「ふふん。まぁ、当然よね」
「言いたいことは分かるけど、その顔を見ているとちょっとだけイタズラしたくなっちゃうからやめて欲しいのだけど」
オオガミのマイルームにて、上機嫌なラムダと、笑顔の裏の暗い感情が隠しきれていないエウリュアレ。
その原因は、やはりオオガミが持ってきたスーパーロックオンチョコレートにあった。
「別に、戦力的にも優先度的にもあなたが優先されそうなことくらい分かってたけど、そこまで露骨になるかしら」
「そんな露骨に喜んでないわよ……というか、どうしてあなたはここにいるのよ。チョコ作りは?」
「今固めてるの。やれることがない状態よ」
「そう……それなら仕方ないわね」
「えぇ。渡す相手も昨日から姿が見えないしね」
その言葉に、一瞬ピクリと反応するラムダ。
しかし、すぐになんでもないかのように首をかしげると、
「不思議ね。昨日このチョコを渡したあと、部屋に帰ったはずなのだけど」
「あら、昨日はほとんどこの部屋にいたのだけど、夜には一回も帰ってこなかったわ。不思議ね?」
うふふあははと笑う二人。
そこへ、
「エウリュアレさん! マスターさんが厨房にいたのだけど!!」
「「えっ!?」」
部屋に入りながらそういうアビゲイルに、二人とも困惑の声を上げる。
そして顔を見合わせると、
「逃げられてるじゃない」
「別に、逃げられるのは、想定内よ……そのあと何も言わずに厨房に向かうのは、ちょっと想定外だったけど」
「動揺してるじゃない……」
「うっ……そういう時もあるわよ……それで? どうするのよ」
「それはもちろん、14日まで何も。向こうもそのつもりでしょうし。むしろ、あなたが早く貰いすぎなくらいじゃないかしら」
「……喜んでいいのか悩むわね。嬉しいけれど、当日じゃないという複雑な気持ち……これ、一回返してもう一回貰えないかしら」
「とんでもないわがままを言うのね」
「あなたにだけは言われたくないわ」
ラムダはため息を吐くと、諦めたような顔で、
「まぁ、今年は特効が付く特別なチョコ、なんて言ったら、急いで渡すしかないものね。そういうのは早ければ早いほどいいもの。仕方ないと思って、貰っておくのも割り切りましょう」
「要らないなら貰うわよ?」
「バカなことを言わないで。スタァがファンからの贈り物を無下にするなんて事があると思って?」
「部屋に山積みにされてたわよね」
「えぇ。基本的に飾るものだもの。時々変なものが混ざっていて、捨てるのもあるけど」
「あるわよねー、変な貢ぎ物。まぁ、私の時とはまた別なのでしょうけど」
「あら、マスターからはそういうのは無かったの?」
「あいにく、お菓子以外は基本的に受け付けてないの。あとはまぁ、労働?」
「ふぅん。荷物整理とか?」
「まぁ、近いわね。面白そうな漫画を持ってくるとか、そういうのが多いけど」
「それ漫画を献上してるんじゃないの?」
「片付けまでしてくれるもの。荷物整理の労働じゃない?」
「それを換算していいのかは少し悩むところだけど」
そんな事を言いながら雑談を続ける二人に、アビゲイルは、
「もしかして、私、忘れられているのかしら……」
そう呟いて、少し考えたあと、食堂に向かうのだった。
いやぁ、まさかラムダに誰からも貰ってない報告をするとあんなことになるなんて思いませんでした……でもまぁオオガミくんだし普通に帰ってくるよね。うんうん。