその手に自分の手を重ねながら、
「……もしかして、怒ってる?」
「……さぁ、どうかしらね」
ふふっ、と笑い、楽しそうにオオガミの頬をむにむにと揉んで遊ぶエウリュアレ。
しばらくそのままにしていたオオガミだったが、不意にエウリュアレが手を止め、
「手を放してもらえる?」
「ん、わかった」
そう言ってオオガミが手を放すと。エウリュアレは立ち上がり、
「それじゃ、帰りましょうか」
「……本当に来ただけなんだね」
「もちろん。ここまでチョコを持ってくるような私じゃないわ」
エウリュアレはそういうと、オオガミの通信機を使って帰還要請をする。
そして立ち上がると、大きく背伸びをして、
「帰れるまで、散歩でもしましょうか」
「すぐ呼ばれると思うけどね」
* * *
「本当にすぐ帰ってきちゃったわね」
「まぁ、ほとんど準備は終わってたんだろうしね」
「確かに、言われてから準備したんじゃ不測の事態で死んじゃうかもしれないものね」
「うん、そうだね。今はビター・サーヴァントとかがカルデア内を徘徊してる最中だからね」
「どうしてそんな状況で私のところにチョコをもらいに来てるのかしらね」
エウリュアレはそう言いながらオオガミの部屋に入ると、棚の奥に手を突っ込み、
「はい、これ」
「そこには何もなかったと思うんだけど、どこに隠してたの」
「あら、棚の裏に隠しスペースがあるのだけど、知らなかったの?」
「当然のように言ってくるのやめてもらっていいですか。というか、盗聴器とかはなかったの?」
「あったから黒ひげの部屋に投げ込んでおいたわ」
「どうしてくろひー……まぁ良いけども……」
「今頃壊されてると思うわ。仕掛けた本人が見つかってるのかもしれないけど」
「まぁ、こういう仕掛けをするのはBBくらいかな……」
いつの間にか私生活を覗き見されていたのかという恐怖に震えるが、エウリュアレは気にしていなさそうな顔で、
「どうかしらね。他にも何人かいそうではあるけど、それほど興味はないわ」
「うん、まぁ、ありがとね。そういうよくわからない謎の脅威から守ってくれて」
「別に、構わないわ。あなたに何かあったら困るのは、こっちだもの」
「うん。チョコもありがとう。これで今年もまだやっていけそうだ」
「……無茶はしてほしくはないわ」
そう言ってオオガミにチョコを渡すのだった。
普通にバレンタイン当日に間に合わなかった……もうだめかもしれない……
しかし、もはやエウリュアレのヒロイン力は手の付けようがないレベルまで来ましたね……まぁ、書こうと思うたびに私の中のエウリュアレ像がそっち方面に傾いていってるからなんですけども……ずっとデレデレしてるなこの女神。