「トリック・オア・トリート」
「……狙ってきたね」
廊下でにっこりと微笑むエウリュアレと、ちょうど空になった菓子袋を持っているオオガミ。
残りの菓子袋を持って魔女服を着て一緒にいたはずのメルトが消えていることから、計画的犯行であることがわかった。
「それで、その綺麗な仮装は何の仮装?」
そう言うオオガミの視線の先には、ブラウスにフリルが付いた黒いスカート。その上から裏が赤い黒のマントをしていた。
「今年はヴァンパイアね。これなら吸血をしても不思議じゃないでしょ?」
「なるほど……なるほど? 誰から血を吸うんですかね」
「それはもちろんメドゥーサよ。それ以外に誰がいるって言うのかしら」
そう言って、マントをヒラヒラとさせながら妖艶に微笑むエウリュアレ。
オオガミはそれを見て苦笑いして目をそらす。
すると、エウリュアレは楽しそうに笑い、
「まぁ良いわ。追及しないであげる。それで、お菓子はもう配り終えたのかしら」
「え、うん……途中バラキーとカーマに袋をまるごと奪われたりしたけど、一応終わったかな。余ったのはみんなで分け合おうかと思ってたけど」
「そう。ちゃんとアステリオスも来たかしら」
「もちろん。エウリュアレが用意してくれたって言って元気に走ってきたよ」
「そう、なら良かったわ。その調子でもっと交流を広めていって欲しいものね」
「正直アステリオスの扱いは、みんな大きい子供みたいな扱いをしているけどね」
「実際子供だもの。えぇ、可愛くて、素直な子だわ」
「うん。びっくりするくらいにね」
オオガミはそう言い、菓子袋をしまう。
エウリュアレはオオガミに近付き手を取ると、
「それじゃあ、部屋に帰りましょ?」
「うん……メルトは?」
「BBとリップに用があるんですって」
「なるほど。じゃあ先に戻ってても大丈夫そうだね。うんうん。菓子袋ごといなくなったのはそういうことか」
「えぇ。配り疲れたでしょうし、部屋でゆっくり休むのもいいじゃない?」
「ん。まぁ、それもそうだね。それじゃあ行こうか」
そう言って、二人はオオガミの部屋に戻る。
そして、オオガミがベッドの上に座ると、その膝の上にエウリュアレも座り、
「ふぅ……なんだか疲れちゃったわ」
「まぁ、見えないところで色々やってたんだろうし、お疲れ様」
「えぇ。本当、色々頑張ったわ。この瞬間のために」
「え?」
思わず聞き返すオオガミ。
エウリュアレは思いっきり後ろに倒れるように力を入れ、油断していたオオガミは抵抗する暇もなくそのまま倒される。
そしてエウリュアレはすぐに体を反転させオオガミに馬乗りの状態になると、
「さぁオオガミ。思い出して? 私が最初に行った言葉を」
「……あ」
「ふふっ。気付いたみたいだからもう一回言ってあげる」
そう言って、エウリュアレはオオガミの耳元に顔を近付け、
「トリック・オア・トリート」
「……なるほど。してやられたわけだね……お菓子が無いことの確認とフェイクの会話かぁ……流石にこれには完敗」
「えぇ、お菓子はないわよね。知ってるわ。だから、イタズラしかないわね」
そう言って目を輝かせて笑うエウリュアレ。
オオガミは一体何をされるのかと不安そうにエウリュアレを見つめ、
「今日の私は吸血鬼。だからね、オオガミ。イタズラは、私があなたを食べるわ」
「あっはは……イタズラの範疇じゃないよね……!!」
「大丈夫。一生残る傷にはならないはずよ」
「めっちゃ不安しかないんだけど!!」
「ふふっ、それじゃ、いただきます」
そう言ってエウリュアレは口を大きく開き、青い顔をしているオオガミの首筋をめがけ顔を近付け――――
やっぱりエウリュアレがヒロイン枠だよね。と思ってしまったのと同時にやらずにはいられなかった。思い付いてしまったのが全ての原因……
果たしてこの先今までと同じ雰囲気でいれるのか。うっかりメルトがエウリュアレに刺されちゃったりしないのか。溶岩遊泳部との争いが突如始まらないか等と言った不安点は残っておりますが、やっぱエウリュアレが一番なんだ……